9 / 37
第9話 5時間目の授業
しおりを挟む5時間目の授業は数学だった。
颯は理系の科目が苦手だった。特に数字の計算が不得意だった。そのため、5時間目の授業は億劫だった。
その上、昼食を取り、腹を満たし、眠気も生じる。気怠さが普段の5時間目の授業よりも増幅する。
現実逃避をするように、黒板から目を離し、窓側に視線を向ける。
数学の教員は、颯の気持ちなど無視し、口頭の説明と並行して、板書を続ける。チョークを使用し、文字を作る音が、小刻みに教室で発生する。
普段、学校では必ず耳にする音が、颯の鼓膜を平常通り撫でる。音は不快ではなく、心地よい。
だが、音限定だ。授業の内容は苦痛でしかない。
窓側に意識を移すと、聖羅と目が合った。聖羅は窓側の1番後方の席に座る。学生ならば大方の人間が羨むベストポジションだろう。
温かく、日の光が当たり、教壇が距離が遠い位置だ。そのため、居眠りするにも都合がいい。
薄く微笑みながら、聖羅は控えめに手を振る。教員にバレないように、颯に対して手を左右に動かす。
(なんだよ。こいつ。まだ彼女面かよ。NTRしたくせに)
聖羅の以前と同じ態度に、颯は多大な憤りを覚える。そこに悲しみや憂鬱は存在しなかった。それらの感情は消えてしまった。今は怒りしか存在しない。
(彼氏の俺が居ながら、イケメンにNTRやがって。にも関わらず、未だに俺とカップルの関係を続けようとしてる。ふざけやがって! どこまで俺を舐めてやがる!! バレてないとでも思ってるのか? 俺は既に知ってるんだよ)
授業中だが、叫びたい衝動に駆られる。髪を掻き毟りたくもなる。
口から言葉が出掛ける。
理性がギリギリの状態で踏み止まり、どうにか口を強く噤んだ。唇を引き結び、力を込める。
怒りを帯びた言葉を体内で留める。体内から嘔吐しないために。
(いかんいかん。ここで怒りをぶちまければ、俺は教員やクラスメイト達から変態扱いされる)
ブンブン顔を振り、脳内の雑念を抹消する。
取り敢えず、空気を読んで、教員が黒板に意識を集めた瞬間を狙い、手を振り返した。
本人なりに危機感を感じているのか。アピールするように、聖羅は颯に向けてウィンクした。もしかしたら、手を振ったご褒美かもしれない。
数日前までは、彼女のウィンクを目にすれば、興奮したかもしれない。トキメキや刺激も生じたかもしれない。
しかし、時既に遅し。
颯にとって、聖羅のウィンクは汚物に見えた。とても魅力的には映らなかった。
汚物を認識したため、胸中の底から不快感が湧き出る。お湯がブクブク沸騰するように、時間と共に増幅する。
胸中を支配する感情が、怒りから不快にシフトした。
聖羅を視界に収めると、不快なウィンクが無意識にフラッシュバックする。
苦痛を避けるため、聖羅から視線を外す。
行動の甲斐もあり、不快感が和らぐ。次第に気持ちも楽になる。
一方、聖羅は不思議そうに首を傾げる。おそらく、颯の行動に疑問を抱いたのだろう。確かに、他者からすれば、不可解な行動だった。
聖羅の変化に気づかず、颯は黒板に目を向ける。授業には乗り気ではない。
だが、聖羅の顔を認知し、不快感を味わうよりかは幾分かマシだった。
黒板の眺めて数秒後、ポッとアイディアが浮かぶように、ある言葉が颯の脳内に流れた
「そのクソ1号とは別れることをお薦めするよ。実行するか否かは、天音次第だ。決定権は天音しか持ってないから」
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる