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人は成長するといいますが1
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「先生~っ、ユズ君がリンちゃん泣かした!」
数人の女の子たちからの報告に振り向く。
「え、どうしたの」
見れば大泣きしてるリンちゃんに、怒った顔をして前方を睨みつけてるユズ君が。二人とも僕が副担任してる年長、つまり五歳児クラスの子達だ。
「ユズ君」
リンちゃんの頭を撫でて慰めながらも、彼の前に膝をついた。
視線を合わせて、なるべく高圧的にならないよう笑顔で言葉掛けをする。
「大丈夫?」
どうしたの、とか。何したの、とは聞かない。詰問されたと思ったらこの子は頑なに口を閉ざしちゃうからだ。
握りしめすぎて少し震えている手をそっと包み込む。
「ユズ君がね、リンちゃんを押したの!」
「そしたらリンちゃん転んで泣いちゃったんだよ!」
「ユズ君、謝りなよ!!」
周りの子の視線と女の子たちの糾弾するような言葉に、彼の顔が一瞬歪む。
「んー。じゃあちょっと向こうでお話しよっか」
ここはあんまりよくないかな。
僕は二人を連れ、担任の先生に声を掛けてから部屋の隅に。
まあ怪我もしてないみたいでよかった。
少し人目も本人たちも落ち着いたところでもう一度。
「二人とも大丈夫?」
と聞いてみた。
「……ボク、絵描きたかった」
絞り出すような声。
事情としては、ユズ君と一緒に遊びたいリンちゃんがかなりしつこく誘ったらしい。最初こそ渋々応じたりやんわり断っていたものの、苛立ちがたまっていたんだろう。
つかまれた手を振り払ったら相手が転んでしまって、その一部だけ見ていた周りが騒ぎ出したとのこと。
「ねえリンちゃん。ユズ君には他にやりたい事があったんだって」
「でもあたしは外で砂場遊びしたかったんだもん」
ぷう、と頬を膨らませるリンちゃん。この子はこの子で、少し勝気で元気で根は本当に優しい女の子。物静かなユズ君が好きで、なにかとアピールしてるのをよく見る。
「お絵描きなんてつまんないし!」
キッとこっちを睨みつける彼女に、僕は大きくうなずいた。
「好きな遊び苦手な遊びって、みんな誰しもあるよね」
「だから――」
「それはユズ君もだよ」
「……」
リンちゃんはきゅっ、と口を結んで下を向く。その背中を優しく何度もさすった。
「リンちゃんはユズ君と一緒に楽しく遊びたかったんだよね。わかるよ、友達と遊ぶの楽しいもんね」
「……うん」
「まずはユズ君の好きなことを知ることも、仲良くなれるコツかもよ?」
最後の一言は声をひそめて言った。彼女はハッとした様子で顔を上げる。
「ユズ君」
彼の方に向き直った。
「リンちゃん怪我もしてないし大丈夫だよ。二人とも困った時は先生に教えてくれたらいいからね」
「……ボクは先生が好き」
「へ?」
「大好きだから」
小さな手が僕の指に触れる。
「先生。結婚して」
「えっ?」
「ボクはリンちゃんのことは友達として好き。でも先生とは男として好きだから結婚したい」
いつの間に持ってたのか、折り紙で作った指輪が。
っていうか『男として』ってなんなんだ。僕も男だし、じゃなくて。最近の子は難しい語彙も知ってるんだな。
「こ、これすごいね。ユズ君が作ったの?」
クオリティ高くて保育園児が作ったとは思えないくらいだ。二色になってるし、宝石部分もある。
「うん。あとさっきはプロポーズの構想を考えながら絵書いてて」
あ、お絵描きってそういう……? いやでもこの状況でマズいんじゃあ。
恐る恐るリンちゃんの方をみると、ポカンとしているのも数秒。
「うわぁぁぁぁんっ!!!」
案の定、大きな声で泣き出してしまい、僕は内心頭を抱えた。
数人の女の子たちからの報告に振り向く。
「え、どうしたの」
見れば大泣きしてるリンちゃんに、怒った顔をして前方を睨みつけてるユズ君が。二人とも僕が副担任してる年長、つまり五歳児クラスの子達だ。
「ユズ君」
リンちゃんの頭を撫でて慰めながらも、彼の前に膝をついた。
視線を合わせて、なるべく高圧的にならないよう笑顔で言葉掛けをする。
「大丈夫?」
どうしたの、とか。何したの、とは聞かない。詰問されたと思ったらこの子は頑なに口を閉ざしちゃうからだ。
握りしめすぎて少し震えている手をそっと包み込む。
「ユズ君がね、リンちゃんを押したの!」
「そしたらリンちゃん転んで泣いちゃったんだよ!」
「ユズ君、謝りなよ!!」
周りの子の視線と女の子たちの糾弾するような言葉に、彼の顔が一瞬歪む。
「んー。じゃあちょっと向こうでお話しよっか」
ここはあんまりよくないかな。
僕は二人を連れ、担任の先生に声を掛けてから部屋の隅に。
まあ怪我もしてないみたいでよかった。
少し人目も本人たちも落ち着いたところでもう一度。
「二人とも大丈夫?」
と聞いてみた。
「……ボク、絵描きたかった」
絞り出すような声。
事情としては、ユズ君と一緒に遊びたいリンちゃんがかなりしつこく誘ったらしい。最初こそ渋々応じたりやんわり断っていたものの、苛立ちがたまっていたんだろう。
つかまれた手を振り払ったら相手が転んでしまって、その一部だけ見ていた周りが騒ぎ出したとのこと。
「ねえリンちゃん。ユズ君には他にやりたい事があったんだって」
「でもあたしは外で砂場遊びしたかったんだもん」
ぷう、と頬を膨らませるリンちゃん。この子はこの子で、少し勝気で元気で根は本当に優しい女の子。物静かなユズ君が好きで、なにかとアピールしてるのをよく見る。
「お絵描きなんてつまんないし!」
キッとこっちを睨みつける彼女に、僕は大きくうなずいた。
「好きな遊び苦手な遊びって、みんな誰しもあるよね」
「だから――」
「それはユズ君もだよ」
「……」
リンちゃんはきゅっ、と口を結んで下を向く。その背中を優しく何度もさすった。
「リンちゃんはユズ君と一緒に楽しく遊びたかったんだよね。わかるよ、友達と遊ぶの楽しいもんね」
「……うん」
「まずはユズ君の好きなことを知ることも、仲良くなれるコツかもよ?」
最後の一言は声をひそめて言った。彼女はハッとした様子で顔を上げる。
「ユズ君」
彼の方に向き直った。
「リンちゃん怪我もしてないし大丈夫だよ。二人とも困った時は先生に教えてくれたらいいからね」
「……ボクは先生が好き」
「へ?」
「大好きだから」
小さな手が僕の指に触れる。
「先生。結婚して」
「えっ?」
「ボクはリンちゃんのことは友達として好き。でも先生とは男として好きだから結婚したい」
いつの間に持ってたのか、折り紙で作った指輪が。
っていうか『男として』ってなんなんだ。僕も男だし、じゃなくて。最近の子は難しい語彙も知ってるんだな。
「こ、これすごいね。ユズ君が作ったの?」
クオリティ高くて保育園児が作ったとは思えないくらいだ。二色になってるし、宝石部分もある。
「うん。あとさっきはプロポーズの構想を考えながら絵書いてて」
あ、お絵描きってそういう……? いやでもこの状況でマズいんじゃあ。
恐る恐るリンちゃんの方をみると、ポカンとしているのも数秒。
「うわぁぁぁぁんっ!!!」
案の定、大きな声で泣き出してしまい、僕は内心頭を抱えた。
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