惚れたら最期と分かっていたのに

田中 乃那加

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惚れたら最期②

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「この日、俺と出かけましょ」

 カレンダーアプリを突きつけて言うと、彼は酎ハイの缶を片手に小首を傾げた。

「ん? その日って平日だよね」
「平日ですよ」
「だよね」

 あざとくて可愛い。男に可愛いなんて思ったことないけど、これは多分普通に可愛い。

「有給をとりました」
「なんで」
「家族と出かけたいから」
「???」

 もうワケわかんないって顔で、とりあえず酎ハイ一口飲んで。

「もしかして妹と間違えてる?」

 とアホな一言。
 
「んなわけ」

 似ても似つかない、双子のくせに。

「アンタと出かけたいんですよ」
「へぇ……」

 ぼんやりとしてるように見えるのは酔ってるからか。
 ほんのり赤い頬と、とろりとした眼差しにドキッとする。

「変わってるなァ、翔吾くんは」

 そうして妙に幼い表情で笑うものだからたまらない。
 
「いいよ。でもみんなには内緒で、ね」
「内緒……」

 その響きに顔が熱くなる。
 確かに義父母や、特に佳奈には知られちゃいけないような気がした。

 でもこれってまるで。

「明後日まで東京に戻らんでくださいよ」
「んー、わかった」
「その返事の仕方、あやしいなぁ」

 なにも言わず突然帰ってしまったこともある。挨拶すらさせてくれなくて、いつも気まぐれな野良猫みたいにいなくなるんだ。

「約束くらいは守るよ、多分」
「ホントかなあ」
「本当だってば。僕の目ぇ見て?」
「えっ……」

 とん、と身体を預けられる。適度や重みや体温、そしてなんかいい匂いがした。

「ほら。嘘ついてない目だよ」
「ち、近いです。瑠衣さん」

 ちょっと待って。ダメだってば。同じ男からしちゃダメないい匂いしてる。香水? それよりもっと柔らかで優しい、女子高生とかからしそうな。

「もしかして翔吾くんってば照れてるの」
「違いますよ、もう……てか俺、汗臭いかも」
「そう? いい匂いするよ。洗剤かな」
「て、手汗やべぇ」

 思わずつぶやくと、それを聞き逃さなかった彼がにんまり笑いながら俺の手をつつく。

「そんな嫌な顔しなくていいじゃん」
「嫌な顔なんて。照れてるだけ……あ」

 さっそく嘘がめくれた。
 男同士にしたって距離が近すぎやしないか。いや、俺が意識しすぎか?
 
「翔吾くんって可愛いね」
「可愛いなんて言われたことないですよ、俺」
「嘘だね、こんなに可愛いのに」
「ちょっ!?」

 手が伸びてきて、俺の頭をくしゃくしゃとなでまわす。
 
「昔、近所にいた犬がこんな感じでさ」
「犬ですか」
「うん」
 
 犬でも猫でも、なんなら爬虫類でもいい。
 掻き回すように撫でられる感触が心地よくて、思わず目を閉じた。

「ふは、やっぱり犬だ」
「俺は猫派ですけどね」

 こんな風に自由で奔放で綺麗な猫。なんだか今日はまだあまり飲んでないはずなのに、頭の芯がふわふわしてきた。

 ……この人といると悪酔いするかもしれない。

「で、どこ連れてってくれるの」
「映画館デートとかどうですか」
「デート?」
「はい」

 酔ってるからこれくらいの軽口は許されないかな。いや許されるハズだ。そうじゃなきゃおかしい。

 こんなに熱っぽく見つめてくるんだもの。
 
「これ知ってますよね?」
 
 スマホで公開中の映画情報を見せる。
 
「え、なあに」

 なおいっそうしなだれかかる身体に、こちらの体温まで上がってしまう。
 距離が近い。他の野郎なら気色悪くて仕方ないのに、この人の隣だと心臓がもたない気がする。

「あっ、これ知ってる。映画化してたんだ」

 漫画が原作で、それがこの部屋の本棚にあるのを俺は知っていた。
 誘う口実にしては不自然じゃないか。あとちゃんと彼が興味を持ってくれるだろうか、とか不安が多すぎて手だけじゃなくて背中にも汗が伝う。

 俺、必死すぎかもしれない。学生の恋愛の時だってこんなにカッコ悪いことなかったのに。

「楽しみだね」
「あっ、はい!」

 そんな可愛い顔で見つめないで。しかも上目遣いがあざとい。

 あぁ、やばい。また目が合った。というかもう見つめ合ってないか、俺たち。

「翔吾くん」
「る、瑠衣さん」

 みっともない。最低だ。クズ野郎だ。
 自分をいくら罵倒したって、心は止まってはくれない。

 ごくり、と喉が鳴る。
 
「……そろそろ帰りなよ」

 家族の元に、とツレない言葉を吐く口を勢いで塞いだ。

「っ、ん」
 
 胸に閉じ込めたい一心で抱きしめて、舌をねじ込む強引でめちゃくちゃなキスをする。

「んーっ! ん、んぅ、ぅ」

 少し驚いたのか暴れるのも数秒足らず、すぐに大人しくなった身体をゆっくり撫で回す。

「今夜は帰りません」

 本当に悪い人だ。
 あざとくて可愛くて綺麗で。惚れたら最後だと分かっていたのに。

 のめり込まずにはいられない。
 
 俺の宣言にビクリと身体を震わせる姿もまた計算なんだろうか。

「しょ……ぅご、くん。ま、まって」

 この期に及んで、目を潤ませながらしどけなく首を振るこの人の色気。

 同じ男のはずなのにそうじゃないみたいだ。

 瞼の裏にうつすのは、あの日見た鮮やかな朱色の和布団。
 誘うようにのたうつ彼の身体をまさぐって、ゆっくり体重をかけていく。

「あ……あ、ぁ」
「甘い匂いがする」

 この香りに誘われたら、身体も心も沈み切るまで抜け出せないんだろう。
 まるで底なし沼みたいに。

「せ、せめてっ、布団に!」
「我慢できませんよ」
「待って! おねがい、まって……」

 男なんて抱いたことはない。でもきっと大丈夫だ。
 彼は俺を誘った。受け入れてくれるはずだもの。

「待てない」

 さらに奥に誘い込もうというのだろう。子猫のような抵抗をみせる身体を黙らせたくて、俺は再び彼の唇を貪った。



 

 


 
 
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