倒錯的小話

田中 乃那加

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4.女王様の首輪②

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 先程までの長く緩やかなストロークはなんだったのか。
 相変わらず強い荒縄の戒めがルイの身体を締め付ける。きっとその縄飾りを外せば、紅く鮮やかな痕が白い肌に描かれている事だろう。
 男は、激しく彼を犯しながらも密かにほくそ笑んだ。

「お゙お゙、あ゙ぁっ、はぁぁっん、っひぅ、っもう……」
「もう? 降参かな。でも残念、途中棄権の時のルールは設けてないんだよね」

 意地悪く応えた男に、彼は絶望の眼差しを向ける。
 男は既に掌握していた。
 彼の開発されたての性感帯を、どうやって虐めてやれば感じ入ってしまうのかを。
 しかし簡単に絶頂させてやる事は考えていないし、勿論男が先に達する事も。
 
「ほらほらぁ、もっと、頑張らないと!」
「うグッ! い゙、んあぁっ、そこ、ばっかりぃぃ、ぅんんっ……」
「凄いね。ここ、僕のが入ってるんだよ」
「うあ゙ッ!! な、なんでぇっっ!?」

 挿入されナカからの前立腺刺激に加えて、腹の上から絶妙な力加減でそこを押された事による、すざましい快感に驚愕と共に目を見開いた。
 
「ナカと外からの刺激でこんなに感じるんだよ。クセになっちゃうでしょ」
「こ、この卑怯っ、者……そこはもうっ……」

 延々と弱い所ばかり集中的に責める、拷問するかのように。しかしまだ、そこだけでメスイキできるほど開発された訳ではない。
 だからこそなのだ。
『どちらかがイくまで』という残酷なルールによって男は徹底的に、ここに雌の悦びを教えこもうというのである。

「ひぃぃんっ、んぁッ、はぁぁ、あぁぁ……っ、ふっ、ぅく、さっさとイきやがれっ……!」
「ははっ、どうかなぁ。ま、頑張ってね。あ、そうだ勝敗が着いたあとのルール決めてなかったなぁ……よし、君が勝ったらこのまま離してあげる。もうルイ君の目の前に現れない。でも僕が勝ったら……」
「何を勝手なっ、事を……うぅんッ!?」

 一際大きな突き上げで上げた悲鳴を聞きながら、男はわずかに弾む息で言葉を吹き込んだ。

「君は僕の奴隷で、僕の事を御主人様と呼ぶ事。そしてちゃんとしたを施してあげようね」
「い、嫌だっ、そんな……っいぃ゙!」

 当然拒否する彼の胸の飾りを強くつまみ上げ、怖気付いた時にすかさず腰を意表を激しくピストンさせる。その緩急と意表をついた動きに、泣き声上げながら徐々に絶頂への階段を登っていく。 
 先程まで雄を知らなかった彼をここまで骨抜きにするのは媚薬と男の技巧、そして彼自身の隠された素質のせいである。
 この男はそこに目を付け、付け入ってきたに過ぎない。 
 
「っひぃ、あぁっ、はぁぁ、やめぇ……だめだめッ、助け、て……おかしく、なる」
「あはは、おかしくなっちゃえ」
「やだぁぁっ、あっあっあっあっ、くぅぅッ」
「頑張るなぁ……よーし」

 男が手を伸ばしたのは下である。
 そう、彼のペニスを再び愛撫しようというのだ。
 それには当然、彼は身を捩り『約束が違う』だの『卑怯者』と抗議の言葉やら罵倒やらを喘ぎと共に吐き散らす。
 しかし男はどこ吹く風だ。

「ここ触っちゃ駄目なんてルールにはなかったでしょ? ほらほらほら、ここ扱かれながら突かれたらイっちゃうね」
「や、やめ……触ん、な。イきたく、ない……」
 
 しかしこれは嘘である。
 正確には、彼は一刻も早く吐精してしまいたかった。何故なら、性感帯を嬲られ続けた事で溜まりに溜まった熱が甘く熱く彼を苛んでいるから。
 これ以上、快感だけ与えられ続ければ後孔だけの刺激で達するか、気がおかしくなると恐れたのである。
  
「そうなの? ふーん」

 敢えて焦らして嬲るように彼はペニスの先端にそっと触れた。
 先走りですっかり濡れぼそったそこは、部屋の明かりにテラテラ光っている。

「いやらしいなぁ……ここで一つ提案。ルイ君が3分間、両方の刺激に耐えられたら君の勝ち。ちゃんと離してあげるし、君も今までの生活のままだ。でも3分以内にイっちゃったら……分かるね?」

 そう言うと、どこから取り出したのか砂時計とキッチンタイマーを置く。
 
「これ見てごらん。ちゃんと3分にセットするし、砂時計も置いとこう。これが落ち切ると同時にアラームも鳴るから分かりやすいね……よし、じゃ始めようか!」

 それは一方的であった。
 しかしするしかない。一段と重く激しくなった律動と、ペニスに添えられた手が明確な意志を持って扱き始めて彼は呻きながらも唇を噛み締めて耐えようとする。

「ふっ……ぅ、うぅ゙っ、ぁ゙ぐ……ふぅっ……」

(3分、3分間我慢すれば)

 砂が滑るように落ちるのを、見開いた視界に映す。タイマーは仰向けの彼には良く見えない。しかし男は砂時計が落ち切った瞬間アラームが鳴ると言った。
 金色の砂がサラサラと落ちて下に積もる。その一瞬すらもどかしく、彼は泣き出したい気分でひたすら砂時計を見つめるしかない。

(もう少し)

「ふーん、頑張るねぇ、ちょっと激しくしとこうか」
「ひぅ゙っ!?」

 男の少し驚いた声と共に前立腺を押し潰さんとする動きが強くなり、更に胸の飾りを強く指先で弾かれた。
 尻穴アヌスとペニス、乳首責めと三点を執拗に弄られる。
 息も絶え絶えながら、短い息を吐きながら彼は何とか快感を散らそうと躍起になる。
 
「ぅくっ、うぁ゙、っはぁ、っ……ふっ、んんっ」
「……参ったなぁ」

 男の方も息を詰めながら、心底困ったような声を上げた。
 それを聞いて彼はほんの少しの希望の光を絶望に感じて、身体に力を入れる。

(あと、少しっ、これで、解放される)

 この忌まわしい縄の戒めとも、自分が自分で無くなる行為とも。
 滑らかな金砂が落ちる。透明なガラスの球の中に溜まっていく。それが今の彼にとって、たった一つの希望であり勝利なのだ。
 
「ぅあっ! あっあっあっ、あぁっ……」
「……はい、ラストスパート」

 囁かれた言葉。一際苛烈になる責め苦。
 急激に押し上げられる快感にヒィヒィ泣きながら、ひたすら時を待つ。

(やめろ、あと少し、待ってくれ……あと、ほんの……)

「あ。砂、落ちちゃった」
「っ! お、俺の、勝ちっ……あっあっ、あぁぁぁぁ゙ッ!」

 男の消沈した声とほぼ同時に彼の熱は弾け、勢い良く吐精した。
 二度目とはいえ散々焦らされた状態の為、それは彼の腹のみならず胸を白く汚す程である。

「あー。いっぱい出たねぇ」
「ふっ……ぁ、俺の……勝ち、早く離し……えっ!?」

 ピピピピッ。
 隣の、赤く手のひらサイズのキッチンタイマーが鳴り始めた。
 
(どういう事だ!? まさか……)

 男がニンマリ笑う。 

「あー、ごめんね。この砂時計、少し
「!?」
「ルイ君も確認したよね? 正確なのはタイマーだよ。この意味……わかるかな?」
「う、嘘だ……イカサマだ……こんな事……」
「イカサマ? うぅん、不幸な事故だよ。。それに僕はちゃんとタイマーを傍に置いてたじゃないか。ははっ、大丈夫? 顔色悪いけど」

(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ)

 歯がガチガチ鳴る。
 彼の心には既に希望なんてものはなかった。
 砂時計はフェイク。
 ―――つまり彼は勝負に負けたのである。

「さて。約束は守ってもらおうか……ルイ君、これからもよろしくね」
「や、やだっ……やだ、離せ……やめろ……ぁ……ひぃぃっ……!」

 男は怯えて泣き出す彼を宥めるように縄ごと抱きしめつつ、ゆるゆると腰を揺らす。

「……ルイ。御主人様と呼びなさい」

 吐息と共に、男は最初の命令を吹き込んだ。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 ルイは跪け、と言った。
 女はうっとりと頷き従う。
 毛の長い絨毯は高級品で、その上に女の膝が柔らかく押し付けられる。
 
「あぁ、ご主人様」

 女は呻くように言った。
 一糸まとわぬ裸体である。薄暗い部屋の仄かな間接照明は柔らかい乳房、少し脂肪の付いた腹とその下の仄暗い茂みを映す。
 わずかに漂う薔薇の香りは、女のブロンドの髪からか。それともその白く柔らかい象牙色の肌からか。
 
「……っ」

 しかし彼は女の呼びかけに応えない。
 服をきっちり着込み、どこか虚ろな目で女を眺めている。
 そして、その美しい顔は明らかに上気し息は乱れていた。

「ご主人様?」

 女が訝しみで上げた声にも彼は反応が示せない。
 よくよく見れば、虚ろどころかその瞳は揺れて形のよい唇はぶるぶる戦慄いている。
 さらに息も荒く、すらりと長い脚は今にも崩れそうにガクガクと震えていた。

「……貴女のはね、すっかり僕の性奴隷に堕ちたんだよ。ほら、今もこんなにイヤラシイ顔して。ほらルイ、ちゃんと見せてあげなさい」

 突然聞こえた声に女が振り返る。
 そこには浅黒い肌の若い男。柔和な表情で彼に命令を下す。

「そ、そんな……事」
「……ルイ。お仕置きだ」
「っ!? も、申し訳っ、ありま、せ……あぁぁっ……!」

 男の命令に躊躇った彼が、突如として身体を激しく痙攣させてその場にへたり込む。
 はっ、はっ、はっ、と犬のような荒い息を漏らしながら下腹部をヘコヘコと床にすりつける動きをする。
 さながら発情期の犬のようなその姿に、女の目は釘付けになった。

「ルイ」
「ご、御主人様ぁっ、お許しをっ、見せますっ、見せますからぁぁぁ……っあ、んんっ」

 そう叫ぶように言うと、彼は震える指で服のボタンを外し始める。
 まるでかじかんだかのような手つきで、ゆっくりと時間をかけて服を脱いでいく。
 その間何度もヒィヒィ泣きながら、膝と腰をガクつかせて床を這いつくばる。
 その表情に、ついこの前までの気高きサディストの姿は微塵もなかった。

「っふ、ぅぅあぁっ、んん、っく……こ、これで……」
「もっとよく見せてごらん、うん。良い子だ」
 
 均整の取れた肉体には紅い縄飾り。
 上半身を絶妙に締め付けて、この美丈夫をすっかり縄酔いさせているようで。
 そして更に下腹部、ペニスに装着されている金属製の貞操帯である。
 金属製のケースがすっぽりとペニスを下向きに覆って睾丸ごと固定されてしまっていた。
 先端に穴が空いているので排尿は問題無くこなせるが、勃起が出来ない仕組みとなっているのだ。

「媚薬で発情させられた上に、射精管理はキツかったかな?」
「ぁあっ、は、はいぃ……お願いです、は、外し……ぅんんッ」
 
 言葉を言い終えないうちに、彼は再び床に沈む。尻を、突き出すような体勢を取りぶるぶると震わせている。
 下着を付けない下腹部からは、何やら微かな機械音バイブがしていた。
 にっこりと笑った男の手に中にはピンクの小さなリモコンが握られていて、それを弄ぶ度に彼の喘ぎと身悶えは激しくなる一方だ。
 しかし同時に貞操帯の中に閉じ込められたペニスは勃ち上がることすら許されず、そのキツさと痛みにも苦しむ事になる。
 貞操帯を擦り付ける絨毯には、ダラダラと流れる先走りがシミを作った。
 
「これで分かっただろう? 彼はもう、僕のモノだ。メス奴隷として、一生生きていくんだ……ね、ルイ」
 「は、はひぃぃっ、お、俺は、御主人様の、メスですぅぅっ……んぁぁっ! だから、もう、ゆ、許し……んぉ゙ぉ゙ぉ゙ッ!!」

 ローターの振動を最大にまで引き上げられたのだろう。
 一際大きな声を上げて、文字通り雌豚のようにイってしまったらしい。
 射精はしていないので、正しくメスイキで彼の媚薬漬けにされ数多くの調教の末に壊された精神には、解放されない熱が辛いだけだ。
 土下座するように身体を伏せ、惨めに更なる快楽と貞操帯の解錠を懇願する。
 そこには人間としての最低限の尊厳やプライド等も抜け落ちてしまっていた。

「……という訳だよ」

 男がそう言って女に微笑んだ。
 女はゆっくり目を閉じて、また開く。そして顔を上げ、立ち上がった。

「これを」

 女は抑揚のない声で一言。
 手にしたを男に差し出した。
 男は受け取り、手に馴染ませるように撫で回す。

「鞭、か。しかも乗馬用。うん、良い趣味だね」
「彼に」

 そう言って、女は部屋を去った。
 ―――小さく、口の中で『ありがとう』と呟きながら。




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