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三日の約束
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莫大な金で買われた三日間、それは予想もしないものであった。
「うん、やっぱりその色はクラウスによく似合うね」
「そうか……?」
完全この男のコーディネートらしい格好で街を歩く。
誰も彼らのことを先程買われた奴隷とその買主だとは思うまい。
『三日間恋人として過ごしてして欲しい』
これがガルムが頭を下げて告げたことだった。
――いわゆるごっこ遊びってやつだ。
そこにあのそこらの自治体予算レベルの金額がついてくるのだから、もはや壮大なパパ活やレンタル彼氏案件とか言えなくともない。
なんて隣を嬉しそうに歩く頭ひとつ以上高いこの好青年をチラリと見ながら考える。
――ったく、どいつもこいつも。
若くて顔が良い、あとは金と名誉がある (ジャックにはなかったが)いわゆる強者男性がなぜこんな三十もとうに過ぎた男に構いたがるのか。
『魔性というのはお父様のような事をいうのねぇ』
娘のミアの言葉ふと思い出す。
ニコニコほんわかした、でも目を離すとすぐに木登りや蝶々を追いかけて駆け出してしまいメイドたちの手をやかせた愛しい娘。
そんなに彼女は美しい金髪と美しい瞳を持つ美少女へと成長したが中身はあまり変わっていない。
お転婆で天真爛漫、いまだに木登りや野ねずみたちと遊ぶのが大好きな少女であった。
そんな娘を父として心配する気持ちは多少あるものの、やはりのびのび育って欲しいと願うのも親心というもので。
「クラウスってば!」
「わっ!? な、なんだよ……突然大きな声出して」
驚いて横を振り向くとそこにはふくれっ面しているガルムがいた。
「さっきからずっと上の空じゃないか。僕がこんなに貴方を見つめてるっていうのに」
「あ、ごめん。ちょっと考え事を」
「それは恋人である僕より大切なこと?」
「!」
やおらに肩を掴まれそのまま引き寄せられる。
「おいっ、なにもこんなところで……!!」
「また僕以外のこと考えてるね、クラウス」
ワントーン低い声の言葉に彼の心臓は小さく跳ねた。表情こそ一見すれば柔和であるのにも関わらず、その瞳の奥はなにやら感情の読めない色をしていたからだ。
「約束したよね。今の僕らは恋人同士だって」
「あ、ああ……」
「僕はすごく幸せなんだ。初恋の人とこうやって手を繋いでデートするのがずっと夢だった」
――初恋って。
最初の出会いさえ覚えていないのに。しかしそれを口に出したらさらにロクでもない結果になりそうだと、さすがに学んだので口をつぐんでおいた。
彼からの視線を避けるように目を伏せたクラウスに対して何を思ったのか、ガルムはその頬に手を添えて唇にキスを落としてきたのだ。
「っ、ん……!?」
――おい待て!
こんな真昼間から。しかも人通りの多い往来で。
だがクラウスの焦りとは裏腹に、そんな情熱的な光景は日常茶飯事とばかりに周囲の人々は奇異に思うこともなく。
通りすがる若者の集団が冷やかすように口笛を吹いたりするくらいの反応であった。
しかし元は奥ゆかしい (?)ジャパニーズの彼にとっては人前でキスをするなんて考えられないのだ。
「……い、いい加減にしろ!」
必死に抵抗してなんとか口付けから逃れたクラウスは声をあげた。
「何考えてるんだっ、俺もお前も貴族だろうが!!」
そこらのバカップルのような言動は高貴な家柄には相応しいわけがない。
しかしそんな説教にもガルムは何処吹く風、それどころか嬉しそうに。
「怒った顔も可愛くて素敵だね」
なんて笑うものだから毒気を抜かれてしまう。
――なんか調子狂う。
「ねぇ、クラウス」
「なんだよ」
なにかもう脱力してしまった彼は諦めて再び歩き出す。
そして相変わらずニコニコとついてくるガルム。
「そういえばさ。お腹空かない?」
「あー……腹減った、かも」
そういえばずっとなにも口にしていなかった。
気付いてしまうと腹の虫はやかましくなるというもの。素直にうなずくクラウスの手を彼がさりげなく取る。
「じゃあ食事にしようよ。この街に来てからすぐいい店みつけたんだ」
「えっ」
「ほら行こう」
その無邪気な笑みがふと娘ミアに重なった。
――せめてあの子だけはこのまま真っ直ぐ育ってくれ。
父に執着して蹂躙、挙句に大金はたいて非合法な輩まで使う兄を見て彼女は何を思うだろう。
悲しませたり苦しませているのは屋敷を飛び出してしまった自分も同じ。
そんな暗い思考を吹き飛ばそうと、クラウスもまた努めて笑みをつくった。
「そうだな、連れて行ってくれよ」
――これが終われば自由だ。
『でもそのあとはどうする?』
屋敷に戻るのか。
また実の息子に監禁され身体をつなげる罪を重ねるのか。
それとも逃げるか。
この国を出て、一人きりで野垂れ死にでもすれば気が楽なのかもしれない。しかしそれで本当にいいのだろうか。
「クラウス」
「……ああ」
優しく肩を抱かれても今度はなにも言わなかった。
焦燥と絶望、混乱と迷いが綯い交ぜとなってそれどころではなかったのだ。
「僕はすごく幸せ者だ」
ポツリとつぶやかれたガルムの言葉だけが雑踏の中で妙にはっきり聞こえた。
「うん、やっぱりその色はクラウスによく似合うね」
「そうか……?」
完全この男のコーディネートらしい格好で街を歩く。
誰も彼らのことを先程買われた奴隷とその買主だとは思うまい。
『三日間恋人として過ごしてして欲しい』
これがガルムが頭を下げて告げたことだった。
――いわゆるごっこ遊びってやつだ。
そこにあのそこらの自治体予算レベルの金額がついてくるのだから、もはや壮大なパパ活やレンタル彼氏案件とか言えなくともない。
なんて隣を嬉しそうに歩く頭ひとつ以上高いこの好青年をチラリと見ながら考える。
――ったく、どいつもこいつも。
若くて顔が良い、あとは金と名誉がある (ジャックにはなかったが)いわゆる強者男性がなぜこんな三十もとうに過ぎた男に構いたがるのか。
『魔性というのはお父様のような事をいうのねぇ』
娘のミアの言葉ふと思い出す。
ニコニコほんわかした、でも目を離すとすぐに木登りや蝶々を追いかけて駆け出してしまいメイドたちの手をやかせた愛しい娘。
そんなに彼女は美しい金髪と美しい瞳を持つ美少女へと成長したが中身はあまり変わっていない。
お転婆で天真爛漫、いまだに木登りや野ねずみたちと遊ぶのが大好きな少女であった。
そんな娘を父として心配する気持ちは多少あるものの、やはりのびのび育って欲しいと願うのも親心というもので。
「クラウスってば!」
「わっ!? な、なんだよ……突然大きな声出して」
驚いて横を振り向くとそこにはふくれっ面しているガルムがいた。
「さっきからずっと上の空じゃないか。僕がこんなに貴方を見つめてるっていうのに」
「あ、ごめん。ちょっと考え事を」
「それは恋人である僕より大切なこと?」
「!」
やおらに肩を掴まれそのまま引き寄せられる。
「おいっ、なにもこんなところで……!!」
「また僕以外のこと考えてるね、クラウス」
ワントーン低い声の言葉に彼の心臓は小さく跳ねた。表情こそ一見すれば柔和であるのにも関わらず、その瞳の奥はなにやら感情の読めない色をしていたからだ。
「約束したよね。今の僕らは恋人同士だって」
「あ、ああ……」
「僕はすごく幸せなんだ。初恋の人とこうやって手を繋いでデートするのがずっと夢だった」
――初恋って。
最初の出会いさえ覚えていないのに。しかしそれを口に出したらさらにロクでもない結果になりそうだと、さすがに学んだので口をつぐんでおいた。
彼からの視線を避けるように目を伏せたクラウスに対して何を思ったのか、ガルムはその頬に手を添えて唇にキスを落としてきたのだ。
「っ、ん……!?」
――おい待て!
こんな真昼間から。しかも人通りの多い往来で。
だがクラウスの焦りとは裏腹に、そんな情熱的な光景は日常茶飯事とばかりに周囲の人々は奇異に思うこともなく。
通りすがる若者の集団が冷やかすように口笛を吹いたりするくらいの反応であった。
しかし元は奥ゆかしい (?)ジャパニーズの彼にとっては人前でキスをするなんて考えられないのだ。
「……い、いい加減にしろ!」
必死に抵抗してなんとか口付けから逃れたクラウスは声をあげた。
「何考えてるんだっ、俺もお前も貴族だろうが!!」
そこらのバカップルのような言動は高貴な家柄には相応しいわけがない。
しかしそんな説教にもガルムは何処吹く風、それどころか嬉しそうに。
「怒った顔も可愛くて素敵だね」
なんて笑うものだから毒気を抜かれてしまう。
――なんか調子狂う。
「ねぇ、クラウス」
「なんだよ」
なにかもう脱力してしまった彼は諦めて再び歩き出す。
そして相変わらずニコニコとついてくるガルム。
「そういえばさ。お腹空かない?」
「あー……腹減った、かも」
そういえばずっとなにも口にしていなかった。
気付いてしまうと腹の虫はやかましくなるというもの。素直にうなずくクラウスの手を彼がさりげなく取る。
「じゃあ食事にしようよ。この街に来てからすぐいい店みつけたんだ」
「えっ」
「ほら行こう」
その無邪気な笑みがふと娘ミアに重なった。
――せめてあの子だけはこのまま真っ直ぐ育ってくれ。
父に執着して蹂躙、挙句に大金はたいて非合法な輩まで使う兄を見て彼女は何を思うだろう。
悲しませたり苦しませているのは屋敷を飛び出してしまった自分も同じ。
そんな暗い思考を吹き飛ばそうと、クラウスもまた努めて笑みをつくった。
「そうだな、連れて行ってくれよ」
――これが終われば自由だ。
『でもそのあとはどうする?』
屋敷に戻るのか。
また実の息子に監禁され身体をつなげる罪を重ねるのか。
それとも逃げるか。
この国を出て、一人きりで野垂れ死にでもすれば気が楽なのかもしれない。しかしそれで本当にいいのだろうか。
「クラウス」
「……ああ」
優しく肩を抱かれても今度はなにも言わなかった。
焦燥と絶望、混乱と迷いが綯い交ぜとなってそれどころではなかったのだ。
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ポツリとつぶやかれたガルムの言葉だけが雑踏の中で妙にはっきり聞こえた。
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