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3.平凡非凡の『凡』ってなんですか
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―――朝、非凡な姉貴が僕の部屋にやってきた。
夏ほど日が早く登らないため、まだ気温も上がりきらない秋の朝。6時半ほど。
いつもより余裕で準備出来たので、自室で少し漫画読んでいたんだ。
軽いノックと同時に姉貴の声。
「一郎、入るわよ」
返事も聞かずドアが開き、姉貴は既に部屋の中。
……相変わらず行動が忙しない。
家ではなんでも落ち着きなくしてしまうから、おっちょこちょいな行動もしょっちゅうだし、ガサツにも思える所もある。
でも、外だと完璧な美人。
なんだか羨ましいというか……。
まぁ家での姿と外での姿も、両方とも姉貴なんだもんね。
「あー、どうしたの」
確か今日は授業昼からじゃなかったっけ、なんて
のんびりと構えて訊ねる。
すると真顔でとんでもない事を言い出した。
「お友達が来て待ってるわよ。露核さんって方が」
「えっ、ぇぇえ!?」
……先輩がなんでウチにっ!? あ、昨日送ってもらったんだっけ。
あれからまたゲームセンターで遊んで、少しだけ喋りながら帰ってきたんだった。
僕は慌てて部屋の鏡で身支度を確認して、鞄を片手に階段を駆け下りる。
―――ゼィゼィと息を切らせて。
「お、おはよう……」
「おぅ」
今日も今日とてイケメンだ。
心做しか機嫌が良いらしい。母親と玄関先でにこやかに会話している。
無愛想な方だと思ってたのに。
……まさか、女性と男性で態度をかえるのか?
少しだけ幻滅したぞ。
「行ってらっしゃーい」
母の上機嫌な声に送り出され、僕達は通学路を歩きだした。
「先輩って、家この辺り?」
言葉少ない彼にそう話しかければ、少しの沈黙のあと『いいや』と返ってきた。
どこかと聞けば、なんと我が家と反対方向らしい。
「わざわざ遠くまで迎えに来てくれたのかい!?」
驚いて思わず声が大きくなると、彼はまた視線を逸らして呟くように答える。
「別に。わざわざって事ねぇよ」
「それにしたって、なんか悪いような」
それだけ僕と仲良くなりたいのかなって……ああ、そっか。
姉貴と仲良くなりたいんだ。
そういうタイプの人は、今まで沢山いた。
さすがに、朝から迎えに来る人は彼が初めてだけど。
確かにお似合いだろう。
美男美女の非凡なカップル。
馴れ初めは平凡な弟君ですって事で。
僕の役回りだと思えば納得だ。
……でもなんだろ。心臓が痛い。まるで大きくて太い棘がいくつも刺さったみたい。
それでいて身体の中心が鉛玉を入れたように重くて。
「一郎? どうした」
「え……っ、いえ、なんにも……うん」
彼の声にも曖昧で意味不明瞭な返事で返しちゃった。
なんだろう、不整脈だろうか……僕、若いのに。
―――それから彼はほぼ毎日迎えに来るし、僕もすぐに慣れた。
人間の順応性には感服だ。
さらに放課後は互いに用事がなければ一緒に帰っている。
幸い、あの不整脈っぽい症状はそう頻繁に出ることはなかった。
たまに余計な事を考えていると、胸がズキリと痛むような違和感を覚えるのが不思議だけど。
「じゃあな」
「あ、うん。ありがとう」
今日も家まで送ってくれた彼に礼を言って別れる。
夕日が僕達の影を伸ばしている、そんな夕暮れ。
……手を振る僕に合わせて、手を挙げる彼の姿はやはり様になっていて格好良い。
脚も長いし、筋肉の程よくついた体躯。さすがハーフだ。
「ハァ」
ドアを閉めて、小さく呼吸した。
何故か彼といると少し呼吸しずらくなる事がある。イケメンには、圧迫感というものでもあるのか。
……決して嫌とか楽しくない訳じゃあないんだけどなぁ。
靴をぬぎながら、答えの出ない事をひたすら考える。
「おかえりなさい、一郎……あら? その鞄」
玄関まで出てきた母に指摘され、僕は鞄を見る。
「あっ、これ。僕のじゃない!」
……彼のだ。学年ごとに指定鞄のラインの色が違う。
「間違えたみたい。ちょっと取り替えてくる!」
慌てて家のドアを開け放して、走った。
まだこの辺りにいるだろう。元来た道を周りを見渡しながら走る。
「っ、はぁ……ッ」
―――息が切れてきた頃、町内の公園に彼らしき長身を発見した。
この公園は周りを木々が鬱蒼と茂っているせいか、昼間でも薄暗く人通りも少ない。
なので秘密の話をする時やカップルがこっそり会う時、告白なんかする時によく使われる。
「!?」
よく見ると、彼の他にもうひとりいる。女の人だ。
私服を着ていて……ううん、よく見えないな。
僕はなるべく音を立てないように、木々をわけ行って二人に近付く。
本来こんな盗み聞きをするなんて、最低だ。バレたら先輩に軽蔑されてしまうだろうか。
何を話しているのか、てんでわからない。
でも顔は……顔、顔。
「うそ……」
僕の声が思いのほか大きかったらしい。それともうっかり小枝踏んじゃったからかな。
二人がハッとしたように振り返った。
「一郎!?」
驚いた様子で僕の名を呼んだのは、姉貴だった。
夏ほど日が早く登らないため、まだ気温も上がりきらない秋の朝。6時半ほど。
いつもより余裕で準備出来たので、自室で少し漫画読んでいたんだ。
軽いノックと同時に姉貴の声。
「一郎、入るわよ」
返事も聞かずドアが開き、姉貴は既に部屋の中。
……相変わらず行動が忙しない。
家ではなんでも落ち着きなくしてしまうから、おっちょこちょいな行動もしょっちゅうだし、ガサツにも思える所もある。
でも、外だと完璧な美人。
なんだか羨ましいというか……。
まぁ家での姿と外での姿も、両方とも姉貴なんだもんね。
「あー、どうしたの」
確か今日は授業昼からじゃなかったっけ、なんて
のんびりと構えて訊ねる。
すると真顔でとんでもない事を言い出した。
「お友達が来て待ってるわよ。露核さんって方が」
「えっ、ぇぇえ!?」
……先輩がなんでウチにっ!? あ、昨日送ってもらったんだっけ。
あれからまたゲームセンターで遊んで、少しだけ喋りながら帰ってきたんだった。
僕は慌てて部屋の鏡で身支度を確認して、鞄を片手に階段を駆け下りる。
―――ゼィゼィと息を切らせて。
「お、おはよう……」
「おぅ」
今日も今日とてイケメンだ。
心做しか機嫌が良いらしい。母親と玄関先でにこやかに会話している。
無愛想な方だと思ってたのに。
……まさか、女性と男性で態度をかえるのか?
少しだけ幻滅したぞ。
「行ってらっしゃーい」
母の上機嫌な声に送り出され、僕達は通学路を歩きだした。
「先輩って、家この辺り?」
言葉少ない彼にそう話しかければ、少しの沈黙のあと『いいや』と返ってきた。
どこかと聞けば、なんと我が家と反対方向らしい。
「わざわざ遠くまで迎えに来てくれたのかい!?」
驚いて思わず声が大きくなると、彼はまた視線を逸らして呟くように答える。
「別に。わざわざって事ねぇよ」
「それにしたって、なんか悪いような」
それだけ僕と仲良くなりたいのかなって……ああ、そっか。
姉貴と仲良くなりたいんだ。
そういうタイプの人は、今まで沢山いた。
さすがに、朝から迎えに来る人は彼が初めてだけど。
確かにお似合いだろう。
美男美女の非凡なカップル。
馴れ初めは平凡な弟君ですって事で。
僕の役回りだと思えば納得だ。
……でもなんだろ。心臓が痛い。まるで大きくて太い棘がいくつも刺さったみたい。
それでいて身体の中心が鉛玉を入れたように重くて。
「一郎? どうした」
「え……っ、いえ、なんにも……うん」
彼の声にも曖昧で意味不明瞭な返事で返しちゃった。
なんだろう、不整脈だろうか……僕、若いのに。
―――それから彼はほぼ毎日迎えに来るし、僕もすぐに慣れた。
人間の順応性には感服だ。
さらに放課後は互いに用事がなければ一緒に帰っている。
幸い、あの不整脈っぽい症状はそう頻繁に出ることはなかった。
たまに余計な事を考えていると、胸がズキリと痛むような違和感を覚えるのが不思議だけど。
「じゃあな」
「あ、うん。ありがとう」
今日も家まで送ってくれた彼に礼を言って別れる。
夕日が僕達の影を伸ばしている、そんな夕暮れ。
……手を振る僕に合わせて、手を挙げる彼の姿はやはり様になっていて格好良い。
脚も長いし、筋肉の程よくついた体躯。さすがハーフだ。
「ハァ」
ドアを閉めて、小さく呼吸した。
何故か彼といると少し呼吸しずらくなる事がある。イケメンには、圧迫感というものでもあるのか。
……決して嫌とか楽しくない訳じゃあないんだけどなぁ。
靴をぬぎながら、答えの出ない事をひたすら考える。
「おかえりなさい、一郎……あら? その鞄」
玄関まで出てきた母に指摘され、僕は鞄を見る。
「あっ、これ。僕のじゃない!」
……彼のだ。学年ごとに指定鞄のラインの色が違う。
「間違えたみたい。ちょっと取り替えてくる!」
慌てて家のドアを開け放して、走った。
まだこの辺りにいるだろう。元来た道を周りを見渡しながら走る。
「っ、はぁ……ッ」
―――息が切れてきた頃、町内の公園に彼らしき長身を発見した。
この公園は周りを木々が鬱蒼と茂っているせいか、昼間でも薄暗く人通りも少ない。
なので秘密の話をする時やカップルがこっそり会う時、告白なんかする時によく使われる。
「!?」
よく見ると、彼の他にもうひとりいる。女の人だ。
私服を着ていて……ううん、よく見えないな。
僕はなるべく音を立てないように、木々をわけ行って二人に近付く。
本来こんな盗み聞きをするなんて、最低だ。バレたら先輩に軽蔑されてしまうだろうか。
何を話しているのか、てんでわからない。
でも顔は……顔、顔。
「うそ……」
僕の声が思いのほか大きかったらしい。それともうっかり小枝踏んじゃったからかな。
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