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田中 乃那加

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6.とりあえず触れさせろと迫るべきか

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「お前って、ほんとワケ分かんねー奴だよな」
「あ゙?」

 朝っぱらから喧嘩売ってきたのは、幼馴染で同じクラスの大輔だいすけだ。
 俺の不機嫌な返しをものともせず、奴は飄々と言い切った。

「だってよー、女にあんだけモテても全く嬉しそうじゃないじゃん」
「嬉しくないからな」
「それがワケ分かんねーって言うの! 普通は嬉しいだろーがよ」
「それはテメェだけだろ」

 クラスのお調子者、それが大輔の立ち位置で性格だ。
 しかし、ガキの頃から一緒にいる俺でもイマイチよく分からんのがこの男だ。
 掴みどころがあるようなないような。

 ……そんな奴から視線を逸らす。
 朝はただでさえ憂鬱だ。
 
 そもそも学校に行くことが鬱陶しい。
 正しくいうと、後輩や別のクラスの女達が馴れ馴れしくくっついてくるのが堪らなく嫌だ。
 単純に歩きにくい。

「漫画みてーなモテ方だもんな。やっぱり顔かッ、顔なのかァァァッ!?」
「うるせぇ。顔なんざ、人間どーでもいいだろ」
「出たッ、イケメンの余裕か! 喧嘩売ってんのかよーっ」
「チッ……」

 こいつも、たいがいうるさい。
 
 ……確かに。寄ってくる女達は俺のだ。それしか見てねぇだろうな。
 それが、俺を不機嫌にさせるのを知らねぇんだろうが。

「まさかお前……系?」
「ンだそりゃ」

 ……そっち系って、どっち系だよ。

 視線を窓の外に向けたまま、生返事する。
 大輔は顔を近づけ、俺の耳元に笑みを含んだ声で囁いた。

「男が好き、だったりし……イテテテッ、な、何すんだよーッ!?」
「テメェ、死ね。いっぺん死ね」

 ふざけた事を抜かした奴の、首根っこを締め上げる。
 女を鬱陶しがる=ホモだって、恐ろしく単純思考だ。
 ムカついたからぶん殴ってやろうかと、拳を振り上げる。

「ちょ……ストップ、ストーップ! ほらっ。とか、どーだ!」
「あ゙ぁ゙? まだ言うか……」
「痛てぇって!! 離せっつーの、ほらカワイコちゃんいるぜっ」
「しつこいぞテメェ、って……!?」

 奴が、ジタバタと足掻きながら指した方向を見る。
 途端……電撃が走った。

「ゲホッゲホッ! ……ったく。本気で絞めるなよな! ってどーしたんだよ。ぼんやりしちまって」
「あ、あぁ」

 俺達のいる、三年教室の隣には準備室と言う名の物置……空き教室がある。
 教師の手伝いなのか、何やら備品を抱えた一人の生徒。

「あの子、可愛いよなぁ……あははっ、男だけど」
「そうだな」
「えっ、嘘だろ太郎!?」

 俺はその場のノリで肯定した訳じゃない。
 ……本気で可愛いと思っちまったんだ。
 
 きっと触れたら指通りの良いだろう、さらさとした少し長めの髪。
 ここからでも分かる、白い肌。
 目鼻立ちは整っていて、切れ長の目はわずかに伏せ気味。
 なんて言うか……って言葉が頭に閃くような奴だった。
 
 俺より華奢なその体、抱き締めたい。
 薄く形の良い唇に、口付けをしてみてぇ。

「……おいおい、大丈夫かよ」

 大輔の心配そうな声に生返事返しながら、俺は未だ味わったことの無かった感情の名を考えていた―――。


■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□

 ……俺はホモじゃねぇ。
 これだけはハッキリした。

 ―――自室にて、パソコンの前で項垂れる。
 
 このご時世、ネットを開けば大体の情報は手に入るんだ。
 そこで俺は、必死でこの感情に付けるべき名を探していた。

 ゲイビ、と呼ばれる男しか出てこねぇAVを鑑賞する。
 筋張ったり、筋肉まみれだったり。そんな男達の裸の絡み合い……パソコンを粉砕したくなった。

 いや別に悪くねぇんだ。
 ゲイビも男優達も。それらが悪いんじゃあねぇ。
 ……悪いのは俺だ。勝手にその世界を覗き見して、気分悪くしてるだけなんだからな。

「くそっ」

 じゃあ、この気持ちはなんなんだ。
 触れたい。あの存在に、名前も知らない彼に……触れられたい。
 
 俺は深くため息をついて頭を抱える。
 もし俺がホモであっても、それはそれで大問題なのだ。

 今まで確かに女は鬱陶しいと思っていた。
 しかしそれは、猫みたいに喧しい女達のことだ。
 穏やかで煩くなくて、笑顔が愛らしい子なら俺も多分……あ。彼は笑顔も可愛いだろうな。

「って、違うだろ」

 自分で自分に力なくツッコミを入れて、遂にはベッドに倒れ込んだ。

「なんなんだよ、これ……」

 彼は男だ。確かに華奢だし可愛かったが、女には見えん。
 だから俺はホモになっちまったのかと思ったのだが……違うのか。
 
 ―――俺は先程目にしたAVを、思い出した。

 ……互いの柔らかさも丸みもない身体をまさぐりながら、荒々しい吐息を隠すことなく唇を貪っていた。
 そして胸の飾り、乳首を指や舌で愛撫する。
 
『っあ、はぁ……んぁ』

 鼻にかかったような声は、男も女もそう変わらない。
 ただ、きっとはこんなに低い声を出さないだろう。
 可憐に。愛らしく身体を震わせて、か細い吐息を零す。

 ……あの白い肌の、至る所に紅い跡を付けてやろうか。 
 新雪にいち早く踏み込んだ時のように、征服欲に酔いしれる。
 痛い、と多少泣きつかれても強めに跡を付けたい。
 そうすれば。

「他の野郎に取られたくないな」

 気がつけば声に出ていた。
 自らの欲望……独り占めして、組み敷いて。
 蹂躙したい。
 あんな映像より、もっと優しく。でも激しく抱いて、鳴かせてみたい。

『やめて』より『もっと』と言わせたいような。
 やっぱり『もう許して』と乞われるのも悪くない。
 優しくしたいし、いたぶってやりたい。
 
「俺は変態かよ」

 なにがホモじゃねぇ、だ。
 妄想だけで、こんなに興奮して仕方ない自分がムカつく。
 
 ……まずは名前知りてぇな。

 そう独りごちる。
 そして、すっかり兆した自らの股間に視線をやってため息をついた―――。
 
 
 
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