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田中 乃那加

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7.ラブレターの書き方が分からない件

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「オレ、なんか責任感じちまうなー……」

 全く責任とは無縁の男が、ぼやく。

「御託はいいから、さっさと教えろ」
「それが人にモノを教わる態度かよッ!」

 ―――俺は今、自室に大輔を呼んでいる。
 勘違いするなよ? 別にこいつと、どうのこうのは無い。
 考えただけで、虫唾が走る。

「お前がってねぇ」
「知らねぇんだ。仕方ないだろう」
「いや。そーゆー事じゃなくてね?」

 勿体ぶった話し方をする、この友人は何を懸念しているのか。
 まぁどうでもいい。そんな事よりもだ。

田中 一郎たなか いちろうに宛てた、恋文を書く。だから早く書き方を教えろって言ってるのだが?」
「……そこだッ、そこだぞ太郎!」
「どこだ?」
「そこだっつーのッ、相手は男だよな!?」
「だからなんだ」

 ……そこんとこは、とっくの昔に飲み込んだんだ。
 何度も自問自答したし、葛藤もした。
 何度も彼の妄想でヌいたのも、追加しておこう。
 
 AVだとピクリとも反応しなかったクセに、妄想だと捗って仕方なかった。
 何がって……ナニのことだ。

「た、確かに可愛かったよな。あの、一郎君だっけ? 見ようによっては、女みてーだし……でもなァ」
「なんだテメェ、彼の可憐さに文句つけてんじゃねぇぞ」

 あれは天使だ。うっかり間違って、この腐敗した人間界に降りてきちまった天使。
 数週間ほどストー……いや、見守ってきて分かった。
 名前も趣味も、住所も家族構成も。
 国語と生物が得意で、体育が苦手だったな。
 
 ……もし仲良くなったら、保健体育でもみっちり教えてやりてぇな。うん。

「おいおいおいおいッ、顔がエライ事になってんぞ!」
「ン……そうか?」

 ……しまった。うっかりしていた。
 俺は、軽く咳払いをする。
 彼の事を考えていると、いつもこんな具合だ。
 妄想やら思考がごっちゃになっちまう。
 
 大輔が、大きなため息をついた。

「イケメンがしていい表情じゃなかったぜ……ったく、仕方ねえな。オレかこの恋を応援してやるぜッ!」
「いいのか」
「当たり前だろ、オレ達親友じゃねーか!」

 ……なんてことだ。
 俺はこいつを、少々誤解していたらしい。
 いつも碌なこと言わないし、やらない男だ。しかし、こう見えて男気のある奴なのかもしれねぇ。

 なんて心密かに、見直していると。

「イケメンが一人、身を固めたらコッチにも女が回ってくるかも知れねーしな!」
「お前な……」

 本当にこいつに頼って良いものか、一抹の不安を覚えた―――。


 
 ……結論から言おう。
 奴のラブレター講座は、全くもって役に立たなかった。
 むしろ、あんな軟派なやり口は性に合わん。

 俺がいかに彼の事を好いているか、大切にしたいか、一生添い遂げる覚悟すらあるか……それらを簡潔に纏めたかったのだ。

「これ果たし状かよーッ!」

 頭を抱えているくせに、爆笑するという器用な男。大輔が叫ぶ。

「果たし状じゃねぇ。恋文ラブレターだぜ」

 ちゃんと血判押してあるだろ、と指させば。

「どーこーの世界にッ、ラブレターに血判おすんだよぉぉぉ! 怖ーよっ、てかコレ本気であの子に渡す気か?」
「当たり前だろ……って、そうか」

 ……確かこんな噂を聞いたな。
 一郎の姉、田中 華子たなか はなこは尋常じゃないほどモテる。
 その為、彼女宛のファンレターやラブレターは弟である彼に託されるとか。
 
 実際は、その何割かに彼自身に宛てた手紙もあると聞いて腸が煮えくり返る想いだった記憶もある。

「姉の方に渡せばいいのか」
「……なんでそーなるんだよッ!?」

 俺は、ワーワー煩い大輔を無視して書き上がった恋文を手に立ち上がった。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫

「……なによ、これ」

 酷く感じの悪い女だ。
 この、華子という女は。

「果たし状? え? なに、あたしに決闘かしら……受けて立つわ」

 外で、ファイティングポーズを決め始める女を制止する。
 そして改めて恋文を開いてみせた。

「ラブレター? ……誰宛よ」
「弟さんに」

 緊張で声が裏返りそうだ。
 拳を握りしめ、辛うじて前を見据える。

 ……ゆくゆくは御両親に、結婚の挨拶とか必要だろう。今からこんなに緊張してどうするんだ。
 と、自分を叱咤しながら。

「なんで……あたしに持ってくるわけ?」

 ジロリ。とこちらを睨みつける女の威圧感と迫力たるや。
 正直、その場にいるのも居た堪らない位だ。
 しかしだからといって、ここで逃げ帰る訳にはいかない。
 ……俺の初恋を賭けた、大勝負なのだから。

「お姉さん宛ての手紙は彼が受け取る、と聞いていたので」
「ふーん、なるほどね。まぁ少し見せて見なさいよ」

 そう言って、俺の手から恋文ラブレターをひったくるように取る。
 開いてまず一言。

「果たし状かっ!」

 ……何故だ。何故これが果たし状に見えるのか。
 人間の思考っていうのは妙な所で共通するものだな、なんて考えながらも首を横に振る。

恋文ラブレターだぜ」
「血判押してあるラブレターがあるかッ!」
「あるぜ……ここに」

 ビシッとそれに指をさして言ってやる。
 すると女は脱力したように、大きなため息をついた。

「と、とにかく。まずは本人に渡して来なさい! 余計な事は言わなくていいわ。あんたみたいな男は無駄口叩かず、好意を態度で示してみな」
「おぅ……分かった」

 行動のみで示す、俺にもってこいのアドバイスじゃねぇか。
 なんだ、この女……案外良い奴らしい。

 ―――俺は再び恋文を手に、大きく頷いた。





 



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