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9.小指姫ほどの
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世の中は週末で祝日。人々は浮かれふわふわと外に出ていく。まるで風船のようだ、と僕は不貞腐れる。
いや、僕だって現在出掛けてるけどさ。
茶九先輩からの突然の呼び出しだからやむ得ない。
……どうしたんだろう。何か思い詰めたような声だったな。
恋人の事か、仕事を辞める云々のことか。どちらにせよ僕は話を聴くことしかできないが。
それでも少しでも彼女の力になれるならお安い御用だ。
あと、どうせ暇だし。
「ごめんごめん。待たせたよね」
明るい声に振り向けば、先輩が走ってきた。
休日に会うのは初めてだ。私服も可愛い、と言うのが僕の素直な感想。
「いえ、いまさっき来たとこですから」
お決まりのセリフも嘘じゃあない。
時間通り。やはりしっかりしてて仕事できる人は違うなァ。
「よし、じゃあ行こっか」
「あ、はい」
少し先立って歩く彼女に、行先を告げられるわけでもなくひたすらついて行く。
「……あのね、これからあって欲しい人がいるのよ 」
「へ?」
珍しいな。恋人でも紹介されるんだろうか。まぁ相談受けた立場だしね。
「そういえば瀬上君。彼氏さんとはどう?」
「あー……」
人通りの多い繁華街を歩きながら、唐突に答え難い質問ぶっ込んで来られた。
正直答え辛いことこの上ない。でも曖昧にしてたこっちも悪いか。
恋人じゃあないけどな。単なる、ええっと。都合の良い関係ってヤツです。
なんて言える訳もなく。
「ええっと……別れました」
の一言で精一杯。
今も胸が疼き痛むし、その女々しさに腹も立っているから。リアリティを出すための余計な作り話する気力も頭もない。
「そっか」
先輩は悲しそうに一つ息を吐いて僕の肩をぽんぽんと撫でた。
「大丈夫。大丈夫だからね」
「先輩……」
今度は慰めてくれるのか。本当につくづく良い人だな。この人は。
カノジョさんが羨ましいな。こんな人に愛されてさ。
……愛されるに値しない人間の僕が言うなって話だけど。
自虐もここまで来ると開き直れるものだ。
それからも数分、今度は当たり障りのない会話をしながら僕達は歩いた。
「あ、居たわ」
その声で歩みを止めて、前方を見る。
「ん」
と、片手を上げてみせたのは先輩より少し若い。確か短大生だっけ? ボブヘアに大きなメガネをかけた女の子。
表情は彼女より乏しいようだけど、可愛らしい女性だ。
「芽衣子、待たせてごめんね」
「問題ないよ」
「あ、紹介するね。妹の芽衣子」
芽衣子さんは精一杯の愛想笑いを浮かべて『ども』と頭を下げた。
……さてはこの子、結構不器用な子だな。
僕も頭を下げながら、ふと思った。
なんとなく親近感。
愛想笑いの下手さとか、表情の乏しさはなんとなく身に覚えのある所だから。
「はじめまして。瀬上です」
僕も同じような笑顔をしているだろう。芽衣子さんが、少しホッとした顔をした気がした。
「あともう一人。私、この前飲み会で知り合ったんですけど……くそっ、あのバカ遅れやがって」
……芽衣子さん。結構口悪いらしい。
スマホを睨みつけて舌打ちまでしている。
「まぁまぁ、芽衣子……あ! あれじゃない?」
「くそ、あの遅刻バカめ」
悪態ついて睨みつけている方向を僕も眺めた。
何やらデカい人がこちらに全速力で走ってくる。早い。というかデカいな。
……ん、なんか見覚えがあるよう、な。
「はぁっ、はッ……すまん! 寝坊した」
「んな大事な時に寝坊してんじゃあないわよ」
汗だくな大男、僕の今一番会いたくないヤツが目の前にいた。
「謝ってるだろ。その豚を見るような目をやめてくれよ!」
「豚じゃないわ。豚以下の、救いようのないバカを見る目よ」
「辛辣ッ!」
いきなり激しい喧嘩を始めた男女を、僕は呆然と見守るしかない。
なんだ。なんの罰ゲームってわけ?
「……ほら、二人共いい加減にしなさい。目的を忘れてない?」
有無を言わさぬ声色で彼らを静止したのは先輩だ。
途端大人しくなった2人は、きまり悪そうに横目で視線を交わしてため息をついている。
すごくその、仲良しだなって思った。
……なんだ。ちゃんと女の子と付き合えるんじゃないか。
性格は正直アレだけど、何となくしっかりしてそうな芽衣子さんがついていればなんとかなるだろう。
うん。この男には不毛な関係よりずっとよく似合う女性がいるってことだな。
なんか胸が痛いし、鼻の奥がやたらとツンとするけども。
「ほらぁ、バカ男が好きな子泣かしたじゃん」
「どんどん毒舌が過激になってく……って、な、なんで!?」
「あらあらぁ。瀬上君。泣かないで。ね?」
……えっ、泣いてる? だれが。
そう首を傾げた瞬間、ぽたりぽたりと冷たいモノが頬を滑って落ちた。
「!」
慌てて顔に手をやると筋状に濡れている。
手に触れたその雫は少し温かく、直ぐに冷えていく。
「う、うそ」
僕ってそんなに涙脆かったっけ?
涙腺がぶっ壊れておかしくなってるのかも。あとは情緒不安定で病んでるのか。
どちらにしてもおかしすぎる。
「ご、ごめんなさい……おかしい、な。目にゴミでも入ったのかも」
「あらあら、大丈夫?」
心配そうにハンカチを差し出してくれる彼女には申し訳ない。
「いえ、大丈夫。すぐに……ちょっと、ごめんなさいッ」
「瀬上君っ!?」
……やばい、なんでだ。止まらないじゃあないか。
拭っても拭っても後から後から流れていく。
本当に蛇口が壊れてしまったみたいだ。
『?』と『!』で埋め尽くされる頭。
ついに走って逃げ出してしまった。
背中にかけられた声も言葉も、全部振り切って。
いや、僕だって現在出掛けてるけどさ。
茶九先輩からの突然の呼び出しだからやむ得ない。
……どうしたんだろう。何か思い詰めたような声だったな。
恋人の事か、仕事を辞める云々のことか。どちらにせよ僕は話を聴くことしかできないが。
それでも少しでも彼女の力になれるならお安い御用だ。
あと、どうせ暇だし。
「ごめんごめん。待たせたよね」
明るい声に振り向けば、先輩が走ってきた。
休日に会うのは初めてだ。私服も可愛い、と言うのが僕の素直な感想。
「いえ、いまさっき来たとこですから」
お決まりのセリフも嘘じゃあない。
時間通り。やはりしっかりしてて仕事できる人は違うなァ。
「よし、じゃあ行こっか」
「あ、はい」
少し先立って歩く彼女に、行先を告げられるわけでもなくひたすらついて行く。
「……あのね、これからあって欲しい人がいるのよ 」
「へ?」
珍しいな。恋人でも紹介されるんだろうか。まぁ相談受けた立場だしね。
「そういえば瀬上君。彼氏さんとはどう?」
「あー……」
人通りの多い繁華街を歩きながら、唐突に答え難い質問ぶっ込んで来られた。
正直答え辛いことこの上ない。でも曖昧にしてたこっちも悪いか。
恋人じゃあないけどな。単なる、ええっと。都合の良い関係ってヤツです。
なんて言える訳もなく。
「ええっと……別れました」
の一言で精一杯。
今も胸が疼き痛むし、その女々しさに腹も立っているから。リアリティを出すための余計な作り話する気力も頭もない。
「そっか」
先輩は悲しそうに一つ息を吐いて僕の肩をぽんぽんと撫でた。
「大丈夫。大丈夫だからね」
「先輩……」
今度は慰めてくれるのか。本当につくづく良い人だな。この人は。
カノジョさんが羨ましいな。こんな人に愛されてさ。
……愛されるに値しない人間の僕が言うなって話だけど。
自虐もここまで来ると開き直れるものだ。
それからも数分、今度は当たり障りのない会話をしながら僕達は歩いた。
「あ、居たわ」
その声で歩みを止めて、前方を見る。
「ん」
と、片手を上げてみせたのは先輩より少し若い。確か短大生だっけ? ボブヘアに大きなメガネをかけた女の子。
表情は彼女より乏しいようだけど、可愛らしい女性だ。
「芽衣子、待たせてごめんね」
「問題ないよ」
「あ、紹介するね。妹の芽衣子」
芽衣子さんは精一杯の愛想笑いを浮かべて『ども』と頭を下げた。
……さてはこの子、結構不器用な子だな。
僕も頭を下げながら、ふと思った。
なんとなく親近感。
愛想笑いの下手さとか、表情の乏しさはなんとなく身に覚えのある所だから。
「はじめまして。瀬上です」
僕も同じような笑顔をしているだろう。芽衣子さんが、少しホッとした顔をした気がした。
「あともう一人。私、この前飲み会で知り合ったんですけど……くそっ、あのバカ遅れやがって」
……芽衣子さん。結構口悪いらしい。
スマホを睨みつけて舌打ちまでしている。
「まぁまぁ、芽衣子……あ! あれじゃない?」
「くそ、あの遅刻バカめ」
悪態ついて睨みつけている方向を僕も眺めた。
何やらデカい人がこちらに全速力で走ってくる。早い。というかデカいな。
……ん、なんか見覚えがあるよう、な。
「はぁっ、はッ……すまん! 寝坊した」
「んな大事な時に寝坊してんじゃあないわよ」
汗だくな大男、僕の今一番会いたくないヤツが目の前にいた。
「謝ってるだろ。その豚を見るような目をやめてくれよ!」
「豚じゃないわ。豚以下の、救いようのないバカを見る目よ」
「辛辣ッ!」
いきなり激しい喧嘩を始めた男女を、僕は呆然と見守るしかない。
なんだ。なんの罰ゲームってわけ?
「……ほら、二人共いい加減にしなさい。目的を忘れてない?」
有無を言わさぬ声色で彼らを静止したのは先輩だ。
途端大人しくなった2人は、きまり悪そうに横目で視線を交わしてため息をついている。
すごくその、仲良しだなって思った。
……なんだ。ちゃんと女の子と付き合えるんじゃないか。
性格は正直アレだけど、何となくしっかりしてそうな芽衣子さんがついていればなんとかなるだろう。
うん。この男には不毛な関係よりずっとよく似合う女性がいるってことだな。
なんか胸が痛いし、鼻の奥がやたらとツンとするけども。
「ほらぁ、バカ男が好きな子泣かしたじゃん」
「どんどん毒舌が過激になってく……って、な、なんで!?」
「あらあらぁ。瀬上君。泣かないで。ね?」
……えっ、泣いてる? だれが。
そう首を傾げた瞬間、ぽたりぽたりと冷たいモノが頬を滑って落ちた。
「!」
慌てて顔に手をやると筋状に濡れている。
手に触れたその雫は少し温かく、直ぐに冷えていく。
「う、うそ」
僕ってそんなに涙脆かったっけ?
涙腺がぶっ壊れておかしくなってるのかも。あとは情緒不安定で病んでるのか。
どちらにしてもおかしすぎる。
「ご、ごめんなさい……おかしい、な。目にゴミでも入ったのかも」
「あらあら、大丈夫?」
心配そうにハンカチを差し出してくれる彼女には申し訳ない。
「いえ、大丈夫。すぐに……ちょっと、ごめんなさいッ」
「瀬上君っ!?」
……やばい、なんでだ。止まらないじゃあないか。
拭っても拭っても後から後から流れていく。
本当に蛇口が壊れてしまったみたいだ。
『?』と『!』で埋め尽くされる頭。
ついに走って逃げ出してしまった。
背中にかけられた声も言葉も、全部振り切って。
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