変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加

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武闘派Ωに落ちる音

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 「っぐぁ!」

 裏路地にて。

 くぐもった悲鳴をあげて、男たちは飛んでいく。すすけた壁に投げ飛ばされる者、ゴミの詰まったゴミ箱をひっくり返しながら叩きつけられる者。

 痛みに呻きつつ、芋虫のように這い回る彼らを見下ろしながら奏汰は鼻で笑った。

「だらしねぇなぁ、そろいもそろって」

 武器なんて持っていない。数人の男たち相手を丸腰で叩きのめしたのだ。
 
「くっ、くそ。Ωのくせに……」
「あァ? なんつった、今」

 男の一人の言葉にこめかみがピクリと反応する。

「Ωって言ったか? なぁ!」

 ただでさえ気が立っているのに、さらに頭に血が上るのを感じた。

「何度も何度も何度も何度もいわせんな、このクズどもが」

 拳をギュ、とにぎる。

「僕はΩじゃない、βだ」

 地面にへたり込む男目掛けて蹴りでも入れてやろうと見すえた時。

「ふざけんなァァァッ!!!」

 別方向からの怒声とともに、突っ込んでくる人物。その手にはキラリと銀色に光る刃物が。

「――危ねぇっ!」

 隙をとられ一瞬呆けてしまったのがいけなかった。せめて致命傷は防ごうと体勢を変えようとした瞬間、その男は横向きに吹き飛んだ。

「なっ!?」

 混乱して飛び退く。そして辺りを見渡すと。

「さすがにナイフはダメだろ」

 強烈な蹴りを入れたのだろう。足を少し上げた状態の少年の姿が。

「ほんとすごいね、あんた。これだけを一人でやっつけちゃうんだから」

 名張 龍也が感心したように目を見張ってみせながら言う。

「……」
「あ、お礼はいいよ。通りすがりだし、別に好きでやっただけだ。それよりケガはないか?」
「……」
「ここ血ついてるよな。まさかどっか切った? 今すぐみてやるから、ほらこっち来いよ」
「……」
「恥ずかしがるなって。大丈夫、優しくしてや――」
「触るなクソ野郎ッ!」
「ぐふっ!?」

 肩に手をおいてくる龍也の腹に、奏汰の渾身の正拳突きがそれはもう綺麗に入った。

「な゙っ、なん……!?!?」
「なにを勘違いしてるか分からんが、これは返り血だバカ」

 腹を押さえて地面に崩れうずくまる彼をせせら笑う。

「かっこつけやがって。僕があんな卑怯者に負けるとでも?」
「ゔっ、ぐ……」
「Ωだと勘違いして数人がかりで襲ってくるクソどもとは鍛え方が違うんだよ」

 まず奏汰が夜の繁華街にて、Ωとβの女性二人連れに数人の男たちが絡んでるのを目にしたところから始まる。
 
 当然のように間に割って入り彼女たちを逃がしてやると。

『じゃあキミが相手してよ』

 と肩を抱かれ路地裏に連れ込まれたのだ。
 そこで油断した隙にまず一人、そしてかかってきた全員をまとめて殴り飛ばし蹴り出して倒したという。

「これだからαは嫌いなんだ」

 大きなため息とともにビシッ、と龍也を指さす。

「僕はお前のことも大っ嫌いだからな!」
「え……」

 可哀想なくらい唖然とした表情の彼をものともせず、なおも続けて。

「いいか、僕をΩ扱いするやつはタダじゃおかないぞ。とはいえ、一度は見逃してやる」

 さっき助けてもらったからだが、その礼を言うのもこのプライド高いΩには難しいだろう。

「ふん。分かったらさっさと――っうわ!?」

 突然立ち上がった龍也が手をにぎって来たのだ。当然、ブチ切れで抗議する。

「お前なんのつもりだ!」
「惚れた」
「は?」

 惚れた、と確かに言った。聞き間違いではない。
 しかも無駄に良い顔を赤らめて。

「あんたすごく綺麗だし強いし。惚れちまったよ、完全に」
「…………???」

 ――ナニイッテンダ、コイツ。

 思わずカタコトになるくらい呆然とした。
 これだけ罵倒されて殴られて、挙句に惚れたなんて。もしかしてとんでもないドMなのでは無いかと疑いたくなる。

「絶対にあんたを守る。だから俺とつがいに、いや結婚もしてくれ」

 パシパシと奏汰が何度も瞬きしても状況は変わらない。それもそうだ、彼自身は至極マジメなのだから。

「黙れクソガキ」
「年の差なんて俺は気にしないから」
「うるさいっ!」

 そういう問題ではない。
 さらに痛いくらい手をにぎって離さない彼に対してついに我慢の限界がくる。

「いい加減離さんかいっ!」
「ぐはぁ゙ッ!?」

 再び、強烈な蹴りをその腹部におみまいしてその隙に走り出す。

「か、奏汰ァァァッ!!!」
「うっせぇ、タメ口きくなバーカバーカ!」

 高校生と大学生の頭の悪い罵倒まじりの追い掛けごっこが、路地裏で繰り広げられた。



 









 
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