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2.喰われた
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わずかな灯りを除いて、全て落とされた。
月明かりすら雲の中に隠れてしまったから、この部屋はもう薄い闇の中だ。
そしてオレの聞く音と言えば……。
男二人の体重を受けて悲鳴を上げたベッドの軋みと、聞くに耐えない嬌声や荒々しい息。
「っ……ぁ゛……ぅ、っく、ッ……はッ……」
「指、噛まないで」
……オレの身体の上で。優しげなのは声だけの、支配者如く振る舞うこの傍若無人な男。
今も碌に慣らすこともなく、性急にその凶器とも言えるソレでオレの半身を貫いている。
いつまでも慣れることのない違和感と異物感、そして痛みを感じてのたうち回る姿を彼はとても好んだ。
―――思えば全てが間違いだったのだろう。
3ヶ月前に屋敷の前で一匹の犬ころを拾ったことも。
さらに餌を与えて飼い慣らそうとしたことも。
彼は……ジャックはただの犬ではなく、人狼だった。
最初はほんの子犬サイズ。それが三日三晩で人間の子供のような大きさに成長し、さらに1週間後の朝。人間の子供の頃の姿に変化していた。
そこで初めて知ったのだ。
彼が獣人族、しかも人狼であると。
遂にひと月前には既に今の大きさ……10代後半位の少年になってからも、彼の食欲は収まることが無かった。
しかも彼は肉を好むらしい。家畜の肉だけではない。
……人間の肉も喰らうのだ。
まず住まわせていた使用人が食い殺された。
盲目で身寄りのない娘。こんな森奥深くの屋敷に働きに出るほど金も身よりも親しい者も、何も持たない孤独な娘。
無口な静かな彼女を、オレは出会った時からそれなりに気に入っていた。
―――人狼が初めての食事をした日の晩、オレはその娘とキスをした。
何も映さぬ白く濁った瞳を美しいと言い、跪いてその手を取ったのだ。
……それなのに。
朝が空けて、彼女の寝床は乾ききらぬ血にまみれていた。ほとんど骨と臓器と筋組織の欠片になった娘の前で彼は、ジャックは眩いばかりの笑みで言ったのだ。
美味しかった、と。
それからはもうめちゃくちゃだった。
度々、使用人達が食い殺される。行方不明の者も出た。ジャックを叱りつけようにも彼はただ、傷付いたような瞳でこういうだけ。
美味しかった、と。
彼は恐ろしいほど美しい少年に育った。ゾッとするほどに。
燃えるような紅い瞳を彩り飾る長くフサフサとした睫毛。彫りの深い顔立ち。厚く色気を孕んだ唇。口元の小さな黒子すら心臓を鷲掴む程セクシーだった。
無邪気さと危うい色気と、そして捕食者のその色の前でオレは為す術もなかった。
……そして三日前。遂に彼はオレを食べた。
捕食したという意味ではない。
性的な意味で、だ。つまり……強姦された。
見た目年齢だけでも10歳ほど年上のオレを、あの人狼少年は組み敷いて蹂躙したのだ。
『デザート』という言葉で。
全てを暴き立てて、肌に歯型や痣を付ける。キスと称して口内をその長い舌で舐め尽くし、排泄器官に自らの性器を突き立てる。
当然抵抗したし、泣き叫んで助けを求めた。
しかしその時、既にこの人狼に怯えた使用人達は助けに来るどころか。このオレを……主人を生贄に差し出したのだ。
……絶望と恐怖、屈辱の中でひたすら行われる性行為に一層のこと気が狂ってしまえば良かった。
「何、考えてるの」
「っあ……あっ、ああっ……ひ、ぃ……」
どこからこんな淫猥な水音がするのか。
ぐちゅぐちゅと掻き回されて。内部から擦り上げられる行為から、この三日間で遂に『別の感覚』を拾うようになった事も。
全部、なにも、全て……考えたくない。
「も、やめ……て……ぇ……あぁ、っ、あああ……」
「ここ、良いんだね」
「ひぁッ! ぃ……や、だ、だめ……やめろっ……た、たす、け……て……」
嗚呼、オレは神に祈るような習慣もない。そもそもオレはそんな存在じゃあない。
だが縋るものがないと、とうに気が狂ってしまう。壊れてしまうのだ。
噛み締めて声を殺していた指は、両手首ごと捕らえられて纏めてシーツに縫い付けられた。
容姿だけでない、そのしなやかで彫像のような美しい肉体がオレを追い詰めていく。
大きく引き抜かれたかと思えば、また深く穿たれてての繰り返し。半永久的繰り返されると思われたその行為に、神経を丸裸にされたような恐怖を感じて泣き叫んだ。
「っ……ほら、ッ、そろそろ、だね」
律動そのままに、既にオレのより大きくなった手を器用に伸ばしてサイドテーブルから取り出した物。
それは、銀色の光。鈍く光る刃の色だ。
「いっ……いやっ……ぁあ、それだけっ、は……」
揺さぶられながらの必死の拒絶も甘い視線で流される。
刃物、銀ナイフが彼の手によって大きく振りかざされた。
不規則な線を描いた先の行き着く先は……ジャックの首元。
驚くほどにあっさりと、彼は自身の首にナイフを突きつけたのだ。
「ほらアダム。食事の時間だ」
……オレは知っている。彼が、この人狼が何をする気なのか。
これから起きることも。
自分の身に何が起きるのかも。
覆い被さる彼の首筋から吹き出した血潮。
皮膚やナイフを伝って流れ、オレの顔に幾つもの雫となって滴り落ちてくる。
「っ……はぁっ、ぁ……はッ……ああッ! あ゛、あ……」
口に入る。皮膚に毛穴から入ってしまう。
血が、彼の、人狼の、あの、血が。
心臓が途端に跳ね上がったように鼓動を早め、水を浴びたような汗が全身の汗腺から吹き出す。
舌が、いや全身が痺れたように動かなくなる。呂律が回らず意味不明瞭な声が唇から溢れて止まらない。
「ほらしっかり飲みなよ」
首を切り裂いたのに、彼は痛みなど感じていないような笑みだ。戦慄する程美しい微笑み。
……いよいよ恐慌と恐怖に陥れられた精神の中で。
確かに感じて居たのは渇望。
―――人狼である彼の血への欲求だった。
月明かりすら雲の中に隠れてしまったから、この部屋はもう薄い闇の中だ。
そしてオレの聞く音と言えば……。
男二人の体重を受けて悲鳴を上げたベッドの軋みと、聞くに耐えない嬌声や荒々しい息。
「っ……ぁ゛……ぅ、っく、ッ……はッ……」
「指、噛まないで」
……オレの身体の上で。優しげなのは声だけの、支配者如く振る舞うこの傍若無人な男。
今も碌に慣らすこともなく、性急にその凶器とも言えるソレでオレの半身を貫いている。
いつまでも慣れることのない違和感と異物感、そして痛みを感じてのたうち回る姿を彼はとても好んだ。
―――思えば全てが間違いだったのだろう。
3ヶ月前に屋敷の前で一匹の犬ころを拾ったことも。
さらに餌を与えて飼い慣らそうとしたことも。
彼は……ジャックはただの犬ではなく、人狼だった。
最初はほんの子犬サイズ。それが三日三晩で人間の子供のような大きさに成長し、さらに1週間後の朝。人間の子供の頃の姿に変化していた。
そこで初めて知ったのだ。
彼が獣人族、しかも人狼であると。
遂にひと月前には既に今の大きさ……10代後半位の少年になってからも、彼の食欲は収まることが無かった。
しかも彼は肉を好むらしい。家畜の肉だけではない。
……人間の肉も喰らうのだ。
まず住まわせていた使用人が食い殺された。
盲目で身寄りのない娘。こんな森奥深くの屋敷に働きに出るほど金も身よりも親しい者も、何も持たない孤独な娘。
無口な静かな彼女を、オレは出会った時からそれなりに気に入っていた。
―――人狼が初めての食事をした日の晩、オレはその娘とキスをした。
何も映さぬ白く濁った瞳を美しいと言い、跪いてその手を取ったのだ。
……それなのに。
朝が空けて、彼女の寝床は乾ききらぬ血にまみれていた。ほとんど骨と臓器と筋組織の欠片になった娘の前で彼は、ジャックは眩いばかりの笑みで言ったのだ。
美味しかった、と。
それからはもうめちゃくちゃだった。
度々、使用人達が食い殺される。行方不明の者も出た。ジャックを叱りつけようにも彼はただ、傷付いたような瞳でこういうだけ。
美味しかった、と。
彼は恐ろしいほど美しい少年に育った。ゾッとするほどに。
燃えるような紅い瞳を彩り飾る長くフサフサとした睫毛。彫りの深い顔立ち。厚く色気を孕んだ唇。口元の小さな黒子すら心臓を鷲掴む程セクシーだった。
無邪気さと危うい色気と、そして捕食者のその色の前でオレは為す術もなかった。
……そして三日前。遂に彼はオレを食べた。
捕食したという意味ではない。
性的な意味で、だ。つまり……強姦された。
見た目年齢だけでも10歳ほど年上のオレを、あの人狼少年は組み敷いて蹂躙したのだ。
『デザート』という言葉で。
全てを暴き立てて、肌に歯型や痣を付ける。キスと称して口内をその長い舌で舐め尽くし、排泄器官に自らの性器を突き立てる。
当然抵抗したし、泣き叫んで助けを求めた。
しかしその時、既にこの人狼に怯えた使用人達は助けに来るどころか。このオレを……主人を生贄に差し出したのだ。
……絶望と恐怖、屈辱の中でひたすら行われる性行為に一層のこと気が狂ってしまえば良かった。
「何、考えてるの」
「っあ……あっ、ああっ……ひ、ぃ……」
どこからこんな淫猥な水音がするのか。
ぐちゅぐちゅと掻き回されて。内部から擦り上げられる行為から、この三日間で遂に『別の感覚』を拾うようになった事も。
全部、なにも、全て……考えたくない。
「も、やめ……て……ぇ……あぁ、っ、あああ……」
「ここ、良いんだね」
「ひぁッ! ぃ……や、だ、だめ……やめろっ……た、たす、け……て……」
嗚呼、オレは神に祈るような習慣もない。そもそもオレはそんな存在じゃあない。
だが縋るものがないと、とうに気が狂ってしまう。壊れてしまうのだ。
噛み締めて声を殺していた指は、両手首ごと捕らえられて纏めてシーツに縫い付けられた。
容姿だけでない、そのしなやかで彫像のような美しい肉体がオレを追い詰めていく。
大きく引き抜かれたかと思えば、また深く穿たれてての繰り返し。半永久的繰り返されると思われたその行為に、神経を丸裸にされたような恐怖を感じて泣き叫んだ。
「っ……ほら、ッ、そろそろ、だね」
律動そのままに、既にオレのより大きくなった手を器用に伸ばしてサイドテーブルから取り出した物。
それは、銀色の光。鈍く光る刃の色だ。
「いっ……いやっ……ぁあ、それだけっ、は……」
揺さぶられながらの必死の拒絶も甘い視線で流される。
刃物、銀ナイフが彼の手によって大きく振りかざされた。
不規則な線を描いた先の行き着く先は……ジャックの首元。
驚くほどにあっさりと、彼は自身の首にナイフを突きつけたのだ。
「ほらアダム。食事の時間だ」
……オレは知っている。彼が、この人狼が何をする気なのか。
これから起きることも。
自分の身に何が起きるのかも。
覆い被さる彼の首筋から吹き出した血潮。
皮膚やナイフを伝って流れ、オレの顔に幾つもの雫となって滴り落ちてくる。
「っ……はぁっ、ぁ……はッ……ああッ! あ゛、あ……」
口に入る。皮膚に毛穴から入ってしまう。
血が、彼の、人狼の、あの、血が。
心臓が途端に跳ね上がったように鼓動を早め、水を浴びたような汗が全身の汗腺から吹き出す。
舌が、いや全身が痺れたように動かなくなる。呂律が回らず意味不明瞭な声が唇から溢れて止まらない。
「ほらしっかり飲みなよ」
首を切り裂いたのに、彼は痛みなど感じていないような笑みだ。戦慄する程美しい微笑み。
……いよいよ恐慌と恐怖に陥れられた精神の中で。
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