転生して性奴隷♂魔王の息子と暴れてきます(仮)

田中 乃那加

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10.あと数発殴らせろ、バカヤロウ

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「……本当にやるのかよ」

 前夜、軽く雨が降ったらしい。
 剣闘場の土の湿り気を、気にしながら言った。

「なんだよ。怖気付いたか?」

 単なる稽古だぞ、と嘲ってやる。
 エトは、小さく息を吐いた。

「別にそういうんじゃ……。でもよぉ」
「なんだよ」
「好きな奴に、剣向けられねぇっつーか」
「ア゙?」

 こめかみが、ピクリと脈打つ。
 ……好きな奴、の部分はスルーしてやるとしても。

「君は僕を、バカにしているのか?」
「な、何怒ってんだよ」

 僕が一番嫌うこと。

「女扱い、するな」

 自分の方が、実力が上だって思い込んでいる奴の言葉だ。
 それは。
 曲がりなりにも剣の腕を磨いてきた、僕に対する最大の侮辱。

 ……プライドが高いだの、高慢ちきだの言われた事はある。
 しかしそれは、ただの自惚れじゃない。
 由緒正しいカントール家。
 その名に恥じぬよう、最低限の事はしてきたつもりだ。

「来い。その舐め腐った態度、叩き直してやる」

 手に馴染まぬ剣。
 それでも、思い切り余裕ぶって構えた。

「仕方ねぇな」

 渋々、といった体がまた憎らしい。

 やる気無さげに手にした、漆黒の剣。
 それが彼の愛剣のようだ。

「怪我したら、全力で手当させろよ」
「ほざけ。童貞、……っ」
 
 言い終わらぬうち、地を蹴る。
 姿勢を倒し、前のめりに―――。
 飛び込んだのは、相手の懐。

「っぶねェッ!?」

 振るった切っ先が、奴の喉笛を掠る。
 ほんの数ミリ。
 声を上げて仰け反り、そのまま数回のバク転で距離を取られた。

「チッ……」
「うぉぉいッ!? 今完全にりに来ただろっ!」
「当たり前だ」

 ……僕はコイツと違って、余計な手加減はしない。
 
 ギリ、と奥歯を噛み締める。
 次に狙うのは。
 
「っ!」
 
 再び正面突破……と、見せかけて右踵に重心を移す。
 身体を翻し、背後へ。
 
 大きく振り上げた刃を、その背に叩きつけ―――。

「なッ!?」

 打ち付けた感触と、鈍い金属音。
 刃と刃。
 ―――黒い剣が、僕の攻撃を受け止めていた。

「くっ……」

 一旦、後ろに飛び退く。
 再び地を踏みしめ、奴の隙を伺う。

「なぁ、もうやめようぜ」

 ウンザリとした声。
 剣を構えることもなく、だらりと手が下がっている。
 
 ……こういうの、癇に障るもんだな。

 みるみるうちに苛立ちが、心を占める。
 冷静さを欠かせる作戦かと思えど、そんな様子は微塵もない。

「ふんっ、スピードは僕の方が上だな」
「あー。そうかもなァ。俺、いつもケルタに言われんだよ『もっと頑張れ』って……いぃ゙ッ!?」

 ……語尾まで聞かない。 
 今度は無防備な足を狙う。
 
 体勢低く。
 滑り込むよう、切り込んだ。

「ぅ゙お!?」
「チッ」

 一瞬早く、気取られる。
 切っ先が切り裂いたのは、足でなく。泥のわずかに跳ねた、衣服である。
 
「だーかーらっ、人の話位聞けっつーの!」
「君こそ。闘いの最中に呑気してんじゃないぞ」
 
 ……それとも。バカにして、手加減してるのか。
 だとしたら許さない。
 魔王の息子だとか、関係ない。この場で刺し違えても殺してやる。

「ななななっ、なんでそんな怒ってんだよ!」
「うるさいな。怒りじゃない、殺気だ」
「余計に悪いじゃねぇか!?」

 もう一度、剣を構え直す。
 距離を計り、思考を整える。

「僕と勝負しろ、エト」
「その勝負。勝ったら何か貰えんの?」
「強欲者め」

 ……いつまでも、ふざけた態度しやがって。
 次は、正面突破するか。
 正々堂々と額を叩き切ってやるのも良い。

 しかし体格や、腕力差は圧倒的。
 するとやっぱり。

「死ねッ!」
「……ぅえぇぇぇ!?」

 振りかぶり、滑るように駆けた。
 
「っ!」

 案の定、ぞんざいに受けられた刃。
 ―――刹那、それを捨て懐へ飛び込んだ。

「っげぶッ!?」
 
 右ストレートが、バキバキに割れた腹筋にめり込む。
 
 ……回転を効かせ、放った拳。
 多少、拳闘の心得もあって助かった。

 後ろに倒れずとも、がくりと膝を付く身体。
 湿った土の音と共に、剣が投げ出される。

「っぐ……やりや、がっ、たな」
「ハッ、君が悪い」
「剣じゃねぇじゃん」

 苦痛に呻いたのも一瞬。
 すぐさま立ち上がり、眉間に皺を寄せた。

 ……悔しいが、筋肉ダルマは伊達じゃないって事か。
 己の剣を拾い、今度こそまともな構えを見せる奴に、内心で安堵した。

「仕方ねぇなぁ。勝ったら、1つ言うこときけよ」
「変な事ほざいたら、ぶち殺すぞ」
「ちょ、怖ぇ!?」

 まだ、そっちが勝つ前提なのが腹立つ。

 ―――先程の拳が、ジクリと痛むのを隠して僕は大きく足を踏み出した。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫■


「で、そのようなお姿に……?」

 心配そうな、心底呆れ果てたようにも取れる声と表情。
 その主は亜麻色の髪の、綺麗な人。
 
 メイド妖精のフェナだ。

 ―――剣の稽古。という名の喧嘩。
 それを終えて、僕らが城に戻った時。
 早速、彼女に見つかった。
 
 フェナはまず、怪我だらけで泥だらけの2人を見て卒倒しそうな顔をする。

「ルベルが悪いんだぜぇ、こいつ反則ばっかしやがるから」
「うるさい。実戦型、と言え」

 確かに、最後の方なんてなりふり構わなくなった。
 拳とそこらにある石も。
 なんなら砂を投げつけて、目潰し計ってやったっけ。

「というか、君だって」
「お、俺はなーんにもやってねぇぞ!」

 指を突き付けて糾弾した。
 するとビクッと肩を大きく震わせて、狼狽えやがる。

「魔法……使っただろ」
「えー? し、知らねぇなぁ」
「とぼけてんじゃない」

 魔法でなきゃ突然、土の剣闘場から巨大植物が生えるか! 
 細いが無数に蠢く、つる
 それらが、まるで意志を持つように絡み付いてきたんだぞ。

「ルベルの反則に比べたら、可愛いもんだろ!」
「君のは、狡辛こすからいんだよ」
「それ、お前が言う!?」
「うるさいっ、デブ」
「ひでぇ、これ筋肉だっつーの」
「ちょーっと腹筋割れてるからって、良い気になるなよ」
「いででっ、痛てぇよ!? そこ怪我してんだからな!」

 ムカつきがぶり返して、思い切りその腕やら腹を殴ってやる。
 すると大声でギャーギャー喚きやがるから、さらに殴ってやろうと腕を振り上げた。

「やーめーろっての!」
「い゙ッ!?」

 軽く受けられただけ。
 それなのに、鈍い痛みが拳に走る。

「まぁ! 大丈夫ですか!?」

 慌てて駆け寄るフェナ。
 僕の手に、優しく包み込むよう触れた。

「お、おいルベル」

 狼狽えたエトを無視して、目の前の天使(妖精だけど)に弱々しく微笑みかける。

「フェナ、心配してくれるんだね。優しい人
……願わくば、君のその美しい手で手当してくれないか?」
「まぁ、ルベル様ったら」

 温かな笑みを浮かべた彼女。
 形の良い、ピンクの唇で言葉を紡ぐ。

「……エト様に、治して頂きましょうね」
「え゙?」

 そっと手は離され、代わりに握られたのはゴツゴツとした男の手。
 薄ら笑みを浮かべたエト。
 僕はもう三回くらい、コイツをぶん殴りたくなった。

「ほら。俺が治してやるよ」
「要らんッ! なんで男に手を握られにゃならんのだ」

 離せ、と藻掻くも力が入らない。
 相当痛めてしまったのか。もしや、最初に腹に一発キメた時か。

「照れなくても、よろしいのですよ? あ、恥ずかしいのなら……私、向こう向きましょうか?」
「フェナ!? 」

 そう言いながら、彼女はうっとりとこちらを見ている。
 男2人が手を握り合っている、気色悪い場面をだ。

「うふふ。痴話喧嘩も愛し合ってる故ですわね」
「だから違うって……」
「ほら、動くなよ」

 また妙な勘違いしているフェナを、振り返ろうにもエトに腕を引かれる。

 文句でも言ってやろうと、奴の方を向く。

「……」

 ―――瞼を閉じ、小さな声で呪文を唱える姿。
 掴まれた手が、翠色の光をぼんやり放っている。

 ……睫毛、長い。
 一番最初に思ったのは、それだった。
 太い眉に、厚い唇。
 目を閉じていても、その表情は優しげだ。

「うん。終わり……ルベル?」
「えっ!? あ、あぁ」

 開かれた瞳は、先程の光と同じ翠色。
 まるでエメラルド、と言ったら陳腐だろうか。

「ルベル?」
「っ、な、なんでもない……!」

 黙り込んだ僕を、怪訝に思ったのだろう。
 顔を覗き込んできた。
 
 ……ったく、顔だけは良いんだよな。コイツ。
 あとは、全部気に入らないが。

「れ、礼は言わないぞッ」

 だいたい、この筋肉ダルマが悪い。
 
 そんな憎まれ口を叩く僕に、彼は。

「元気そうで、むしろ安心だぜ」

 とおおらかに笑った。
 その笑顔。
 まるで笑ったように見える、犬みたいだ。

「君に心配されなくても、このくらい……って、さっさと自分も治しちまえよ。出来るんだろ」

 魔王の息子は、チート設定ってか。
 ……ふん、ムカつく。

「まーな、ってアレ?」
「まぁ、エト様の傷が!」

 フェナとエトが同時に声を上げた。
 
「いつの間に治しましたの?」
「俺、まだ治してないぜ」
「でも……」

 どうやら、あれだけあった彼の身体の傷。
 全て何も無かったように、消えているらしい。
 無自覚で治癒するとは、いよいよチートか。
 ……後で10発ほどぶん殴ってやろう。

 首を捻るエトを横目に、僕は密かに決意した。

 そんな時、大きな足音が響く―――。

「ちょっと何してんの……ワッ、泥だらけじゃん!」

 入ってきて早々。
 声を上げ入ってきたのは、ルパだった。
 
 相変わらず派手なメイクに、ピアス。
 露出度の高い格好をしている。

「さっさと風呂入ってきなよォ。2人で」
「あ゙!?」

 2人で? コイツと? 
 
 ……ひしひしと感じる、貞操の危機。
 隣を、そっと見た。

「ぅお、おぅ……」

 鼻血出しそうな顔をしてる変態と、目が合う。

「死ね」
「ぐわ゙ッ!」

 ―――肘鉄を繰り出してやった。

 
 

 
 


 





 

 
 

 
 
 
 
 
 

 

 





 




 

 




 
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