子連れ冒険者の受難クエスト

田中 乃那加

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受難の臨時クエスト1

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 いきなり娘との生活に現れた男に対し、警戒したものの。特に心配したようなことはなかった。
 少なくても、ルイトにとっては。

「ルシアちゃん、あっという間に大きくなるなぁ。ついこの前まで、赤ん坊だったのに」
「ホントにそうなんだよ。まったく……」

 行きつけの酒場の店主、セトの言葉にため息混じりで酒をあおる。

「いくら魔族の娘だって言ってもさァ。もう食べる食べる。稼ぎが全部食費にまわるんだぞ」
「ははは。そりゃあ大変だな」
「ったく、笑い事じゃないっての」

 働けど働けど、というところだろう。娘の成長も食べっぷりも喜ばしいが、それ以上に家計が火の車なのだ。

「でも可愛いんだろ」
「もちろん。僕の娘だもん」

 即答できるくらい、愛する娘。
 最近はなかなか口も達者になってきて、一丁前に文句を言うようになってきた。
 歩くし走るし、うっかり目を離すことが怖くなる時期だ。

「その麗しいお姫様は、今はどこだい?」
「ロロに預けてきた。たまには一人でゆっくり出かけてこいってさ」
「へぇ! 良かったじゃないか」

 まったくだ、とルイトはまた出された麦酒エールをあおる。
 
「ほんと、彼女には感謝しかない」

 男手ひとつで子を育てるってのは、なんとも大変なことだろう。たとえ仕事があっても、乳飲み子を置いて仕事になんて。しかも、危険を伴う依頼に飛び回っていられないのだ。
 そんな彼に、ロロという女性はこころよくルシアの世話をかって出てくれた。
 まるで母親が娘の育児を手伝うかのように。

「セト。君もだ」

 ほんのりと赤らめた目元で、顔をあげる。

「君がいなきゃ、ここまで育ててこられたかどうか……」
「やめてくれよ。当然の事をしたまでさ」

 何度も弱音をはいた彼は、この男に力強い言葉と料理で元気づけられてきた。
 
「だいたい、好きな人を支えてやるのが男ってものだろう」
「…………え?」

(コイツ、好きな人いんの?)

 大きな目をぱちくりさせて、ルイトは黙り込む。

(え。だとしたら、僕ってものすごく迷惑な存在なんじゃ――)

 愛する人のいる男のところへ。たびたび、赤子の面倒をみてくれだの。育児の愚痴を聞いてくれだのと押しかけるなんて。

「ええっと」

 完全にカン違いしているであろうルイトに、割とストレートな告白をしてやったぜ☆ なセトと。
 ものすごい温度差に、横にいた看板娘が顔をひきつらせる。

「なぁルイト。そろそろお前も身を固めてだな、この店で……」
「ごめん。そろそろ帰るよ」
「お、おいっ、ルイト!?」

 一気に酔いが覚めた気がした。
 シュンと肩を落として店を後にするルイトに、店主の声は届かない。

(そりゃそうだよな)

 ――まるで不夜城のごとく。きらびやかなネオンの装飾。
 人々が陽気な千鳥足なのは、腹の中にしこたま酒を溜め込んできたからだろう。
 よくよく見れば路地裏にてケンカや追い剥ぎ、怪しげな薬草の売買が行われているが。それも日常風景だと思えば、見慣れてくる。
 まるでドギツイ夢の世界。時に楽しく、時に悪夢の夜の町だ。
 都会のこうした光景に、ルイトはふと頭痛を覚える。
 生まれ育った田舎の故郷が、恋しいからだろうか。

(言うてロクでもない所だったけどな)

 金もない。あるのは自然と生活に追われた日々。
 そう思えば、ここもあそこも大した違いはない……そう思っていた。

「お、ルイトちゃんじゃねぇの!」
「ん。あぁ、君か」

 あいも変わらず、馴れ馴れしく肩を組んでくるのはランス・ロンド。同業者である。
 
「こんなところで何してんだよォ」
「うるさい。君には関係ないだろ」
「またまたぁ、ツンデレなんだから」
「デレた記憶はこれっぽっちもないがな」

 よりにもよって、こんな時に出くわすとは。
 大きくため息をついた。

「もしかしてさァ。今夜のお相手、探してんじゃねぇの」
「君と一緒にするな」

 女たらしと悪名高い、この男のことだ。しかもルイトと違うのは、遊び方がいささかと評判なところか。
 色んな女を同時進行に取っかえ引っ変え。しかも商売女から貴族の娘まで、と幅広い節操なし。
 トドメは別れ方は最悪で、まさに泣かせた女は星の数をでいく男。
 同じ女好きとしては、軽蔑しかないのである。

「ワンナイトラブってのも悪くないぜ?」
「遊ぶにしても、スマートにやりたいだけだ。ま、僕にはどうでもいいがな」
「……ったくよぉ」
「ひゃッ!?」

 後ろから勢いよく抱きついてこられたルイトは、思わず町の往来で悲鳴をあげた。

「ど、どこ触ってやがる!」
「あはははっ、ルイトちゃんってば。ビンカンなんだからぁ」
「うるさいっ、さっさと離れろぉぉぉッ!!!」

 どれだけ怒鳴りつけようが、ビクともしない腕にギリギリと歯を食いしばる。
 
(くそっ、馬鹿力め)

 大剣を手放して、すっかりなまった腕をもどかしく思う。
 とはいえ、この男といてもろくなことは無い。
 みぞおちに一髪食らわせたろかと思った時だ。

「なぁルイト。少し付き合ってくれよ」
「だれがっ、君なんかに――」
「お前にとっても、良い話なんだがなァ」


 突然ひそめた声。さらに言葉を継いだ。

「こう言っちゃなんだけどよぉ。お前、金が欲しくないか?」
「どういう意味だ」

 金。
 その言葉に心臓が小さく跳ねる。
 確かに欲しい。今、まさに困っていた所だ。
 そこへたたみかけるような、言葉。

「良い稼ぎがある、ってことだぜ」
「……」
「最近、武器変えたんだってなァ?」
「それがなんだ」

 使いたくても使えなくなったのだ。
 娘のこともあるが、物理的に。

「この前、あの武器屋でよぉ。お前のに似た大剣を見かけたんだ。えらく凝った作りなのはオーダーメイドだったよな。可哀想に、二束三文で売り払われてたよ」
「……っ!」

 断腸の思いで金に変えたのは、つい最近のことだ。
 作る時は馬鹿みたいに金がかかったが、売るとなると悲しいくらいに買い叩かれる。中古品の札を貼られ、店のセール品として並ぶのはつらい現実だった。

「冒険者共が買っていったっけなァ。えらく若くて、ションベン臭いガキどもがさ」
「……」
「今度は何を売る? 防具か、魔法石か。いっそ、そのカワイイ顔を武器にして身売りでもするか――」
「それ以上言ったら、その舌を切り落としてやる!」

 ついに我慢できず、低くうなる。
 ランスは、冗談冗談! とバカ笑いしてルイトの肩をそっと叩いた。

「お前にそんな事をさせたくねぇから、オレがオイシイ話を持ってきてやったんだ」
「ふん、うさんくさい奴だ」
「ひでぇなァ! 愛するお前のタメだぜ?」

 前々から気に食わなかったが、さらに嫌いになりそうだ。
 だが、そのってのにも心動くのも事実――。

「……話だけでも聞いてやる」

 絞り出すような返事に、ランスが大きくうなずいた。

「もちろん! 場所、変えようか」

 優しげだがその瞳は妙にギラついて、くすんだ赤髪の男は微笑む。
 

 
 
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