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受難の臨時クエスト3
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『ルイト』
低く囁くような声は、少しかすれていた。
「ぅ……」
まぶたを閉じた視界は暗い。反射的に開こうにも、まるでピッタリくっつけられたかのように開けることができない。
「っ、な、なんだこれっ、目がッ!?」
『おちつけ。これはЖЙ✗Ём $МЖИだ』
よく聞き取れないが、異国の言葉らしい。
優しく唄うような単語を二つ三つ唱え、まぶたをそっと覆われる感触。
「!」
『どうだ、開くだろう』
ほんの少し力を入れれば、あっさりと視界に光が入る。
その事に暗闇の恐怖は消えた、と飛び込んできた光景に意識を向ければ。
「ここは……」
薄暗い部屋だった。
ただしく言えば、あえて灯りを抑えてあるというような。
『なんだ忘れたのか、俺たちの愛の巣を』
「っ、何をワケ分からないことを!」
聞き捨てならぬ言葉に激昂し、叫んで暴れようと身体をひねる。
しかしそこで始めて、自分の四肢がキツく縛られていることを知った。しかも少し肌寒く、空気が直接撫でることから一糸まとわぬ姿らしい。
突然であんまりの状況に、震えながらも
「なんのつもりだ、姿をみせろ。この卑怯者!!!」
『やれやれ。また見えていないようだな』
「な、なんだと……」
そう。灯りを落とした部屋の中で、声はすれど姿はみえず。背中に感じる感触で、ここはやたら広いベッドの上。シワひとつないシーツの中にいる事だけが分かった。
『まぁいい』
ギシリ、と軋みが鳴る。
思わず身を縮こませれば、戒められた腕に鈍い痛みが走った。
『いずれ思い出す時が来る』
そう囁いてすぐ、軽いリップ音を立てて触れたのはたしかに唇で。
ひたいに優しい口付けを受けたことを知って、ルイトは嫌悪や驚きより先に深い安堵をおぼえる。
『ふふ、いい子だ』
満足そうな声。不気味さが増す。
「アンタは誰なんだ。僕に目くらましの魔法でもかけているのか。それとも亡霊のたぐいか。それとも――」
『しずかに』
しぃ、と吐息が耳朶をくすぐって小さく身を震わせる。
そして思わず小さく漏らした自らの声が、まるで感じ入った喘ぎのようで瞬間的に赤面してしまう。
『おしゃべりはここまで』
「っ、う……!?」
今度は首筋にキスされたらしい。そして同時に、無遠慮に触れられたのはさらけ出された性器。
「くそったれ! どこさわってやがるっ」
『ああ。なにも覚えてないのか。それとも、知らぬフリをするか』
「このバケモノめ」
『やれやれ。困った子だ』
暴れようにもやはり四肢が動かない。まるで透明の枷で繋がれているかのように。
そして男の声はやはり笑みを含んでいた。
『お仕置、が必要だな』
「や……やめ……やだっ……!」
お仕置、という言葉にひくりと身体が反応する。
自分が驚くほどに狼狽して、歯をカチカチいわせながら怯えてしまう。
(なんで僕、そんなに怖がってるんだろう)
確かに見えない者に自由を奪われた状態で、好きなようにされるなんて怖がらない方がおかしいのだが。
しかし何かが違う。男の言葉そのものに、腰が砕けたのだ。
『なるほど。身体は覚えているというわけか』
「お、お前なんてっ、怖くない……っあぁっ!?」
容赦なく加えられる愛撫に、悲鳴じみた嬌声がとまらない。
(やだっ、こんな、こんなのっ)
ひたすら与えられる快楽も、相手が見えねば恐ろしいだけ。
そして気がつけば足は大きく開かれ、雄を受け入れる箇所はしめやかに潤んでいた。
女性器ではないのになぜか潤滑油なんて使うことなく、である。
しかしそれを疑問に思う暇もない。何本もの男の指を、受け入れた自らの蕾から目を背けた。
『諦めろ』
ベッドが大きく軋みをあげた。
『お前は俺から逃げられない』
「ひっ! ……あ゙、あ、あ、まさか……そんな……それだけは……っあ゙ぁぉ゙ぉぉぁっ!!!」
言葉すら吐くことすらままならなくなった時、それまでと比べ物にならない大きさと熱に焼かれる。
無理矢理ねじ込まれたそこは、やはり潤み切っていて。衝撃と激しい異物感はあれど、痛みなどはなかった。
『孕め』
「あ゙ッ、ゔぁぁぁっ、やめろ……!」
『そんな事いって、お前のここは俺を食いちぎらんばかりだぞ』
「ちがっ、ぁ、や゙っ」
気が狂いそうなほどの快感が走り、のたうちまわる。
やだやだと唯一できる抵抗は、駄々っ子のように首をふって泣くことだけ。
身体の内側から蹂躙され、屈服させられる。そのなにより悔しいのは、自らの中にわきあがる期待とほの暗い興奮。
『……私の、愛しい妻よ』
奥を穿たれる直前、耳元に吹き込まれたのは、呪詛にも似た異国の言葉であった。
※※※
「おい。大丈夫か、おい!」
「っ!」
「やっと目を覚ましたな」
自らの声にならぬ悲鳴で飛び起きたルイトに、のんびりとした声をかけたのは赤髪の男。
「リュウガ……?」
「おう。酷くうなされていたから、起こしたぜ」
(うなされてたのか)
確かに、なんだかとてもひどい夢をみた気がする。
しかしそれが具体的にどんなモノだったのか、思い出そうとすれば頭の中にモヤがかかったようになって。ともすれば軽い頭痛すら覚える有り様だ。
そんな顔を顰めるルイトに、リュウガは心配そうな眼差しを向ける。
「顔色が良くないな。まぁ、仕方ないが」
「――なぜ」
「ん?」
「なぜ、君がここにいる」
視線だけめぐらせば、見覚えのある部屋だ。定宿にしている部屋の、ベッドの上。
簡素な光景に安心すらする。きっと汗をかいてジットリとしたシーツも、安物のそれなのだろう。
ここへこの男を招き入れたことは無い。それどころか。どこをねぐらにしているかさえ、他人においそれと口にしないのが冒険者の嗜み。
物騒な業界なのである。
「いや、酒場の主人に聞いてな。言っていただろう。行きつけだと」
「……ああ、なるほど」
そういえば一度だけそんなことがあったかもしれない。
出会った次の日、偶然居合わせた酒場で言葉を交わしたのだ。とは言っても、別に長々話したわけではない。
こっちは来たばかりだし、あっちは店を出るところだったのだから。どんな話をしたのか記憶にないのは、それからまた1ヶ月以上経っていたからだ。
「よく覚えていたな」
「そりゃあな。なんだか親しげに店主と話していて妬けたぜ」
冗談めかして肩をすくめるリュウガに、少し肩の力がぬける。警戒心を抱くべきなのだろうが、彼の顔を見ればどうも毒気が抜けてしまうのが不思議だった。
(顔見知りだからだろうか)
1ヶ月ほど前に『手料理でも』なんて別れ方をしたのに、そんな機会は話にも出ず。
町の中で顔を合わせれば不器用ながら、優しげな笑みで挨拶をしてくる彼に、肩透かしを食らったかのような気分。でも、ことあるごとに絡んでくるランスのような男の事を考えれば好感が持てる。
「そういえば――っ、あのクソ野郎!!!」
カッと腹の底が熱くなった。
うまい儲け話とか言って、変なモンスターをけしかけられたのだ。
あれがなんだったのかよく分からなかったが、自分が捕食対象になっていたことは確実なわけで。
「見つけ出してぶちのめしてやるッ!」
「おい。興奮しすぎると、ぶっ倒れるぜ」
「っ、離してくれ、あの野郎が僕をこんな目に……」
あのモンスターがどのような目的でいたかは知らないが、事前に情報すらもらえなかった彼があのまま嬲られ続けたらどうなっていたか。
考えるだけでも怖気立つ。
怒りのあまりベッドから飛び降りようとして、それを押しとどめたリュウガに食ってかかる。
「君もあの魔物を見ただろう。あんな――」
「あれは合成魔獣だ。かなり特殊な性質をしている。たしかに、あのままだとお前はヤツの母胎になっていたかもな」
「なっ……!?」
つまりあのバケモノに孕まされていたかもしれないのだ。
絶句するルイトに、彼の言葉が続く。
「近くに映像魔法の痕跡があった。おおかた、お前の痴態を記録しておくつもりだったのだろう。もちろん、すべて破壊しておいたが」
「くそっ、アイツ……!」
魔法と剣の世界においても、風景や動画などを記録しておく方法はある。魔法と機械の融合だ。
魔力を持たぬものでも使えるそれは、動力源として魔法石をもちいる。
それによって、一時の映像を半永久的に残す事が可能なのだ。
つまりあの屈辱的な場面をネタに脅すか、映像自体を売りさばくか。どちらにせよ、ロクなことじゃない。
怒りのあまりワナワナと身体が震えた。
「あの魔物はトドメを刺しておいた。町に降りて暴走することはない」
「……それはどうも」
正直そんな問題じゃないが、とりあえず礼は口にする。
腸が煮えくり返る彼に対してリュウガは、少し考え込む表情。
「リュウガ」
あんな姿を見られた。一糸まとわぬ姿で凌辱されて、快楽に見悶える自分を。誰が相手でも嫌だが、この男に見られたのが何故かとてもショックだった。
今もこうして平然とされているのが、また辛い。
唇をきゅ、と噛んだあと。ルイトは視線をそらしたまま言葉をつぐ。
「ここまで運んでくれて、ありがとう。でももう大丈夫だ」
「大丈夫――には見えねぇぜ」
ベッドが小さく軋んだ。
それにハッと顔をあげれば。
「ルシアなら、ちゃんと預けてあるんだろう?」
確かにそうだ。
ランスに言われ、いきつけの酒場に頼んでおいたのだ。
まさかこんな事になろうとは思わず。
(マヌケにもほどがある)
確かにいけ好かない男だった。ライバル視もしていたかもしれない。
でも……いいや。だからこそ悔しいのだ。
卑劣な手段で貶められた自分が。悔しくて、腹が立って仕方ない。
多くの危険を乗り越えてきた冒険者としてのプライドが、ズタズタにされたのだから。
「……」
黙り込んだルイトを見下ろす、エメラルドグリーンの双眸。
慈しむような色には、自らの情けない姿が映っているのだろうか。
数秒間。たっぷりみつめあって、彼は口を開いた。
「こういう時は、酒でも飲むに限る」
見ればいつの間にか、手に下げていた酒瓶。
リュウガは口の端をにやりとさせ、イタズラっぽい笑みを浮かべた。
「そこそこ上物だぜ」
中には果実酒ながらも、結構アルコール度数の高い酒がはいっているのだろう。
こわばっていた身体の力が抜ける気がした。
「確かにそうだな」
来客用の椅子もない部屋で、ベッドに腰掛けた男二人。
いつしか、親しげに肩を寄せて酒を酌み交わす。
(まったく。不思議な男だ)
こうもスルリと心の中に入ってきてしまうのだから。そして彼もまた、それを不快だと思わなかったのだ。
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