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新米冒険者達と奪還の序章
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ベッドの上でむくれている少年を、男が優しく抱き寄せた。
「この嘘つきめ」
「なんのことかな」
「とぼけるな――ああっ、ん!?」
後ろから首元に口付けひとつ。それであっさり、色の混じった声をあげる。
そんな彼が、愛しくて仕方がない。男は笑みを深めた。
「今日も中に出してくれなかった」
「ほう? それはなかなかの殺し文句だな」
「バカにするな」
たくさん抱き合い、交わりあったのに。胎内に子種を残さなかった男を恨む可愛い恋人。いや、幼妻というべきか。
「君の子を孕みたいのに」
「これ以上、俺を興奮させるんじゃねぇよ。腹上死しちまう」
「すりゃあいいんだ。君なんて、僕に殺されればいい」
いつになく思い詰めた声に、男の胸が痛む。
分かっていた。彼の望むことも、それを与えることは今では無いということも。
「そしたら最期、その目に映すのは僕だけだ」
「やれやれ。たまらねぇな」
まだ若いというより幼い彼を、自分に縛り付ける罪悪感がないと言えば嘘になる。
しかしそれ以上に、誰にも渡したくないというドス黒い独占欲。
「そんなことを言うと、本当に孕ましちまうぞ」
「だから僕はそれを望んで――」
「この平らな腹が、膨らんでいくんだぜ? 身体もすっかり作り替えねぇとな」
「……」
少年は黙り込み、そっと唇を震わせた。
男はそれを怯えによるものだと思ったが、ふっくらとした頬がわずか赤らんでいた事に気がついていない。
「俺のメスになるんだろう? 魔王の子を産む、妃に」
「僕……」
少しいじめすぎたか、と大きな手で小さな頭を撫でる。
子供扱いするなと言いながらも、擦り寄せて来るまるで猫のような仕草がまた愛らしい。
「急がなくていい」
男は優しく言った。
「私の、愛しい妻よ」
異国の愛の言葉は、甘く呪詛を吹き込む。
※※※
「――大丈夫ですかっ!」
身体を揺さぶられる感覚に、ようやく意識が浮上した。
「ルイトさんっ、聞こえますか!? ルイトさん!」
「うぅ」
「よかった。気がついたみたいだ。イゼベル、もっと回復魔法かけてあげて」
少年たちの声と、バタバタとした雰囲気。ルイトは、薄ら目を開けた。
柔らかいとはいえないが、ベッドの上に見下ろした三人の少年少女達がジッとこちらをうかがっている。
「き、君たち、は……」
まだ幼さを残す顔は、どこか見覚えのあるもので。しかし、どうも頭がぼんやりして思い出せない。
「お忘れかもしれませんが。ボク達、以前貴方に助けて頂いたんです」
それは若い冒険者達だった。
いでたちから見れば、剣士と魔法使い。あとは聖職者だろうか。彼の足元にひざまずいて、回復魔法を唱える白い服を着た少女。
そこでようやく思い出した。
以前、ベテランの武器商人にぼったくられかけていた新米冒険者たちだ。
あれからたまに姿を見ることがあって、どうやら懲りずにこの町にとどまっているようだと少し安堵した記憶がある。
「ああ、あの時の……」
「おかげでボクたち、少しはマシな仕事ができるようになったんです」
満面の笑みの少年を前に、未だ状況を整理できないルイトは視線をめぐらせた。
「で、ここはどこなんだろう。あのキメラは――」
「安心してください、そいつは倒しました。あと通報したので、今頃ちゃんと国の研究機関が検体として引き取っているはずです」
「そうなのか」
なんと全良な冒険者だろう。
通常、合成魔法を行うには国の認可が必要だ。
そうでないと、自然界には存在しないキメラ達が溢れてしまう。それらが生物兵器として使われる可能性も充分にあるのだ。
国の規制対象になるのは、当たり前だろう。
「なぁ君たち。男は――赤髪の男は見なかったか」
「男、ですか?」
彼らは顔を見合せた。
ランスは一体どこへきえてしまったのか。剣を突きつけた瞬間の、怒りと悲しみと狂気にまみれた表情を思い出す。
「ルイトさん、無理しないでください。体力の消耗がすごく激しかったんですから。あ、ここはボクたちが常宿にしてる部屋です。安心して、休んでくださいね」
「ありがとう。君たちのおかげで助かった」
この若き救世主たちがいなれば。とっくの昔にモンスターの苗床か、その前に首を切り落とされ殺されていただろう。
「イゼベルが『小さな子供の泣き声がする』って言い出したんです。それで辺りを探したら、すごく強い結界がはられた空間があって」
イゼベル、とは白衣の聖女のことらしい。
立ち上がりはにかんだ笑みを浮かべて、頭を下げる。大きな瞳は琥珀色で、どこへ出してもよさそうな美少女だった。
「わたし、耳だけはいいんですよ。でも、トマスが結界を壊してくれたから」
「へへへっ、よせやい」
照れたように頭をかく少年は、魔法使いらしい。つり目で背が低く。一見すれば勝気な美少女にも間違われそうだが、明る勝気な性格なのは見て取れた。
「シモンが、あの怪物ぶった切ってくれてスッとしたぜ。なんせルイトさんを――」
「トマス!」
「あ、わりぃ」
慌てて声をかけるシモンという少年に、気まずそうな若き魔法使い。
それだけ発見された状況が凄惨だったのだろう。なんせ魔物の体液まみれで、卵を産み付けられそうになっていたのだ。
冒険者として、そして男性としての精神的ダメージは計り知れない。
「いいんだ、大丈夫。君たちに助けてもらったのだから――で、娘はどこにいるんだ」
「娘?」
ふたたび怪訝そうに視線を交わす三人。ルイトの顔色がサッとかわった。
「ち、小さな女の子がいただろう? 僕が抱きしめていたはずだ。赤い髪の可愛い、娘が……なぁっ、ルシアはどこにいるんだッ!?」
「ルイトさんっ、落ち着いてください!」
心臓が冷たいモノに押しつぶされるように痛む。
あんなに、腕を離してはならないと頑張っていたのに。愛しい体温がどこにもないことに、気が狂わんばかりの焦燥と絶望。
彼らはそんな取り乱して泣き叫ぶルイトを、必死で押しとどめる。
「娘が……っ、ルシアがいないんだ。僕の大事な娘……あの子はどこなんだ……探しにいかなきゃ……」
「ルイトさん。大丈夫です、大丈夫だから気を確かに」
剣士シモンが、ベッドから飛び降りようとする身体を抱く。
「今はまず休んでください。ちゃんと、見つけだしますから!」
「そんな……僕の……待ってる、あの子は待ってるんだ……」
ハラハラと涙がこぼれる。
命にかえても守りたかった娘。まさかあのモンスターの腹の中ではないか。それとも――。
(ランスが。あいつが、僕の娘を)
広がる疑惑はすぐさま、ドス黒い憎しみの感情となって心を染める。
涙を乱暴にぬぐい、虚空を睨みつけた。
「ルイトさん。わたしたちも、一緒に娘さんを探しますわ!」
「そうだぜ。今こそ、困ってる人を。そして恩義をかえさなくっちゃあな!」
「君たち……」
溌剌とした少年少女たちの表情をみて、彼は一筋涙をこぼす。
『ありがとう』
という言葉は、小さなつぶやきとなって消えた。
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