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若き冒険者たちと深森の双眸
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「ぐすっ……ううっ……」
「なにも泣くことないだろ」
「だっでぇ゙ぇぇ……っ……ルイトさぁぁぁんっ!」
「うわぁ」
シモンは、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしてルイトに飛びかかろうとする。
妙なガスのせいとはいえ、仲間が彼に馬乗りになっていたことがどうもショックだったらしい。
しかし、すんでのところでトマス達に羽交い締めにされた。
「静まれ、シモン!」
「うるさいよぉぉッ、ボクのルイトさんに手を出しやがってぇぇぇっ!!!」
「ちょっ、違うって。あれは仕方なかったっつーか」
「ばっちり雄っぱい触ってたじゃないかッ!」
「いや、それは……」
「ボクだってガマンしてたのにぃぃぃっ」
(う、うわぁ)
そこまで、あからさまに好かれるとドン引いてしまう。
でもどうしてこの少年が、そこまで自分に執着するのか。まだ出会って間もないというのに。
「あの。ルイトさん、少しよろしいですか」
「え? あ、ああ。」
白衣の聖女、イゼベルはそっと歩み寄ってきた。
「もうご存知でしょうが、この森には奇妙な現象が続いています」
「キメラ獣か」
「ええ」
あれだけのキメラたちが出現し、襲ってくるとは。
非常に大規模かつ、人為的なことが起こっているという見方が正しいのだろう。
「やはり魔王の仕業でしょうか」
「まぁ、なんともいえないがな」
人間と魔界の戦いが、再び始まるという噂。その生物兵器として、あのキメラ獣達が造られたのではないかというのは決して荒唐無稽な話ではない。
「とにかく、このキメラたちを作り上げた奴がいるはずだ。それを見つけ出さないと」
「そうですね。やはり、森の奥でしょうか」
「だろうな」
彼女の話によると、やはりキメラ獣の鳴き声や血の匂いによって他の魔物や魔獣たちが集まってくるようで。
「そこのところにも何か、仕掛けがあるんだろうな。いかんせん、僕は魔法関連には詳しくないが」
「あら、それは謙遜が過ぎますね」
彼女はイタズラっぽいウィンクをひとつ。
「多少どころか、かなり強い魔力。というより、加護――でしょうか」
「加護?」
確かに多少の魔法は使えるが、それも子供騙しみたいなもので。到底、強いと言われるものでもない。
ルイトは首をかしげた。
「このまま先を探索してみましょうか」
そこで当初の目的が頭をよぎる。
一番は、娘を取り戻すこと。その希望をつなぐためにも、ここで手がかりを探す必要があるのだろう。
「本当に娘は。ルシアは見つかるのだろうか」
「ルイトさん」
「もう、あのキメラ共に食われてしまっているのかもしれない」
気が狂わんばかりの想像だが、有り得ないことはないのだ。
唇を噛み締め、へたりこんでしまいそうな足に力をいれる。
「そうなったら、僕は……僕は……」
「ルイトさん。しっかりしてください!」
彼女の白衣に包まれた腕が、肩をつかんだ。
「ルシアちゃんは、絶対に生きています。それを貴方が信じてあげなくて、どうするんですかっ!」
強いまなざし。
年端もいかぬ少女のはずなのに、なぜかそれは酸いも甘いもかみわけた女のようで。
「わたし達は、かならず娘さんを救い出します」
「イゼベラ」
「だから信じてください。わたし達を。そして」
優しく身体を引き寄せられた。
「ご自分と、ルシアちゃんの運命を」
運命を信じる――不思議な言葉に、妙な神託めいたものを感じるのはイゼベルが聖女であるからだろうか。
慈愛と強さに満ちた笑み。ルイトの心にふと、ざわめきがおこる。
「そうだな」
女性に。しかもこんなに若い娘に勇気づけられるとは、なんとも情けない話だと項垂れる。
しかしそうしていたって仕方の無いことで。
「もっと森の奥に行こう。何が起こっているのか、まずは確認する必要がある」
「うふふ。その意気です! じゃあ、出発しましょうか」
にっこりと彼女が微笑んだ時だった。
「あーっ!!!! ちょ、イザベルも何してんのぉぉぉっ!?」
半泣きでわめくシモンの声に、ハッと顔を上げる。
呆れた顔とトマスと、相変わらず泣き顔の彼と。
「ボクが守るんだってばっ!」
「うふふ、独り占めは感心しませんね」
「イザベラのバカァァァッ!!!!」
珍しく意地の悪そうな顔で笑う彼女に対し、もう地団駄を不満ばかりの少年に呆れるしかない。
懐かれるのは悪くないが、ここまでされるとどうも警戒してしまう。
しかも自分のことになるとIQが極端に下がる彼に、多少は戸惑うのだが。
(どうも憎めないんだよなァ)
自分は一人っ子で、弟がいなかったからかもしれない。
だから苦笑いをしながらも、ルイトはやんわりとイゼベルの腕をふりほどく。
「おい。君ってば、ひどい顔してるぞ」
「ルイトざあ゙ぁ゙ん゙!!」
「ほら。仲間を困らせるなよ。僕は、もう少し奥に行ってみたいんだ」
こんな所で道草を食っているヒマはない。
キメラ獣たちの出現により、あっという間に荒廃した森を調べなければならない。そして急がなければ、日も落ちるだろう。
また別の危険も迫るのも彼らは分かっていた。
「君たちも協力して欲しい」
彼の真剣な眼差しに、彼らは大きくうなずく。
「もちろんです。ルシアちゃんを探し出す手がかりを、絶対に見つけださなきゃいけませんね」
「それにさ!」
彼女の横から言葉をはさんだのはトマスだ。
「もしかしたらキメラ獣を創り出した者たちが、この森の奥にいるかもしれないぜ」
なんの企みがあるにせよ。これまでに起こったことの根幹が、全てこのキメラ獣につながっている気がする。
人間界の犯罪者か、それとも魔界からの侵略か。
「ボクは約束しましたよね」
トマスは、まだ涙が浮かんだ目尻を拭って微笑む。
「娘さんを、ルシアちゃんをルイトさんの腕の中に取り戻すのが使命です」
若い冒険者たち。
その瞳は澄み切っていた。真っ直ぐで、まぶしいほどの感情とひたむきさ。
ルイトはふと、自分が冒険者を始めたころを思い出す。
(僕もあんな目をしていただろうか)
絶望ではなく、希望をみつめる目。
「行きましょう」
「ああ」
イゼベルがロザリオを手に小さく祈る。
彼らは再び、歩み出した――。
「なにも泣くことないだろ」
「だっでぇ゙ぇぇ……っ……ルイトさぁぁぁんっ!」
「うわぁ」
シモンは、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしてルイトに飛びかかろうとする。
妙なガスのせいとはいえ、仲間が彼に馬乗りになっていたことがどうもショックだったらしい。
しかし、すんでのところでトマス達に羽交い締めにされた。
「静まれ、シモン!」
「うるさいよぉぉッ、ボクのルイトさんに手を出しやがってぇぇぇっ!!!」
「ちょっ、違うって。あれは仕方なかったっつーか」
「ばっちり雄っぱい触ってたじゃないかッ!」
「いや、それは……」
「ボクだってガマンしてたのにぃぃぃっ」
(う、うわぁ)
そこまで、あからさまに好かれるとドン引いてしまう。
でもどうしてこの少年が、そこまで自分に執着するのか。まだ出会って間もないというのに。
「あの。ルイトさん、少しよろしいですか」
「え? あ、ああ。」
白衣の聖女、イゼベルはそっと歩み寄ってきた。
「もうご存知でしょうが、この森には奇妙な現象が続いています」
「キメラ獣か」
「ええ」
あれだけのキメラたちが出現し、襲ってくるとは。
非常に大規模かつ、人為的なことが起こっているという見方が正しいのだろう。
「やはり魔王の仕業でしょうか」
「まぁ、なんともいえないがな」
人間と魔界の戦いが、再び始まるという噂。その生物兵器として、あのキメラ獣達が造られたのではないかというのは決して荒唐無稽な話ではない。
「とにかく、このキメラたちを作り上げた奴がいるはずだ。それを見つけ出さないと」
「そうですね。やはり、森の奥でしょうか」
「だろうな」
彼女の話によると、やはりキメラ獣の鳴き声や血の匂いによって他の魔物や魔獣たちが集まってくるようで。
「そこのところにも何か、仕掛けがあるんだろうな。いかんせん、僕は魔法関連には詳しくないが」
「あら、それは謙遜が過ぎますね」
彼女はイタズラっぽいウィンクをひとつ。
「多少どころか、かなり強い魔力。というより、加護――でしょうか」
「加護?」
確かに多少の魔法は使えるが、それも子供騙しみたいなもので。到底、強いと言われるものでもない。
ルイトは首をかしげた。
「このまま先を探索してみましょうか」
そこで当初の目的が頭をよぎる。
一番は、娘を取り戻すこと。その希望をつなぐためにも、ここで手がかりを探す必要があるのだろう。
「本当に娘は。ルシアは見つかるのだろうか」
「ルイトさん」
「もう、あのキメラ共に食われてしまっているのかもしれない」
気が狂わんばかりの想像だが、有り得ないことはないのだ。
唇を噛み締め、へたりこんでしまいそうな足に力をいれる。
「そうなったら、僕は……僕は……」
「ルイトさん。しっかりしてください!」
彼女の白衣に包まれた腕が、肩をつかんだ。
「ルシアちゃんは、絶対に生きています。それを貴方が信じてあげなくて、どうするんですかっ!」
強いまなざし。
年端もいかぬ少女のはずなのに、なぜかそれは酸いも甘いもかみわけた女のようで。
「わたし達は、かならず娘さんを救い出します」
「イゼベラ」
「だから信じてください。わたし達を。そして」
優しく身体を引き寄せられた。
「ご自分と、ルシアちゃんの運命を」
運命を信じる――不思議な言葉に、妙な神託めいたものを感じるのはイゼベルが聖女であるからだろうか。
慈愛と強さに満ちた笑み。ルイトの心にふと、ざわめきがおこる。
「そうだな」
女性に。しかもこんなに若い娘に勇気づけられるとは、なんとも情けない話だと項垂れる。
しかしそうしていたって仕方の無いことで。
「もっと森の奥に行こう。何が起こっているのか、まずは確認する必要がある」
「うふふ。その意気です! じゃあ、出発しましょうか」
にっこりと彼女が微笑んだ時だった。
「あーっ!!!! ちょ、イザベルも何してんのぉぉぉっ!?」
半泣きでわめくシモンの声に、ハッと顔を上げる。
呆れた顔とトマスと、相変わらず泣き顔の彼と。
「ボクが守るんだってばっ!」
「うふふ、独り占めは感心しませんね」
「イザベラのバカァァァッ!!!!」
珍しく意地の悪そうな顔で笑う彼女に対し、もう地団駄を不満ばかりの少年に呆れるしかない。
懐かれるのは悪くないが、ここまでされるとどうも警戒してしまう。
しかも自分のことになるとIQが極端に下がる彼に、多少は戸惑うのだが。
(どうも憎めないんだよなァ)
自分は一人っ子で、弟がいなかったからかもしれない。
だから苦笑いをしながらも、ルイトはやんわりとイゼベルの腕をふりほどく。
「おい。君ってば、ひどい顔してるぞ」
「ルイトざあ゙ぁ゙ん゙!!」
「ほら。仲間を困らせるなよ。僕は、もう少し奥に行ってみたいんだ」
こんな所で道草を食っているヒマはない。
キメラ獣たちの出現により、あっという間に荒廃した森を調べなければならない。そして急がなければ、日も落ちるだろう。
また別の危険も迫るのも彼らは分かっていた。
「君たちも協力して欲しい」
彼の真剣な眼差しに、彼らは大きくうなずく。
「もちろんです。ルシアちゃんを探し出す手がかりを、絶対に見つけださなきゃいけませんね」
「それにさ!」
彼女の横から言葉をはさんだのはトマスだ。
「もしかしたらキメラ獣を創り出した者たちが、この森の奥にいるかもしれないぜ」
なんの企みがあるにせよ。これまでに起こったことの根幹が、全てこのキメラ獣につながっている気がする。
人間界の犯罪者か、それとも魔界からの侵略か。
「ボクは約束しましたよね」
トマスは、まだ涙が浮かんだ目尻を拭って微笑む。
「娘さんを、ルシアちゃんをルイトさんの腕の中に取り戻すのが使命です」
若い冒険者たち。
その瞳は澄み切っていた。真っ直ぐで、まぶしいほどの感情とひたむきさ。
ルイトはふと、自分が冒険者を始めたころを思い出す。
(僕もあんな目をしていただろうか)
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「行きましょう」
「ああ」
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彼らは再び、歩み出した――。
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