ゴブリンさんの異世界旅行記

なめこ

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間話

tp-1 たまには間話も良いよね

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#1 ルドリー(夫婦)のトラウマ

ルドリーはここ、ベララリウスの鍛治職人だ。エルフ…ソレも高貴な一族として有名なハイエルフとして生を受けた彼女が、金属加工にのめり込んだのは120を過ぎた頃。外で冒険者として働いていた際に、ドワーフのとある男の作ったスコップに魅せられた時だろう。
ただのスコップ。それもシャベルと言われる工事に使われるような武器でも無い物。しかし、無骨ながらも機能美に溢れたそれに心を奪われた彼女はその日の内に件のドワーフに土下座し師事を仰いだ。
当然、「エルフが冷やかしなんてふざけんな」と槌を投げつけられ、右目に青タンを作ったのを昨日のように覚えている。それでも2週間以上、雨が降ろうが深夜だろうが決してその鍛冶場の入り口から動かなかった。
梃子でも動かないと判断したドワーフは不承不承ながら、ルドリーを弟子とすることにした。ただし弱音を吐いた日にはすぐに叩き出してやると。だが彼女はそのトワールの予想を超え、弱音一つ言わず毎日槌を振るった。白く艶やかな肌が煤で汚れようと、汗臭くなろうとも。食事もエルフが好むとされている菜食ではなく肉食にしても…だ。ただし酒に関しては飲ませた日には大暴れして手がつけられなかった為禁酒とした。
やがて100年程経ち、ルドリーも一人前になり気が付けばその街で鍛冶屋を営んでいた。そんな彼女は師匠たるドワーフでさえ知らないスキルを一つだけ所有していた。それこそ数千年の中でさらに数万人に1人居るか居ないかとされる「鑑定」を保有していたことだ。
故に彼女は素材であれなんであれ贋作も嵩増しもすぐに見分けられた。
そんな彼女が初めて遭遇して、ドラゴン以上に絶望した存在。それこそがヴィート。忘れもしないあの日、からりと軽やかな音を立てて入ってきた小柄な少女。だが、鑑定で写されたその情報は、ルドリーを恐怖のどん底に叩き落とした。
種族はゴブリンマジシャン。これはまだ良かった。ゴブリンマジシャン位なら群れを探せば稀に居るから。だが、それ以外がもはや規格外だった。レベルは横線一つ…数値化不能。称号も『異界を渡る者』に『絶対破壊者』、『破壊と秩序の番人』…数え出したらキリがない。スキルに至っては文字化けしていると言う恐怖。ドラゴンたちの中でも特に強かったハグレの古竜を古竜達の依頼で討伐した際でも、そのハグレ古竜のスキルは見えた。つまりは、今目の前にいる赤メッシュのゴブリンは…御伽話に出てくる滅びの神のような者だ。
恐怖しない方がおかしい。
そこから上手いこと話をして事なきを得たが、彼女は恐怖と共に一つの興味が湧いた。ゴブリンといえど、そのクラスの相手はどれほど強いのか。純粋な冒険者の頃の疑問が湧いた。よくくる虎獣人のダイゴにある日店番を頼み、ヴィートに決闘を依頼した。勝てるなんて思わない、それでもゴブリン相手になら…恐怖はあったが、それ以上に彼女の中でゴブリンに恐怖した事を認められ無い感情があったのも確かだろう。

「で、決闘って言っても僕ぁ見ての通りのチビだから弱いよ?」
「…嘘は要らないよゴブリンマジシャン・・・・・・・・・…それも、とびきりイカれている、ね」
「…何だ、知ってたのか。なら…」

空気が変わった。さっきまでのふわついた空気が抜き身の剣のような鋭さを放つ。みるみるうちに目の前のゴブリンの姿が本来の姿に変わる。ルドリーの鑑定はあくまで相手のステータス情報を見るだけで姿は見たままでしかない・・・・・・・・・・・
白かった肌は緑…老竹色に、額からは短く黒い黒曜石のようなツノが2本。顔もゴブリン独特の鷲鼻…にはならず、元通りのまま。口も彼ら特有の耳まで裂けた口に乱杭歯…では無く、小さな可愛らしい口に整った白い歯…つまりは顔は元の美少女のまま。

「いや顔ぉっ‼︎」
「いや顔って言われても…生まれつきだし」
「何でゴブリンが美少女なんだよ⁉︎そこは醜くあれよ⁉︎」
「知らないっての…」

ダンダンと地面を踏み鳴らすルドリー。しかし、その内面は冷や汗だらけだった。空気だけではない、明らかにその身に纏う魔力の鋭さも達人どころではなかった。
そして何よりも、自分はかつて使っていた大剣を持ってきて鎧も着込んだ重装備なのに、目の前のゴブリンは全く変わらない外套に薄手の服だけ。武器など持っていない素手のままだ。
なのに、どこか違和感しかなかった。まるで自分が踏み潰される前の虫のような…言語化出来ない恐怖が心の奥に泥の様に巣喰った。

「じゃあ、お先どうぞ」
「…っ、後悔するなよ‼︎」

ガオンと音を立てて上段から振り抜いた剣。地面を抉り飛ばして近接し、その振り抜いた切先を彼女は目の前の小さな頭に振り下ろす…先までの恐怖を拭うかのように…‼︎
しかしその切先は爆音を立ててヴィートの真横に振り抜かれる。外したか。そう判断してすぐさま距離を取り第二波を

「はい王手」

無音。
しかし、頭のメットを吹き飛ばされる。それは器用にも、ルドリーの頭にダメージが一切入らないように完璧に力の抜ける方向を調整された、恐らく本気ではない一撃。
音さえ置き去りにしたその一撃で、メットは吹き飛んだ…文字通り粉々に吹き飛んだ・・・・・・・・のだ。パサリと蓬髪混じりの長いもみあげが風で揺れ、鎧を叩く。
見えなかった。その動きだしも拳も。認識した時にはメットは消え、眼前に小さな拳一つ。まるであらゆる予備動作というものを消したかのようなその現象。数拍遅れて総毛立つ。
もしも、もしも今の一撃を腹に入れられていたら?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・答えなんて聞くまでも無い、先のメットと同じ末路を辿っただろう。それも自分の死を認識することもなく。
強いなんてものでは無い、隔絶されている。そう認識せざるを得なかった。

「満足?」
「あ、ああ…その、ありがとう…」
「ん?よく分かんないけどどーも」

震える声で膝をつきながらそう答えるのがやっとだった。と、彼女の目の前に紙が。

「じゃ、これ」
「…は?銀と金のカトラリー?各デザイン600セット?期日は明後日?更には魔銀ミスリル製の鍋にフライパンも200組?…は?」
「約束通りよろしく。値段も半額で」
「はぁっ⁉︎えっ、ちょっ、はぁっ⁉︎」

固まっていた思考が加速する。だがヴィートは止まらない。

「決闘の約束。勝ったらこっちの言い分を聞く」
「おまっ…ふざけんなよ⁉︎しかも金と銀に関してはウチ持ちじゃねーか‼︎いや、魔銀までウチにされたらヤバかったけども‼︎」
「負け犬は頑張って言うこと聞くんだよ?」
「こんのガキャァァッ‼︎」
「わ、脳筋エルフの鬼ババアが怒った」
「誰がババアだこの野郎ぉぉっ‼︎」

この後、何とかヴィートの出した企画書通りのデザインのカトラリーや調理機器を作り上げ、納期に間に合わせたルドリー。その後再度昂ったテンションで運悪く深夜の閉店時に飲みに誘おうと店に来たダイゴを押し倒した挙句美味しく頂いたのは、ある意味キューピッドだったのかもしれない。
ただし、頑丈な筈の虎獣人のダイゴに関しては翌日ギルド出勤時に毛並みばパサパサのヨレヨレ、げっそりと絞られた雑巾・・・・・・のようになっていたのは流石に哀れと言うか…合唱。
なお、この2人はここから3日で電撃結婚した。
後にダイゴはこう言う。

「あの時のルドリーはやばかった…腕力もそうだが、もう目付きが獲物を屠る古竜とかと同じだった…逆らったら余計やられると思って…あと色町行った後も…ヒィッ」

…なんかトラウマ植え付けられていた。虎だけに。
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