ゴブリンさんの異世界旅行記

なめこ

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第一章

ep-13 息抜き旅行は近場が良いよね

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そして仕事が落ち着いてきたある日。もう既に冬になりヴィートもコート下は少しモコッとした暖かい物を着始めていた。ガチャリとアパートのノブを回すと中から暖かい空気・・・・・が溢れる。

「あ、ヴィートお帰りですわ~。今日は鶏鍋ですわ」
「ただいまー…鶏?」
「そうですわ、今日の学校の授業で校外学習があったのですわ‼︎その際に鳥竜と呼ばれる亜竜のコカドラムを仕留めたのですわ」
「仕留めんな、一応レッサー種だぞ…それ」
「でもでも、以前ヴィートが獲ってきて作ってくれた鳥刺しで美味しかったから…よろこんでくれるかなぁ…って」

珍しくしゅんとしてしまったミーニャに、ヴィートも思わず慌ててしまう。別に怒ったわけでもなく、怪我しそうで怖かっただけなのだが。因みにそれを指摘するとヴィートはキレる。照れギレだが。

「ご、ごめんって‼︎怒ってないから、ね?僕も今日寒かったから嬉しいなぁ、ほら…ご飯にしよ?」
「分かったですわ‼︎もう炊けているからすぐに用意するのですわ」

そう言ってパッと明るくなった顔でまたキッチンへ走り去るミーニャ。ふとヴィートは思う。あれ、あの子ミーニャって一応貴族の娘だよね?何で家で自炊してんだろ…そして自分は未成年相手に自炊させてんだろ…と。
が、考えた所でいいように言いくるめられそうなのでヴィートはまた考えるのをやめた。きっと未来の自分が何とかしてくれるだろう(n回目の思考放棄)。

「それじゃ、いただきます」
「いただきます、ですわ」

うまうまですわ~とニコニコと食べるミーニャ。あの後学校が再開となったのだが、最終日に何気なく「じゃあ次来るのは来年の夏休み?」と聞いた所、全力でここに来たいとギャン泣きされた。
なす術なく、彼女専用の転移魔道具『自宅の鍵パラレルマイハウスキー』を作成。渡したことにより、結果として毎日…そう、毎日ヴィートの家に来るようになってしまったのだ。どれくらいギャン泣きしたかと言うと…

「もう我儘もイタズラもしませんわーッ‼︎だからヤダァーッ‼︎ヤダヤダヤダーッ‼︎私、ここに帰って来れるようにして欲しいですわーっ‼︎」

とジタバタと暴れた挙句、ヴィートにコアラの如くくっ付いて離れなくなるほどであった。190センチが140センチに抱きついてズルズルと引き摺られているのは中々シュールであったが。反面、鍵を受け取ったミーニャはそれはそれは天に登りそうな顔をしていたが。
その後学校再開後は寮の扉を経由して毎日帰宅。そして何故かどうやってか覚えた家事スキルで掃除に洗濯飯作りと、どこかの器量のいい嫁ですか?レベルの家事をするようになっていたのだった…その話の詳細はまた別のお話。
さて、そんなこんなで結局二人暮らしをしているが、この日ヴィートはひとつ言わなければならない事があった。それはつい先の電話のこと…

「え?明後日から沖縄…?普段通りネットでは?」
『申し訳ない、こちらからも伝えたのだがどうも先方はヴィートさんの例のドールを直で見て選びたいらしくて…値段は相応に追加で払うって』

電話越しに申し訳なさそうな若い女性の声。時折り会いはしている常連の1人ワジマである。普段はこけしのように切り揃えた髪に黒のスーツとまさにキャリアウーマンのような出立ちなのだが、この日は珍しく電話での依頼だった。普段であればヴィートの運営しているネットショップ内のメールでのやり取りのみがメインで、時折商談で会う程度だ。

「でも…」
『あ、そう言えばヴィートさんお酒好きですよね?』
「まぁ、はい」
『美味しい泡盛、置いてますよ?前ワタシのお送りした大吟醸「笠置鶴」を思い出して下さい。ワタシのお勧めはハズレなしと自負してます』
「ゔっ…」

そう、あの見た目でこのワジマ…酒豪である。しかも気に入った酒は家で一升瓶だろうが何だろうがラッパすると言うイカれ女であった。
そして、彼女は割とヴィートの好みを把握している。故にヴィートも思わず詰まってしまう。

『ほらほら、何ならその前にお送りしたウィスキーも良かったでしょう?何ならその前にお渡しした芋焼酎「三岳」も好みでしたでしょう?』
「うぅ…で、でもぉ…」

今は家に同居人がいる。しかも異世界の。下手に外には連れ出したくない。もう商店街の有名人なのは諦めたが、流石に県外はやめておきたい。
だが、ここ最近疲れて酒を飲んでいない。何なら同居人が飲んだらまずい歳だから、目の前で飲まないようにしている。酒を、飲みたいのだ。

『今なら何と…交通費はワタシ持ちにするわ。ヴィートさんはただ行って人形を売って、酒を飲んで飯を食うだけ。どう?この完璧なプランは』
「ぐうぅ…い、行きますぅ…」
『そう来なくっちゃ‼︎じゃあワタシに話しておくからね‼︎ありがとう‼︎』

ヴィート、生まれて実に26年。初めて酒の為に折れた瞬間であった。人間は大嫌いと言いつつも、こう言った生活の上で知り合いはいるが…あれ?このゴブリン割と人間と暮らしてね?
ま、まぁ、そこは取り直して…取り敢えずこうしてヴィートの沖縄出張が決まったのだった(ヤケクソ)‼︎

「あ、あの…さ」
「何ですの?」
「あ、明後日の土曜から仕事で遠出することになって…僕家を空けるんだけど…」

何故こんなに緊張するのか?まるで妻に出張のことを伝える気まずい旦那のようだ。

「…どこへ?」
「…け、県外」
「ケンガイ?そんな地区があるんですのね…で、詳細は?」
「沖縄」
「オキナワ…オキナワ…ああ、以前福引の景品にあった旅行先ですわね」

そう、だから明日から暫くはいないから来ないように…そう言おうとした次の瞬間。

「なら私もついて行きますわ‼︎」
「…うん?」
「私、新婚りょ…間違えた。友人との遠出にはそう言ったバカンスに行ってみたいと思ってたのですわ‼︎」
「いや学校は」
「私、普段から成績も良いし強いので‼︎学園長を明日中に黙らせて行きますわ‼︎ベコボコにすれば許可もらえ「やめなさい、流石にベコボコはやめなさい」…ベコにすれば許可されると思いますわ」

フンスフンスと鼻息荒く。何となくヴィートの脳裏には返り血に塗れたミーニャが白い髭の長いお爺さんを金平糖みたいな形になるで顔を殴っている光景が浮かんだ。こっわ。

「…いや、出来れば不安があるからついてきて欲しくないかなーって」
「嫌ですわ」
「そこを曲げて」
「お父様とお母様にヴィートに手籠にされたって言いますわ」
「よーし行こうか沖縄へ‼︎」
「きゃーばんざーい‼︎ですわ‼︎」

この2人暮らしでミーニャも要らない方向でヴィートの扱いに慣れていたりもしていたのであった。
そうこうして翌日夜。もうヴィートは一応ミーニャの分の荷物も詰めたトランクを用意していた。あとは帰ってくるのを確認して一晩寝たら明日の朝一に出発である。なお迎えはワジマの車である。
暫く待ってうつらうつらとしてきた頃。
ドアが蹴破られんばかりに開き、ミーニャが帰ってきた。

「たっだいまーっ‼︎ですわぁっ‼︎‼︎」
「んみゅ…おかえり…」
「あぁ、ヴィートごめんなさい‼︎眠くなっていますわ‼︎」

ミーニャのために色々と余計な仕事を前もって片付け、少しでも長く沖縄に行けるようにしていた影響で、疲れが大きかった。
そんなこんなもあり、ワジマに送られて向かった空港で飛行機に乗り…

「着きましたわーっ‼︎ここがオキナワですわーッ⁉︎」
「くぁっ…ん、そうだよ」
「あのヒコーキなる道具凄いですわ!あんな巨大なものが飛ぶなんて…ドラゴンに乗ったらああなのですわ?」
「知らん」

あくびを噛み殺し、伸びをするヴィート。反面、ワクワクと擬音が見えそうなミーニャ。楽しそうで何より。

「何度も言うけど今日は僕の仕事できたんだからね?」
「はーい、ですわ」
「僕が帰るまでホテルで待機、嫌なら屋敷に簀巻きにして送りつける…良いね?」
「は、はーい…ですわ」
「本当に良いね?」
「勿論ですわ‼︎」

少し目を逸らしたので強めに言えば、ミーニャも今回は無理言ってきている手前大人しく従うほかなかった。(・ω・`)のような顔になったミーニャに、少し小さなため息をひとつ。ツンツンとミーニャのスカートを引きつけると、ヴィートの顔の前まで腰を下ろす。

「何ですの?」
「…仕事終わったら、買い物連れてくから」
「…で」
「で?」
「デートですわね‼それはまさしくデート‼︎︎分かったですわ‼︎この不肖ミーニャ、ヴィートが帰ってくるまでしっかり待っているのですわぁっ‼︎」
「…で、デートじゃない…」
「うんうん、分かっているのですわ‼︎」

タクシーに乗り込み、今回の客のいる沖縄の某市まで来ると予約していたホテルまで送ってもらう。
ホテルにチェックインをしてヴィートが出て行こうとしたその時。

「ヴィート」
「ん?」
「…私、楽しみに待ってます」
「………ん」

陽の光でこちらに振り向いた時にキラキラとした髪が眩しかっただけだ。そう思ってもヴィートは初めて、不覚にも年下相手に…

「…綺麗だと思ってしまった…」
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