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幼いころに、田舎のおじいちゃんの家に遊びにいったときのこと。
おじいちゃんの家には蔵があって、その中には古い人形や昔の村のお祭りで使ったらしいおみこしが乱雑にはいっていた。その隅っこに長持ちがあってその中に着物が入っていた。ここまで細かく覚えているのは、おじいちゃんが住んでいる田舎には私と同じ年くらいの子供がいなかったから。遊び相手がいないため、一人遊びをするほかなく、かといって外にでる勇気はなかったため、おじいちゃんから許可を得て蔵の中を探検していた。探検するなかでいろいろな面白いものをみつけたのだ。
着物を適当にはおり、古ぼけた鏡にうつすと、まるでお姫様になれたような気がした。小さい子はなんてことない遊びに楽しさを見出すというが私ももれなくその典型だった。
そうそう、長持ちの中の着物は高価なもの……ではなく、おじいちゃんのおじいちゃんくらいの人たちが普段着としてきていたものだという。だから幼い私が手荒く扱っても何もいわれなかった。逆に遊びとはいえ適当にきてもらえるだけいいとすらいわれていたくらい。
その日も、適当にきてあそび、お片づけは母に徹底的にしこまれていたので、長持ちに着物をしまいこみ、蔵を後にしようとしたとき。
鏡が光を放った気がしたので後ろを振り返った。
「……え?」
長持ちやら、おみこしやら、お人形やらの間の空いたスペースに、さっきまではいなかった白い動物がいた。
「猫さん?」
そう、そのとき、私の脳内辞書には『虎』という言葉はなかったのだ。
大きい猫だと思った。鏡の前でお利口さんにおすわりしている。ふわふわでやわらかくってあたたかそうな猫さん。さわらないという選択肢はなかった。おそるおそる猫さんにちかづき、そっと背中のあたりをなでる。
猫さんは微動だにしない。
調子にのって、背中のあたりから尻尾まで一気になでると……のどをごろごろならした。どうやらお気に召したらしい。当時の私には、猫がご機嫌なときに喉をならすなんてことは知らなかったし、何よりも前にいるのは虎だってことすら気付いてはいなかった。けれど、おもいっきりさわらせてくれる猫がうれしくってそのもふもふを堪能した。
大きい猫さんのお腹のあたりにうずもれても猫さんは動かなかったくらい。
「猫さん、暖かいね。」
そのまま、寝ようとしたけれど、猫さんは起き上がってしまった。そう、時刻は夕方。蔵の窓から差し込む光は淡い夕方のものになっている。私は家に帰って夕食を食べなければいけない時間。猫さんはなぜかそれを知っていた。
「また明日も遊んでくれる?」
私のといかけに猫さんはのどをごろごろと鳴らして答えてくれた。
「またね。」
私はばいばいと手をふり、ご機嫌で幼子の足でも徒歩1分ほどの家へと帰った。
猫さんが何かをぶつぶつといっていたような気がしたけれど、気付かなかった。
【ミツケタ、ワレノツガイ】
猫さんと会えるようになってからというもの、私はこれまで以上に嬉々として蔵へ向かうようになっていた。両親やおじいちゃんたちは、私が着物でのファッションショーにはまっていると思っていたようだったし、最初のころはそうだった。だからとくに不審に思われることもなかった。不思議なことに猫さんのことを家族に話そうとは思わなかった。なぜか、本能で察知していたのだ。……だれかに話せば猫さんと会えなくなると。
その年は、私はおじいちゃんの家にずっと住むと言い張ったらしい。けれど、来年の夏もまたくるからと言われ泣く泣く諦めた。
……そのときはだれも知らなかったのだ。私が自力で来られるような年になるまでここには来れないことを。
おじいちゃんの家には蔵があって、その中には古い人形や昔の村のお祭りで使ったらしいおみこしが乱雑にはいっていた。その隅っこに長持ちがあってその中に着物が入っていた。ここまで細かく覚えているのは、おじいちゃんが住んでいる田舎には私と同じ年くらいの子供がいなかったから。遊び相手がいないため、一人遊びをするほかなく、かといって外にでる勇気はなかったため、おじいちゃんから許可を得て蔵の中を探検していた。探検するなかでいろいろな面白いものをみつけたのだ。
着物を適当にはおり、古ぼけた鏡にうつすと、まるでお姫様になれたような気がした。小さい子はなんてことない遊びに楽しさを見出すというが私ももれなくその典型だった。
そうそう、長持ちの中の着物は高価なもの……ではなく、おじいちゃんのおじいちゃんくらいの人たちが普段着としてきていたものだという。だから幼い私が手荒く扱っても何もいわれなかった。逆に遊びとはいえ適当にきてもらえるだけいいとすらいわれていたくらい。
その日も、適当にきてあそび、お片づけは母に徹底的にしこまれていたので、長持ちに着物をしまいこみ、蔵を後にしようとしたとき。
鏡が光を放った気がしたので後ろを振り返った。
「……え?」
長持ちやら、おみこしやら、お人形やらの間の空いたスペースに、さっきまではいなかった白い動物がいた。
「猫さん?」
そう、そのとき、私の脳内辞書には『虎』という言葉はなかったのだ。
大きい猫だと思った。鏡の前でお利口さんにおすわりしている。ふわふわでやわらかくってあたたかそうな猫さん。さわらないという選択肢はなかった。おそるおそる猫さんにちかづき、そっと背中のあたりをなでる。
猫さんは微動だにしない。
調子にのって、背中のあたりから尻尾まで一気になでると……のどをごろごろならした。どうやらお気に召したらしい。当時の私には、猫がご機嫌なときに喉をならすなんてことは知らなかったし、何よりも前にいるのは虎だってことすら気付いてはいなかった。けれど、おもいっきりさわらせてくれる猫がうれしくってそのもふもふを堪能した。
大きい猫さんのお腹のあたりにうずもれても猫さんは動かなかったくらい。
「猫さん、暖かいね。」
そのまま、寝ようとしたけれど、猫さんは起き上がってしまった。そう、時刻は夕方。蔵の窓から差し込む光は淡い夕方のものになっている。私は家に帰って夕食を食べなければいけない時間。猫さんはなぜかそれを知っていた。
「また明日も遊んでくれる?」
私のといかけに猫さんはのどをごろごろと鳴らして答えてくれた。
「またね。」
私はばいばいと手をふり、ご機嫌で幼子の足でも徒歩1分ほどの家へと帰った。
猫さんが何かをぶつぶつといっていたような気がしたけれど、気付かなかった。
【ミツケタ、ワレノツガイ】
猫さんと会えるようになってからというもの、私はこれまで以上に嬉々として蔵へ向かうようになっていた。両親やおじいちゃんたちは、私が着物でのファッションショーにはまっていると思っていたようだったし、最初のころはそうだった。だからとくに不審に思われることもなかった。不思議なことに猫さんのことを家族に話そうとは思わなかった。なぜか、本能で察知していたのだ。……だれかに話せば猫さんと会えなくなると。
その年は、私はおじいちゃんの家にずっと住むと言い張ったらしい。けれど、来年の夏もまたくるからと言われ泣く泣く諦めた。
……そのときはだれも知らなかったのだ。私が自力で来られるような年になるまでここには来れないことを。
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