謝ると死ぬ病気

だいたい石田

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陽気な男

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ネットスラングとして普及している「謝ると死ぬ病気」だが、俺は本当にその病気だ。
はっきりと診断されたわけではない。
ただ、謝ろうと「ご」と言いかけると途端に腹が痛くなる。
この先を言うと死ぬんではないかという思いに駆られる。

そんな病気が本当にあるのかとネットで調べたがネットスラングとしてのそれしか出てこない。
医者に話しても、よくて頭がおかしいと思われるだけだと思い、断念した。

ある日、ぶつかってしまった同僚に「ごめ」まで言いかけたとき血を吐いて倒れた。
驚いた同僚がすぐに救急車を呼んでくれた。
病名は「胃潰瘍」だった。
自慢じゃないが胃の強さには自信がある。
少々古いものを食べても腹を壊したことはない。
今まで胃の痛みなんて感じたこともなかった。

ネットスラングではない、本当の「謝ると死ぬ病気」なのだ。
最後まで謝りきってしまうときっと死ぬのだろう。

今まで嫌な予感がしていたから謝ったことはなかった。
すまなそうな顔をしていて言い訳をしたらなんとか乗り切れた。
謝らなくていいように行動をしていたせいもある。

死なないためには謝らないをこれまで以上に徹底することにした。


絶対に謝らないし家族にもこの病気のことは言わない。
言っても信じてもらえないだろうし、逆に怒られるから。
これは今までの恋人で経験済みだ。
子供が生まれてこれまでより仕事に精を出していれば、きっと家族はわかってくれる、そう思っていた。

一人娘が志望校に合格した。これで晴れて大学生だ。
授業料や入学金はかかるが肩の荷が下りたような気がした。
入学式まであと少しの3月。

「離婚してください。」妻に離婚届を突き付けられた。
「なんでだ。これまでうまくやってきただろう。」
青天の霹靂だ。
娘が結婚して家を出ていっても仲良くやっていこうと思っていたのに。
旅行や温泉にもたくさん行こうと思っていたのに。

「謝らないあなたにはもうこりごりなんです。」
確かに謝ったことはなかった。これは妻だけではない。だれに対してでもだ。
しかし、お礼はたくさん言った。ありがとうも。妻には時折照れるが「愛している」も言っていた。
だが。

「あなたは謝らない。あなたがしてくれたのはお金を入れることだけ。家事育児をしないで時々呪文みたいに『アイシテル』『アリガトウ』っていうだけ。そんなあなたにはもううんざり。あなたと老後を過ごしたくない。」
妻に突きつけられた言葉に弁解する気力がなかった。妻にはそうみえていたのか。
謝らないことだけが理由ではなかったのだ。

妻の言うとおりに離婚をして財産分与をした。娘の大学の学費・授業料も支払うことにした。これだけができることだと思ったから。

そういえば、俺には友達もいない。学生時代はそれなりにいたような気がしたがどんどん減っていった。
謝らないことだけが原因ではないんだろうな。
会社関係と妻と娘だけの電話帳をみながらそう思った。
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