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洋品店に訪れた女性は年齢不詳の妖艶な美貌と見る者を蕩けさすような雰囲気を持っていた。
艶やかな黒髪をシンプルに結い上げ、髪飾りは黒真珠を挿す程度で極めてシンプルだが美貌が際立っているためにシンプルな物のほうが似合うのだろう。
後ろに控えている女性の取り巻きもまた美しい人達で、レシーから「りりーさん」と呼ばれていた女性が眉間に青筋を立てている様を見て喜んでいた。
「レシーったらマダムのことを年を取った魔物だって、正直者なんだから。私なら怖くってそんな事を口に出せないわ~」
「本当そうね、そんな事いったらマダムにすぐに消されちゃうわ」
「えっと・・・年はとってますが、マダムは綺麗な年寄りなので・・・」
「レシーったら言葉の使い方を学んだ方が良くてよ。学ぶ機会がないなら私のお店にいらっしゃいな、私が鍛えてあげるから」
「いえ、ワタシは諜報活動員として魔王様に重宝されていますので・・・」
「重宝?そんな話聞いた事がないわよ。それよりも彼女の事を紹介してくれないかしら魔王様の養い子でしょう」
「あっ!あぁ そうです。彼女が養い子のエレア様です」
先程の失言から話題を逸らそうとレシーは慌ててエレアを紹介した。
レシーに紹介されてエレアは思わず立ち上がり、目上の人にする丁寧な挨拶をした。
他国の国賓といずれは言葉を交わす立場でもあり、王太子妃教育で学んだことが今のエレアの所作にも繋がっている。
「まぁ、さすがに生まれも育ちもきちんとした子だからかしら。綺麗だわ」
王宮専属の厳しい教師達の見る目線の記憶をわずかに感じながら目の前の妖艶な女性が本当は魔人だとは思えなかった。
あまりにも妖艶過ぎるという点では人離れしているのでそうなのかもしれないが。
「レイルはどうしているかしら?」
「無事に魔王城まで辿り着きましたヨ」
「ふふふっそうなのね。私が育てた勇者がついに魔王城まで辿り着いたってわけね、それで魔王城で何をしているの?」
「毎日美しい魔族の女性に気を取られて楽しく暮らしていますヨ」
「あの子は誰で童貞を卒業するかってことしか毎日考えていない子だったからそちらに行ってもそれしか考えてないのね」
「そうですね、ラフィにも四六時中秋波を送っていますが、彼は勇者の血筋が邪魔して魔族にモテないのを知りませんので毎日フラれていますヨ」
二人の会話からしてレイルは勇者ということなのだろうか?アリス姫は偽者だと断言していたし、本人も自分が勇者という自覚がない。
いや村の勇者祭りの優勝者だという自覚はあるのだが・・・
国はレイルの事を勇者だとして送り出した事実があるが、それはアリス姫に箔をつけるために200年程前に勇者に与えた地出身の若者を勇者として名乗らせただけで、本当に国がレイルの事を勇者だと知っていたのであればあれほどぞんざいには扱わなかっただろう。
「すみません・・・訊ねたい事があるのですが、レイルって勇者なんですか?」
エレアはマダム・リリーに恐る恐る訊ねてみた。
「あの子は勇者の血筋ではあったのよ。あの地を賜った勇者をその後は魔族のほうでも追跡調査を続けていてね、どうせ定期的に魔王討伐で人がやって来るのであれば、もう勇者をこちらが管理しておこうかなってことになって、ほら人間って毎回魔王を倒すまでしつこいくらいやって来るでしょ。もう面倒臭いから魔王が討たれたフリをして帰ってもらおうってことになったのよね~。討たれたフリをするにしても勇者の素質がないと魔王様と対峙なんて普通の人間は無理じゃない。だから勇者の素質のある者をこちらが育ててみようって実験的に5年に一度大会を開いて一番になった者を私のお店に寄越してもらって、それからしばらく雇って育ててるのよ。うちの娼館は1日2日滞在するにはいいけれど、それ以上滞在すると魔素が強い場所があってね、すごく体に悪いの。だから勇者として魔族領で過ごせるように耐性を付けながら徐々に体を鍛えていくのよ。お店で働いているうちに誰かと恋に落ちたり、別の職業を選んで去った場合は魔素に対する耐性が体につかないうちに去るわ。だからその後は勇者に育つ事はないとして、次の大会の優勝者を待つわけよ。レイルの前の子はあの子の兄だったんだけど魔素の耐性が付くてね、やっぱり童貞を誰で卒業するかって悩んで飛び出して行ったっきりよ」
レイルがまさかの本物の勇者であり、その勇者を討伐パーティに組み入れてしまい今は魔王城で魔王と暮らしているなんてことをリザルドどころかどの国にバレても大変な事になってしまう。
「勇者って他にもいますか?」
「滅多に生まれないわよ。希少価値で言えば聖女よりも上なんじゃないかしら? 生まれながらに魔素への耐性が強くても、それを知るにはまず魔族領に入らないといけないし。魔素への耐性だって長い期間入って耐性を付けないといけないし、そんな耐性を付ける職業なんてそうそう選ばないでしょ。だから勇者の力に覚醒するには沢山の偶然が重ならないと目覚めないのよ」
(だとしたら魔王討伐イベントまで発生しないようにレイルをしっかりと魔王城に隠さなければならないというわけね)
自分自身の聖魔力も狙われて、ライラが大聖女になるというイベントを避けている中で、まさかのレイルまでがイベント発生の鍵になる存在だったのだ。
「レイルがあのマダム・リリーの本を持っていたでしょ。あの本の装丁の柄の部分には魔族にしかわからない暗号が記されてて、あの本を持っていた時点でレイルはマダムリリーの秘蔵っ子だと魔族達が共通認識してたんですヨ」
マダムリリーの秘め事はどのページも妖艶なマダムリリーのカラー挿絵がちりばめられていて、ただのきわどい画集だと思っていたのにそんな大層な本だったとは思いもしなかった。
シオンなどは極めていかがわしい本だと近寄ることもしないが、レイルは宝物だと言ってどのページのマダムリリーのポーズもすべて覚えている物だった。
まさかレイルの魔族領における身分証明書だったとは。
「アリス姫が聖女としてパーティに参加するから私もそれじゃあ本物を添えてあげましょうってことで、本物の勇者の血筋のレイルを出荷したのよ。もちろん育て賃として満足いくお金は貰えたから大満足なんだけど、今度はアリス姫やレイルの足元にも及ばない者達が我こそは本物の勇者パーティだって魔族領に行く事になりそうなんですって、まったく愚かしいわね」
それはライラの事だろう。
リザルドの王宮内でどのような話がされているのか、アリス姫がいないのであれば魔族領に向うだろうし、サムル王国からは魔族領には入れないのだからこちらの人達を巻きこむだろう。
「レイルは勇者としては魔族領で全く何もしなかったみたいなんですが、魔王様を倒せる者なのですか?」
いつかレイルが勇者として魔王討伐を本気で考えるのであれば魔王の最大の敵になる。
最大の敵を魔王城の中に引き込んでしまっている事になるのではないか?
「今のレイルだと魔王を倒すって事がそもそも頭にないんじゃないかしら? 200年前の勇者もね・・・すごく馬鹿だったの。物事の裏表も理解出来ないのよ。ただ周りの口車に乗って討伐パーティに参加することになってね、まぁあの勇者を磨けば光る逸材だって見出した者が優れていたって事かしら、とにかく勇者をパーティの中に内包するともの凄く運が味方になるのよ。 魔王を倒せる勇者っていう称号を持つ者は魔王の元に辿り着けるように幾つもの小さな幸運をその道中にちりばめるみたいよ。この世界の神にとっては定期的に魔王を排除するのが目的だから目的が達成した後の勇者のことはどうでもいいんだけど。そこからが勇者は大変よ~ もう小さな幸運を天が与えてくれないんだもの。 結局200年前の勇者はその当時のリザルドの国王から辺境の辺鄙な場所の村を報酬として与えられて大喜びしてたの。馬鹿でしょ、もっともっと名誉とか地位とか王族の姫だって要求出来るのに欲がなくってね、それで可哀想だから私がその勇者の血筋を管理してあげる事にしたのよ」
アリス姫を魔族領にと追いやる為に即席で作られたパーティが、実は魔族の中では本物の勇者討伐パーティだったとは。
あのパーティをレシーが保護するまでにも恐らく何度も魔物に遭遇する機会があったはずだが、アリス姫の話では強い魔物に出会う事がなかったと語っていた。
不思議と運に護られたパーティだなと思っていたがそれはアリス姫の聖魔力を魔物が嫌っていたからだと勝手に解釈していたが、レイルの持つ幸運の力も関係があったのだ。
それにレイルが魔族領で魔素中毒にならない事も、アリス姫の側にいるからだとアリス姫もレイル本人も思っていたが、もともと魔素の耐性が作られていたからこそ人よりも動くことが出来ていたのだ。
「私のお店で勇者の子孫を預かり育ててるからって言っても魔王の養い子のように無条件に受け入れているわけじゃないわよ。不作の年は勇者祭りの優勝者でも勇者の血が目覚めないままって子もいたし。勇者の子孫が全て勇者になるなんてことないから、預かった子の才能が開花するかどうかは私にはわからないわ。でもレイルは200年前の勇者によく似ているわ、馬鹿正直で言われた事を何でも聞いちゃうし。魔族領に私の本を持って行っちゃったから私の秘蔵っ子みたいに思われて魔族からも攻撃されなかったしね」
レイルの事を全ての魔族が周知しているわけではないが、魔人と呼ばれる特に強力な魔族にはあの本の装丁でマダムリリーの関係者だと思われて攻撃は避けられる。
小さな幸運を全て受け取りながらレイルは魔族領を進んでいたのだ。
「出荷がちょっと早くなったから魔王様を討伐出来る程の実力は今のあの子には全く無いけれどね」
ホホホッと笑うマダムリリーは懐がかなり温かくなったということでご満悦そうだ。
王家も過去の勇者の血族だとしてもまさか勇者だとは思わずに、自国の王太子を勇者という自分達が名付けた肩書でいずれは魔族領へと討伐パーティを組んで送り込むだろうが、魔王側にはすでに本物の勇者が押さえられているというわけだ。
本物の聖女のアリス姫も魔王城の中に匿われているが、一人でもリザルド王国へ反撃の大きな狼煙を上げてやると息巻いていたアリス姫の復讐が当然始まるだろう。
恐ろしい話である。
ゲームのシナリオに沿うならアリス姫と接触して倒さないと聖魔力を奪えないライラのことだから、リザルド王国が魔族領に討伐隊を出すように仕向けるだろう。
アリス姫は亡くなったとライラがアリス姫の聖魔力を諦めるのであれば、ライラがこの世界で聖魔力を奪える相手はエレナだけになってしまう。
もしライラが聖魔力を必要とせずにゲームをプレイするのであれば大商会の息子ルートを選び、幼馴染の女の子とのジメジメした女の争いをクリアすることにより無限に近いお金が使える事になる。
その圧倒的な金の力であらゆる困難を越えていきながらスイーツ店を発展させていくのだ。
時には商品開発もしながら金を使い、資金が減れば購入した土地を耕し収穫した物を金に換えてまた困難を乗り越えるといった感じで。
聖魔力はスイーツに少し混じる程度で済むし、国の存亡にかかわるような聖女の役割は一切なしでひたすらお金を稼ぐという人生ゲームに突入していく。
きっとリザルド側からライラは魔族領に再び来るだろう。
艶やかな黒髪をシンプルに結い上げ、髪飾りは黒真珠を挿す程度で極めてシンプルだが美貌が際立っているためにシンプルな物のほうが似合うのだろう。
後ろに控えている女性の取り巻きもまた美しい人達で、レシーから「りりーさん」と呼ばれていた女性が眉間に青筋を立てている様を見て喜んでいた。
「レシーったらマダムのことを年を取った魔物だって、正直者なんだから。私なら怖くってそんな事を口に出せないわ~」
「本当そうね、そんな事いったらマダムにすぐに消されちゃうわ」
「えっと・・・年はとってますが、マダムは綺麗な年寄りなので・・・」
「レシーったら言葉の使い方を学んだ方が良くてよ。学ぶ機会がないなら私のお店にいらっしゃいな、私が鍛えてあげるから」
「いえ、ワタシは諜報活動員として魔王様に重宝されていますので・・・」
「重宝?そんな話聞いた事がないわよ。それよりも彼女の事を紹介してくれないかしら魔王様の養い子でしょう」
「あっ!あぁ そうです。彼女が養い子のエレア様です」
先程の失言から話題を逸らそうとレシーは慌ててエレアを紹介した。
レシーに紹介されてエレアは思わず立ち上がり、目上の人にする丁寧な挨拶をした。
他国の国賓といずれは言葉を交わす立場でもあり、王太子妃教育で学んだことが今のエレアの所作にも繋がっている。
「まぁ、さすがに生まれも育ちもきちんとした子だからかしら。綺麗だわ」
王宮専属の厳しい教師達の見る目線の記憶をわずかに感じながら目の前の妖艶な女性が本当は魔人だとは思えなかった。
あまりにも妖艶過ぎるという点では人離れしているのでそうなのかもしれないが。
「レイルはどうしているかしら?」
「無事に魔王城まで辿り着きましたヨ」
「ふふふっそうなのね。私が育てた勇者がついに魔王城まで辿り着いたってわけね、それで魔王城で何をしているの?」
「毎日美しい魔族の女性に気を取られて楽しく暮らしていますヨ」
「あの子は誰で童貞を卒業するかってことしか毎日考えていない子だったからそちらに行ってもそれしか考えてないのね」
「そうですね、ラフィにも四六時中秋波を送っていますが、彼は勇者の血筋が邪魔して魔族にモテないのを知りませんので毎日フラれていますヨ」
二人の会話からしてレイルは勇者ということなのだろうか?アリス姫は偽者だと断言していたし、本人も自分が勇者という自覚がない。
いや村の勇者祭りの優勝者だという自覚はあるのだが・・・
国はレイルの事を勇者だとして送り出した事実があるが、それはアリス姫に箔をつけるために200年程前に勇者に与えた地出身の若者を勇者として名乗らせただけで、本当に国がレイルの事を勇者だと知っていたのであればあれほどぞんざいには扱わなかっただろう。
「すみません・・・訊ねたい事があるのですが、レイルって勇者なんですか?」
エレアはマダム・リリーに恐る恐る訊ねてみた。
「あの子は勇者の血筋ではあったのよ。あの地を賜った勇者をその後は魔族のほうでも追跡調査を続けていてね、どうせ定期的に魔王討伐で人がやって来るのであれば、もう勇者をこちらが管理しておこうかなってことになって、ほら人間って毎回魔王を倒すまでしつこいくらいやって来るでしょ。もう面倒臭いから魔王が討たれたフリをして帰ってもらおうってことになったのよね~。討たれたフリをするにしても勇者の素質がないと魔王様と対峙なんて普通の人間は無理じゃない。だから勇者の素質のある者をこちらが育ててみようって実験的に5年に一度大会を開いて一番になった者を私のお店に寄越してもらって、それからしばらく雇って育ててるのよ。うちの娼館は1日2日滞在するにはいいけれど、それ以上滞在すると魔素が強い場所があってね、すごく体に悪いの。だから勇者として魔族領で過ごせるように耐性を付けながら徐々に体を鍛えていくのよ。お店で働いているうちに誰かと恋に落ちたり、別の職業を選んで去った場合は魔素に対する耐性が体につかないうちに去るわ。だからその後は勇者に育つ事はないとして、次の大会の優勝者を待つわけよ。レイルの前の子はあの子の兄だったんだけど魔素の耐性が付くてね、やっぱり童貞を誰で卒業するかって悩んで飛び出して行ったっきりよ」
レイルがまさかの本物の勇者であり、その勇者を討伐パーティに組み入れてしまい今は魔王城で魔王と暮らしているなんてことをリザルドどころかどの国にバレても大変な事になってしまう。
「勇者って他にもいますか?」
「滅多に生まれないわよ。希少価値で言えば聖女よりも上なんじゃないかしら? 生まれながらに魔素への耐性が強くても、それを知るにはまず魔族領に入らないといけないし。魔素への耐性だって長い期間入って耐性を付けないといけないし、そんな耐性を付ける職業なんてそうそう選ばないでしょ。だから勇者の力に覚醒するには沢山の偶然が重ならないと目覚めないのよ」
(だとしたら魔王討伐イベントまで発生しないようにレイルをしっかりと魔王城に隠さなければならないというわけね)
自分自身の聖魔力も狙われて、ライラが大聖女になるというイベントを避けている中で、まさかのレイルまでがイベント発生の鍵になる存在だったのだ。
「レイルがあのマダム・リリーの本を持っていたでしょ。あの本の装丁の柄の部分には魔族にしかわからない暗号が記されてて、あの本を持っていた時点でレイルはマダムリリーの秘蔵っ子だと魔族達が共通認識してたんですヨ」
マダムリリーの秘め事はどのページも妖艶なマダムリリーのカラー挿絵がちりばめられていて、ただのきわどい画集だと思っていたのにそんな大層な本だったとは思いもしなかった。
シオンなどは極めていかがわしい本だと近寄ることもしないが、レイルは宝物だと言ってどのページのマダムリリーのポーズもすべて覚えている物だった。
まさかレイルの魔族領における身分証明書だったとは。
「アリス姫が聖女としてパーティに参加するから私もそれじゃあ本物を添えてあげましょうってことで、本物の勇者の血筋のレイルを出荷したのよ。もちろん育て賃として満足いくお金は貰えたから大満足なんだけど、今度はアリス姫やレイルの足元にも及ばない者達が我こそは本物の勇者パーティだって魔族領に行く事になりそうなんですって、まったく愚かしいわね」
それはライラの事だろう。
リザルドの王宮内でどのような話がされているのか、アリス姫がいないのであれば魔族領に向うだろうし、サムル王国からは魔族領には入れないのだからこちらの人達を巻きこむだろう。
「レイルは勇者としては魔族領で全く何もしなかったみたいなんですが、魔王様を倒せる者なのですか?」
いつかレイルが勇者として魔王討伐を本気で考えるのであれば魔王の最大の敵になる。
最大の敵を魔王城の中に引き込んでしまっている事になるのではないか?
「今のレイルだと魔王を倒すって事がそもそも頭にないんじゃないかしら? 200年前の勇者もね・・・すごく馬鹿だったの。物事の裏表も理解出来ないのよ。ただ周りの口車に乗って討伐パーティに参加することになってね、まぁあの勇者を磨けば光る逸材だって見出した者が優れていたって事かしら、とにかく勇者をパーティの中に内包するともの凄く運が味方になるのよ。 魔王を倒せる勇者っていう称号を持つ者は魔王の元に辿り着けるように幾つもの小さな幸運をその道中にちりばめるみたいよ。この世界の神にとっては定期的に魔王を排除するのが目的だから目的が達成した後の勇者のことはどうでもいいんだけど。そこからが勇者は大変よ~ もう小さな幸運を天が与えてくれないんだもの。 結局200年前の勇者はその当時のリザルドの国王から辺境の辺鄙な場所の村を報酬として与えられて大喜びしてたの。馬鹿でしょ、もっともっと名誉とか地位とか王族の姫だって要求出来るのに欲がなくってね、それで可哀想だから私がその勇者の血筋を管理してあげる事にしたのよ」
アリス姫を魔族領にと追いやる為に即席で作られたパーティが、実は魔族の中では本物の勇者討伐パーティだったとは。
あのパーティをレシーが保護するまでにも恐らく何度も魔物に遭遇する機会があったはずだが、アリス姫の話では強い魔物に出会う事がなかったと語っていた。
不思議と運に護られたパーティだなと思っていたがそれはアリス姫の聖魔力を魔物が嫌っていたからだと勝手に解釈していたが、レイルの持つ幸運の力も関係があったのだ。
それにレイルが魔族領で魔素中毒にならない事も、アリス姫の側にいるからだとアリス姫もレイル本人も思っていたが、もともと魔素の耐性が作られていたからこそ人よりも動くことが出来ていたのだ。
「私のお店で勇者の子孫を預かり育ててるからって言っても魔王の養い子のように無条件に受け入れているわけじゃないわよ。不作の年は勇者祭りの優勝者でも勇者の血が目覚めないままって子もいたし。勇者の子孫が全て勇者になるなんてことないから、預かった子の才能が開花するかどうかは私にはわからないわ。でもレイルは200年前の勇者によく似ているわ、馬鹿正直で言われた事を何でも聞いちゃうし。魔族領に私の本を持って行っちゃったから私の秘蔵っ子みたいに思われて魔族からも攻撃されなかったしね」
レイルの事を全ての魔族が周知しているわけではないが、魔人と呼ばれる特に強力な魔族にはあの本の装丁でマダムリリーの関係者だと思われて攻撃は避けられる。
小さな幸運を全て受け取りながらレイルは魔族領を進んでいたのだ。
「出荷がちょっと早くなったから魔王様を討伐出来る程の実力は今のあの子には全く無いけれどね」
ホホホッと笑うマダムリリーは懐がかなり温かくなったということでご満悦そうだ。
王家も過去の勇者の血族だとしてもまさか勇者だとは思わずに、自国の王太子を勇者という自分達が名付けた肩書でいずれは魔族領へと討伐パーティを組んで送り込むだろうが、魔王側にはすでに本物の勇者が押さえられているというわけだ。
本物の聖女のアリス姫も魔王城の中に匿われているが、一人でもリザルド王国へ反撃の大きな狼煙を上げてやると息巻いていたアリス姫の復讐が当然始まるだろう。
恐ろしい話である。
ゲームのシナリオに沿うならアリス姫と接触して倒さないと聖魔力を奪えないライラのことだから、リザルド王国が魔族領に討伐隊を出すように仕向けるだろう。
アリス姫は亡くなったとライラがアリス姫の聖魔力を諦めるのであれば、ライラがこの世界で聖魔力を奪える相手はエレナだけになってしまう。
もしライラが聖魔力を必要とせずにゲームをプレイするのであれば大商会の息子ルートを選び、幼馴染の女の子とのジメジメした女の争いをクリアすることにより無限に近いお金が使える事になる。
その圧倒的な金の力であらゆる困難を越えていきながらスイーツ店を発展させていくのだ。
時には商品開発もしながら金を使い、資金が減れば購入した土地を耕し収穫した物を金に換えてまた困難を乗り越えるといった感じで。
聖魔力はスイーツに少し混じる程度で済むし、国の存亡にかかわるような聖女の役割は一切なしでひたすらお金を稼ぐという人生ゲームに突入していく。
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