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※何か怖いことが起きるよーだ(ノアム視点)

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「このままでいいわけないだーろ!?
テルシャ!」

私は床の拭き掃除をしながら、テルシャに声をかけーる。

「どうしろというのです?
ここから逃げ出す計画でもあるのですか?」

テルシャは、窓を拭きながら私を睨みつけーる。

どうしろ?
どうしーろ?
それはこっちが聞きたーい。

せめて呪符があればーな。

リタのやつ、治療は上手くいってるのーか。

もしかしたら、私は解放されるかもしれなーい。

「おい、そこの人間。」

さっきのじーさんの妖精ーだ。

「お前さん、今来ているとかいう、漆黒の狼の知り合いか?」

「何?」

私はじーさんの妖精に近づいていーく。

「いや、何やらワシらの時の一時停止が、今はなくてな。
漆黒の狼と関係あるのかと。」

「あぁ。
リタが時の精霊の核を持っているからーな。」

「やはり。
それにしても今度は雌狼なのだな。
さぞかし美しい女性なのだろうな。」

こいつら・・・。
なぜ雌狼だとわかーる?

「何故雌だというのーだ?」

「漆黒の狼は、雄は『アム』雌なら『リタ』と決まっておる。
この二匹は混沌の神より出て、死して戻る時にも目に見えぬ大きなエネルギーの流れを生み出す。
それだけに、寿命がこようが、毛皮目的に狩られようが、神に気にされはしないのだがな。」

妖精のじーさんは寂しそうに笑ーう。

そうーか。
まあ、私もあいつの生死は気にしなーい。

死んだら毛皮をもらって、ウロンを復活させてやるーわ。

だが、怪物を倒すまでは生きていてもらわねーば。

ただ一つ、あいつはカミュンにベタベタする、厄介な雌狼なのが、気に食わんがーな!

そこへズシン!ズシン!と、何やら城が揺れていることに気付いーた。

「どうしたのーだ。」

「む?姫じゃ。
姫が痛みに苦しんでおられる。」

妖精のじーさんが、あたりを見回ーす。

他の妖精たちも心配していーた。

なんだ、なんーだ。
離れたところから、姫の容態がわかるのーか?

そう思っているーと、いきなりシーンとなった。

どれくらいそうしていたのか・・・。

「の、呪いの牙が抜けたぞ!!
皆の衆!!」

妖精のじーさんが叫ぶとみんな一斉に笑顔になっーた。

次の瞬間、周り中光に包まれて中の物全て、変わっていーく!!

「おおー、ありがとうございます!
漆黒の狼よ!!」

みんなが一斉に賛美の声を上げーる。

気がつくと、周りは皆美しい妖精ばかりになっていーた。

「解放だ!!
皆、厨房から出るが良い!!」

厨房の責任者が声をあげーる。

解放・・・解放だーと!?

テルシャ、聞いたーか?

ん、あいつはどこへいっーた?

すると、フラフラとよろめきながら、外へ歩くあいつが見えーた。

具合でも悪いのーか?
何してるのーだ?

テルシャ?

テルシャは他の妖精たちと外へ出ていくと、空に向かって何か唱えていーる。

何してるのーだ?
そう思った瞬間、くるりと奴は振り向いてニヤリと笑っていーた。
その割に、苦しげに肩で息をしていーる。

「テルシャ?
お前・・・。」

「ふふ・・・この城は長居できぬ。
相性の悪い素材が使われているからな。」

据わった目をして、なんなのーだ、こいつ。
アレルギーでもあったのーか?

「相性?
ここに、何をしに来ーた?」

「機は熟した。
リタの力を試す時が来たのだ。」

「は・・・?」

「リタの孤立には失敗したが、あの女は十分リタの嫉妬を煽ってくれた。
妬くということは、それだけ想っている証拠。
あとはあの男を囮にして、リタの最後の封印を解いてやる。
ふふふ、黒竜の力を目の当たりにすれば、どの道リタは疎外されるだろう。
それでこそ私の手に落ちるというものだ・・・。」

「リタを手に入れーる?
お前はリタの毛皮が欲しいのーか?」

「ふふ、死んだ毛皮に用はない。
リタは生きてこそ私の役に立つ・・・。」

次の瞬間、テルシャは消えていっーた。

な、なんなんーだ。

「ノアム元理事長、何してるんですか?」

後ろから声をかけられて振り向くと、テルシャがいーた。

「お、お、おま、おま、お前ー!!」

「なんです、騒々しい。」

「今、ここで・・・お前・・・。」

「何言ってるんですか。
私はたった今ここに来たんですよ。
解放されたと聞いて、ここに来たんです。」

どういうことーだ!
今のは誰ーだ!?

夢を見たのーか!?

私は今見たことをテルシャに説明しーた。

「気持ち悪いですね。
前にも言いましたが、私はリタに興味ありません。
リタを狙うなんてまるで、ハーティフみたいじゃありませんか。」

・・・・!!!

つ、つ、つまり、私はハーティフと話していたのーか!?

奴の化身ーと!?

「お、おい・・・リタにとって大切な男、て誰・・・だ。」

私は震えながらテルシャに尋ねーた。

「え、なんですか。
突然。」

「お前なら、わかるんだーろ!?」

「それは分かりますよ。
薬指の爪を、同じ色で塗っていた男性がいましたからね。」

「なぬ?
爪だーと?」

「えぇ、ほら。
確かカミュンとかいう凄い美男子の・・・。」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

思わず雄叫びを上げーた。

だが、それ以上の金切声をあげたのは、テルシャだーった。

私の周りが真っ暗になり、唸り声が遥か上から聞こえーる。

恐る恐る振り向くと、大きな巨人が二体、私を見下ろしていーた。

「ひょえー!!」

そんな私のところへ、大きな手が降ってくる。

私は慌てて逃げた。

まるで蠅でも叩くように、大きな手が追いかけてくーる。

いやー!!

死にたくなーい!!!

リター!!

なんとかしーろー!!

いつまで走り続ければいいのーか。

私は泣きながら逃げ回っーた。







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