時の精霊に選ばれし者〜人狼リタは使命があります!

たからかた

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黒竜とは何か

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目の前に現れたのは、恐ろしくて大きなクオ・リンゴブではなく、凛々しく美しい一人の女性だった。

背中には、七色に輝く陽炎のような羽を広げている。

「心から感謝します。
恐ろしい牙の呪いから助けていただいて。」

と、その女性は深々とお辞儀をした。

「あなたはまさか、クタヴィジャ姫?」

私が尋ねると、

「はい。
妾こそ、この妖精界を統べるクタヴィジャ姫。
歓迎いたします、皆様。」

と、答えた。

「な、なんて綺麗な姫様だ・・・。」

ガルンティスは鼻の下を伸ばしてる。

「ありがとうございます。
私以外の者たちも、元に戻りました。
皆の者、この方々に感謝の意を示しなさい。」

クタヴィジャ姫が微笑んで手を叩くと、周りに正装した妖精たちが現れた。

「こ、この人たちは?」

「オロンペオ。
誇り高き妖精界の王族たちです。
彼らもやっと、戦闘形態を解除することができました。」

オロンペオと呼ばれた男女が、私たちに向かってお辞儀をする。
その中の一人が進み出て、

「皆様にはたらいた、数々の非礼をお詫び申し上げます。
元の姿に戻していただき、ありがとうございます。」

と、言った。

私たちは全員で首を横に振り、お辞儀を返した。

「うぅ。」

その時、ちょうどティルリッチが目を覚ました。

「カミュン?
・・・私また倒れたの?」

「貧血で気を失ってらっしゃいました。
お立ちになれますか?」

カミュンは、ティルリッチに歩み寄ると、彼女を抱き起こしている。

「あいついいよな。
次から次に、綺麗どころに望まれてさ。」

ガルンティスが羨ましそうに、カミュンを見つめた。
確かに、彼女はとても綺麗な人。
カミュンが、大事にするのもわかる。

でも・・・。
何度見ても、私に背を向けて彼女のところへ行く彼の姿は胸に刺さってくる。

もう嫌だ。
なんなのこれ。
私は、どうしちゃったの?
『行かないで。
戻ってきて。』
そう言いそうになるのを、耐えるばかり。

そんな私の肩を、クロスノスが優しくポンと叩くと、クタヴィジャ姫の方を見る。

「クタヴィジャ姫、ハーティフのことそれから、黒竜のことを教えてください。」

と、言った。

「もちろん。
さあ、まずは茶会の席を設けましょう。
クロスノス様、よろしければ妾の隣へ。」

「ありがとうございます、喜んで。」

クタヴィジャ姫は、ほんのりと頬を赤く染めて、私たちを茶会の部屋へと案内してくれる。
クロスノスも、紳士らしく見事なエスコートをしていた。

「あいつ・・・!
おい、リタ。
女は、みんなあんな美形ばかり選ぶものか?
不公平だと思わないか?」

私は、目の前にやって来たガルンティスに、詰め寄られて困惑した。

「え、えっと、ガルンティスも姫が美人だからいいんでしょ?」

「そりゃ、美人はいいものだ。
選ぶ時はな。
でも、選ばれる側になった途端、容姿がものを言うだろ。」

「じ、じゃ、私の隣へどうぞ。」

私はそう言ってクシャミをして人の姿に戻ると、ガルンティスの隣を歩いた。

「よし、俺もエスコートしてやるぞ、リタ。
お前はこの中で一番の美人だからな。
あのムカつく天族の色男が来る前に、俺様もいい思いをしたいからなぁ。」

ガルンティスが手を揉みながら腕を組もうとして、私の方を見たんだけど、

「早く行こうぜー。
後ろが詰まってるんだよ。」

後ろから、ティルリッチを抱えたままのカミュンが、私を押すように早歩きでやってきた。

ぐいぐい押されて、ガルンティスが遠ざかる。

「お、お前なぁ!
お前は一人腕に抱えてるじゃねぇか!
ムカつく野郎だな!!」

ガルンティスが後ろから吠え続けてた。
な、何?
何で押すの?
カミュンは澄ましたまま。
ティルリッチは目を細めて、彼を見てる。

私の前にはアシェリエルがいて、押されて歩く私の手を取ると、

「リタ、私がエスコートしよう。」

と、言ってさりげなく腕を組まされた。
こ、こんなふうに男の人と、歩いたことない。

自然と顔が赤くなる。

「可愛いな、リタ。
そんなに恥ずかしがるな。」

アシェリエルが、そんな私を見てふっと笑う。
戸惑う私をエスコートしている、アシェリエルの後ろから低い声がした。

「・・・なんのつもりだ、お前。」

カミュンが、アシェリエルを睨んでいる。

「なんの話だ。
お前の役目は、ティル様の護衛と天界まで送ること。
リタをそばで守る役目は、私が天王様から王命をいただいている。
『オロイヤ・メイ・ウル・オダーの契約』は、命じた王にしか解呪出来ぬ。」

アシェリエルも振り向くと、カミュンに冷徹な眼差しを送っている。

二人の間には、火花が散ってるみたい。
『オロイヤ・メイ・ウル・オダーの契約』とは、なんだろう。

「守る?
アシェリエル、お前が守っているのは、本当にリタか?」

カミュンが怖い目をして言う。

「何が言いたい?」

アシェリエルも応戦の構えだ。

「リタは常に、自分から危険に身を晒さざるを得ない状況が続いている。
まるで誰かに力を試されているようだ。」

「考えすぎだ。
しかし、この手に怪我を負わせたのは申し訳なかった。
リタ、許してくれ。」

カミュンの疑問をさらりと受け流すと、アシェリエルは優しく私の手を持ち上げて、手の甲に軽く口付けしてきた。

・・・!!!

思わず肩が跳ねて、耳まで赤くなる。
ちょ・・・ちょっと待って。

「アシェリエル!」

カミュンの声に、アシェリエルは、

「互いに任務を果たすのだろう?
これも任務だ。何を殺気だっている?
リタ、今度から怪我を負わせてしまった時は、こうして謝罪させてくれ。」

と言って、私と腕を組んだまま、一緒に歩き出した。

「カミュン、放っておきなさい。
ちゃんと私を見ていて、ね?」

後ろから、ティルリッチの甘えるような声が聞こえてくる。
アシェリエルが私と組んだ腕に、力が入るのが伝わってきた。

まるでお互いに見せつけてるみたい・・・。

「さっさと奪い返しに来ればいいものを・・・。
馬鹿な混血だ。」

アシェリエルが、ボソリと呟いて歩いている。
私は、ますます戸惑って彼を見上げた。

後ろから、カミュンの視線が背中に刺さる中、クロスノスたちの後ろをついていった。

私たちは促されるまま、茶会の席が設けられた部屋に通される。

き、切り替えなくっちゃ。
大事な話を聞くのだから。

全員が席に着くと、クタヴィジャ姫は静かに語り始めた。

「ハーティフと戦ってわかったことは、戦いが長引くほど、どんどん強くなることです。
彼女との戦いは長期戦になってはいけません。」

私はそう言われて、生唾を飲み込んだ。

成長する力を身につけた怪物・・・。
知性と力を両方持つ恐ろしい敵。

「そんな彼女もリタ、あなたのことは恐れています。
あなたの持つ黒竜の力は、秩序の外側にある混沌の力。
ハーティフがどれだけ力を高めようと、秩序と無の神の制限を受けた精霊の力を行使するしかないのです。」

クタヴィジャ姫は、真剣な目で私を見た。

「わ、私は・・・、黒竜がどんなものか知らないのです。
生まれてからずっと、人の姿と、狼の姿にしか変わったことがありません。」

と、私は言う。

だってそうだから。
黒竜を感じたことなんかない。

「多くの漆黒の狼たちはそうでしょう。
己が黒竜と知らずに、寿命を迎えるか、狩られて命を落とすかの方が多いのです。」

と言ってクタヴィジャ姫は、紅茶を口に運ぶと一口飲んだ。

「クタヴィジャ姫は、どうしてお詳しいんですか?」

私が尋ねると、

「妾は、1,500歳なのです。
あなたの先代の漆黒の狼、アムの友でした。
アムを通して漆黒の狼を知ったのです。」

と、答えた。

「アム・・・。」

「漆黒の狼は、千年ごとに混沌の神より直接生まれ出て、雄は『アム』、雌は『リタ』と必ず名付けられます。
闇の商人たちも、このことは知っています。」

それを聞いて、私はゴルボスを思い出した。

「何のために、漆黒の狼は生まれるのです?」

クロスノスが、尋ねると、

「定説では神が千年ごとにこの世を観察して、必要とあらば滅ぼすためだと言われています。
それで、破壊神と呼ばれることもあります。
でも、私はアムを見ていてそればかりではないと思いました。」

と、クタヴィジャ姫は話す。

「つまり?」

「漆黒の狼は、『循環』を促すため、そして『淀み』を取り除く歯車の一つだと、思うのです。」

クタヴィジャ姫その言葉に、全員が俯いた。

え・・・何?
循環?
淀み?

「それはどういう・・・。」

私が身を乗り出すと、クロスノスが私の方を見て、説明し始めた。

「例えば100のエネルギーを神が精霊を通じて流してきたら、この世を巡ったその100のエネルギーは、いずれ神の元へと還っていくわけです。
これが『循環』です。」

「ええ。」

「しかし、その流れが順調にいかないこともある。
『淀み』はその最大の原因の一つ。
それを解決するために定期的に生み出されるのが・・・漆黒の狼ではないかと、クタヴィジャ姫はおっしゃりたいのです。」

と、クロスノスが言った。
滞った川の流れを良くして、海に流すようなものかしら。
海はまた、雨として水を降らせてくれる。

「先代の漆黒の狼、アムの時も?」

レティシアがクタヴィジャ姫に尋ねた。

「アムが生きた時代は、天変地異や疫病が多く起こっていました。
それは次元を超えて様々な場所で、頻発していたのです。」

と、彼女は答えて腕を一振りすると、机の上にその時の場面が映し出された。


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