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アホな婚約者よさようなら2
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カーティス王子との結婚式も無事に終えて、私は王宮の妃用の部屋に入った。
新しい部屋でくつろいでいると、ヘヤトのドアがノックされる。
「どうぞ。」
私の返事を聞いて、王室の侍女の筆頭『マダム・バトゥ』が入ってきた。
なにやら、険しい顔をしている。
「お妃様、この国は広く国民の声を聞くために、城下に投書箱を設置しておりますが、同一人物と思われる相手から大量の投書がございます。
お心当たりがおありでは?」
と、言う。
ま、まさか・・・。
マダム・バトゥは、一枚の紙を取り出して私に渡してきた。
「他の投書内容もほぼ同じですので、ご確認を。」
そう言われて、恐る恐る受け取って開くと、明らかにあのバノンからと思われる内容だった。
『エリザベス、帰ってきてくれ。
本当にごめん。
僕は心を入れ替えて待っている。
聞いて欲しいことが沢山あるんだ。
君は去り、他の女性たちはみんな離れていった。
つまり、きみが戻ってきてくれれば、彼女たちも戻ってくるということだ。
ねぇ、やり直そう。
君の幸せは僕がいることだ。
だろ?』
・・・はぁ。
なんてやつ。
心を入れ替えたなんて、何を入れ替えたんだろう。
深呼吸したくらいなのではないかしら。
とにかくこのままにしておけない。
まだ、彼は諦めていないのだから。
「このことは、カーティス王子はご存知?」
私が顔を上げて尋ねると、マダム・バトゥは頷いた。
「心を痛めておいでです。
お妃様、このままではいけません。
なんとかしないと。」
と、言う。
・・・まったく。
女性たちをつまみ食いする立場を取り返したいだけの男に、何が効果的なのか。
あれだけはっきり言ったのに、なぜ私が応えるなんて思うのだろう。
・・・そうか。
私は彼の中では、『母親』なんだった。
我が子のために尽くしまくる、理想の母親。
まったく虫唾が走る。
なぜ自分の母親に頼らない。
私は他人なのに。
母親といえば、彼のお母様もなかなか強者だったな。
親子そっくり。
ということは、この状況に役に立ってはもらえない。
それならば・・・。
私は、カーティス王子の部屋を訪ねた。
彼は私を心配して、
「大丈夫か?
バノンといえばあの元婚約者だろう?」
と、言った。
「はい、お騒がせしてすみません。
あの、私に考えがあるので、この件は私にお任せくださいませ。」
と、私が言うと、彼は怪訝な顔をした。
「それは構わないが・・・。
何をするつもりだ?」
「私は母親ではないことを、彼に気づいてもらいます。
いえ、理解してもらわないと。」
私はそういうと、バノンをある場所へ呼び出した。
そこは、この国でも有名なお花畑。
「エリザベス!」
と、そこへバノンがきた。
彼は未だに、酔い続ける呪いがかかったまま、ふらふらしながら、近寄ってくる。
「嬉しいな・・・。
僕の願いを聞いてくれるんだね。」
そう言って抱きつこうとするので、素早く体をかわした。
彼は前につんのめって、そのままこける。
「いて!!」
私はそんな彼を見ながら、
「先に言っておきますわ、バノン。
私はあなたの母親ではありません。
そしてもはや人妻。
ここへきたのは、あなたにもう付き纏われたくないから。」
と、言った。
「なら、どうしろってんだよ?
え?
僕が詰んだ花々はもう、手元から離れていった。
誰一人僕に構わない。
やれ、浮気だ。
やれ、裏切り者だと。
責められてばかりなんだ。」
「好き勝手に相手を弄ぶからでしょう。
あなたが花に例えた女性たちは、あなたと同じく自分の意志や感情があるのです。
なのに、あなたはまるで相手にはそんなものがないかのように振る舞った。
あなた自身は、彼女たちの気持ちを尊重することはあったんですか?」
「うるさい!
そんなの、面倒くさいじゃないか!
疲れるし、つまらないし。
僕は我慢は嫌いだ。
特に女性には、かっこよく思われたいんだよ!
我慢せず人に命令する。
これが一番かっこいい!!」
バノンはそういうと、仰向けになって、げたげた笑い始めた。
「エリザベス、僕は君から離れないよ。
君は一生僕の面倒をみるんだ。
僕がして欲しいことを、ただやってくれる。
そんな素敵な、いや、それしか君にはできない!
それが君の存在意義だから!!」
狂ったように笑い出すバノンの口に、扇子をパチンと投げつける。
「それは無いわ。
と、いうかそのヘンテコな存在意義は、どこにも通用しないわよ。
ね、バノン。
あなたは今、自分が赤ちゃんだと宣言したようなものなのよ?」
「なに!?」
「赤ちゃんは、お願いするしかできないの。
だって自分の世話ができないから。
ねぇ、ボクー?
何もできないんでちゅよねー?」
「この・・・!!
舐めるな!
僕は大人だ!!
なんでもできる!」
「一生私に面倒見て欲しいのよね?
そんなに何も一人でできない赤ちゃんなの?
女性と付き合う前に、まずはミルクなの?」
「エリザベスー!!
侮辱するな!
言っていいことと、悪いことがあるだろう!」
「じゃ、あなたは自分で解決できる大人なのね?」
「当然だ!!」
「じゃ、私の助けはいらないわね。」
「な・・・!あ!!」
「それとも、おしゃぶりがいいでちゅかー?」
「いるか!
君の助けなんか!!
なんてやつだ・・・!
こんな、こんな最低な女を、僕は・・・!
母親と思って大事になんて、できない!!」
「あなたのいう大事は、私に甘えまくることよね?」
「母親と思うとはそういうことだろ!?」
「哺乳瓶がいるようね?」
「まだ言うか!!
僕の言いなりになれと言ってるのに!!
頭の悪い女だな!!」
「嫌よ。」
「逆らうのか!?」
「なんで私のご主人様みたいになってるの?
あなたと主従関係を結んだ覚えはないわ。
あなたは元婚約者に過ぎない。
かつて、私の家のお金であなたが他の女性と遊んだ費用を賄わせて、私の友達を弄び、私の妹まで紹介しろと迫った、かつてのね。」
「何が悪いんだ?」
「本気で言ってる?
よっぽど舐められてるのね、私。
では、しつけさせてもらうわ。
私は母親なんでしょ?」
私は彼に書類を渡した。
「他の女性たちと働いた不貞行為による精神的苦痛を与えた慰謝料と、あなたが遊んだお金立て替え分、そして私に対する暴言の謝罪を要求します。」
「ちょ・・・と?」
「あなたは、自分がしたことがわからないようだから書面にしたの。
あなたも弁護士を立てたいなら立てればいい。
私はこの件を争う覚悟できた。
結婚を機にあなたがしてきたことを、何も責めずに忘れてあげようとしたのに、わざわざあなたが掘り起こすのだもの。
私は当時の領収書や、付き合っていた女性たちからの証言もちゃんと取っている。
さあ、バノン。
このまま去るか、私と法廷で戦うか。」
「エリザベス・・・怖いこと言うなよ。」
「虎の尾を踏んだ以上、あなたも覚悟してきたものと思ってるわ。
あなたを大人扱いしてるのよ?バノン。
それとも、私がこの醜聞で王妃の座を追われることに怯えて、あなたの言うことを聞くと思ってた?」
「・・・。」
「バノン?」
「もういい・・・。
なんだよ・・・まるで他人じゃないか。
僕の財布であり、母親であり、僕の召使いだったはずの君が、意思を持つなんて・・・。
世も末だな。」
「あなたの考え方そのものが世も末よ。」
「二度と顔を見せるな、エリザベス。
お前なんか捨ててやる。
僕を失った苦しみを味わいながら、暮らすといい!」
バノンはそう言うと、そのまま歩き去っていった。
「顔を見せるな・・・か。
初めて意見が合ったわね、バノン。
ま、こうなるとわかってたんだけど。」
私は落ちていた扇子を拾って、待たせていた馬車に乗った。
「お妃様、ご無事でようございました。」
マダム・バドゥが心配そうに話しかける。
「もう、彼は何もしないわ。
帰りましょ。」
私は馬車に揺られながら帰路についた。
その後、風の噂では、バノンは新しい恋人を見つけて、その人と今揉めていると聞いた。
ご苦労様・・・。
私はそれっきり彼を思い出すことはなかった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございました。
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次回作は、『人身御供の乙女は、放り込まれた鬼の世界で、超絶美形の鬼の長に溺愛されて人生が変わりました』です。
現在公開中です。
※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
新しい部屋でくつろいでいると、ヘヤトのドアがノックされる。
「どうぞ。」
私の返事を聞いて、王室の侍女の筆頭『マダム・バトゥ』が入ってきた。
なにやら、険しい顔をしている。
「お妃様、この国は広く国民の声を聞くために、城下に投書箱を設置しておりますが、同一人物と思われる相手から大量の投書がございます。
お心当たりがおありでは?」
と、言う。
ま、まさか・・・。
マダム・バトゥは、一枚の紙を取り出して私に渡してきた。
「他の投書内容もほぼ同じですので、ご確認を。」
そう言われて、恐る恐る受け取って開くと、明らかにあのバノンからと思われる内容だった。
『エリザベス、帰ってきてくれ。
本当にごめん。
僕は心を入れ替えて待っている。
聞いて欲しいことが沢山あるんだ。
君は去り、他の女性たちはみんな離れていった。
つまり、きみが戻ってきてくれれば、彼女たちも戻ってくるということだ。
ねぇ、やり直そう。
君の幸せは僕がいることだ。
だろ?』
・・・はぁ。
なんてやつ。
心を入れ替えたなんて、何を入れ替えたんだろう。
深呼吸したくらいなのではないかしら。
とにかくこのままにしておけない。
まだ、彼は諦めていないのだから。
「このことは、カーティス王子はご存知?」
私が顔を上げて尋ねると、マダム・バトゥは頷いた。
「心を痛めておいでです。
お妃様、このままではいけません。
なんとかしないと。」
と、言う。
・・・まったく。
女性たちをつまみ食いする立場を取り返したいだけの男に、何が効果的なのか。
あれだけはっきり言ったのに、なぜ私が応えるなんて思うのだろう。
・・・そうか。
私は彼の中では、『母親』なんだった。
我が子のために尽くしまくる、理想の母親。
まったく虫唾が走る。
なぜ自分の母親に頼らない。
私は他人なのに。
母親といえば、彼のお母様もなかなか強者だったな。
親子そっくり。
ということは、この状況に役に立ってはもらえない。
それならば・・・。
私は、カーティス王子の部屋を訪ねた。
彼は私を心配して、
「大丈夫か?
バノンといえばあの元婚約者だろう?」
と、言った。
「はい、お騒がせしてすみません。
あの、私に考えがあるので、この件は私にお任せくださいませ。」
と、私が言うと、彼は怪訝な顔をした。
「それは構わないが・・・。
何をするつもりだ?」
「私は母親ではないことを、彼に気づいてもらいます。
いえ、理解してもらわないと。」
私はそういうと、バノンをある場所へ呼び出した。
そこは、この国でも有名なお花畑。
「エリザベス!」
と、そこへバノンがきた。
彼は未だに、酔い続ける呪いがかかったまま、ふらふらしながら、近寄ってくる。
「嬉しいな・・・。
僕の願いを聞いてくれるんだね。」
そう言って抱きつこうとするので、素早く体をかわした。
彼は前につんのめって、そのままこける。
「いて!!」
私はそんな彼を見ながら、
「先に言っておきますわ、バノン。
私はあなたの母親ではありません。
そしてもはや人妻。
ここへきたのは、あなたにもう付き纏われたくないから。」
と、言った。
「なら、どうしろってんだよ?
え?
僕が詰んだ花々はもう、手元から離れていった。
誰一人僕に構わない。
やれ、浮気だ。
やれ、裏切り者だと。
責められてばかりなんだ。」
「好き勝手に相手を弄ぶからでしょう。
あなたが花に例えた女性たちは、あなたと同じく自分の意志や感情があるのです。
なのに、あなたはまるで相手にはそんなものがないかのように振る舞った。
あなた自身は、彼女たちの気持ちを尊重することはあったんですか?」
「うるさい!
そんなの、面倒くさいじゃないか!
疲れるし、つまらないし。
僕は我慢は嫌いだ。
特に女性には、かっこよく思われたいんだよ!
我慢せず人に命令する。
これが一番かっこいい!!」
バノンはそういうと、仰向けになって、げたげた笑い始めた。
「エリザベス、僕は君から離れないよ。
君は一生僕の面倒をみるんだ。
僕がして欲しいことを、ただやってくれる。
そんな素敵な、いや、それしか君にはできない!
それが君の存在意義だから!!」
狂ったように笑い出すバノンの口に、扇子をパチンと投げつける。
「それは無いわ。
と、いうかそのヘンテコな存在意義は、どこにも通用しないわよ。
ね、バノン。
あなたは今、自分が赤ちゃんだと宣言したようなものなのよ?」
「なに!?」
「赤ちゃんは、お願いするしかできないの。
だって自分の世話ができないから。
ねぇ、ボクー?
何もできないんでちゅよねー?」
「この・・・!!
舐めるな!
僕は大人だ!!
なんでもできる!」
「一生私に面倒見て欲しいのよね?
そんなに何も一人でできない赤ちゃんなの?
女性と付き合う前に、まずはミルクなの?」
「エリザベスー!!
侮辱するな!
言っていいことと、悪いことがあるだろう!」
「じゃ、あなたは自分で解決できる大人なのね?」
「当然だ!!」
「じゃ、私の助けはいらないわね。」
「な・・・!あ!!」
「それとも、おしゃぶりがいいでちゅかー?」
「いるか!
君の助けなんか!!
なんてやつだ・・・!
こんな、こんな最低な女を、僕は・・・!
母親と思って大事になんて、できない!!」
「あなたのいう大事は、私に甘えまくることよね?」
「母親と思うとはそういうことだろ!?」
「哺乳瓶がいるようね?」
「まだ言うか!!
僕の言いなりになれと言ってるのに!!
頭の悪い女だな!!」
「嫌よ。」
「逆らうのか!?」
「なんで私のご主人様みたいになってるの?
あなたと主従関係を結んだ覚えはないわ。
あなたは元婚約者に過ぎない。
かつて、私の家のお金であなたが他の女性と遊んだ費用を賄わせて、私の友達を弄び、私の妹まで紹介しろと迫った、かつてのね。」
「何が悪いんだ?」
「本気で言ってる?
よっぽど舐められてるのね、私。
では、しつけさせてもらうわ。
私は母親なんでしょ?」
私は彼に書類を渡した。
「他の女性たちと働いた不貞行為による精神的苦痛を与えた慰謝料と、あなたが遊んだお金立て替え分、そして私に対する暴言の謝罪を要求します。」
「ちょ・・・と?」
「あなたは、自分がしたことがわからないようだから書面にしたの。
あなたも弁護士を立てたいなら立てればいい。
私はこの件を争う覚悟できた。
結婚を機にあなたがしてきたことを、何も責めずに忘れてあげようとしたのに、わざわざあなたが掘り起こすのだもの。
私は当時の領収書や、付き合っていた女性たちからの証言もちゃんと取っている。
さあ、バノン。
このまま去るか、私と法廷で戦うか。」
「エリザベス・・・怖いこと言うなよ。」
「虎の尾を踏んだ以上、あなたも覚悟してきたものと思ってるわ。
あなたを大人扱いしてるのよ?バノン。
それとも、私がこの醜聞で王妃の座を追われることに怯えて、あなたの言うことを聞くと思ってた?」
「・・・。」
「バノン?」
「もういい・・・。
なんだよ・・・まるで他人じゃないか。
僕の財布であり、母親であり、僕の召使いだったはずの君が、意思を持つなんて・・・。
世も末だな。」
「あなたの考え方そのものが世も末よ。」
「二度と顔を見せるな、エリザベス。
お前なんか捨ててやる。
僕を失った苦しみを味わいながら、暮らすといい!」
バノンはそう言うと、そのまま歩き去っていった。
「顔を見せるな・・・か。
初めて意見が合ったわね、バノン。
ま、こうなるとわかってたんだけど。」
私は落ちていた扇子を拾って、待たせていた馬車に乗った。
「お妃様、ご無事でようございました。」
マダム・バドゥが心配そうに話しかける。
「もう、彼は何もしないわ。
帰りましょ。」
私は馬車に揺られながら帰路についた。
その後、風の噂では、バノンは新しい恋人を見つけて、その人と今揉めていると聞いた。
ご苦労様・・・。
私はそれっきり彼を思い出すことはなかった。
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読んでくださってありがとうございました。
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