全人格ハッキング事件〜記憶の追跡者が見たもの

たからかた

文字の大きさ
1 / 14

全人格ハッキング事件〜記憶の追跡者が見たもの  第一話

しおりを挟む
振子や車のウインカー。
時々それらが、他の振子やウインカーと同じタイミングで動く現象を見つけることがある。
周期の同期とか聞くけど、昔は本当に不思議だった。
しばらくすると、またそれぞれのペースで動くようになる。
そんなふうに何かと同期することが、
他のことでも起こるかも知れない。
ある日。突然。

「おはようございます!」
大きな声で、職場のみんなに挨拶する。
ここは、とある現象を研究する研究所『ナタアナヤ』。
主なメンバーは
所長の凱伝
メカニック アレハンドロ
研究員 サシャ
調査員 マイケル
そしてこの私、貝原 葉子。

ここは、
通称「全人格ハッキング事件」「傀儡化事件」「ジャンクション事件」などと呼ばれている犯罪行為を研究する機関だ。
他人の意識を故意に奪い、犯罪に加担させるもので、最近頻発している。


被害者に自覚はないが、犯罪行為そのものは、眠れる記憶として意識の奥深くに沈んでいる。

犯罪者は意識をハッキングはしても、記憶を抜き取ることはできない。
つまり、事件のあらましは被害者自身が握っていることになる。

私の役目は、被害者の記憶にアクセスして、その軌跡を辿ること。
何を見、何をして、いつからそうなったのか。
そして、何がきっかけで元に戻るのか。
とても危険な「追跡者」と呼ばれる仕事をしている。
脳はまだ不明なことが多いもので、下手に覗くと、相手の脳に異物として攻撃され、命を落とすこともあるのだ。

「おはようございます。今日の被験者は、わかっているな?貝原。」
凱伝所長が太い眉を上げてこちらを見る。
仕事には厳しいが、指導が上手だから、ストレスや圧を感じない理想的な上司だ。
「はい。所長。」
私は姿勢を正して、所長を見る。

「たくさん情報を集めてね。」
そう言ったのは、研究員のサシャだ。
日系インド人の妖艶な美女で、優秀だが、物言いが冷たい。
所長が気に入って引き抜いてきた逸材だと言う。
「少しでも早く解決するために、
貝原さんにお願いしたいと言うことですよね?サシャさん。貝原さんは凄腕だから」
そういったのは、調査員のマイケル。

すらりとしたスタイルで、品のいい
イギリス人の男性だ。
サシャの言葉の冷たさをマイルドに包んで伝えてくれる。
そこへ、ドアが開く音がした。
「お客様です。」
受付の職員が顔を出す。

こんな人たちに囲まれて、日々の仕事に不満はない。
働きやすい、いい職場だ。
そして、これから、私の仕事が始まる。

今日の被験者は、会社員の「眉山 卓」と言う優秀なプログラマーの男性。
最近横領事件を起こし、会社に訴えられていた。
本人は全く覚えがないと主張。しかし監視カメラには、彼が会社の資金を横領して、別の口座へ入金している姿が映っており、
パソコンにも履歴があった。

彼自身その口座に覚えがなく、意識が乗っ取られたことによる記憶の欠落を訴え、この研究所に検査に来たのだ。

まずはマイケルが、彼を待合室に通して、簡単に問診を行う。
その後同意書にサインさせてから、彼の脳の状態を調べるため検査室に通す。
その間にこちらは支度する。

被験者の意識へとアクセスするための
高機能装置『ナハカ』。
凱伝所長と、昔の研究仲間が仕組みを考え、作り上げたものだと言う。
そのナハカを管理し、操作するのがメカニックのアレハンドロだ。
寡黙な彼は、喋るのが不得手なメキシコ人で、とても優しく丁寧な人だった。

専用のスーツを着て、ナハカの機械の中に入る。
中は繭のような構造になっており、横になるとそこかしこから、全身に向かって糸のような繊維が伸びてきて絡まる。
ちょうど、蜘蛛の糸にからまった虫のようになるのだ。
一つ一つの糸はナノマシンで構成されたセンサーで、あらゆる情報を伝えてくれる。

「貝原さん、ご気分は?」
アレハンドロがボソリと聞いてくる。
彼の持つタブレットには、私の血圧や心拍数、血中酸素濃度など、バイタル値が表示され、異常がないかを監視している。
「今日も、クモに襲われる虫の気分です。」
私はおどけながらいつものように答えた。

アレハンドロは、クスリと笑うと、後ろの別室に控えるサシャを窓越しに見る。
サシャは、管理室でモニターをみながら、マイケルに連絡をとった。

マイケルは、連絡を受けて検査を終えた眉山に、移動を告げる。

長い廊下を抜け、マイケルは眉山を連れてナハカのある部屋へやってくる。
眉山はマイケルから説明を受けると、
別室で専用のスーツを纏い、もう一つのナハカの部屋に入っていった。
アレハンドロに誘導され、横になって目を閉じる。
被験者が恐怖を感じたり緊張感しないよう、あらかじめ遅効性の睡眠薬を飲ませているので、眉山はそのままぐっすり眠ってしまった。

アレハンドロがナハカから出ると、ナハカの糸が眉山にからまり、包まれていく。
眉山のバイタル値がタブレットに送信されてきて、数値を確認したアレハンドロが、サシャの方を見て手を上げた。

「いよいよだな。」
そう言いながら、モニター室に凱伝所長が入ってくる。
サシャは頷くと、起動ボタンを押した。
「ダイブ開始。」
マイクからサシャの声が聞こえて、私は目を閉じる。
いよいよ被験者の意識に飛び込むのだ。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

読んでくださってありがとうございました。
お気に召したら、ブックマーク登録してくださるとうれしいです♫ とても励みになります。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

処理中です...