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全人格ハッキング事件〜記憶の追跡者が見たもの 第一話
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振子や車のウインカー。
時々それらが、他の振子やウインカーと同じタイミングで動く現象を見つけることがある。
周期の同期とか聞くけど、昔は本当に不思議だった。
しばらくすると、またそれぞれのペースで動くようになる。
そんなふうに何かと同期することが、
他のことでも起こるかも知れない。
ある日。突然。
「おはようございます!」
大きな声で、職場のみんなに挨拶する。
ここは、とある現象を研究する研究所『ナタアナヤ』。
主なメンバーは
所長の凱伝
メカニック アレハンドロ
研究員 サシャ
調査員 マイケル
そしてこの私、貝原 葉子。
ここは、
通称「全人格ハッキング事件」「傀儡化事件」「ジャンクション事件」などと呼ばれている犯罪行為を研究する機関だ。
他人の意識を故意に奪い、犯罪に加担させるもので、最近頻発している。
被害者に自覚はないが、犯罪行為そのものは、眠れる記憶として意識の奥深くに沈んでいる。
犯罪者は意識をハッキングはしても、記憶を抜き取ることはできない。
つまり、事件のあらましは被害者自身が握っていることになる。
私の役目は、被害者の記憶にアクセスして、その軌跡を辿ること。
何を見、何をして、いつからそうなったのか。
そして、何がきっかけで元に戻るのか。
とても危険な「追跡者」と呼ばれる仕事をしている。
脳はまだ不明なことが多いもので、下手に覗くと、相手の脳に異物として攻撃され、命を落とすこともあるのだ。
「おはようございます。今日の被験者は、わかっているな?貝原。」
凱伝所長が太い眉を上げてこちらを見る。
仕事には厳しいが、指導が上手だから、ストレスや圧を感じない理想的な上司だ。
「はい。所長。」
私は姿勢を正して、所長を見る。
「たくさん情報を集めてね。」
そう言ったのは、研究員のサシャだ。
日系インド人の妖艶な美女で、優秀だが、物言いが冷たい。
所長が気に入って引き抜いてきた逸材だと言う。
「少しでも早く解決するために、
貝原さんにお願いしたいと言うことですよね?サシャさん。貝原さんは凄腕だから」
そういったのは、調査員のマイケル。
すらりとしたスタイルで、品のいい
イギリス人の男性だ。
サシャの言葉の冷たさをマイルドに包んで伝えてくれる。
そこへ、ドアが開く音がした。
「お客様です。」
受付の職員が顔を出す。
こんな人たちに囲まれて、日々の仕事に不満はない。
働きやすい、いい職場だ。
そして、これから、私の仕事が始まる。
今日の被験者は、会社員の「眉山 卓」と言う優秀なプログラマーの男性。
最近横領事件を起こし、会社に訴えられていた。
本人は全く覚えがないと主張。しかし監視カメラには、彼が会社の資金を横領して、別の口座へ入金している姿が映っており、
パソコンにも履歴があった。
彼自身その口座に覚えがなく、意識が乗っ取られたことによる記憶の欠落を訴え、この研究所に検査に来たのだ。
まずはマイケルが、彼を待合室に通して、簡単に問診を行う。
その後同意書にサインさせてから、彼の脳の状態を調べるため検査室に通す。
その間にこちらは支度する。
被験者の意識へとアクセスするための
高機能装置『ナハカ』。
凱伝所長と、昔の研究仲間が仕組みを考え、作り上げたものだと言う。
そのナハカを管理し、操作するのがメカニックのアレハンドロだ。
寡黙な彼は、喋るのが不得手なメキシコ人で、とても優しく丁寧な人だった。
専用のスーツを着て、ナハカの機械の中に入る。
中は繭のような構造になっており、横になるとそこかしこから、全身に向かって糸のような繊維が伸びてきて絡まる。
ちょうど、蜘蛛の糸にからまった虫のようになるのだ。
一つ一つの糸はナノマシンで構成されたセンサーで、あらゆる情報を伝えてくれる。
「貝原さん、ご気分は?」
アレハンドロがボソリと聞いてくる。
彼の持つタブレットには、私の血圧や心拍数、血中酸素濃度など、バイタル値が表示され、異常がないかを監視している。
「今日も、クモに襲われる虫の気分です。」
私はおどけながらいつものように答えた。
アレハンドロは、クスリと笑うと、後ろの別室に控えるサシャを窓越しに見る。
サシャは、管理室でモニターをみながら、マイケルに連絡をとった。
マイケルは、連絡を受けて検査を終えた眉山に、移動を告げる。
長い廊下を抜け、マイケルは眉山を連れてナハカのある部屋へやってくる。
眉山はマイケルから説明を受けると、
別室で専用のスーツを纏い、もう一つのナハカの部屋に入っていった。
アレハンドロに誘導され、横になって目を閉じる。
被験者が恐怖を感じたり緊張感しないよう、あらかじめ遅効性の睡眠薬を飲ませているので、眉山はそのままぐっすり眠ってしまった。
アレハンドロがナハカから出ると、ナハカの糸が眉山にからまり、包まれていく。
眉山のバイタル値がタブレットに送信されてきて、数値を確認したアレハンドロが、サシャの方を見て手を上げた。
「いよいよだな。」
そう言いながら、モニター室に凱伝所長が入ってくる。
サシャは頷くと、起動ボタンを押した。
「ダイブ開始。」
マイクからサシャの声が聞こえて、私は目を閉じる。
いよいよ被験者の意識に飛び込むのだ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
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周期の同期とか聞くけど、昔は本当に不思議だった。
しばらくすると、またそれぞれのペースで動くようになる。
そんなふうに何かと同期することが、
他のことでも起こるかも知れない。
ある日。突然。
「おはようございます!」
大きな声で、職場のみんなに挨拶する。
ここは、とある現象を研究する研究所『ナタアナヤ』。
主なメンバーは
所長の凱伝
メカニック アレハンドロ
研究員 サシャ
調査員 マイケル
そしてこの私、貝原 葉子。
ここは、
通称「全人格ハッキング事件」「傀儡化事件」「ジャンクション事件」などと呼ばれている犯罪行為を研究する機関だ。
他人の意識を故意に奪い、犯罪に加担させるもので、最近頻発している。
被害者に自覚はないが、犯罪行為そのものは、眠れる記憶として意識の奥深くに沈んでいる。
犯罪者は意識をハッキングはしても、記憶を抜き取ることはできない。
つまり、事件のあらましは被害者自身が握っていることになる。
私の役目は、被害者の記憶にアクセスして、その軌跡を辿ること。
何を見、何をして、いつからそうなったのか。
そして、何がきっかけで元に戻るのか。
とても危険な「追跡者」と呼ばれる仕事をしている。
脳はまだ不明なことが多いもので、下手に覗くと、相手の脳に異物として攻撃され、命を落とすこともあるのだ。
「おはようございます。今日の被験者は、わかっているな?貝原。」
凱伝所長が太い眉を上げてこちらを見る。
仕事には厳しいが、指導が上手だから、ストレスや圧を感じない理想的な上司だ。
「はい。所長。」
私は姿勢を正して、所長を見る。
「たくさん情報を集めてね。」
そう言ったのは、研究員のサシャだ。
日系インド人の妖艶な美女で、優秀だが、物言いが冷たい。
所長が気に入って引き抜いてきた逸材だと言う。
「少しでも早く解決するために、
貝原さんにお願いしたいと言うことですよね?サシャさん。貝原さんは凄腕だから」
そういったのは、調査員のマイケル。
すらりとしたスタイルで、品のいい
イギリス人の男性だ。
サシャの言葉の冷たさをマイルドに包んで伝えてくれる。
そこへ、ドアが開く音がした。
「お客様です。」
受付の職員が顔を出す。
こんな人たちに囲まれて、日々の仕事に不満はない。
働きやすい、いい職場だ。
そして、これから、私の仕事が始まる。
今日の被験者は、会社員の「眉山 卓」と言う優秀なプログラマーの男性。
最近横領事件を起こし、会社に訴えられていた。
本人は全く覚えがないと主張。しかし監視カメラには、彼が会社の資金を横領して、別の口座へ入金している姿が映っており、
パソコンにも履歴があった。
彼自身その口座に覚えがなく、意識が乗っ取られたことによる記憶の欠落を訴え、この研究所に検査に来たのだ。
まずはマイケルが、彼を待合室に通して、簡単に問診を行う。
その後同意書にサインさせてから、彼の脳の状態を調べるため検査室に通す。
その間にこちらは支度する。
被験者の意識へとアクセスするための
高機能装置『ナハカ』。
凱伝所長と、昔の研究仲間が仕組みを考え、作り上げたものだと言う。
そのナハカを管理し、操作するのがメカニックのアレハンドロだ。
寡黙な彼は、喋るのが不得手なメキシコ人で、とても優しく丁寧な人だった。
専用のスーツを着て、ナハカの機械の中に入る。
中は繭のような構造になっており、横になるとそこかしこから、全身に向かって糸のような繊維が伸びてきて絡まる。
ちょうど、蜘蛛の糸にからまった虫のようになるのだ。
一つ一つの糸はナノマシンで構成されたセンサーで、あらゆる情報を伝えてくれる。
「貝原さん、ご気分は?」
アレハンドロがボソリと聞いてくる。
彼の持つタブレットには、私の血圧や心拍数、血中酸素濃度など、バイタル値が表示され、異常がないかを監視している。
「今日も、クモに襲われる虫の気分です。」
私はおどけながらいつものように答えた。
アレハンドロは、クスリと笑うと、後ろの別室に控えるサシャを窓越しに見る。
サシャは、管理室でモニターをみながら、マイケルに連絡をとった。
マイケルは、連絡を受けて検査を終えた眉山に、移動を告げる。
長い廊下を抜け、マイケルは眉山を連れてナハカのある部屋へやってくる。
眉山はマイケルから説明を受けると、
別室で専用のスーツを纏い、もう一つのナハカの部屋に入っていった。
アレハンドロに誘導され、横になって目を閉じる。
被験者が恐怖を感じたり緊張感しないよう、あらかじめ遅効性の睡眠薬を飲ませているので、眉山はそのままぐっすり眠ってしまった。
アレハンドロがナハカから出ると、ナハカの糸が眉山にからまり、包まれていく。
眉山のバイタル値がタブレットに送信されてきて、数値を確認したアレハンドロが、サシャの方を見て手を上げた。
「いよいよだな。」
そう言いながら、モニター室に凱伝所長が入ってくる。
サシャは頷くと、起動ボタンを押した。
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