全人格ハッキング事件〜記憶の追跡者が見たもの

たからかた

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全人格ハッキング事件〜記憶の追跡者が見たもの 第三話

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ナハカの前で、アレハンドロがタブレットを見ながら、無事に帰還してきたことを確認していた。
サシャが、
「ダイブ終了。異常なし。」
と宣言する。
目を開けると、ナハカの繭から伸びる糸がほどけて、戻っていくところが見えた。
実体に戻ってきてはいるが、すぐには動けない。私はヨガの呼吸法を実践して休む。

すぐに動けないのは、被験者も同じだ。訓練されていないぶん、意識を回復するまでに時間がかかる。
マイケルが被験者の状態を確認し、ストレッチャーに乗せて、回復室に運ぶ規定になっているから、今頃移動しているだろう。
眉山が目が覚めるまで、マイケルが傍に待機し、会議室で合流する予定だ。

この間に、サシャは転送されたデータを解析している。そろそろ、映像に変換されてスクリーンに投影されるはずだ。

所長とサシャがモニター室で話し合っている間に、私はようやく動けるようになった。
アレハンドロが水を持ってきてくれる。
飲み干して笑顔でお礼を言う。
「ありがとうございます。」
アレハンドロは、不器用に笑って
「生還できてよかった。その、事故の多い仕事だから。」
と、言った。
確かに追跡者は死亡率の高い仕事だ。

「私は死ねないの。
この仕事で死んだ弟の分まで頑張ると誓ったから。」

この仕事は元々双子の弟がやっていた。
しかし、最後のダイブで問題が発生して、そのまま実体に戻れず亡くなった。

だからこそ、自分は帰還する瞬間を逃さぬように神経を張っている。
幸運にも、まだ外したことはない。
これからも無事かはわからないが。

「所長たちは、どうかな?」
私はナハカを出ると、窓越しに話し合う所長とサシャを見る。
二人とも難しい顔をしている。
そんなに難しい案件かな?
追跡者を守るため、同化して得た情報はチップのみに記憶され、追跡者自身に残らない。
追跡者が内容を知るには、解析された情報を見るしかない。

他者の脳に侵入するダイブの技術は、元々医療分野で発展してきたものだ。
運動神経を損傷した患者と理学療法士の脳に、それぞれチップを埋め込む。チップを介して理学療法士の動きで、患者の身体を遠隔操作して動かすことで、新たな神経の発達を促すのが目的だった。

その技術が進み、意識や行動まで他人が動かせるようになって、現在に至る。
だが、意識のハッキングには危険が伴う。同化に失敗すると、相手の脳に攻撃されて犯罪者側が命を落とすことも多い。
また、同化できたとしても、下手な者だと支配下におくまで時間がかかり、被害者に失禁や意識喪失を引き起こす。

今回のハッキング犯がどこまでのレベルなのかは、これからわかるはずだ。
私は分析会議に出席するため、更衣室で服を着替え、会議室に入った。
会議への参加も、追跡者としての大事な仕事だ。

所長もサシャも厳しい顔をしている。
マイケルも入ってきた。
席に着くと、凱伝所長がスクリーンに分析情報を映し出していく。
「今回はいつもと違う。
被害者は、明らかに乗っ取りによる行動をとっているが」

「どうしました?」
マイケルが尋ねると、サシャが答える。
「自然に被害者をハッキング、自然に離れている
わ。繋ぎ目がほとんどわからないくらいに。
被害者には、意識喪失もその他の兆候も見られなかった」
「つまり?」
「相当凄腕の傀儡師だということだ。
そして、我々のナハカと同等かそれ以上のシステムを使っていると」
凱伝所長が答えた。

「傀儡師、て、ハッキング犯人を所長が呼ぶ時よく使いますね。」
マイケルがスクリーンを眺めながら呟く。
「まあ、俺から見たらそう見えるからだな。
いつもと違うと言ったのは、」
凱伝所長は、軽く顔をしかめたあと、一呼吸置いてから言った。
「被験者の脳腫瘍が治癒しているということだ」

所長の言葉に、サシャ以外の全員が息を呑む。
「腫瘍が治癒している?」
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