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全人格ハッキング事件〜記憶の追跡者が見たもの 第八話
しおりを挟む「お前を撃たせるな、貝原。
これからやることは、お前にしかできないことなんだ。」
すると、サシャが冷たい目をして所長を睨んだ。
「俺のときは冷酷に実験したくせに、随分お優しいな、所長」
「サシャを乗っ取ったのか、お前。」
所長がサシャを睨む。
「彼女は、己の頭脳を鼻にかけるタイプだからな。自身のスキャニングが甘いことに気づいてなかった。
自分は大丈夫だと過信していたんだ。
そこにつけいって、ナノマシンを打ち込んだまでだ」
サシャは、いや今は真となったサシャは続けた。
「彼女の体を使って色々探ろうとしたけど、あんたはガードが固かったな。
眉山を利用してやっと少し揺さぶれたが。」
「真なの?」
私が涙声で聞くと、サシャは寂しそうに笑う。
「そう。久しぶり、姉さん。」
涙が止まらない。
再会がこんな形だなんて。
「なんで?なんでこんなことするの?」
「俺は今、シュラトーの一員だからな。」
サシャは、淡々と言う。
その冷たい物言いに、こちらもムキになる。
「答えになってないよ!なによ、その言い方!!何をされたのよ、真!」
私は叫んだ。
「所長に聞けばいい。」
サシャは、吐き捨てるように言った。
「知的探究心に負けて何をしたのか、姉にも教えろよ、所長」
そう言われた凱伝所長は、俯いた。
黙り込んだ所長に、サシャは畳み掛ける。
「今から姉にも同じことをするんだ。
カッコつけるなよ。
娘さんを助けられないぞ。」
所長は、私をチラリと見て、苦しそうに話し始めた。
「ナハカと脳を完全結合させ、本人の意識を飛ばして・・・・ダイブ先の人間と、完全に一体化させるんだ。」
「いつもと、何が違うんですか?」
どういうことだろう。それは、いつも追跡者としてやってきたことだ。
わけがわからない。
「今までダイブしていたのは、ナハカがお前をスキャンして創り出した、精巧なアバターだ。
つまりお前は、アバターを操って情報を探っていたにすぎん。」
そう言われて私は驚いた。
アバター?そんな違和感は、一度も感じたことはない。
「ふだんのやり方は、ナハカとお前がつながってるわけじゃない。お前の脳神経がつながっているのは、あくまでアバターだ。」
「・・・それで?」
私は乾いた口をなんとか動かして尋ねる。
「人類の無意識はつながっている、という理論は知っているな?
ナハカとの完全結合というのはな・・・その無意識の海を渡って、全人類の脳にダイブできる方法だ。」
所長は淡々と続ける。
「まずはナハカと脳を完全に同化させてから、意識と無意識を切り離す。
そして無意識はナハカに残し、それを入り口にして、無意識の海へ意識を降下させる。全人類の脳と繋がる最奥層へ。
言い換えれば、魂を抜いてダイブさせる、ということになるな。」
所長の言葉に、汗が噴き出た。
「まさか、それで真は?!」
「所長は、いつでも誰にでも自由に同化できる存在、ってものに取り憑かれたんだ」
サシャの中の真は、怒りを抑えながら言う。
「そして、実験した。俺でな」
そう言われて、所長は座り込む。
「その通りだ。倫理なんてありゃしない。
ナハカの万能感に酔いしれて、やればできるという考えしかなかった。
それに、そばには真がいた。
追跡者として他にはない逸材だ。
ナハカと真の2つを前にして、自分の好奇心を抑えることなどできなかったんだ。」
凱伝所長は、片手で目を覆う。
「当時、俺と袂を分かった桂木博士がシュラトーを結成して、国際指名手配されていた。
ナハカでそこまでできるという秘密を、奴は知らない。
今なら真の意識を奴に飛ばして、逮捕させられる。
それに、ライバルにナハカの力を見せつけるいい機会だとも思った。
俺は真を騙し、ナハカに結合させた。」
そこまで聞くと、私は銃口を無視して近づき、所長の顔を思いっきりビンタした。
ゆるせない。真を!私のたった一人の弟を、実験の犠牲にするなんて・・・!
「かまわん・・・俺が悪い」
所長はすぐに銃を向け直したが、発砲はしなかった。
「実験は成功した。
真は、無意識の最深層を渡り、目標に到達した。
桂木博士は真に操られ、自首のような形で一度は逮捕された。
だが、全てを終えた真を、体に帰還させることが出来なかった。
何度還そうとしても、真の意識は弾き返され、
そのうち体が死んでしまったんだ。
俺が殺したも同然だ。」
私は所長を睨みつけた。
「戻れるかどうかまで考えなかったんですね。」
その言葉に所長が目を閉じる。
「送り出せるのだから戻れるとしか思わなかった。
肉体が死ぬ前、試しにサシャに乗り移らせると、彼女の中には入れた。
自分以外の人間にはダイブできるのだ。
それから、真が同化している状態のサシャと真の身体をナハカで繋いでみたが、ダメだった。
そこで気づいたよ。
ナハカは所詮機械だと。
明らかに真の意識で、真の魂だと我々は認識できるのに、機械であるナハカは、異物としか見なかった。
ナハカは霊的な繋がりを理解できない。それがナハカの限界だ。」
サシャは、遠い目をして聞いていたが、こちらに近づいてきた。
「ことの真相を知って、俺は激怒したよ。
尽くしてきた俺を、モルモット扱いしたんだからな。
俺はナタアナヤから離反し、桂木博士を脱獄させた。
正直、焦ってずいぶん強引な策も使ったよ。
実体が死んで無意識を失えば、自由に他人に乗り移ることはできないだろう、と直感していたからね。そして実際そうなった。」
「シュラトーの戦果が、他の組織より抜きん出ていたのも道理だ。
お前が協力していたんだからな。」
と、言う凱伝所長の言葉にサシャは、声を荒げた。
「誰のせいだ!?
俺は今や幽霊と変わらない!
桂木博士の力を借りながら、どうにかナノマシンを介して他人の脳を渡り歩くだけの存在だ。
あんたは、罪から目を背けるように、
俺を捨てたしな!
桂木博士だけだ。
俺の居場所をくれたのは。
俺は、あんたに復讐するために戻ってきたんだ!」
凱伝所長は、何も言わない。
口を引き結んで拳を握りしめている。
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