全人格ハッキング事件〜記憶の追跡者が見たもの

たからかた

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全人格ハッキング事件〜記憶の追跡者が見たもの 第九話

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私は真を見つめて言った。
「復讐したい気持ちはわかった。
私も悔しくてたまらない。
所長のしたことは許されない、でも、真。
あんたは、私を復讐の道具にして何をさせるの?」

サシャがふ、と笑ったが、所長が割り込むように私たちの間に立ち、更衣室の方へ向かうよう頭を振った。

「スーツに着替えろ、貝原。
不本意だろうが、お前も世界中の人間をシュラトーの奴隷にしたくはないだろう」
と、凱伝所長は言った。
「どういうことですか?」

サシャの中の真が答える。
「世界中の人間が今、人形のように静止しているのは、大脳の働きを支配されているからだ。
シュラトーは、ナノマシンを使わずに人間の大脳だけを操る術を見つけた。」

「そんなこと、どうやって・・・。」
私は戸惑いながら尋ねた。

凱伝所長が噛み締めるように言う。
「桂木博士は、ある音波が脳に及ぼす影響について研究していた。
人の脳を沈黙させる方法を見つけてみせる、と言っていたのを覚えている。
おそらく、大脳からの情報伝達を阻害する音波があるのだ。耳を通さず、耳骨にまで直接響くものなんだろう。
聴覚障害があっても関係ない。
音波の振動が脳に届きさえすれば、もれなく影響を受ける。」

凱伝所長は、私の眉間に銃を突きつけた。

「皆を救うには、音波の源を断つしかない。
だが、外に出れば俺たちも人形と化す。
ここからナハカの力を借りて桂木博士の意識を乗っ取り、停止ボタンを押させるしかない。
厚かましいと思うだろうが、俺の子供も助けてくれ。頼む。」

私は無言で所長をみつめた。
「命令ですか?
真と同じように私も幽霊になれと?」

私の言葉に凱伝所長は、苦いものを飲んだような顔をして言った。
「無意識の深層を辿り、音源まで辿り着け、貝原。他に道はない。」
私は凱伝所長の言葉に、サシャの方を見る。

「姉さんやってくれよ。
従わないなら、アレハンドロを外に放り出すぞ。」

私はサシャに向き合った。
「狙いはなに?
このまま私が桂木博士を乗っ取ったら、困るのはあんたでしょうに。」

サシャは、目を細めた。
「鋭いね。
姉さんの魂を手に入れることが、桂木博士の目的なんだ。
桂木博士の意識に入った途端、姉さんを捕らえる準備をしているからね。」

凱伝所長がサシャを睨む。
「くっ!
だが、意味があるか!?
彼女の実体が死ねば、お前と同じになるだけだ。」

しかしサシャは、涼しい顔で笑った。
「それはない。姉の実体は死なせない。」

「そんなこと、どうやって!?」
所長が詰め寄る。

「姉の体に俺が入るからだ。」
サシャは、はっきりと言い切った。

私も所長も目が点になる。

「前回の失敗は、意識を切り離して、身体を空っぽにしてしまった事が原因だと、俺は思う。
それを回避すればいいだけの話だ。
だから、俺はここにいる。
まずはこのサシャの体と姉の身体をナハカで繋ぎ、姉に乗り移る。
次に、姉の意識を飛ばして、目的を遂げる。」

「貝原を乗っ取る?その時点で、彼女の意識は仮眠してしまう。
それに長時間脳の同化は、できないぞ?」
所長が真を見る。

「同化後、俺がすぐに意識を仮眠させれば、
姉は覚醒する。
それにこれは経験から言うが、ナハカとの完全結合は、かなりの時間、同化が可能だぞ。」
サシャが断言する。
「姉は、桂木博士のためにしか働けないよう、魂に首輪をつけられて戻ってくるだろう。
その時、俺は姉と入れ替わる。
脳に俺の意識を宿しているから、ナハカは姉の帰還を拒みはしないだろう。ナハカを騙せるくらい、完全に姉と同化してやるさ。
そしてめでたく、姉の実体を連れて桂木博士のもとに戻るというわけだ。」

凱伝所長が悔しそうに息を吐く。
「桂木の野郎!
貝原を使って、いいように人類を操る気か!!」

私はサシャを見た。
私がダイブしなければ、誰も助けられないというのはわかる。
でも、桂木博士に使役される存在になるわけにいかない。
どうしたものか・・・・・。

サシャがナハカの入り口へ手招きする。
「あまり時間はないぞ。
このまま何人がこの硬直状態に耐えられるかな。
飲み食いもできなきゃ、トイレも行けない。
病院の処置も止まったままだからな。」

私は覚悟を決めた。
「わかったわ。」

顔を上げて所長を見る。
「私がダイブします。
真、アレハンドロに手出しは無用よ。」

凱伝所長は大きく息を吐いて、涙を流した。
「すまん・・。俺を恨んでくれ。」

私はいつものようにスーツに着替えて、ナハカに入る。
サシャも着替えて、もう一つのナハカに入った。

凱伝所長が、起動準備を行い、ナハカを起動させる。

「ダイブ開始。」

私は目を閉じた。
他者にダイブされるのは、訓練の時以来だ。

頭が重くなり、意識がなくなっていく。

しばらくすると、意識が浮上し始める。
その時、上からすれ違うように真が降りてくるのが見えた。

「姉さん、やっと話せる。
無意識の領域でのみ、奴にかけられた鎖が解けるんだ。
桂木博士を止めてくれ。
奴の側近、ファシェルが協力してくれるから。」

こう話す真は、先程とは違う、よく知っている真だった。
私は意識だけだと言うことを忘れ、真を抱きしようと腕をのばそうとするが、すり抜けてしまった。

「姉さん、俺はこのために奴に協力してた。
凱伝所長を恨んでいることは事実だが、桂木博士を止めたいのも本心だ。
俺は一度彼にダイブしたことがあるからわかる。
桂木博士自身、時々別の誰かにダイブされていた。
複数の意識があるとダイブは困難になる。
俺も実体が死んでからのダイブは一度もできてない。
おそらく、あれだとは思うけど、あり得ないはずなんだ。
あれが生きた人間なわけないんだ・・・」

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