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全人格ハッキング事件〜記憶の追跡者が見たもの 第十話
しおりを挟む「あれって?真、あれってなんなの?」
真と最接近したのもつかの間、私は上へ、真は下へとそのまま離れていく。
「桂木博士は、ダイブの難しい相手だ。
いや、最悪あれにダイブすることになるかもしれない。
でも、姉さんならできるよ。
姉さんは俺より上手いから。」
「真!」
「会えてよかった・・・。姉さん、これ・・最後・・・会え・・・・。」
「真ー!!!」
遠く真が離れていく。
そのまま、振り子のイメージが次々に浮かんできた。
自分が初めての領域に踏み込んだことは、直感的に理解できだ。
これまでになく、深くて不安定。
孤独感が押し寄せてくるが、呼吸法を思い出し、気を鎮める。
いつものダイブと明らかに違う。
ナハカでは、はっきりと一対一で繋がっていた。
今いるのは、恐ろしい数の人間と同時に繋がる領域だ。
落ち着いて。
目指すのは、桂木博士の近く。
いや、真が話していたファシェルの近くだ。
強く念じると、振り子の先にいろんな人が見えて来た。
これもナハカの力なのか、脳本来の力なのかわからない。
繋がりたいと強く思えば、その人の振り子を引き寄せられるはずだ。
ほとんどの人が沈黙する中で、話し声が聞こえてきた。
「ファシェル!
真からの信号が途絶えたぞ!備えろ!」
声に集中すると、ファシェルと呼ばれた男性と、複数の人間が振り子の向こうに見えてきた。
「異常を感じた者はすぐに報告すること!
桂木博士の脳にのみダイブさせなければ、意味がない!総員、直ちにヘルメットを被れ!」
号令とともに、次々にヘルメットを被り出した。
たくさんの振り子が揺れているが、ヘルメットを被った人たちの周期は乱れていて、とてもダイブできそうにない。
と、ファシェルと呼ばれた人物が、近くの女性のヘルメットをさりげなく落とすのが見えた。
私はその女性の振り子に近づき、タイミングをはかる。
振り子が重なり始め、迷うことなく飛び込んだ。
深い海の底から上へ上へと進み、浮上した、と感じた瞬間、目の前にファシェルの姿が見えた。
「あ、あ、あ。」
言葉を話そうとして、焦ってうまくいかない。
その様子を見ていたファシェルが、さっと私を捕まえて、別室に連れて行った。
周りに誰もいないことを確認して、言葉をかけてくる。
「葉子さん?」
日本語で言われ、戸惑いながらも頷く。
「よかった。
私はファシェル。某国の諜報機関のものだ。
シュラトーに潜入していて、真と知り合ってね。
彼と協力して、桂木博士を追い詰めることにしたんだ。」
流暢な日本語に戸惑いつつ、ダイブに成功できたことにホッとした。
意識を乗っ取る行為は、訓練以来久しぶりだ。手も足も馴染ませるのに要領がいるが、すぐに思い出す。
ファシェルは感心したように私を見る。
「さすが真の姉だ。同化の乱れもほとんどなく、自然で違和感がない。
まず、このヘルメットを被ってくれ。」
そう言って私にヘルメットを被せる。
「これは、君にダイブされにくくする特殊ヘルメットだが、これだけはニセモノだ。起動しているように見せかけているから大丈夫。
今から、ダイブされた者がいないか、点検が始まるよ。
今の君の名前は・・・。」
私は素早く彼女の記憶を探る。
追跡者なので、記憶の検索はお手のものだ。
「シェラ。日系アフリカ人。
DVの両親を変えてくれた桂木博士に心酔して、シュラトーに参加。
桂木博士のお気に入りで、愛人の一人。」
私はスラスラと述べた。
ファシェルは頷き、耳元で囁く。
「そして、裏で女好きの俺とも付き合ってる。
仲間の中には、この関係を知ってるやつもいるから、こうやって二人っきりでいても怪しまれないのさ。」
すると、いきなり抱きついてきた。
一瞬身を固くするが、直後に部屋のドアが開く。
「ファシェル!またお前は!」
シュラトーのメンバーらしき男たちが部屋に入ってくる。
ファシェルは、ゆっくり離れながらニヤニヤと優男ぶりを見せ始める。
「そう、怒んなよ。
いつくるかわからんのに、待ってる時間が惜しくてさ。
シェラだって桂木博士にヤキモチくらい焼かせたいんだぜ?
本命に焼かれると嬉しいもんだろ。」
ファシェルは、そう言いながら男たちのそばに行く。
「まったくお前は・・・・。」
苦言を呈す仲間に、ファシェルは、愛想のいい言葉を言いながら一緒に退室しようとして、私の方に振り向く。
「またあとでな、シェラ。
桂木博士は、いつもの部屋でお待ちだ。
お気に入りだからって、近づきすぎれば、裸の彼女に睨まれるぜ。」
そう言って、ドアを閉めた。
私はシェラとしての記憶を探りながら、ちょっとした癖や動きを軽く練習する。
相手は、凱伝所長と肩を並べるほどの脳科学者。
どこでバレるかわからない。
私は意を決して、桂木博士の待つ部屋に向かった。
途中何度もスキャニングされるが、上手くかわすことができた。
ようやく桂木博士の部屋の前までたどり着き、ドアをノックする。
「入れ、シェラ。」
桂木博士らしき声がする。
私は思い切ってドアを開けた。
自然と体が止まる。
意識が変わっても、体に染みついた習慣は変わらない。
それから意味深にくるりと周り、ドアを閉めた。
「シェラ、遅かったな。」
桂木博士と思われるその男は、大きなモニターを前にして椅子に座ったまま、振り向かない。
顔が見えず、少し訝しい。
「すみません。寄り道してしまいました。」
私はシェラがいつもやる言い訳を口にする。
彼女の記憶によると、ファシェルと浮気した時は、決まってこう言うのだ。
沢山の愛人を抱える桂木博士への当て付けでもある。
「まあ、いい。
来い、シェラ。」
相変わらず振り向かない桂木博士が告げた。
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