不遇弓使いの英雄譚ー無敵スキル『絶対反転』を得て救世主となる

たからかた

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二章

再会

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大魔導士イルハート!!

俺は、思わず湧き上がる怒気を、必死で抑えた。

「座りなさい、ぼうや。ヘイムニルブにいる仲間を助けたいんでしょお?」

イルハートは、仮面を付け直すと、指でトントンと机を叩く。俺はいつでも弓矢を構えられる準備をして、席に座った。

「なぜ、ここに?」

「それは、こっちのセリフよ、ぼうやぁ。怪しげな力を使う、隠しチートキャラの噂は聞いていたけど、まさかあなただったなんてぇ」

彼女は指先で、耳にかかる自分の長い髪を巻くと、ゆっくり外に流すように離す。

まるで、頸を見せつけられているようだ。

かつてはこういう動作に、ドキドキしたこともあったけれど……。

今は違う。

くねくねとシナをつけた動作に、吐き気がしてくる。この調子で人を籠絡して、利用しようとしてくるからだ。

後で痛い思いをさせられることを、忘れてないからな。

俺は彼女を睨みつけた。

「ヘイムニルブと言ったな。ケルヴィン殿下たちがどうなってるのか、知っているのか?」

「ヘイムニルブに入ったことまでは、掴んでるわ。そこから先は知らない。あそこは私でも、用がなければ近寄りたくないわぁ」

彼女は俺の怒気を、涼しげな眼差しで受け流している。一筋縄ではいかない女だ。

「なぜ、俺が彼らの仲間だとわかる?」

「うふふふ、一緒にいるところを見たもの。宿屋にソウルイーターを召喚して、ケルヴィン殿下を襲わせたのは、私」

「!!」

「それに、チェタ鉱山。あの時、ヘカントガーゴイルに捕まえられていた兵士。あれね、変身した私だったのよぉ?」

「!!」

「先回りして、ケルヴィン殿下を捕まえようとしていたら、部下と一緒にヘカントガーゴイルに襲われてねぇ」

「あんたほどの人が、ヘカントガーゴイルに手間取ったというのか?」

「魔王の魂の欠片が宿っているとは知らなかったから、油断しちゃったわ。助けてくれて、ありがとぉ」

「あんただとわかっていたら、助けなかった」

「そうかしらぁ?」

「今の俺は、あんたを倒せるぞ?」

「でしょうね。さっきから魅了や、自白の術をかけてるけど、あなた少しもかからないものぉ」

「……」

「大帝神龍王と一緒に封じたはずなのに、何故いるのかわからないわぁ」

「教える気はない。さっさと船便のチケットをよこせ」

「ふふ……変わったわね、ぼうや。純朴でウブな可愛いぼうやだったのにぃ」

そう言うと、彼女は仮面をもう一つ取り出して、俺に投げた。

「つけてぇ」

「え」

「つけなさい! ここで足止めされたくなければ」

有無を言わせぬ迫力。普段のこの女の声じゃない。

なんなんだよ、一体!?

俺は戸惑いながらも、仮面をつけた。

そこへ、男が現れた。懐かしい……というのとは全く違う。この世で最も会いたくない男。

「イルハート! 勝手な行動をするなと、言ったはずだろ?」

ネプォンだ。王が直々にお出ましか。
庶民に扮して、お忍びの格好をしてる。

「あら、バレちゃったぁ?」

「俺の直感を舐めるな。お前がこそこそ独断で動いているのは、知ってるんだぞ?」

「お・し・ご・と、してるの。ガルズンアース王の相談役が、王子一人も捕獲できないなんて、恥ずかしくて城にいられなくてぇ」

「どうだか。早速男漁りをして、余裕だな?」

ネプォンは俺をチラリと見る。こいつの勘の良さは驚異的だ。ラック値の良さからきてるんだろうが。

だからこそ、勇者としてやってこれた。王にもなれた。仮面のおかげで、俺とは気づかないようだが。

「おい、お前。こいつは俺の女だ。さっさとどこかへ行きやがれ」

ネプォンは凄みを効かせて、ハエでも追い払うように手を振る。

こいつも、前と変わらない。

「もう、せっかく楽しくお話ししてたのにぃ」

イルハートが頬を膨らませて、ネプォンを見た。

「俺のものが、他の男に取られてたまるかよ」

ネプォンは、イルハートの腕を掴む。

「あら、あなたこそこの国で、何人ナンパしたんだか。おまけにケルヴィン殿下探しにかこつけて、この国の姫にも手をつける気でしょお」

「ばーか。この国の姫は、勇者の時から俺に惚れてるんだよ。もうとっくにモノにしてる」

「あらあら、それは失礼」

「とにかく、ケルヴィンが魔王探しなんて始めたものだから、いい迷惑だ。魔王なんかもういない」

「……」

「魔族の勢いが落ちないのも、別の理由だ。俺の勘がそう告げてる」

「……そぉ」

「そんなことより、政務に戻れ。お前がいないと面倒が全部俺にくるんだよ」

「政の長こそ、王なのよ? 官僚をちゃんと使いこなせば、政は回るものだわぁ」

「贅沢で好き勝手していいから、俺は王になったんだ。面倒なんて、ごめんだね」

「地方の端々にも目を光らせてないと、反乱がおきるわよ? また無駄に税金を上げてないでしょうねぇ?」

「反乱なんて、お前の魔法でいくらでも抑えられるだろ。雷でも炎でも、いくらでも喰らわせてやれ。なんなら、凍らせてもいい」

「バカね。そんなことばかりしていたら、国は滅亡するわぁ」

「そこを上手くやれる、お前なら」

「丸投げしてるだけじゃなぁい」

「後でいくらでも、可愛がってやるからさ。それでいいだろ? な?」

イルハートは、仕方ないと言わんばかりの表情で立ち上がる。

なんだ、こいつ。
結局、ネプォンに骨抜きにされてるのか?
その割に、俺をネプォンから庇うように仮面を渡し、今も俺の正体をバラさない。

彼女とネプォンは、一枚岩ではないことはわかるが。

本心はどこにあるんだ?
大魔導士イルハートは、ネプォンの顔を撫でてご機嫌をとる。

「そう言われちゃね。約束よぉ?」

「あぁ。だから、俺から離れられないだろ? イルハート」

ネプォンはニヤリと笑って、イルハートの腕を引いた。

さっさと二人で消えてくれ。
そう思っていると、彼女は俺の方を見て片目を閉じる。

「楽しかったわ、ハニー。これ、お会いできた思い出に」

そう言ってハンカチを渡してきた。

何かあるな。

俺はとりあえず受け取る。カサリと紙の音がして、机の下で開くと、船の乗船チケットが隠されていた。

おっと、これはもらっておかないと。

俺は、素早くチケットをポケットに捩じ込む。

ネプォンは、面白くなさそうな顔をして、俺の襟首を掴んで立たせてきた。

「返せ」

ネプォンは、俺の手からイルハートのハンカチをもぎ取る。

「小さい男ねぇ」

呆れるイルハートの胸元に、ネプォンはハンカチを捩じ込んだ。

そして、俺の顔目掛けて拳を突き出すので、俺は咄嗟に避け、ネプォンは、体勢を崩して前のめりになる。


遅いパンチだな。
こいつ、こんなに弱かったか?

「む!? 舐めやがって!!」

ネプォンは、小声で凄んだ。
奴の目に、屈辱を受けたことに対する怒りの炎が燃え上がる。

イルハートの前だから、余計悔しいか。

諦めずにパンチしてくるので、もう一度避けた。

あたるか! そんなへなちょこ。

周囲は何事かと注目し始め、拳を避ける俺に、ピュー! と口笛を吹く客も現れて、煽ってくる。

「野郎!!」

ネプォンに完全に火がついた。
……このままじゃ、こいつはしつこく攻撃をやめないだろうな。

やり返してもいいが、根に持たれるのは避けたい。

ここはそろそろ、攻撃を受けて『やられてやらない』と。

「これでも、くらえ!!」

ネプォンは俺の飲みかけのお茶のカップを掴むと、俺に向かってバシャ! とふりかけてきた。

避けようとしたけど、後ろの客にまでかかってしまう。

俺はわざとかぶり、その後の奴のパンチも頂戴してやった。

大帝神龍王の防御力も俺に宿っているから、ダメージは大したことがないが、俺は派手に倒れてみせる。

こいつは、自分がスッキリするまで、しつこく喧嘩をふっかけてくるからな。

前の旅で、いやというほど思い知らされてる。

「二度と会うんじゃねぇぞ! このクソ野郎!!」

倒れた俺と、驚く周囲の視線を嬉しそうに見回して、奴はイルハートと一緒に店を出ていった。

俺、強ぇが見せつけられて、機嫌がよくなったんだろう。

全く疲れる男だ。

俺は騒いだ分も含めて、店にお金を支払う。

「みんな、わかってますよ。あなたの方が勝っていたこと」

店長が小さい声で俺に告げてきた。
俺は苦笑いして、小さくお辞儀をする。

店長は、多めに支払われたお金を受け取りながら俺を見た。

「あなたが支払わなくても。さっきの男が支払うべきでしょうに」

「いえ、ご迷惑をおかけしたので」

俺が言うと、店長はため息混じりに、肩を落とした。

「あんな男が、まるで自分は王であるかのように、ホラを吹いてましたなぁ。勇者ネプォンに似ていたようですが……」

「そっくりさんですよ、きっと」

「ですよね? あんな男が王だなんて、ガルズンアース国が気の毒でならなくなるところでした」

「まったくです」

俺はそう言うと、チケットを握りしめて港へと向かった。

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