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二章
旅立ち
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あれから、俺は気絶した兵士を街の宿屋の前に置いて、家に帰ってきた。
いつもの日常。いつも通りを過ごす。
何も後悔していない。俺は、今回も無事に成し遂げたんだ。利用されずにすんだのは、早々に戻ったからだ。
だから……何も思うことなんて。
「なぁ、アーチロビン」
じっちゃんが、俺に声をかけてくる。
「何?」
「さっきから、同じところをぐるぐる回ってるぞ」
「あ……」
「心配なのだろ? フィオたちが」
じっちゃんは、ゆっくり椅子に腰掛ける。
し、心配なんて。
魔導士ティトも、聖騎士ギルバートも強い。
俺がいなくても、きっと。
でも、フィオはシャーリーに比べると、まだまだ神官として未熟だ。ケルヴィン殿下も、剣の稽古はしてきたみたいだけど、実戦慣れはしていない。
ネプォンのように、ラック値の高そうな感じでもなかったし……まあ、冒険の中で、鍛えればいいだけなんだけれど。
「ワシもな、ティトのことを思うと、胸が痛いよ」
ふと、じっちゃんが呟いた。
そうか。ティトはじっちゃんの昔の恋人。
「ねぇ、じっちゃんとティトはなんで別れたの?」
「んー? それがな。ティトは当時、大魔導士の候補者の一人でのぅ。彼女の師匠から、ティトの邪魔をしないでくれと、頼まれたんじゃよ」
「邪魔?」
「ティトはあぁ見えて、若い時は器用な方じゃなかった。恋なら恋に、魔法なら魔法に、どちらか一方に集中しないと、片方が疎かになっていたんじゃよ」
「あぁ……」
「ワシは、身を引いた。じゃが、ワシの時代は独り身を通すことがとても難しくてな」
「……」
「親、親戚、狩人仲間が、次から次に女性を紹介してくる。じゃから、ワシは養子を取った」
「え」
「そう、お前とワシに血のつながりはない。じゃが、お前は本当にいい子で、ワシには本物の孫じゃよ」
「じ、じっちゃん。俺、初めて聞いたよ」
「ふおっふおっ。もう、お前もこういう話を理解できる年齢になったからな。ティトにも……会いたいのぅ」
目を細めて、窓の外を見るじっちゃんは、知らない人に見えた。
この人にも若い時があったのだと、頭ではわかっていても、生まれた時からじっちゃんはじっちゃんでしかなかった。
俺はこの人の一面しか、知らないのかもしれない。
そう思ったその時だ。
オウムのフェイルノが、羽根をバタバタさせて、窓のそばにとまると、嘴でコツコツと窓を叩いた。
「どうした? フェイルノ」
俺が窓を開けると、そこへ一羽の白い鳩が飛び込んでくる。
「な、なんだ!?」
俺たちの目の前で、鳩は糸が解けるように形が崩れていき、細い光となって、フェイルノの口の中に入っていった。
フェイルノは、目を光らせて俺を見ると、フィオの声で喋り始める。
「助けて! アーチロビン!! すぐにヘイムニルブに来て!! お願い……あなたしか、頼れない!!」
フィオの声は切迫していた。
何が起きたんだ!?
「どうしたんだ? ケルヴィン殿下は? 聖騎士ギルバートや、魔導士ティトもいるんだろ?」
俺が聞くと、フィオの声は弱々しくなる。
「……みんな、石に……私……みんなを砕かれないように、マジックシールドで守るのが精一杯で……お願い……見つかったら、私も───」
そこでフィオの声は途切れた。
俺はフェイルノを見つめたけど、それ以上は何も話さない。
光っていた目も、元に戻っている。
俺は居ても立っても居られなくなり、じっちゃんの方を見た。じっちゃんは、いつのまに整えていたのか、旅支度のすんだ荷物を俺に持たせる。
「行きなさい、アーチロビン」
「じっちゃん、でも……」
「ワシの心配はいらん。仲間を助けに行きなさい。ワシの代わりに、ティトも救ってくれ」
じっちゃんは、俺を押し出そうとする。
「じっちゃん、必ず帰ってくるからな!?」
俺が言うと、じっちゃんはにっこり笑って頷いた。
「魔王が斃れていないというのなら、この旅で決着をつけなさい。ワシはお前の凱旋を、心待ちにしておるからな」
じっちゃんが言い終わると、オウムのフェイルノが、俺の肩にとまる。
俺は深呼吸をすると、外に出た。
フィオ、みんな……今、行くからな!!
俺は森を出ると、チェタ鉱山を抜けて、国境を越える。
魔都ヘイムニルブの場所は知らない。けれど、フィオが飛ばしてきた、鳩が来た方向は西だった。
西にとにかく向かい、近くの街に入って情報を集める。
そこで気になったのは、俺の国の兵士の姿を、チラホラ見つけたことだ。
誰かを探しているようで、気持ち悪い。
とりあえず小さな食堂に入って、買ってきた地図を広げ、ルートを確認する。
一番古い地図だけど、ざっくりしか載ってないな。これによると、ここから、船で行くしかないのか。
モタモタしていられないのに。
「ねぇ、あなた」
その時、ふと声をかけられた。
顔を上げると、仮面をつけた見知らぬ女性が、向かいの席の椅子に手をかけている。
「満席なの。相席してもいい?」
見るからに怪しい。
関わらない方がいいな。
「どうぞ。俺はもう、出ますから」
「待って! 私を助けて欲しいの。一人じゃ誤魔化せないから」
何? なんだ、いきなり。
俺が立ちあがろうとすると、女性は指を一本立てて、口元に持ってきた。
なんだ?
静かに従えとでも?
俺は椅子に座り直し、彼女を見た。
彼女は、軽く頷いて向かいの席に座る。
そこへ、兵士がやってきた。
「我々は隣国、ガルズンアースの兵士だ。人を探している」
「は、はぁ」
「その女はお前の連れか?」
「いえ、そ……」
「ええ、連れですわ。待たせてごめんなさいね、あなた」
は? キョトンとする俺に、向かいの席の女性は、色っぽく言う。
なんなんだ?
そこへもう一人の兵士がやってきて、
「おい、行くぞ。ケルヴィン殿下は、魔導士、神官、半人半馬の聖騎士を連れている。こいつらは、該当しない」
と、言って去っていった。
やっぱりネプォンが、ケルヴィン殿下を連れ戻そうとしてるのか?
厄介だな。
「ねぇ」
向かいの席の女性が、話しかけてくる。
「ん?」
「さっきはありがとう」
「奴らに追われてるんですか?」
「兵士が嫌いなだけ。乱暴な人がいるから」
まあ、中にはそんな奴もいるだろうな。
しかし、仮面をつけた彼女も十分怪しい。事情は知らないが、さっさと行こう。
じゃ、と言って席を立つ俺の手を、彼女は握ってくる。一瞬ドキッとしたけど、顔には出さないようにしたい。
「なんです?」
「あなた、ヘイムニルブに行きたいの?」
「!!」
「古い地図を熱心に見てたでしょ」
「あ、あぁ、まあな」
「それなら、次の船便のチケットを譲ってあげないこともないわよ?」
「!?」
「ヘイムニルブ行きは、一日に一本だけなの。これを逃すと、明日になるわ」
なんだ、この人。チケットは欲しいけど、怪しすぎる。
「……狙いは何? 初対面の俺に、そこまでする理由が不気味だ」
彼女はそう言われて、ゆっくり仮面を外した。
俺は思わず、ハッとなって後ずさる。
忘れもしない顔───俺を切り捨てたメンバーの一人。
「初対面じゃ、ないでしょ? ぼうやぁ……」
いつもの日常。いつも通りを過ごす。
何も後悔していない。俺は、今回も無事に成し遂げたんだ。利用されずにすんだのは、早々に戻ったからだ。
だから……何も思うことなんて。
「なぁ、アーチロビン」
じっちゃんが、俺に声をかけてくる。
「何?」
「さっきから、同じところをぐるぐる回ってるぞ」
「あ……」
「心配なのだろ? フィオたちが」
じっちゃんは、ゆっくり椅子に腰掛ける。
し、心配なんて。
魔導士ティトも、聖騎士ギルバートも強い。
俺がいなくても、きっと。
でも、フィオはシャーリーに比べると、まだまだ神官として未熟だ。ケルヴィン殿下も、剣の稽古はしてきたみたいだけど、実戦慣れはしていない。
ネプォンのように、ラック値の高そうな感じでもなかったし……まあ、冒険の中で、鍛えればいいだけなんだけれど。
「ワシもな、ティトのことを思うと、胸が痛いよ」
ふと、じっちゃんが呟いた。
そうか。ティトはじっちゃんの昔の恋人。
「ねぇ、じっちゃんとティトはなんで別れたの?」
「んー? それがな。ティトは当時、大魔導士の候補者の一人でのぅ。彼女の師匠から、ティトの邪魔をしないでくれと、頼まれたんじゃよ」
「邪魔?」
「ティトはあぁ見えて、若い時は器用な方じゃなかった。恋なら恋に、魔法なら魔法に、どちらか一方に集中しないと、片方が疎かになっていたんじゃよ」
「あぁ……」
「ワシは、身を引いた。じゃが、ワシの時代は独り身を通すことがとても難しくてな」
「……」
「親、親戚、狩人仲間が、次から次に女性を紹介してくる。じゃから、ワシは養子を取った」
「え」
「そう、お前とワシに血のつながりはない。じゃが、お前は本当にいい子で、ワシには本物の孫じゃよ」
「じ、じっちゃん。俺、初めて聞いたよ」
「ふおっふおっ。もう、お前もこういう話を理解できる年齢になったからな。ティトにも……会いたいのぅ」
目を細めて、窓の外を見るじっちゃんは、知らない人に見えた。
この人にも若い時があったのだと、頭ではわかっていても、生まれた時からじっちゃんはじっちゃんでしかなかった。
俺はこの人の一面しか、知らないのかもしれない。
そう思ったその時だ。
オウムのフェイルノが、羽根をバタバタさせて、窓のそばにとまると、嘴でコツコツと窓を叩いた。
「どうした? フェイルノ」
俺が窓を開けると、そこへ一羽の白い鳩が飛び込んでくる。
「な、なんだ!?」
俺たちの目の前で、鳩は糸が解けるように形が崩れていき、細い光となって、フェイルノの口の中に入っていった。
フェイルノは、目を光らせて俺を見ると、フィオの声で喋り始める。
「助けて! アーチロビン!! すぐにヘイムニルブに来て!! お願い……あなたしか、頼れない!!」
フィオの声は切迫していた。
何が起きたんだ!?
「どうしたんだ? ケルヴィン殿下は? 聖騎士ギルバートや、魔導士ティトもいるんだろ?」
俺が聞くと、フィオの声は弱々しくなる。
「……みんな、石に……私……みんなを砕かれないように、マジックシールドで守るのが精一杯で……お願い……見つかったら、私も───」
そこでフィオの声は途切れた。
俺はフェイルノを見つめたけど、それ以上は何も話さない。
光っていた目も、元に戻っている。
俺は居ても立っても居られなくなり、じっちゃんの方を見た。じっちゃんは、いつのまに整えていたのか、旅支度のすんだ荷物を俺に持たせる。
「行きなさい、アーチロビン」
「じっちゃん、でも……」
「ワシの心配はいらん。仲間を助けに行きなさい。ワシの代わりに、ティトも救ってくれ」
じっちゃんは、俺を押し出そうとする。
「じっちゃん、必ず帰ってくるからな!?」
俺が言うと、じっちゃんはにっこり笑って頷いた。
「魔王が斃れていないというのなら、この旅で決着をつけなさい。ワシはお前の凱旋を、心待ちにしておるからな」
じっちゃんが言い終わると、オウムのフェイルノが、俺の肩にとまる。
俺は深呼吸をすると、外に出た。
フィオ、みんな……今、行くからな!!
俺は森を出ると、チェタ鉱山を抜けて、国境を越える。
魔都ヘイムニルブの場所は知らない。けれど、フィオが飛ばしてきた、鳩が来た方向は西だった。
西にとにかく向かい、近くの街に入って情報を集める。
そこで気になったのは、俺の国の兵士の姿を、チラホラ見つけたことだ。
誰かを探しているようで、気持ち悪い。
とりあえず小さな食堂に入って、買ってきた地図を広げ、ルートを確認する。
一番古い地図だけど、ざっくりしか載ってないな。これによると、ここから、船で行くしかないのか。
モタモタしていられないのに。
「ねぇ、あなた」
その時、ふと声をかけられた。
顔を上げると、仮面をつけた見知らぬ女性が、向かいの席の椅子に手をかけている。
「満席なの。相席してもいい?」
見るからに怪しい。
関わらない方がいいな。
「どうぞ。俺はもう、出ますから」
「待って! 私を助けて欲しいの。一人じゃ誤魔化せないから」
何? なんだ、いきなり。
俺が立ちあがろうとすると、女性は指を一本立てて、口元に持ってきた。
なんだ?
静かに従えとでも?
俺は椅子に座り直し、彼女を見た。
彼女は、軽く頷いて向かいの席に座る。
そこへ、兵士がやってきた。
「我々は隣国、ガルズンアースの兵士だ。人を探している」
「は、はぁ」
「その女はお前の連れか?」
「いえ、そ……」
「ええ、連れですわ。待たせてごめんなさいね、あなた」
は? キョトンとする俺に、向かいの席の女性は、色っぽく言う。
なんなんだ?
そこへもう一人の兵士がやってきて、
「おい、行くぞ。ケルヴィン殿下は、魔導士、神官、半人半馬の聖騎士を連れている。こいつらは、該当しない」
と、言って去っていった。
やっぱりネプォンが、ケルヴィン殿下を連れ戻そうとしてるのか?
厄介だな。
「ねぇ」
向かいの席の女性が、話しかけてくる。
「ん?」
「さっきはありがとう」
「奴らに追われてるんですか?」
「兵士が嫌いなだけ。乱暴な人がいるから」
まあ、中にはそんな奴もいるだろうな。
しかし、仮面をつけた彼女も十分怪しい。事情は知らないが、さっさと行こう。
じゃ、と言って席を立つ俺の手を、彼女は握ってくる。一瞬ドキッとしたけど、顔には出さないようにしたい。
「なんです?」
「あなた、ヘイムニルブに行きたいの?」
「!!」
「古い地図を熱心に見てたでしょ」
「あ、あぁ、まあな」
「それなら、次の船便のチケットを譲ってあげないこともないわよ?」
「!?」
「ヘイムニルブ行きは、一日に一本だけなの。これを逃すと、明日になるわ」
なんだ、この人。チケットは欲しいけど、怪しすぎる。
「……狙いは何? 初対面の俺に、そこまでする理由が不気味だ」
彼女はそう言われて、ゆっくり仮面を外した。
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