不遇弓使いの英雄譚ー無敵スキル『絶対反転』を得て救世主となる

たからかた

文字の大きさ
20 / 96
二章

陽動

しおりを挟む
改めて知った真実に、みんな沈黙する。
最初に口を開いたのは、ケルヴィン殿下だった。

「思っていたより厄介だな。英雄と同じ強さの魔王なんて、もはや無敵じゃないか」

そうだ……英雄は常に勝つ。
戦闘力だけでなく、勝つべく環境や状況も有利に動いていくからな。

魔導士ティトは、タインシュタ・フランが開いた分厚い本を一緒に覗き込む。

「ううむ、こんな秘術があったとは。しかし、何故忘れ去られた秘術になったのじゃ?」

タインシュタ・フランは、片眉をあげて彼女を見ると、鼻で笑った。

「滅多に成功しないからだ。魂を切り分け、また一つに戻るには、強固な意志が必要だ。あまりに細かく魂を切り分ければ、消滅してしまう危険もある」

なるほどな、限界があるのか。
せっかくだから、聞いておこう。

「魂を分ける限界数があるのか?」

タインシュタ・フランは頷く。

「魔王なら、およそ百は可能だろう」

「百!?」

「各地で百の魂の欠片が、冒険者たちと戦い、非業の死を遂げて魂を鍛え、また別の宿主に転生を繰り返す。やがて鍛え抜かれた魂は集約され、その数は減っていく」

一度に百体に宿り、何度も宿主を変えるのなら、かなり早くに鍛え終わるかも。

そんな中、ケルヴィン殿下は、難しい顔をして考え込んだ。

「ネプォン義兄上が、魔王を倒したのが半年前。その間各地の魔族の勢いが落ちず、冒険者たちが相当戦っていた」

そうだ……。俺も冒険者たちに手を貸していた。だが、俺は魔王の魂の欠片を見たことはない。

あのヘカントガーゴイルと、オメガゴーレムだけだ。

世界各地に散っているから、俺が偶然出会わなかっただけか?

タインシュタ・フランは、俺に視線を戻して会話を続ける。

「私もお前らも知らぬところで倒された魔族も勘定すれば、もうあと二体程度に絞られてきているだろう」

二体!? もうそれだけなのか?
俺は、思わずハッとなって彼を見つめた。

「ニ体……そいつらが倒されれば……」

「英雄と同じ強さの魔王が生まれる。世界は終わるだろう」

タインシュタ・フランがそう言い終わると、聖騎士ギルバートが立ち上がる。

「じゃ、魔族は倒さない方がいいんですか?」

それを聞いたリリーは、首を横に振る。

「いいえ、こうなったらむしろ魔王を誕生させて、倒さないと。この秘術で分かれた魂が、長く統合されないままだと、暴走して大規模な爆発が起きると言われています」

「爆発」

「過去、この秘術に挑み、統合が叶わなかった魂が、いくつもの国々を巻き込んで壊滅させた記録があります」

「ええ!?」

「場所も時間も規模も、予測不可能。ましてや、今度は魔王の魂。更に脅威です」

リリーがそう言った直後、ドンドンドン! と扉を叩く音が聞こえた。

なんだ?

みんなが顔を上げて、音がする方を向く。すると暗黒騎士ヴォルディバの声が聞こえてきた。

「おい! 開けろ! タインシュタ・フランに話がある!!」

あいつ、もう回復したのか。
悪霊に生気を吸われたのに、タフな奴。

「オメガゴーレムの館に行った部下が、ケルヴィン殿下たちの遺体はねぇと報告してきやがった! ここに戻ってねぇか!?」

ヴォルディバは、喚きながらドアを叩く。
俺の隣にいる聖騎士ギルバートが、うんざりした様子で俺を見た。

「相変わらず、ヴォルディバ先輩は粗野な言葉遣いするよねぇ。騎士の品位を下げないでほしいよ」

まぁな。あいつは品位はない方だから。
ケルヴィン殿下は、サッと前に進み出て、

「奴らに捕まるわけにはいかない。魔王の復活はネプォン義兄上にとって、今の立場を失うきっかけになる。死に物狂いで、隠そうとするだろう」

と言った。

確かに。そうなると、この先も妨害されてやりにくくなる。
交戦するのは、避けたい。

リリーは事情を察知して、俺たちを別室へと案内してくれた。

「この部屋に隠れて。私が追い返します」

彼女は、凛とした雰囲気で宣言する。
リリーが、追い返す……か。

俺はふと心配になった。暗黒騎士ヴォルディバは、すぐ手が出るタイプで、リリーは綺麗な女性だ。

俺たちの行方を吐かせようと、強引な手段に出るかもしれない。

「リリー、俺も行く」

「え」

「ヴォルディバは、君を酷い目に遭わせてでも俺たちのことを聞き出そうとするだろうから」

「どうするつもり?」

「みんなも聞いてくれ」

俺はみんなを集めて、作戦を話した。

その後手筈を整え、リリーは扉を開ける。

「はい」

「随分時間がかかったな。おい、ねぇちゃん。ケルヴィン殿下たちが、ここにいるんだろ?」

「あの人たち、そんな名前なんですか?」

「んー? 知らない、てか?」

「ええ、別の名前を名乗ってらっしゃったので」

「この国の王族じゃねぇが、顔を知らなかったのか?」

「ええ、私たち、研究以外に興味がありませんから」

「かー! あんたもかよ。まあでも、ようやく出会えた綺麗なねぇちゃんだ」

ヴォルディバは、ニヤニヤしながらリリーに近づく。

「で? あいつらは今どこに? 隠すとためになんねーぞ? 船の出航時間まで、あと僅かなんでな。泊まりはごめんだ」

「さっきまで父と話をされてましたけど」

「なんの話を?」

「魔王の話を。でも、オメガゴーレムが無傷ではなかったので、父がヘソを曲げて何も答えなくて。相当イライラされてました」

「ふーん、嘘は言ってないみたいだな」

暗黒騎士ヴォルディバは、リリーの腕を掴む。

「きゃ!」

「へへ、ねぇちゃんよ。なら、奴らのところに案内してくれよ」

「痛い、痛い!」

「その後で、俺とここを出ようぜ」

「嫌です! 私には、恋人がいるので!」

「恋人ぉ? どこに?」

「ここだ」

俺は仮面をつけたまま、彼女の隣に立って、暗黒騎士ヴォルディバの手を払う。

「あ……! てめぇ、船に乗ってた生意気な野郎!!」

「リリーに手を出すつもりなら、俺が相手になる。英雄だろうが、容赦しない」

「言うじゃねぇか!」

「ついでにお前が悪霊に襲われて、伸びたことを世間にバラすぞ。高名な暗黒騎士の無様な姿を世間が知ったら、どうなるかな」

「く……!」

「ほら、記録魔法の水晶玉だ。これにバッチリ映ってる」

それはケルヴィン殿下が、ネプォンとイルハートの密会現場を撮影した時のものだったが、ヴォルディバにはわからない。

「こ、こ、この野郎! そいつをよこせ!!」

「リリーたちに手を出さなければ、世間には出回らない。だが、これから指一本でも触れれば、王都にいる仲間に転送して、バラす手筈だ」

「転送だ!?」

「ここは、秘術が生まれたかつての魔都だ。知られていない魔法があるのさ」

暗黒騎士ヴォルディバの目が泳ぐ。リリーが俺にしがみつくので、彼女の腰を抱き寄せて奴を睨みつけた。

うまいぞ、リリー。勘のいい人で助かった。
ヴォルディバの奴、騙されてくれている。

……おっと。

なんだか、リリーもフィオみたいに柔らかくて温かいな。

女の子、て、みんなこうなのか?

腰の細さも、あたっている体の感触も、2人は微妙に違う。

変な気分になりそうになるけど、リリーはフィオほどドキドキしない。

何が違うんだろうな。

逡巡する俺の目の前で、ヴォルディバは悔しそうに顔を歪める。

「ち……! お、お、俺の目的はケルヴィン殿下なんでな! ねぇちゃんたちは関係ねぇ!!」

暗黒騎士ヴォルディバがそう言った直後、ドドドン!!! と大きな音がした。

「父さん!?」

リリーが、慌ててタインシュタ・フランの研究室の扉を開ける。

もちろん歩きながら。

中では、タインシュタ・フランがオメガゴーレムの上で気絶していた。

「ひどい! 魔法で気絶させられてる!!」

リリーはタインシュタ・フランを抱き起こして、顔を覗き込んでいる。

作戦通りだな、ティト。本当に彼女はうまい。

暗黒騎士ヴォルディバも、その部下たちも研究室に入ってリリーたちを取り囲んだ。

「気絶だぁ? あの魔道士の婆さんがキレたのか?」

「多分、そうだと思います」

リリーはハンカチを取り出して、甲斐甲斐しく父親の顔を拭いている。

次の仕掛けもうまくいってくれ。
ギルバート、頼むぞ。

「ヒヒヒーン!!」

直後に外から馬の鳴き声がした。

「しまったぁ! 陽動だ!!」

暗黒騎士ヴォルディバが、外へ走り出そうとしたので、リリーがその背中に叫ぶ。

「走ってはいけません!!」

「おっと! くそ!」

暗黒騎士ヴォルディバたちは、歩きながら外へと出た。

外から、奴の部下の声とヴォルディバの声が聞こえてくる。

「ヴォルディバ将軍! 馬が根こそぎ奪われています!」

「なんだとぉ!? すぐに伝書鳩を飛ばせ! 港を封鎖するんだ!!」

「し、将軍、間に合いません! 我々の馬は駿馬ばかり。奴らを乗せた船はもう出てしまいます!!」

「馬鹿野郎! なら、俺たちも港で足の速い船を借りて向かうぞ!」

「は!!」

暗黒騎士ヴォルディバたちは、歩きながら港に向かっている。途中で、また馬を買って港に行くに違いない。

うまくいったな!!

「馬鹿な奴らじゃのう」

魔道士ティトが、隣の部屋から出てきた。

「見事な作戦だ、アーチロビン」

ティトの後に続いて出てきた、ケルヴィン殿下に言われて、俺は深く頭を下げた。

「ありがとうございます。船の時刻を教えてくれたリリーと、幻影の術で誤魔化してくれたティトのおかげです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します

すもも太郎
ファンタジー
 伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。  その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。  出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。  そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。  大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。  今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。  ※ハッピーエンドです

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...