不遇弓使いの英雄譚ー無敵スキル『絶対反転』を得て救世主となる

たからかた

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三章

イルハートの待ち伏せ

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「大きな街だな。さて、この辺りで情報収集するなら……」

と、ケルヴィン殿下が呟いていると、目の前でチラシを配っている女性が見えてきた。

「本日、改装したばかりのスパが開店ましたー。皆様、お誘い合ってお越しくださいませー」

と言っている。
スパか……。そんなにゆっくりしてられないよな。

チラシ配りの女性は、俺にも一枚差し出してくる。

「どうぞ」

「いや、俺は……」

「お話しましょうよ、ぼうやぁ」

その姿が、大魔導士イルハートに変わる。
俺たちは、思わず身構えた。

「ワシの目の前で勝手はさせぬぞ、イルハート」

魔導士ティトが、俺たちの前に出て大魔導士イルハートと向き合う。

「あら、ティト、お久しぶり。あなたも、もちろんスパに来て。ケルヴィン殿下も、聖騎士ギルバートも、そこのお嬢ちゃんもぉ」

大魔導士イルハートに、お嬢ちゃん呼ばわりされたフィオは、キッと目を吊り上げる。

「失礼ですね! 私はお嬢ちゃんではありません!」

「あらそぉ?」

「ちゃんと成人してます!」

「ふふ、大人の女性というなら、手加減はいらないわねぇ?」

大魔導士イルハートは、俺の腕に自分の腕を絡めてくる。

「おい! な、何を……!」

俺たちの様子を、フィオも目を丸くして凝視していた。

彼女は流し目でフィオを見て、ニヤリと笑う。

あてつけか?
そんなことのために、こうしているのか?
離せ……この!!

彼女から離れようとしても、逆に強くしがみつかれた。

「静かに、ぼうや。ネプォンも私を追ってきてるの。このままスパに行きましょう。人混みの中でなら、ゆっくりお話しできるわぁ」

大魔導士イルハートは、ゆったりとした口調で俺を見上げてきた。

あいつが? ネプォンまで来ているのか?

「ネプォンが、ここに?」

「あいつが絡むと面倒になるわ。皆さんも、合わせてくださる? 滞りなく旅を続けたければぁ」

大魔導士イルハートはそう言って、歩き始めた。みんなは渋々ついてくる。

俺は彼女の本心がわからずに、疑問をぶつけた。

「どういうつもりだ、イルハート」

「さぁねぇ」

「俺を……俺たちを駒にして、利用する気か?」

「ふふ、また逞しくなったわね、ぼうやぁ。とりあえず、ポーンからルークに格上げしてあげるぅ」

「チェスの駒扱いかよ」

「ケルヴィン殿下がキング、聖騎士ギルバートがナイト、魔導士ティトはビショップ、お嬢ちゃんは……とりあえずポーンねぇ」

「自分がクィーンだなんて言うなよ、あんたなんか……!」

「馬鹿ねぇ、私は駒にはならないわ。常にプレイヤーよぉ」

彼女はさらに腕に力を入れて、ぴったりくっついてくる。

何が、常にプレイヤーだよ、この女!!

ぎゅむ。
……。
……。

……やっぱり、こいつの胸はでかい。腕が埋まりそうな大きさだ。

余計なことを考えたくないのに、こうもくっつかれると、さすがに……。

「アーチロビン!」

そこへフィオの声がして、俺の反対側の腕にしがみついてきた。

え!

え……なんだこれ。

両腕が温かく柔らかいものに包まれて、おかしな気分になってくる。

悪い気はしない。むしろ、楽園。

いや! いや、待てよ! しっかりしろ!!

そう思いながらも、顔が赤く茹で上がるのが自分でもわかった。

……耐性ないんだよな、こういう状況。

道で行き交う男たちは、羨ましそうな目で俺を見る。

「いいよなぁ、あの兄さん」

「美人二人に囲まれてさぁ」

「俺が代わりたいよ」

そんな声まで聞こえてきた。
いや……いや、違う。

なんで、こんなことなってるんだ?

混乱する俺の目の前で、大魔導士イルハートとフィオが睨み合う。

「あら、邪魔する気ぃ?」

「あなたこそ……! 勝手なことをしないで!」

「彼とは長いの。あなたよりもねぇ」

「わ、私だって、短いけど一緒にいます!」

「手を握った仲なのよぉ」

「私は、だ、だ、抱きしめてもらいました!」

「あら、生意気ねぇ。こんな小娘のどこがいいの? ぼうやぁ」

「胸が大きいだけの失礼な人に、言われたくありません!」

「くす。今度はキスしてみようかしら。ウブなぼうやはすぐ落ちるわよぉ」

「負けませんから! 私の方が年下ですよ!」

「あんた……いい度胸ねぇ」

二人の間に火花が散る。
え、えっと……。

「ふ、二人とも、あの……」

俺が言いかけると、二人は競うように俺の腕を両側から引っ張ってきた。 

さっきまで、楽園のような気分だったのに、一気に地獄のような痛さが襲ってくる。

「いて! いた……! 痛い……!」

「あら、可哀想に。こっちへ来なさい、ぼうやぁ」

「だめ! アーチロビン。行っちゃダメ!」

「ふ、二人とも、力を抜いてくれ」

「あんたが離しなさいよ、お嬢ちゃん」

「お嬢ちゃんじゃありません!!」

「こっちよぉ」

「だめ、こっち!!」

ギリギリと腕が軋んで、本当に痛い。
腕が持っていかれそう。

俺は痛みに耐えかねて、一度両腕を脇につけるように引いた。

驚いたフィオとイルハートは、よろめきながらしがみつく。

「あ!」

「あぁん!」

ちょ、ちょっと変な声ださないでくれよ!
これじゃ、余計に目立つだろ?

「いや、やっぱりあの兄さんが、羨ましいなぁ」

「本当。あんなふうに俺もモテたいわ」

「お前には無理だってばよ」

「なんだと? 俺だってなぁ……!」

そんな声が、俺の横を通り過ぎていく。
いや、これはそんなにいいものじゃない。

こっちは腕を持っていかれないように、必死なんだ!!

俺は足早にスパへと向かった。
とにかく、早く中に入って解放されたい。
顔も熱いけど、照れてるわけじゃないからな。

認めないからな!!

「ぼうや、照れてるの? かーわいいわぁ」

揶揄うようなイルハートの声に、フィオの目が吊り上がる。

「あなたにじゃ、ありません。絶対!」

「なーんでわかんのよぉ」

「あなたなんか……! ただ色気過剰なだけでしょ!?」

「自分が貧相だからって、ひがまないでよねぇ」

「失礼ですね! ちゃんと……ひ、人並みにあります!」

「へーぇ? 見せてみなさいよ。スパは水着に着替えるからねぇ。ぼうやがどっちを選ぶか、勝負よぉ」

「わ、わかりました。受けて立ちます!」

「よせ! 二人とも!! 本題からそれて……!」

「「黙ってて!!」」

二人同時に怒鳴られながら、俺たちはスパへと入っていく。

後ろからついてくる、ケルヴィン殿下たちの苦笑いが、嫌でも耳に入っていた。

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