不遇弓使いの英雄譚ー無敵スキル『絶対反転』を得て救世主となる

たからかた

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三章

恋に堕ちた二人

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「わぁぁぁ!」

俺は恥ずかしくて、思わず地面に突っ伏した。胸がドキドキして、顔が上げられない。

火を吹きそうなほど、全身が熱い。ひ、ひ、冷やしたい!!

俺はテントを飛び出して、人混みをかき分けると、冷水ゾーンを見つけて頭から水をかぶる。

「ガー! ツメタイ! ツメターイ!」

オウムのフェイルノがたまらずに俺から離れて、水風呂の縁にとまった。

何やってるんだ? 俺……なにやってんだよ!?
恥ずかしさが限外突破をして、自分でも手を止められない。

それでも足りなくて、ザブンと水風呂に入った。

誰もいないし、深いけど、今の俺にはちょうどいい。

水風呂の底に沈むように浸かって、いいようのない衝動を吐き出す。

頭を掻きむしって、身を捩ってもまだ足りない。

恥ずかしくて、ただ、ただ、恥ずかしくて。
頭を抱える俺は、息が続く限り水風呂の底にいたいと思った。

どんな顔をして、ここを出ればいいんだよ?
フィオも───驚いただろうな。

何より、自分が一番驚いてる。
こんなに強く、彼女を想っていたなんて。

以前、告白されたから?
水着姿を見たから?

いや、違う。
彼女に必要とされて、ヘイムニルブに呼ばれた時、とても嬉しかった。

とにかく行きたい、とにかく会いたい、と。

その気持ちの正体は、これだったんだな。

けれど……でも……なんであんな形で告白なんだ!?

くそ! ティトに乗せられたせいだ。こんなつもりじゃ、なかったのに。

いきなり人前で、おまけに本人を前にして。

ああー、どうしたらいいんだよ!?

ザブン!!

そう思っていると、誰かが水風呂に入ってきた。

水中に目を凝らすと、フィオだということがわかる。

な、な、なぜ、来た?

彼女は俺のそばに潜ってくると、上を指さしてきた。

浮上しようと言っているな。

流石に苦しくなってきて、彼女と一緒に水面へ上がる。

「ゲホ! ゲホゲホ!」

水風呂の縁に両手をついて咳き込む俺の目の前に、フィオが浮かび上がってくる。

ちょうど、俺と水風呂の壁の間に入るように現れた彼女は、至近距離で俺を見つめていた。
彼女を、腕の中に閉じ込めたような姿勢だ。

ち、近い……!

水に濡れた彼女の瞳は、とてもキラキラしている。

心臓の音がうるさく感じるほど、ドキドキしてきた。

全身が熱くなり、ここは水風呂の中のはずなのに、ぬるく感じてしまう。

彼女が眩しい───。

「アーチロビン」

可愛らしい唇が、俺の名前を呼ぶ。
あぁ、ダメだ……そんな声で呼ばれたら。

衝動のまま、俺はフィオを壁に押し付けるように抱き締めていた。フィオも俺の背中に手を回してくる。

彼女の白い尻尾が俺の腰に巻き付いて、さらに体が密着した。

『そんなに、フィオが好きかえ?』

魔導士ティトの言葉が、頭の中で蘇る。
……この気持ちが、恋なのか?

自覚すると、こんなに切なく、凶暴な感情だ。
何もかも捧げたくなるほど、彼女を大切に想う一方で、全てを奪い尽くして独占したくなる。

これじゃ恋というより、狂気じゃないのか?
こんな激しい気持ち…‥俺は知らなかったな。

「私も好き、アーチロビン」

沈黙する俺に、フィオが噛み締めるように言った。

思わず腕に力が入り、目を閉じる。離したくない。彼女を閉じ込めて、どんな男にも見せたくない。

俺だけのものに───したいな。

そこへフェイルノが、トントンと跳ねながらやってきて、煽りやがる。

「ガー、チュウ、スル?」

またか……! 露骨に言うなよ、フェイルノ!

せっかくいい雰囲気なのに。
気持ちの盛り上がりが、この一言でプツンと切れてしまう。

「やめろって! もう、お前は───!」

と、言って顔を上げた時、周りには人だかりができていた。

「え……」

親子連れの子供たちが、興味津々で俺たちを見ている。

や、やばい!!
ここは、公共のスパ。
子供たちもいるんだった!

「お兄ちゃんたち、仲良しなの?」

「パパとママも、ここでチュウしたんだって!」

「やめなさい! お前たち! すみません、どうぞ続けてください」

い、いや、どうぞと言われても……。
俺たちは慌てて離れる。

人混みをかき分けて、係員が申し訳なさそうに、声をかけてきた。

「すみません、お客様。ここは子供たちもいる場所ですので、逢瀬のお楽しみはどうぞ向こうの個室でお願いします」

「は、はい、あのすみませんでした!」

「すみません!」

二人で水風呂を上がって、その場を離れた。
はぐれないように、自然と彼女と手を繋ぐ。

「マタ、チュウ、シナイ? ツマンナイ!」

フェイルノが、羽ばたいて追いついてきた。

「お前なぁ……」

と、俺の肩にとまったフェイルノに言いかけて、フィオと目が合う。
思わず、二人でクスクス笑った。

あー、嬉しいのに恥ずかしい!

でも……。

彼女の手の温もりを感じながら、これからは堂々と手を繋げると思うと、嬉しかった。

「アーチロビン」

不意にフィオが声をかけてくる。

「ん?」

彼女の方を見ようとして、急に繋いだ手を引かれる。

「わっ……! と、え?」

姿勢を崩しかけた俺の頬に、フィオが軽く唇を押し当てる。

これって……キス!?

「チュウ! ヨカッタネ! チュウ、サレタ」

俺よりも興奮したフェイルノが、大声で叫ぶ。
やめろ! 余計恥ずかしい!!

顔を真っ赤にした俺に、フィオは恥ずかしそうに、微笑んだ。

「私の『初めて』よ。アーチロビンにあげるね」

ドキン! 心臓が破裂しそうだ。
花が咲いたような笑顔とは、今の彼女の表情を言うんだろうか。

幸せだ……とても。
彼女にキスされたことも、この笑顔が見られたことも。
ぼーっとなって、周りの音が完全に消える。

「フィオ……」

「え?」

「もう一度……ダメか?」

「……もぅ。その顔、ズルい」

フィオはもう一度、頬にキスをしてくれた。

時間が止まればいいのにと思ったのは、これが最初だった。

気がつくと、元いたテントの中に、俺は座り込んでいた。

あれ? いつの間に俺……。

俺の頭の中は、完全にショートしていて、どこをどう戻ったのか、全然覚えていない。

そう考えていると、いきなり強烈な匂いがして、思わず俺は鼻を摘んだ。

「うぐぁ!!」

「は! やっと正気に戻ったか。気つけ薬の匂いを嗅がせた。手のかかる小僧じゃな」

魔導士ティトは、ニヤニヤしながら、薬の瓶をしまっていた。

ケルヴィン殿下も、聖騎士ギルバートもニコニコして、俺を見る。

「おぅ、おかえり」

「いや、見直したよ、アーチロビン。あんなに大胆に告白するんだね。ボクにはなかなかできないことだよ」

二人はさらっと言うと、一枚の紙を覗き込んで、真剣な表情になっていった。

あ、あれ、その紙は俺が大魔導士イルハートにもらったもの。

「中に落としていっとったんじゃよ。先にワシは読ませてもろうた。次はお前たちが読むとよい」

魔導士ティトは、そう言って俺たちにも見るように言ってくる。

き、切り替えが早いな、みんな。

まあ、いつまでも揶揄われるよりマシだけど。

俺は、ケルヴィン殿下から紙を受け取ると、フィオと一緒に覗き込んだ。

『この国の司祭に会え。シャーリーを敵視しているから、お嬢ちゃんは、神官てことを隠した方がいいかもね』

大魔導士イルハートの文字で、そう書いてある。おまけに、紙の端にはキスマークがついていた。

「この国は、ガルズンアース国と同じ宗教を国教にしようとしてる。司祭は元からある宗教側の人間かもな。だから敵視するんだろ」

俺が言うと、フィオも頷く。

「そうでしょうね。それにしても、また、お嬢ちゃんなんて! このキスマークも、余計!」

フィオは、ぷぅっと頬を膨らませる。
まあ、大魔導士イルハートから見れば、新人の彼女はそう見えるんだろう。

「フィオは、ちゃんとした大人の女性だよ。お、俺はわかってる」

俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに腕を組んできた。

「やーれやれ、これ以上熱に当てられる前に、その司祭とやらのところへ行こう。油断せず、準備を整えて、な」

ニヤッと笑うケルヴィン殿下にそう言われ、俺たちも姿勢を正す。

そう、まだ、気は抜けない。
ここからだ。
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