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八章

撃破

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レディオークは、神龍酒を吐き出せていない。まだ、酔いが回っているはずだ。

「お前の相手は、この俺だ!!」

「ドけ! キさまは、この龍王を倒シタ後に、たっぷりと相手をシてやるわ!!」

「そうは、いくか!」

俺は素早く矢をつがえて、三本同時に放った。
矢は額と、喉と腹部に刺さる。

よし、これで……そこに、後ろから龍王がやってきた。

「アーチロビン、アタシも手伝う!!」

「手を出すな!! 龍王!!」

「でも!!」

「カジカのそばに、いてあげてくれ」

「グヌヌヌ! な、なんダ?この矢……ヌケない!?」

レディオークが、がむしゃらにドラゴンアックスを振り回しながら、必死に矢を抜こうとする。

「その矢は抜けないよ」

俺は弓を背中に装着し直すと、両手を前に突き出した。

もう、能力の出し惜しみはしない。
攻撃抑止以外も、積極的に使っていってやる。

次第に矢は、刺さったところから凄まじい熱を発し始めた。

「グググゥゥゥゥ……アト一歩一歩、あト一歩だったのニ!! おのれ、大帝神龍王め!! ダンジョンの奥に、収まっていればイイモノを!」

「灼熱の限界解除、解放」

「グファァァァァ!! お、オボえていろ!完全タイのマ王は……あらゆるスキルを身に付けし……無敵の……!!」

レディオークは、最後の力でドラゴンアックスを最大限に振りかぶると、龍王に向かって投げつけようとした。

ボロボロと、崩れかかった腕はそのパワーを全て武器に注ぐことは出来ずにいる。

それでも、意地なのか根性なのか、手が砕けながらもドラゴンアックスをぶん投げた。

龍王に届いてしまう!
俺は彼女の名前を呼んだ。

「フィオ!!」

「慈悲深き我らが神よ、聖霊を使わし、我らの盾となる力を貸し給え、セイントシールド!!」

フィオの声が響いて、龍王の前に強固なシールドが立ちはだかる。

ドガガガ!!

ドラゴンアックスが、フィオの張るシールドに阻まれて、火花を散らしながら落ちていった。

フィオのシールドの防御力が、更に上がっている。彼女が一緒に来てくれて、本当によかった。

おまけに、彼女はまた、祈りの書を開かずに詠唱している。完全に、大聖女クラスまで霊力が上がった証拠だ。

「クソ! ア、あと、もウ一度……体力変換で……龍王に……トドメを……」

「しつこい魔物ね!!」

龍王が全身に雷を纏うと、俺が射抜いた矢に向かって電撃を喰らわせた。

電撃は矢尻を通して、レディオークの全身に巡り、ついにレディオークは倒れる。

「やぁ!!」

そこへカジカが駆け寄って、ハタキで鋭い一撃をくわえると、レディオークは粉々に砕け散った。

凄い……!
俺たちの攻撃で、レディオークの肉体は崩壊しかけていただろうけど、砕くなんて。

「やっぱり最後はカジカねぇ」

龍王はほっとした顔で、フィオと一緒に俺たちのそばにやってくる。

よかった……。

なんとか、七体目の龍王を守りきった。

俺の世界でも、新しい六体の龍王が決まるまで、まだ時間がかかる。

実質、大帝神龍王の力を削ぐことは、これでできなくなったはずだ。

「ありがとう、アーチロビン」

龍王は、尻尾の先を伸ばしてくるので、俺はそれを握って握手のようにする。

やっぱりこの龍王は、親しみやすい。
いい友達になれそうなのに、もう、お別れだな。

「俺の方こそ。やられないでくれて、ありがとう」

「危なかったけど、回避できたわね」

「ああ」

「元の世界に戻るの?」

「そうだ。もう会うこともないだろうけど、知り合えてよかった」

「寂しいわね」

「そうだな。また、夢でなら会えるかも」

「あははは、そうね。主人公同士の特権よね」

「主人公同士?」

「わかんないなら、いいのよ。アタシにはアタシの。アンタには、アンタの物語がある、てことだから」

「……?」

「はい、深く考えないの」

「ふふ、わかったよ。あ、そうだ。髭を一本くれないだろうか」

「ヒゲ?」

「欲しがってる人に、あげないといけないんだ」

「また伸びるからいいわよ。一番いいのをあげる。はい」

「ありがとう」

隣では、フィオとカジカが、お互いの無事を喜んでいた。

「カジカさん、よかった」

「フィオちゃんも頑張ったね」

「いいえ、あなたがレディオークを倒したんです。龍王と、アーチロビンの恩人です」

「うふふ、嬉しい。この果実酒、大切に飲むね」

「はい」

「カジカ、ノミスギ、ナイデネ」

フェイルノも、カジカに向かって話しかける。
龍王も、うんうんと頷いて、カジカを見た。

「そうよ? アンタ、解禁日はまだ少し先だからね」

「龍ちゃん、ケチ」

「また、隠しておかなくちゃ」

「意地悪!!」

ブン! とハタキが振られて、龍王が逃げ回る。

「やめ……! やめなさい! きゃー!」

これがいつもの二人のようだ。
それにしても、あの電撃のように素早いハタキをよくかわせるな。

「アーチロビン!」

その時、フィオがレディオークの砕け散った場所を見て叫んだ。

光り輝く球体が、浮き上がってくる。

最後の、魔王の魂の欠片!!

……。

またこの、陰鬱な空気。
ゾンビダラボッチの時より強くなってる。

闇の底に引き込まれそうな、暗い思念が感じられた。

これは、敵意。はっきりとした敵意だ。
俺を、倒すべき敵として定めたんだ。

一番の邪魔者だと。

決着をつけたがってる。
この俺と。

そう解釈した途端、魔王の魂の欠片は、空高く舞い上がった。

バキバキ!! 空の空間が歪んで、魔王の魂がその中へと飛び込み、消えていく。

あんな高いところが、道なのか!?

「アーチロビン!!」

空から、聖騎士ギルバートの声がする。

太陽の神殿で見た、水面が揺れるような空間の歪みが、満月の表面に浮かんでいる。

「と、届かないって! あんな高いところ!!」

俺たちが戸惑っていると、龍王が素早く俺たちを背に乗せて空に向かって飛び上がった。

「お礼よ! しっかり、掴まってなさい!!」

龍王に言われて、俺はフェイルノを懐に隠し、フィオを抱えて必死に鬣に掴まる。

凄いスピードだ!

風がビュウビュウと吹き抜けたかと思うと、今度は耳鳴りがする。

どこまで、飛ぶんだ!?

そう思っていると、目の前に空間の歪みが迫っていた。

「じゃあね、アーチロビン!! フィオちゃん! フェイルノ! ありがとう!」

龍王はそう言って、空間の歪みに向かって俺たちを振り飛ばした。

「わあー!!」

「きゃー!!」

「ヒャアー!!」

各々叫び声をあげながら、俺たちは元の世界へと戻っていった。
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