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領主の手記と、陰謀の影

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私は、領主ライオネラ・ダナンの手記を震える手で受け取った。

あの日の手記・・・。

文字はところどころ途切れ、殴り書きというか、走り書きのように乱れている。

『今日という日を、誰よりも憎む。』と、いう書き出しで始まっている。

『村人の暴挙を止めることができない。
魔女の恐ろしさを吹き込まれて、それしか見ていない。

普段の彼女を、奴らより知っているはずなのに、なぜ騙される。

村に起きた疫病や事故まで、レモニカが招いたと言われて、それで納得している。

彼女を殺せば、全て解決する上、魂が救われるのだと言われて、みんな喜んで火刑の準備をしている。』



私は目で必死に文字を追った。



『奴らは、抵抗する私に取引を持ちかけてきた。

処刑執行取り消しに応じる代わりに、王家から、免罪証明書をもらってきてくれと。

魔女狩りをした、自分たちを無罪にするためだ。

これが罠だとわかっていたら、私はここを離れはしなかったのに。』



私は思わず2度読み直した。

罠?
免罪証明書を取りに行った・・・?



『村人に、処刑は中止すると説明したいから、一筆書いてくれと言う。

村人の中には、字が読めないものが多いというと、お前のサインがあれば、わかるものがいるからと言われた。

処刑執行まで時間がない。

私は言われるまま、白紙の紙に走り書きをして、サインを入れた。

焦っていた私は大きな間違いを犯した。

それがまさか・・・複写できる紙だったとは。

知らぬ間に、私は処刑執行書にサインを写しとられた。

早馬で駆けて戻ってきた時には・・・、もう、彼女は死んでいた。

自分が許せない。』

私は震えが止まった。
じゃ、あのサインは・・・!
レモニカの処刑執行書に、転写する紙だと知らないまま書いたもの!

「彼は処刑を止めようとしたのね・・・。」

私が呟くと、ベクトリアルは頷いた。

「騙されただけだったんです。
助かると思ってやったことが、逆に利用されたんですよ。

村人たちも、奴らが去ってからぽつぽつと、自分たちは間違ったのではないかと、言い始める人間も出てきたそうです。
ほんの一部ですが。」

私は、別の意味で涙を流した。

手記に目を落とすと、

『もう二度と、こんな悲劇を起こしたくない。
私は養子を取り、領主の座を譲ると、レモニカの家で一人で暮らした。

ここで、彼女を思い出しながら過ごすことが、私への罰なのだ。

私が処刑台へと送ったようなものだから。
レモニカ、本当にすまない。
今も君だけを愛している。』

と、書いてあった。

シャーリーンがハンカチで目頭を拭い、ライオネルも、目を潤ませている。

「これは、もらってもいいかしら?」

私は領主の手記を抱きしめた。

「え?」

ベクトリアルは驚く。

「レモニカの日記と、一緒に持っておきたいの。」

私が言うと、しばらく悩んでいたベクトリアルは、
「わかりました。
お譲りします!」
と、言った。

再びキーアイテム入手の効果音がなった。

「これで、パム村の悲劇の全てが、わかったことになるんですかね?」

シャーリーンが鼻の頭を真っ赤にしたまま、聞いてきた。

私はライカの手紙を開く。

『うわーん、レモニー!
さっきから涙が止まらないの!!
キーアイテム、入手ありがとう。

それにしても村の連中なんなのよ!
なんで反省するのが一部なの!?
知り合いを、死に追いやってなんで平気なのよ!』

本当ね。
でも、そういうものかもしれない。
意外と平気なんだと思う。
自分だけやったわけではないから。

『う。核心つくわね。
うう、と・・・、キーアイテム欄があと3つ空いてるわ。
まだ、何か足りないようね。』

・・・?
そんなに?

「罠とはいえ、悔しかったでしょうね。
複写できる紙なんて!
でも、下にもう一枚紙があるなら、書いてて気づきそうなもんですよね?
それに、手記を見るとサイン以外の文字も何か書いたみたいですよね、領主。」

と、シャーリーンが言った。

焦っていたことを考慮しても、確かに気付きそう。
おまけに複写の紙なら、走り書きしたところまで写るんじゃないかな。

「その時の紙・・・て、もうないですよね?」

私がベクトリアルに尋ねると、

「え?
ありますよ。
同じ紙もあります。

今でも良質の紙として製法は変わってません。

パム村は紙の生産地として有名なんです。
この時使われた複写用の紙も、この村のものなんです。
領主もよく好んで使ってたみたいです。」

「ええ!?」

「使い慣れた紙なら、気付きそうなものですよね?」

私が驚き、シャーリーンが冷静に尋ねる。

ベクトリアルは頷きながら、机の引き出しから2枚の紙を取り出した。

「これが複写用の紙です。
これが普通の紙。」

パッとみるだけでは、わからないくらい2枚ともそっくり。

紙の厚さまで、驚くほど近い。

転写用の紙が一枚入るから、現代の感覚で言えば、もう少し厚みがあるだろうに。

ベクトリアルがにこにこしながら、

「どうです?
精巧なものでしょう。
複写用の紙も一番上の紙だけ剥がして使えば、普通の紙と同じように扱えるよう、厚みに工夫があるのです。
普通紙を切らした時の保険みたいなものですけど。」

と、説明した。

ペンを受け取って、書いてみることにした。

普通の紙から、書いてみるわ。

うん、とてもペンの滑りがいい紙。
手触りもいいし、ライカから受け取ったこの手紙の紙に近い。

次に複写用の紙に書いてみよう。

・・・やっぱり少し厚みを感じる。
そこまで力を入れなくても、すらすらかけてしまうし、インクの色も全く同じ色で下に写るけれど。

シャーリーンのいう通り、これなら、サイン以外の文字も転写されてしまうだろうな。

それに力加減を間違えると、上の紙と下の紙がズレて複写用の紙だとすぐにバレそう。

使い慣れた人が間違えるかな?

もう一枚複写用の紙をもらい、一番上の紙だけを剥いで書いてみる。

うわ!
普通の紙に書いているのと同じように感じる。
これならわからないけど、転写するなら、厚みを感じたさっきの紙に書く必要があるはず。

何かおかしい。

ライオネルも何かに気づいたようで、顔をパッと上げて私たちを見る。

「待て・・・、彼は王家の出身だ。
王家には偽造を防ぐために、世継ぎ候補の子供たちは全員同じ筆跡になるように訓練を受ける。
つまり、サインは彼のものとは限らない。」

・・・!!

「それは、レモニカも知ってるはずよね?」

「知ってはいても、見分けはつかないと思う。
俺も他の兄弟との筆跡は、自分でも見分けがつかない時があるくらいだ。
その時の処刑執行書と、領主の手書きの紙はあるのか?」

「は、はい。
ちゃんととってあります。」

ベクトリアルが、部屋に置いてある金庫を開いた。

「紙が古いので・・・、気をつけて・・・。」

透明なクリアファイルのようなものに、変色した処刑執行書と、領主の一筆書かれたサイン入りの走り書きが入っている。

ライオネルは紙を重ねて、窓にあてると、光にかざした。

2枚の紙が透けてサインのところを見ると、

「ここを見ろ。
少しずれてる。
ライオネラのサインじゃない。
これは王家の誰かが書いたものだ。」

と、言った。

「ええ!?」

私たちは一斉に駆け寄った。





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