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氷の国の姫のお目覚め
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昔の夢を見た。
赤い髪の小さな男の子が、生垣の後ろに隠れている。体の大きな男の子たちにいじめられたみたい。
小さい子をいじめるなんてゆるせない!
私は木の棒を振り回して、大きな子たちを追い払うと、赤い髪の男の子のそばに寄った。
「ここから出たら、こわい目に遭うもん。
出たくないよ」
その子は涙目で怯えていて。
だから私は、キャンディを握らせてこう言った。
「大丈夫よ。これをあげる!
元気が出てくる、お月様色の不思議なキャンディよ!これを食べるといいことがたくさん起きるんだよ!!」
・・・懐かしい夢。
私がまだ、怖いものなんて知らなかった頃の夢。
あのまま大きくなれていたら、きっとこんなふうにはならなかった。
「姫様。アイスリー姫様、もうすぐ出発のお時間です」
寝室の部屋の外から侍女、ミユキの声がする。
私は氷の国ブリザードゥ国の姫、アイスローズ。みんなアイスリー、て呼ぶ。
実は私、極度の心配症。
いつからか、こんなになったの・・・。
弟がいるんだけど、あの子は明るい。
でも、私はダメ。
「い、行けない。今日の外出はやめにするわ」
と、私が蚊の鳴くような声で応えると、ミユキはため息をついて部屋の扉をガチャリと開けた。
「もう、何度目ですか?
また、いつもの思い込みでしょ?」
ミユキは呆れたように、私の前に歩いてくる。
「違うわ!
その・・・今朝は嫌なことがあったの」
私はミユキを見つめて、必死に言う。
ミユキは、片眉をつんとあげる。
「何があったんですか?私は今日は遅番なので、午前中のことは存じません。教えてください」
「朝、ベットから落ちたの」
ミユキは、困ったような顔をした。
「・・・は?
そのくらいは誰にでもあることでしょう」
それはそうでしょうけど、でも!!
「おかしいと思わない?
私はベッドの真ん中で眠るのよ?」
「それは、寝返りをうってる間に端に行ってただけですよ」
「あなたも知ってるでしょ?私のベッドは、部屋の端から端まで届きそうなほど広いのよ?」
「まぁ、確かに。姫様が落ちた落ちたと騒ぐたび、広くして行ったんですもんね。おかげで壁とベッドの隙間は、人一人がやっと通れるくらいの狭さです」
ミユキはそう言って、ベッドと壁の隙間を歩く。
「こんな狭い隙間に落ちるのよ?
今日はよくないことが起きるに決まってるわ!」
「アイスリー様、相当寝相が悪いということですね。はい、大丈夫です。さ、行きましょう」
そう言うと、ミユキは私の手を引いてベットから立たせた。
「ミユキ!」
私はもう片方の手を、彼女の手に重ねて指先で軽く叩いた。
今のは、言うことを聞いてくれない?の意味。
私とミユキだけの合図。
彼女はにっこり笑うと、私の手に自分ももう片方の手を重ねて、指先でトントンと二回叩く。
意味はもちろんダメです、てこと。
承諾の時は一回叩いてくるの。
そのまま私は、寝室から連れ出されてしまった。
廊下の窓から入ってくるそよ風にあたりながら、ミユキに手を引かれる。
「あぁ、今日は風が気持ちいいですね。ほら、お庭の花も揺れていますよ」
ミユキが言うので、窓に近づいた途端、突風が吹いて顔をカーテンに襲われてしまった。
「やだっ、なんで私だけ・・・!」
ああ、やっぱり今日は、悪いことが起きる日なんだわ。
「ねえ、ミユキ!やっぱり今日は外に出ちゃいけないのよ!戻りましょう!」
「カーテンくらいで何言ってるんですか。雨に吹き込まれてずぶ濡れになったわけでもないのに。さ、行きますよ」
ミユキは相手にしてくれず、私の背中を押して衣装部屋に入れようとする。
「ちょっと・・・ミユキ!」
衣装部屋の扉の前に来た途端、強い風が吹いて目の前の扉がバーン!と閉まった。
な、2回も続けて風に襲われるなんて!
「やっぱり怖いわ、ミユキ!
悪いことが起こるのよ、間違いないわ!風が警告してるのよ」
私の必死の訴えにも、ミユキは宥めるような声で、
「気のせいです!こんなよくある偶然が、悪いことの前兆なわけないでしょう」
と、言って、私を衣装部屋に押し込んだ。そして手早く、今日のために新調したドレスを合わせる。
「偶然なんかじゃないわ!こういうことがあると、必ず良くないことが起きるんだから。今までだって・・・」
私の心に、恐ろしく厳しいある女性の影が浮かび上がる。
その人の名前は『ベロジュ・アイスハルト』
名前を思い出すだけで、不安で胸が苦しくなった。
幼い頃、私の教育係だったベロジュは、毎日のように繰り返したものだ。
『悪いことの前兆があった日は、外に出てはいけない。外に出れば雪崩のごとく悪いことが起きて、周りにまで不幸をもたらすのだから』と。
ベロジュの言いつけを破って外に出ると、必ず何かが起きた。転んだりぶつかったり、迷子になったり。そしてそのたびに、侍女や門番が罰を受ける。
ベロジュはそれを見て、必ず言った。
『ほら、あなたが私の言うことを聞かないから、周りの者が不幸になったでしょう?』と。
私の不安を察したのか、ミユキがため息をつきながら私を見る。
「大丈夫ですよ。私がついています」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございました。
お気に召したら、お気に入り登録してくださるとうれしいです♫ とても励みになります。
※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
赤い髪の小さな男の子が、生垣の後ろに隠れている。体の大きな男の子たちにいじめられたみたい。
小さい子をいじめるなんてゆるせない!
私は木の棒を振り回して、大きな子たちを追い払うと、赤い髪の男の子のそばに寄った。
「ここから出たら、こわい目に遭うもん。
出たくないよ」
その子は涙目で怯えていて。
だから私は、キャンディを握らせてこう言った。
「大丈夫よ。これをあげる!
元気が出てくる、お月様色の不思議なキャンディよ!これを食べるといいことがたくさん起きるんだよ!!」
・・・懐かしい夢。
私がまだ、怖いものなんて知らなかった頃の夢。
あのまま大きくなれていたら、きっとこんなふうにはならなかった。
「姫様。アイスリー姫様、もうすぐ出発のお時間です」
寝室の部屋の外から侍女、ミユキの声がする。
私は氷の国ブリザードゥ国の姫、アイスローズ。みんなアイスリー、て呼ぶ。
実は私、極度の心配症。
いつからか、こんなになったの・・・。
弟がいるんだけど、あの子は明るい。
でも、私はダメ。
「い、行けない。今日の外出はやめにするわ」
と、私が蚊の鳴くような声で応えると、ミユキはため息をついて部屋の扉をガチャリと開けた。
「もう、何度目ですか?
また、いつもの思い込みでしょ?」
ミユキは呆れたように、私の前に歩いてくる。
「違うわ!
その・・・今朝は嫌なことがあったの」
私はミユキを見つめて、必死に言う。
ミユキは、片眉をつんとあげる。
「何があったんですか?私は今日は遅番なので、午前中のことは存じません。教えてください」
「朝、ベットから落ちたの」
ミユキは、困ったような顔をした。
「・・・は?
そのくらいは誰にでもあることでしょう」
それはそうでしょうけど、でも!!
「おかしいと思わない?
私はベッドの真ん中で眠るのよ?」
「それは、寝返りをうってる間に端に行ってただけですよ」
「あなたも知ってるでしょ?私のベッドは、部屋の端から端まで届きそうなほど広いのよ?」
「まぁ、確かに。姫様が落ちた落ちたと騒ぐたび、広くして行ったんですもんね。おかげで壁とベッドの隙間は、人一人がやっと通れるくらいの狭さです」
ミユキはそう言って、ベッドと壁の隙間を歩く。
「こんな狭い隙間に落ちるのよ?
今日はよくないことが起きるに決まってるわ!」
「アイスリー様、相当寝相が悪いということですね。はい、大丈夫です。さ、行きましょう」
そう言うと、ミユキは私の手を引いてベットから立たせた。
「ミユキ!」
私はもう片方の手を、彼女の手に重ねて指先で軽く叩いた。
今のは、言うことを聞いてくれない?の意味。
私とミユキだけの合図。
彼女はにっこり笑うと、私の手に自分ももう片方の手を重ねて、指先でトントンと二回叩く。
意味はもちろんダメです、てこと。
承諾の時は一回叩いてくるの。
そのまま私は、寝室から連れ出されてしまった。
廊下の窓から入ってくるそよ風にあたりながら、ミユキに手を引かれる。
「あぁ、今日は風が気持ちいいですね。ほら、お庭の花も揺れていますよ」
ミユキが言うので、窓に近づいた途端、突風が吹いて顔をカーテンに襲われてしまった。
「やだっ、なんで私だけ・・・!」
ああ、やっぱり今日は、悪いことが起きる日なんだわ。
「ねえ、ミユキ!やっぱり今日は外に出ちゃいけないのよ!戻りましょう!」
「カーテンくらいで何言ってるんですか。雨に吹き込まれてずぶ濡れになったわけでもないのに。さ、行きますよ」
ミユキは相手にしてくれず、私の背中を押して衣装部屋に入れようとする。
「ちょっと・・・ミユキ!」
衣装部屋の扉の前に来た途端、強い風が吹いて目の前の扉がバーン!と閉まった。
な、2回も続けて風に襲われるなんて!
「やっぱり怖いわ、ミユキ!
悪いことが起こるのよ、間違いないわ!風が警告してるのよ」
私の必死の訴えにも、ミユキは宥めるような声で、
「気のせいです!こんなよくある偶然が、悪いことの前兆なわけないでしょう」
と、言って、私を衣装部屋に押し込んだ。そして手早く、今日のために新調したドレスを合わせる。
「偶然なんかじゃないわ!こういうことがあると、必ず良くないことが起きるんだから。今までだって・・・」
私の心に、恐ろしく厳しいある女性の影が浮かび上がる。
その人の名前は『ベロジュ・アイスハルト』
名前を思い出すだけで、不安で胸が苦しくなった。
幼い頃、私の教育係だったベロジュは、毎日のように繰り返したものだ。
『悪いことの前兆があった日は、外に出てはいけない。外に出れば雪崩のごとく悪いことが起きて、周りにまで不幸をもたらすのだから』と。
ベロジュの言いつけを破って外に出ると、必ず何かが起きた。転んだりぶつかったり、迷子になったり。そしてそのたびに、侍女や門番が罰を受ける。
ベロジュはそれを見て、必ず言った。
『ほら、あなたが私の言うことを聞かないから、周りの者が不幸になったでしょう?』と。
私の不安を察したのか、ミユキがため息をつきながら私を見る。
「大丈夫ですよ。私がついています」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございました。
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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
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