心配症で不幸体質だと思い込む姫様は、宿敵の呪縛に立ち向かい、隣国の王子に溺愛されるルートへと進みます!

たからかた

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波乱の始まり

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室内には数人の使用人と兵士がいるけれど、みんなスノウティの味方ばかり。

「アイスリー様ぁ~、今日も大変お美しい。
アタシはこの胸を焦がして、あなたをお待ちしておりましたよぉ~」

この完全防音の部屋に入って、扉が閉まるなり王宮付きの道化師『フローズリー』の気持ち悪い歓迎を受けた。
派手な格好して、ペラペラと喋るの。
でも、すごく狡猾こうかつな男。油断はできない。

元は神官だったと聞いてるけど、何があったんだろう。
おまけにこいつ、ベタベタしてくるから、大嫌い。

彼は早速私の前にひざまずくと、勝手に私の手をとって、手袋越しにキスをしてきた。

やたらと長いというか、擦り付けてきてるというか。

手を引こうとしても、握りめてくるからタチが悪い。

ミユキが流石さすがに注意しようとした時、

「うぁっちいー!!!
あつ・・・熱い!!!」

フローズリーの頭にさしている長い飾り羽に火がついて、燃えた。
慌てて離れていく。

どうやら、近くに置いてある蝋燭ろうそくの火が燃え移ったみたい。ああよかった、離れてくれて。

「騒々しい男」

スノウティが、軽蔑けいべつした眼差まなざしでフローズリーを見ている。

「スノウティ・・・なぜここに?」

スノウティは大袈裟おおげさにため息をつく。

「もぅ、何をおっしゃるの?
晩餐会ばんさんかいに、こんなに遅刻して。
両国の国王夫妻も参列しているというのに。
あなたがいつまでも来ないものだから、私がわりにその役をつとめていたのです。
感謝して欲しいくらいですわ」

スノウティは、腕に抱いた猫のダイヤモンドダストの頭を撫でながら、小馬鹿にする様に流し目で見つめてくる。

両国の国王夫妻も!?
今日は本人同士だけのはずじゃ?

私が戸惑っていると、ミユキがスノウティにお辞儀じぎをして口を開いた。

「御者のバックリーが、私たちを森に置いて逃げたのです。
それに、私どもの方に伝えられていたお話と、食い違います。本日、アイスリー様とファイ様は、お供一人のみで会われる予定と伺っておりますが」

ミユキがそう言うと、スノウティは高笑いをした。

「馬鹿じゃないの?両国の和解の為の、第一歩となる晩餐会なのよ?王と王妃が同席しない上に、お供が一人だけなんて。王家の面目が立たないじゃない」

「いえ、私は王宮侍女筆頭である宮廷女官長、ベロジュ様から確かにそう伺いました」

「寝ぼけてたんでしょう。ねぇ、ベロジュ」

スノウティはそう言うと、後ろを振り向いた。
彼女の後ろには、今や王宮の侍女を統括する宮廷女官長のベロジュが控えている。

ベロジュは貴族の出身で、かつて私の教育係だった。そう、『悪いことが起きる日は、部屋に引きこもること』と幼い私に言い聞かせ続けた、あのベロジュだ。

彼女は冷たい目で私を一瞥いちべつしたあと、ミユキを睨みつけた。その目線だけで、私は心臓を掴まれたように息苦しくなる。

「お前には心底がっかりしている、ミユキ。
今日がどれほど大切な日か、わからぬはずがない。ましてや、私の言葉を聞き違えるなどと!!」

声は小さいけど、彼女はすごい迫力で叱りつけ、ミユキは頭を下げたまま唇をんでいる。

「もはやこれほどの恥をさらして、この晩餐会ばんさんかいが成立するとは思いますまい?
この場はスノウティ様にお任せし、城へお戻りくださいませ。
これ以上悪いことが重ならぬうちに」

ベロジュの言葉は、私の恐怖心を刺激する。

そこへ両手を広げたフローズリーが、割って入ってきた。

「あぁぁぁ、怖い怖い氷のような宮廷女官長様!!アイスリー様、アタシがお守りしましょうか?
アタシとこのまま駆け落ちしてくだされば、一生宮廷女官長からお守りいたしますよ?」

そう言って、抱きついてこようとする。
こうやって芝居がかった動きで近づいてきて、本当に抱きついてきたりするから、王宮の女性たちは、みんな迷惑している。

ほんっと、気持ち悪い・・・!!

顔をそむけて後ろに下がろうとすると、

「あっちぃー!!!熱い熱い!!
な、なんだ?また、燃えてる!?」

と、言って慌てるフローズリー。見ればもう片方の飾り羽根も煙をあげている。
叫びながら火を消すフローズリーを、ベロジュはため息をついて見ていたけれど、やがてミユキに視線を戻し、宣告を下した。

「ミユキ、この失態をもって、お前はアイスリー様付きの侍女を解任する」

ミユキは目を細めて彼女を見つめ返したあと、深々と頭を下げた。

やだ、ミユキは悪くない!
悪いのは・・・悪いのはきっと・・・。

「やめてください。ミユキは悪くありません!
私が・・・今日は私に悪いことが起こる日だから、こんなことになったのは、そのせいなんです」

私が言うと、スノウティはクスクスと笑いだし、ベロジュも優しそうに笑って頷いた。

「慈悲深いアイスリー様、よくぞおっしゃいました。さ、お教えした通りこのまま城の部屋に戻り、悪運が過ぎ去るのをお待ちください。
これ以上あなた以外のものまで、不幸のうずに巻き込まぬように」

ベロジュの言葉が、毒のように沁みてくる。
やっぱり私が悪いんだ。
動いてはいけない日に、外出なんかしたから。

兆候はあったのに、ちゃんと部屋に籠らなかったから・・・。
これは、私の運が引き起こした必然なんだ。

落ち込む私の手を、ミユキが横からさっと握りしめる。

「ミユキ?」

「流されてはいけません!!」

ミユキは強い光を瞳に宿して、私を見つめた。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。


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