心配症で不幸体質だと思い込む姫様は、宿敵の呪縛に立ち向かい、隣国の王子に溺愛されるルートへと進みます!

たからかた

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あなたは、誰?

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あの首輪何かある。
でも、まずはホムラをなんとかしないと。

「ミユキ」

「はい」

「今日までは、私の侍女でいてくれる?
私と一緒に、きてくれる?」

「え?」

ミユキが、キョトンとした顔をする。
もう、嫌。
何かするたびに、私のために動く人がこんな目にうのは。
さっきから身の内を掻きむしる何かに押されるように、下がりがちな頭を持ち上げた。

こんなこと、今日で最後にしよう。
例えベロジュたちに勝てなくても、ホムラは助けなければ。

私はミユキの手を握って、軽く指で叩いた。

ミユキは、ハッとして私を見る。
そして、私の手にもう片方の手を重ねると、一回軽く指で叩き返した。

一回叩くのは承諾しょうだく
二回叩くのは拒否。
私たちにしかわからない、秘密の合図。

私はうなずくと、ベロジュとスノウティの方を見た。思いっきりやらせてもらうわ。

ファイ様に振られてもいい。
スノウティを選ぶならお好きにどうぞ。

「アイスリー様、ゆっくりでいいですよ。
急に変わろうとしては、反動も大きくなります」

ミユキが小声で言ってくる。
そうね・・・でも、彼女たちはしたたかだから。私は深呼吸して、ベロジュに言った。

「ベロジュ、その兵士にかけた魔法を解きなさい」

・・・!!

もちろん、スノウティとベロジュの表情はこばばる。すぐに帰ると思ったんでしょうね。

「空耳かしら」

ベロジュは、うるさそうに耳を軽く掻いた。

「いいえ。もう一度言うわ。
氷の魔法を解きなさい」

私は再度強く言った。ベロジュは無視して横を向く。

誰も応えず、シーンとしていた。
フローズリーだけが、訳の分からない踊りを一人踊っている。まぁ、いつものこと。

この世界では、人にかけた氷の魔法を溶かす方法は二つしかない。
一つは、かけた人を上回る魔力の火の魔法で溶かすこと。
もう一つは、かけた本人がくこと。

それ以外のやり方では、元に戻らず死んでしまうの。

「耳が遠くなったのね、ベロジュ。
仕方ないわ、ミユキ、ファイアストム国の方々をお呼びしましょう」

私の声に、ベロジュはこめかみにうっすら青筋を立てた。
困惑した空気が部屋に満ちていく。
部屋に控える使用人たちは、互いに顔を見合わせていた。

「アイスリー様、かぁわいい!
無駄なことをしようとしてますねぇ」

フローズリーだけが、げたげた笑っている。

「動揺するでない!何もできるはずなかろう。
ヤケを起こして、強がっているだけだ!」

ベロジュの一言に、周りのものたちが落ち着いていった。さすがね、ベロジュ。

「私たちが、ちゃんと取りなしますから、お帰りくださって結構ですのよ?
それとも、また、他の誰かを犠牲にします?
あなたのせいで」

ベロジュは目を細めて、私を見つめる。
この目だ。いつもこの目で睨まれて、怖くて寝室に籠ってた。

落ち着いて。
飲まれてはだめ。

「ミユキ、扉を開けて」

私はベロジュを一瞥して、ミユキに扉を開けるように指示を出した。
そんな私に、スノウティが声をかけてくる。

「あなたに何ができるの?みんな私たち、いえ、私の言葉を信じるわよ?」

スノウティは、勝ち誇ったように言った。
・・・出来ることをするまでだわ。
私は、れが少しひいた顔でスノウティを見た。

「私に何かがあって遅れたことは、この顔が証明してくれるわ。ねぇ、スノウティ」

私が言うと、スノウティは少し怯えた顔をする。でも、すぐに嫌な笑みを浮かべた。
自信があるんだわ。

その時、急に部屋の外が騒がしくなったかと思うと、

「ワン!ワワン!」

と、犬の鳴き声が聞こえてきた。
高く響く声。小型犬?

「待て!ファイアボール!」

バタバタと走る音。続いて男性の声。誰だろう。

「ファイ様!お戻りください!」

そんな声も聞こえてくる。

え、ファイ様?晩餐会ばんさんかいの席にいるはずでは?
私はキョトンとして、声のする扉の向こうを見つめた。

ベロジュもスノウティも慌てて侍従たちに命じて、凍ったホムラを部屋のすみへと、運んでいく。

「ちょっ、ダメよ!やめなさい!」

私は止めようとしたけれど、使用人たちに阻まれる。従者や兵士の影にかくれて、すぐにホムラの姿が見えなくなった。

どこに隠したの!!

外からは犬の鳴き声がどんどん近づいてきて、部屋の前で急に大人しくなった。

カリカリカリ。
爪で私たちのいる部屋の扉を、引っ掻く音がする。

ホムラはこの部屋にいる。助けを呼んだ方が早いはず。
私は、すぐに扉をミユキに開けさせた。

扉が開くと同時に、炎のような毛色の小型犬が、飛び込んでくる。毛は目にかかるほど長い。

動くと毛並みがゆれて、本当にファイアボールのよう。

小さくて、可愛い。コロコロしてるわ。

ファイアボールは私と目が合うと、尻尾を振りながら嬉しそうに近づいてきた。

思わずしゃがんで、手を伸ばす。
ファイアボールは、自分から私の手の下に頭をもってくるので、そのまま撫でる。

正装用の手袋をしていても、その毛並みが伝わってきた。わあ・・・モコモコだぁ。

ファイアボールの尻尾は、さらに高速で揺れて、そのままゴロリと寝転んでお腹を見せてくる。

私がお腹を撫でていると、スノウティが嫌そうにため息をついて、

「何よ、この犬!
私の時は、うなってみつこうとしたくせに!!」

と、吐き捨てるように言った。
そういえば、スノウティはあまり動物になつかれない。人にはあんなに好かれるのに。

スノウティの声に、ファイアボールは立ち上がり、

「ウー!!」

と、うなって歯を見せると、スノウティに向かってワン!!と、吠える。
それから彼女の腕に抱かれたダイヤモンドダストに気づくと、じっとお互いに見つめ合っていた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。

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