心配症で不幸体質だと思い込む姫様は、宿敵の呪縛に立ち向かい、隣国の王子に溺愛されるルートへと進みます!

たからかた

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後編

せつない触れ合い

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一人戸惑う中、寝台に降ろされて思わず緊張してしまう。
ファイ様は寝台の下にひざまずいて、目線を合わせてきた。

「私が名乗り出て、そのまま終わるわけがない。私がアイスリーにおぼれた以上に、アイスリーも私におぼれて欲しいから。」

「ファイ様・・・。」

「けれど、こんな一方的な気持ちの押し付けは、修行中のアイスリーに迷惑だと思った。
だから、アイスリーの方から私を求めてくれないかと、いつも願っていた。そうしたら・・・。」

「きゃあ!!」

ファイ様が立ち上がると、私を抱き締めてそのまま押し倒してきた。

焼印は!?
・・・あ、これだけでは発動しないみたい。

ファイ様がゆっくり顔を覗き込んでくる。
緋色の美しい瞳に見つめられて、思わず見惚みとれてしまった。ど、どうしよう。私、のぼせそう。

「そうしたら、こうできる。
やっと願いが叶って嬉しい。
・・・でも、アイスリーはやめてほしい?」

「そ、そ、そんなこと。」

首を横に振るだけで、精一杯。
どうしよう・・・どうしよう。
夫婦だから拒む気はないけれど、体の力を抜くことができない。

ファイ様の顔が近づいてきて、緊張が最高潮に達してしまう。
目を閉じることもできずに、全身が硬くなっていく。

「愛してるアイスリー。もう、どこにもやらない。」

ささやくように優しく言って、ファイ様は目を閉じる。
次の瞬間、軽く触れるだけのキスをされた。
まばたきする間にもう一度される。
離れるのが早くて、焼印は発動しない。

少し怖くて、恥ずかしさはあったけれど、彼は決して強引に進めようとはしない。

腕が少し震えていて、乱れる呼吸を整えようとしたり、彼なりに抑えてくれていることも伝わってくる。

ファイ様は閉じていた目を開けると、私に優しく微笑んだ。

「愛しいアイスリー。
私に出会ってくれて、愛させてくれてありがとう。
これからも隣にいて、私と手をつないでいてほしい。」

心のこもった静かな声に、涙が出てきそうになる。

「わ、私も・・・私も同じです!
だってこんな・・・!!」

こんな私を愛してくれるんだものと、続けそうになって慌てて口をつぐむ。

あ、ダメ!
『こんな』はナシ!

なかなか後ろ向き思考が抜けない。

ファイ様は私の表情を見てクスリと笑うと、私の『貞操ていそうの焼印』を押された方の手の手袋を取り、その手に軽く口づけて、自分の頬に添えさせた。

「『こんな』アイスリーがいい。」

彼の言葉に、緊張が解けていく。

彼の熱が体に伝わってきて、私も顔と体が熱くなり、自然と吐く息まで熱くなってきた。

ファイ様の頬もほんのりと赤く染まり、表情がなまめかしくなる。

「綺麗だ・・・。
焼印さえなければ、今頃アイスリーに『寂しい』なんて言わせてない。
『一生離れたくない』と、言わせてた。」

彼は私の耳に優しく触れると、その手で頬を撫でて、唇の端にキスをしてくれた。

もう片方の手は、私の手と向き合わせに指を絡めて握ってくる。

ちゃんとしたいな・・・。
結婚式の誓いのキスの時みたいに。
こうしていると、せつなくなってくる。

彼はいつものように、すぐに離れようとするので、私は焼印のことをすっかり忘れて、思わず彼の唇を追いかけてしまった。

ファイ様も、いきなりのことで驚いたようだけど、すぐにこたえてくれる。

でも、あんじょう焼印が発動する羽目に。

彼の温かく柔らかい唇に、頭の芯が痺れてぼーっとなった私に、手に押された焼印がバチ!と音を立てて光った。

「う!」

焼けるような熱さに、思わず体をひねって寝台に横向きに倒れ込み、体を丸めて手首を握りしめる。

「アイスリー!大丈夫か!?
すまない、私が余計なことをしたばかりに。」

私の様子に、ファイ様がすぐ起き上がり、横に来て抱き起こしてくれた。

申し訳なさそうに、私の手を一緒にさすってくる。私は首を横に振って、ファイ様の手に自分の手を重ねた。

「い、いいえ、私が悪いの。
ファイ様のキスが嬉しくて、つい焼印のこと忘れてこんなことに。また、ドジしちゃった。」

「違う・・・違うよ。
アイスリーは何も悪くない。
痛かったな、早く解呪させないと。」

ファイ様は、私の頭を自分の肩に預けさせて、肩を抱き寄せてくれる。

温かい・・・。

焼印の発動は痛かったけど、心の中はとてもおだやかだった。
今更ながら、すごく愛されていると実感してしまう。

それなのに、ちゃんとキスできたのは、結婚式の誓いのキスだけなんて、ひどい話。

レドリシアは・・・恋人だった彼女は過去にたくさんしたんだろうな。
そんな過去に嫉妬しっとしても、仕方ないんだけれど。

悔しいな・・・そうだ!
私は顔を上げて、ファイ様を見つめた。

「ファイ様、もう、大丈夫。
ね、こっちに来て。」

「え、いやでも・・・。」

「ここにこうして、そう、頭をここに。」

私は寝台の上で、膝枕をしてあげることにした。

「ア、アイスリー、私は・・・。」

ファイ様がれたように戸惑ってる。
夫婦としてせめてこれくらいは、いいでしょう?

私は、膝の上に乗せたファイ様の頭を撫でた。
綺麗な真紅の髪・・・。
その手触りを堪能たんのうしながら、ファイ様と見つめ合う。

穏やかな沈黙が流れて、体の力を抜いたファイ様が先に口を開いた。

「アイスリー。」

「はい?」

「すまない。何もかも。
王太后様がやまいに倒れるまでは、こんなことになるとは思っていなかった。」

ファイ様は、あやまりながら見上げてきた。
そう、事前の説明では、婚姻に反発はないと聞いていた。

でも、婚姻の数日前に王太后様がいきなり倒れて、話せない状態になったそう。

そこへ、辺境の反乱を鎮圧したヴィノガン様が帰還し、王太后様の言葉を通訳し始めて今みたいなことになったんだとか。

ヴィノガン様も結構なご年齢だと思うけど、まだ、戦えるなんてすごいわ。

「婚姻は延期、もしくは取り消しになりかけたけど、元々王太后様が決めた日取りだったし、世界の注目もあって式を執り行ったんだ。」

「王太后様は、反対のお立場ではなかったのね?」

「そうだ。婚礼の日を心待ちにしてくださっていた。彼も喜んでくれる、と。」

「彼?」

誰のことかしら?先王?
わからないな。

「だから・・・ヴィノガン様の言うことは、王太后様のご意志だとは思えないけど、王は母親に逆らうようで思うように動けない。
だから、私が動・・・く・・・。」

ファイ様は、気持ちがいいのか目がトロンとしてきた。
眠ってくれるかしら・・・だって、

「そういえば、ファイ様は眠りが浅くて、人がいると眠れないと、レドリシアは言ってた。」

私の声に、ファイ様はパチリと目を見開き、目を再び細めると、ため息をついた。

「あぁ、すまない。
昔から落ち着かないんだ。」

「それでもこれからは、私の膝で寝て。
レドリシアの膝じゃなくて。
・・・い、嫌じゃなかったら。」

無理強むりじいはしたくない。
でも、安らぐのは私のそばであって欲しい。
ファイ様は、彼の頭を撫でる私の手を片手で握ってきた。

「もちろん、そうする。
けれど、彼女の膝で寝たのは私に変装したホムラだ。色香のただよう女性に、ホムラは弱いからな。」

色香・・・。
そういえばレドリシアは、仕草やファッションに、男性が喜びそうな色気がある。
おまけに胸が大きかったな、と思い出す。

「彼女は、ファイ様の昔の恋人なんでしょ?」

「かつては。
アイスリーと髪の色が似ていて、同じ香水。
それだけ。」

それだけ、て・・・。
な、なんだか冷たい言い方。

何かあったのかしら。

ファイ様は膝に頭を乗せたまま、体勢をうつ伏せに変えると、私の腰に抱きつくようにして両腕を回してきた。

「きゃ!」

「彼女は終わった相手だ。
私はアイスリーだけを見ている。
アイスリーも・・・私だけを見てくれ。
今日からここが、私の居場所だ。」

「ファイ様・・・?」

いつも明るいファイ様の暗い声に、戸惑うしかない。
私はそっと彼の頭を抱えるように、抱きしめる。

「大丈夫、大丈夫よ・・・。」

私の声に、ファイ様の力が抜けていく。

彼の香水、『ウォレンジレ』の香りと、私の香水『日向のスウィートオレンジ』の香りが混じり合って、優しい香りとなって私たちを包んでくれた。

「このままここで寝る。
とても・・・安らぐ・・・。」

・・・あれ?ファイ様、静かになった。
顔を覗き込むと、静かな寝息が聞こえてくる。

ええ!?
ね、寝落ちしてる。
話したいこと、まだ、沢山あるのよ?

でも、ぐっすり寝ている姿を見ていたら、何も言えない。

「・・・アイスリー・・・。」

寝言ねごとまで言ってる。
ふふ、仕方ないな。

ファイ様の頭を撫でながら、手の甲に焼きついた『貞操の焼印』を見る。

このままでいいはずがない。
王太后様とお話し出来たらな。

本当にヴィノガン様としか、お話し出来ないのかしら。
筆談とかもダメ?
それに、『火の試練』・・・。

私は部屋に灯された、燭台の蝋燭ろうそくの火を見つめる。

火を従える魔力は、とても危険だと両親からも言われていた。

だから、えて試したこともない。
でも、もし火の試練を受けることになったら・・・。

私はそんなことを考えながら、いつの間にか眠っていた。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。


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