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後編
新郎が部屋にやってきた
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「アイスリーは、試練なんか受けさせません!
明日きちんと抗議し・・・!」
椅子から立ち上がったファイ様は、体がよろめいて崩れるように座り込む。
「ファイ様!?」
私は慌てて駆け寄った。
ファイ様の周りを、他の兄弟姉妹も取り囲む。
「・・・疲れ・・・たのね。
アポロニ兄様・・・肩を・・・かして・・・。」
「来い、ファイ。
顔を洗いに行くぞ。」
ファイリアお義姉様とアポロニお義兄様が、ファイ様を連れて退室していく。
私たちが席に戻ると、バーニスお義姉様が、
「ファイも、今日のこの日を楽しみに待ってたのよ。
アイスローズちゃんとゆっくり過ごしたいから、仕事も相当大量にこなしていたもん。」
と、教えてくれる。
ファイ様・・・。
無理してくれたんだ。
「しかし、その『貞操の焼印』が消えない限り、初夜も迎えられない。
一体何をすれば、解ける魔法なのでしょう。」
と、プロメテクスお義兄様が尋ねてくれた。
そう、この焼印は最初、皇太子妃修行を終えたら消えると聞いてたのに、消えないもの。
「それをかけたのは、大神官ですから。
王太后様の真意がわからぬ今は、その時を待つしかありません。」
王妃様が悲しそうな声で言った。
それを聞いていたバーニスお義姉様が、机をバン!と叩く。
「歯痒い!
何が気に食わないのよ!
いくら元英雄でも・・・!」
「よせ、バーニス。そこから先は言うな。
父上、火の試練のダンジョンには、奇跡の万能薬の『レマニカル』があります。
明日にでも、私が取りに行きます。王太后様に飲ませましょう。」
プロメテクスお義兄様が、バーニスお義姉様を宥めて王様に言ったのだけど、
「ダンジョンの扉は、王族で火の試練を受ける必要がある者の前でしか開かぬ。
お前は既に終えているではないか。
次に開く可能性があるのは・・・。」
と、王様は諭してきて私の方を見る。
・・・ですよね。
そこへアポロニお義兄様の声がした。
「勝手に決めないでください。
ファイもアイスローズ妃も、今日は疲れている。
慰労会は日を改めて、今日は休みましょう。」
お義兄様は、ファイ様とファイリアお義姉様を伴って、戻ってくる。
ファイ様は俯いて、顔色が悪そう。
・・・私も氷の宮に戻った方がいいみたいね。
王様と王妃様が先に退室して、私たちも後から広間を出た。
ファイ様はお義兄様たちと一緒に、皇太子の宮に帰っていく。
・・・あまり話せなかった。
もっと一緒にいたかったな。
ダイヤモンドダストが顔を擦り付けてきて、私を慰めようとしてる。
私はダイヤモンドダストを胸に抱くと、氷の宮に向かって歩き出した。
ふと、ミユキが足を止める。
「ファイリア様?
何か御用ですか?」
ファイリアお義姉様が、廊下の先で私を待っていたの。
「お話・・・しましょう・・・。
一緒に・・・宮に行く・・・わ。」
そしてパチリと片目を閉じた。
ま、まさか!!
まさか、この人!!
私の居城である氷の宮の前には、ヴィノガン様の私兵がいて、出入りを厳しくチェックしている。
私はファイリアお義姉様とミユキを伴って、宮の中に入った。
私の部屋の中に入ると、ファイリアお義姉様がうーん、と背伸びをする。
「ファイ様、本当に変装がお上手ですね。
ファイリアお義姉様にも変装するんだ。」
私が言うと、ファイ様は変装をさっと解き、腰に手を当てて、
「やっぱり、アイスリーは誤魔化せないな。
この部屋に時々来るには、他に方法がなくて。」
と言って得意そうに笑う。
ファイ様は元々美形だから、女装しても違和感ないものね。
素直に綺麗な人だと思える。
彼は、変装のレパートリーが多い。
以前はお忍びで王宮の外に出て、庶民に混じってあれこれ情報収集したり、剣技を磨いたりしてたんだって。
どおりで、迎賓館で一般兵ホムラとして振舞っても、違和感を感じなかったわけだわ。
彼はドレスを手早く脱いで、そばにある椅子にかけると、中に来ていた軽装の服の皺を伸ばした。
ん?待って、時々、来ていた?
ファイリアお義姉様に変装して、この部屋にいたの?
そういえば、この部屋の中のファイリアお義姉様は、いつも離れたところでご自分のお仕事をされていて、お忙しいのだと思っていた。
「どうして・・・。」
「気になって仕方なくて。
打ち明けてもよかったんだけど、アイスリーが必死だったから、邪魔しないように黙ってた。
すまない。」
私はダイヤモンドダストを下ろすと、ファイ様のそばに行った。
ミユキが気を利かせて、ダイヤモンドダストを抱いて部屋の外へ退室する。
私がそっと両手で彼の顔を包むと、その手を彼も握ってきた。
優しい緋色の瞳が、私を愛おしげに見つめてくる。
とても温かい瞳・・・。
やっぱりこの人が好き。
この人の隣に、堂々と並んで立ちたくて頑張った。
例え、歓迎してくれない人や、昔の恋人に牽制されたとしても。
二人だけで会えたら何を言うか、いつも考えていたの。
今こそ皇太子妃として、毅然と言わなくちゃ。
『愛しています、これからもよろしくお願いします。』
『これから、皇太子妃として、恥ずかしくないように頑張ります。』
何度も練習したのに、間近に彼の顔を見たら意外な言葉がこぼれ落ちた。
「寂しかった・・・。」
ファイ様の目が大きく見開く。
「お義姉様やお義兄様たちは来てくれたけど、一番会いたかったのはあなただったのよ?」
「アイスリー・・・。」
「自分ばっかり私を見て安心してたの?
私のためだとしても、ひどい。
レドリシアは、私よりあなたに会ってるみたいだし。」
何言ってるんだろう、私。
こんなことが言いたいわけじゃないのに。
彼を困らせて、嫌われちゃう。
「アイスリー、本当にごめん。
レドリシアは、ちゃんと宮の入り口で追い返していた。
対応も侍従にさせていたし、私は会ってない。」
ファイ様が言って、私を強く抱き寄せる。
私も彼の胸に顔を埋めて、心音に耳を傾けた。
その言葉を信じたい・・・でも、どうしても、本当に?と言いそうになる。
責めたいわけじゃないのに。
さっきもレドリシアに一線を引いてくれたし、彼がここで名乗り出なかった理由も理解できる。
私の気を散らさないためだって。
それに彼は私との時間を作るために、仕事を大量にこなしていたと聞いた。
少ない時間を押してまで、無理を重ねたことをもっと、考えないといけない。
聞き分けないと・・・疑ってはダメ。
「私こそ・・・ごめんなさい。
今からこんなふうではダメね。」
もっと強くならなければ。面倒くさい女だと思われたくない。
心を入れ替えようとした私の頭を、ファイ様はクスッと笑って抱きしめたまま撫でてくる。
「違うよ、疑うなという方がおかしい。
ちょうどいい、これで私も打ち明けられる。」
「え?」
「私もこの1ヶ月、ここに変装してくるたびに、兄様たちから、早く名乗ってやれと言われたけど、意地をはってやらなかった。」
「どういうこと?私のためでしょ?」
「もちろん、それが第一。
でも、それだけじゃないんだ。
自分勝手な理由がある。」
ファイ様はそのまま私を抱え上げると、歩き出した。
「わっ、また・・・!」
「やっと、アイスリーがこの国へ・・・私のそばへ来てくれた。
どれほど待ち焦がれたことか、わかる?」
彼は私を抱えたまま、器用に寝室の扉を開けて、中に入ると扉を閉める。
ファイ様、まさか!!
私は『貞操の焼印』があるから、夫婦としては過ごせないのよ?
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございました。
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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
明日きちんと抗議し・・・!」
椅子から立ち上がったファイ様は、体がよろめいて崩れるように座り込む。
「ファイ様!?」
私は慌てて駆け寄った。
ファイ様の周りを、他の兄弟姉妹も取り囲む。
「・・・疲れ・・・たのね。
アポロニ兄様・・・肩を・・・かして・・・。」
「来い、ファイ。
顔を洗いに行くぞ。」
ファイリアお義姉様とアポロニお義兄様が、ファイ様を連れて退室していく。
私たちが席に戻ると、バーニスお義姉様が、
「ファイも、今日のこの日を楽しみに待ってたのよ。
アイスローズちゃんとゆっくり過ごしたいから、仕事も相当大量にこなしていたもん。」
と、教えてくれる。
ファイ様・・・。
無理してくれたんだ。
「しかし、その『貞操の焼印』が消えない限り、初夜も迎えられない。
一体何をすれば、解ける魔法なのでしょう。」
と、プロメテクスお義兄様が尋ねてくれた。
そう、この焼印は最初、皇太子妃修行を終えたら消えると聞いてたのに、消えないもの。
「それをかけたのは、大神官ですから。
王太后様の真意がわからぬ今は、その時を待つしかありません。」
王妃様が悲しそうな声で言った。
それを聞いていたバーニスお義姉様が、机をバン!と叩く。
「歯痒い!
何が気に食わないのよ!
いくら元英雄でも・・・!」
「よせ、バーニス。そこから先は言うな。
父上、火の試練のダンジョンには、奇跡の万能薬の『レマニカル』があります。
明日にでも、私が取りに行きます。王太后様に飲ませましょう。」
プロメテクスお義兄様が、バーニスお義姉様を宥めて王様に言ったのだけど、
「ダンジョンの扉は、王族で火の試練を受ける必要がある者の前でしか開かぬ。
お前は既に終えているではないか。
次に開く可能性があるのは・・・。」
と、王様は諭してきて私の方を見る。
・・・ですよね。
そこへアポロニお義兄様の声がした。
「勝手に決めないでください。
ファイもアイスローズ妃も、今日は疲れている。
慰労会は日を改めて、今日は休みましょう。」
お義兄様は、ファイ様とファイリアお義姉様を伴って、戻ってくる。
ファイ様は俯いて、顔色が悪そう。
・・・私も氷の宮に戻った方がいいみたいね。
王様と王妃様が先に退室して、私たちも後から広間を出た。
ファイ様はお義兄様たちと一緒に、皇太子の宮に帰っていく。
・・・あまり話せなかった。
もっと一緒にいたかったな。
ダイヤモンドダストが顔を擦り付けてきて、私を慰めようとしてる。
私はダイヤモンドダストを胸に抱くと、氷の宮に向かって歩き出した。
ふと、ミユキが足を止める。
「ファイリア様?
何か御用ですか?」
ファイリアお義姉様が、廊下の先で私を待っていたの。
「お話・・・しましょう・・・。
一緒に・・・宮に行く・・・わ。」
そしてパチリと片目を閉じた。
ま、まさか!!
まさか、この人!!
私の居城である氷の宮の前には、ヴィノガン様の私兵がいて、出入りを厳しくチェックしている。
私はファイリアお義姉様とミユキを伴って、宮の中に入った。
私の部屋の中に入ると、ファイリアお義姉様がうーん、と背伸びをする。
「ファイ様、本当に変装がお上手ですね。
ファイリアお義姉様にも変装するんだ。」
私が言うと、ファイ様は変装をさっと解き、腰に手を当てて、
「やっぱり、アイスリーは誤魔化せないな。
この部屋に時々来るには、他に方法がなくて。」
と言って得意そうに笑う。
ファイ様は元々美形だから、女装しても違和感ないものね。
素直に綺麗な人だと思える。
彼は、変装のレパートリーが多い。
以前はお忍びで王宮の外に出て、庶民に混じってあれこれ情報収集したり、剣技を磨いたりしてたんだって。
どおりで、迎賓館で一般兵ホムラとして振舞っても、違和感を感じなかったわけだわ。
彼はドレスを手早く脱いで、そばにある椅子にかけると、中に来ていた軽装の服の皺を伸ばした。
ん?待って、時々、来ていた?
ファイリアお義姉様に変装して、この部屋にいたの?
そういえば、この部屋の中のファイリアお義姉様は、いつも離れたところでご自分のお仕事をされていて、お忙しいのだと思っていた。
「どうして・・・。」
「気になって仕方なくて。
打ち明けてもよかったんだけど、アイスリーが必死だったから、邪魔しないように黙ってた。
すまない。」
私はダイヤモンドダストを下ろすと、ファイ様のそばに行った。
ミユキが気を利かせて、ダイヤモンドダストを抱いて部屋の外へ退室する。
私がそっと両手で彼の顔を包むと、その手を彼も握ってきた。
優しい緋色の瞳が、私を愛おしげに見つめてくる。
とても温かい瞳・・・。
やっぱりこの人が好き。
この人の隣に、堂々と並んで立ちたくて頑張った。
例え、歓迎してくれない人や、昔の恋人に牽制されたとしても。
二人だけで会えたら何を言うか、いつも考えていたの。
今こそ皇太子妃として、毅然と言わなくちゃ。
『愛しています、これからもよろしくお願いします。』
『これから、皇太子妃として、恥ずかしくないように頑張ります。』
何度も練習したのに、間近に彼の顔を見たら意外な言葉がこぼれ落ちた。
「寂しかった・・・。」
ファイ様の目が大きく見開く。
「お義姉様やお義兄様たちは来てくれたけど、一番会いたかったのはあなただったのよ?」
「アイスリー・・・。」
「自分ばっかり私を見て安心してたの?
私のためだとしても、ひどい。
レドリシアは、私よりあなたに会ってるみたいだし。」
何言ってるんだろう、私。
こんなことが言いたいわけじゃないのに。
彼を困らせて、嫌われちゃう。
「アイスリー、本当にごめん。
レドリシアは、ちゃんと宮の入り口で追い返していた。
対応も侍従にさせていたし、私は会ってない。」
ファイ様が言って、私を強く抱き寄せる。
私も彼の胸に顔を埋めて、心音に耳を傾けた。
その言葉を信じたい・・・でも、どうしても、本当に?と言いそうになる。
責めたいわけじゃないのに。
さっきもレドリシアに一線を引いてくれたし、彼がここで名乗り出なかった理由も理解できる。
私の気を散らさないためだって。
それに彼は私との時間を作るために、仕事を大量にこなしていたと聞いた。
少ない時間を押してまで、無理を重ねたことをもっと、考えないといけない。
聞き分けないと・・・疑ってはダメ。
「私こそ・・・ごめんなさい。
今からこんなふうではダメね。」
もっと強くならなければ。面倒くさい女だと思われたくない。
心を入れ替えようとした私の頭を、ファイ様はクスッと笑って抱きしめたまま撫でてくる。
「違うよ、疑うなという方がおかしい。
ちょうどいい、これで私も打ち明けられる。」
「え?」
「私もこの1ヶ月、ここに変装してくるたびに、兄様たちから、早く名乗ってやれと言われたけど、意地をはってやらなかった。」
「どういうこと?私のためでしょ?」
「もちろん、それが第一。
でも、それだけじゃないんだ。
自分勝手な理由がある。」
ファイ様はそのまま私を抱え上げると、歩き出した。
「わっ、また・・・!」
「やっと、アイスリーがこの国へ・・・私のそばへ来てくれた。
どれほど待ち焦がれたことか、わかる?」
彼は私を抱えたまま、器用に寝室の扉を開けて、中に入ると扉を閉める。
ファイ様、まさか!!
私は『貞操の焼印』があるから、夫婦としては過ごせないのよ?
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
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