心配症で不幸体質だと思い込む姫様は、宿敵の呪縛に立ち向かい、隣国の王子に溺愛されるルートへと進みます!

たからかた

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後編

受け入れる者と拒絶する者

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ファイ様は、

「誓って何もしていない。
頼みもしないのに、勝手に法律関係の書類をわざわざ宮の外まで持ってきていただけだ。」

と、言うの。

初恋の人と同じような言い訳するわ・・・。
スノウティも、こうやって初恋の人を奪っていった。

あの時の初恋の彼は、最初なんでもないと言って、追求すると疑うのかと怒ってた。
そして、全て事実だとはっきりした時、やっと認めるの。

もう遅かったけれど。

無言の私を見て、レドリシアは嘲笑あざわらうように、目を弓なりにしならせた。

「あら、勘違いなさらないで?
遅くまで業務をこなされていたので、お手伝いしておりましたの。
激務ですから、休まれる時は私の膝枕ひざまくらをお貸しすることもありましたわ。」

レドリシアがファイ様を見て微笑む。
ひ、膝枕?
え、もう部屋に入っていたの!?
それで勘違いするな、と?

ファイ様は少し肩を浮かせて、

「あいつ、部屋に入れたのか?
まったく・・・情報の共有に課題ありだ。」

と、私にだけ聞こえる声の大きさで呟いた。
レドリシアは、私をチラリと見て、

「殿下は眠りが浅くて、人がいると眠れない方なんです。
アイスリー様、そんな殿下が私の膝の上で朝まで眠りました。意味はお分かりですね?」

何か含むような声色で、少しずつ迫ってくる。
意味・・・て。
彼は、まだあなたに気があると言いたいの?

「おぉ、それは良かった。
やはり氷の民の女など、愛せるわけがない。」

と、ヴィノガン様まで言ってきた。
胸がズキリと痛む。
ファイ様のこと、信じてるのに・・・。

気持ちは、初恋の人に裏切られたあの瞬間に引き戻され、ファイ様が初恋の彼の幻と重なって見えてしまう。

そう、あの時彼は私にあやまってきて、やっぱりスノウティがいいと言・・・。

「その自惚うぬぼれは鏡の前だけにしておけ、レドリシア。」

ファイ様の、硬く切って捨てるような声が響いた。
え・・・ファイ様?

「お前の安い膝枕ひざまくらなんて、床に積んで枕がわりにした本と大差ない。」

「な・・・!!」

レドリシアが目をまん丸く見開く。
そう言われるとは、思ってなかったみたい。

私もこんなふうに言うファイ様は、初めて見る。
初恋の彼の幻が消えて、厳しい表情で彼女に向き合うファイ様がそこにいた。

「なぜ、私がお前にまだ気がある前提でペラペラ喋る?」

と、彼が言ったので、レドリシアは目を細めて口を引き結ぶ。

ファイ様は体の向きを変えると、私をいきなりかかえた。

「きゃ!」

「私が誰を望んでいるか、教えるまでもないだろ。」

ファイ様は慌てて彼の肩に掴まる私を、軽々と自分の席に連れて行って、膝に乗せたまま椅子に座った。

貞操ていそうの焼印は消えた?」

彼はレドリシアに見せた厳しい表情から、いつもの優しい顔に戻ると、笑顔で聞いてきた。

私はドキドキしながら、手袋を取って手の甲を見せる。
焼印はまだ消えずに残っていた。

「いいえ。まだ。」

私が答えると、彼は鋭い視線でヴィノガン様を睨みつける。

ヴィノガン様は一瞬ひるんだけど、すぐに元の表情に戻り、

「なんだ、その目は。
皇太子だからと、年長の王族をあなどるなよ。」

間髪入れずに一喝してきた。
ファイ様はそれを無視して、私の方を見ると、

「焼印で痛まないように触れるから、驚かないでくれ。愛してる、アイスリー。」

と言って、優しく片手で私の髪をすくように撫でると、貞操の焼印を押された手の甲と、頬とこめかみに、軽くキスをしてくる。

焼印は彼が触れるたびにかすかに光るけれど、痛くはない。

最後に唇を軽く重ねてすぐ離れると、両腕を腰に回してしっかりと抱き寄せてきた。

その間も私から視線がれることがなくて、熱っぽく見つめられているものだから、私の方が目のやり場に困ってしまう。

この状況はとても嬉しいけれど、ひ、人目が気になって顔から湯気が立ちそうなほど赤くなる。

初恋の彼とは違う。
ファイ様は、私をちゃんと愛してくれるんだ。

この愛があるなら、何も怖くは・・・。

ふと、ものすごい殺気を背中に感じて振り向くと、レドリシアが怒りを込めた目で私を見ていた。

ヴィノガン様はその様子を見て、王様を睨みつける。

「ええい!息子の教育がなっていないぞ!
アイスローズ妃を、どうしても留めておきたくば『火の試練』は避けられぬ。
・・・まあ、『アイシュペレサ』の二の舞になるかもしれんがな。」

ヴィノガン様は杖をガンガン鳴らしながら、部屋を出ていき、後ろから王太后様が眠る寝台が、従者たちに引かれて後を追う。

レドリシアもお辞儀をして、私を目線で上から下まで値踏みするように眺めると、鼻で笑って退室した。

・・・嫌な人。

せっかくの慰労会が、なんだか台無しになったな。

落ち込む私に、ファイ様はコツンと額を合わせてきて、変顔で笑わせようとする。

思わず吹き出しそうになって、まだ彼の膝の上だったことを思い出し、慌てて降りようとした。

「ファイ様、お、降ろして。」

私が言うと、彼は悪戯いたずらっぽく笑って膝から降ろしてくれる。

ふと広間の扉の外から、ヴィノガン様が

「王室に氷の民の血は混じらせぬわ!!
王太后様も仰せだー!!」

と、叫んでいるのが聞こえてきた。
それもやがて聞こえなくなる。

王妃様がため息をついて、私にあやまってきた。

「アイスローズ、許してください。
我が国には、まだ、ブリザードゥ国に対して友好的になれぬ者もいるのです。」

私の国にも、ヴィノガン様みたいな人はいるから、わかる。
王様も腕を組んで、眉をしかめた。

「今回の婚儀は、先王が遺言を残すほど重要で、母上も納得されていたのに。」

私たちはみんなで席に座ると、ファイ様の兄弟姉妹が次々に口を開いた。

「本当に王太后様おうたいごうさまは、ああ言ってるんですか!?」

「アイスローズは、ちゃんと言われた通りにしたのに。
これでは仮に『火の試練』をこなしても、更なる難癖なんくせをつけてきませんか?」

「大神官の・・・ことも・・・気になるわ。
婚姻・・・取り消しを勝手に・・・されないかしら。」

「レドリシアのやつ、何が政略結婚よ!!
アイスローズちゃんは、もう大事な家族!
何であいつがここに来れるのよ!」

私が怒るより先に皆さんが怒るから、何も言うことなくなっちゃった。

でも、なんだか嬉しい。
この人たちのおかげで、居場所がある。

王様は子供たちの意見を聞くと、顎に手を置いて、首を振った。

「ヴィノガン叔母上は、母上と共に戦場で大いに戦功をあげた英雄で好戦的な方だ。
レドリシアは、叔母上の遠縁だから、ファイのきさきにしたいのだろう。」

王妃様も、その言葉にうなずいた。

「えぇ、たしかに。
それでも、私たちも王太后様の名前を出されると、あからさまに反対できないのです。
長く国を支えた実績があり、国王陛下の母君ですから。」

王妃様と王様でも、王太后様の意思を伝えるヴィノガン様には頭が上がらないんだわ。

「アイスリー、心配しなくていい。
私の妻はあなたしかいない。
火の試練なんかしなくても、問題ない。」

ファイ様は、力強く言ってくれる。

私は嬉しく思いながら、ヴィノガン様がおっしゃっていたことを質問することにした。

「皆さま、ありがとうございます。
あの・・・『アイシュペレサ』の二の舞とは、どういうことでしょうか。」

その場の空気が一瞬で重くなる。

「あの・・・?」

私が恐る恐るみんなを見回すと、王様が口を開
いた。

「ブリザードゥ国といくさをしていた時代に、敵同士でありながら、ファイアストム国の人間と恋に堕ちた氷の民がいた。
その人の名前が『アイシュペレサ』。
彼は火の試練にいどんで、亡くなったと聞いている。」

え・・・。
氷の民!

私は思わず両手で膝を握りしめた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。




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