心配症で不幸体質だと思い込む姫様は、宿敵の呪縛に立ち向かい、隣国の王子に溺愛されるルートへと進みます!

たからかた

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後編

ファイの怒り

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彼に至近距離で見つめられて、周りの音が消えていくのがわかった。
思わず心の中で思っていた言葉が、口をついて出てくる。

「私・・・すごく不安だけど、怖くて何もしない方がもっと怖いの。
でも、試練は無事に終えたいし、ヴィノガン様の思い通りにはなりたくない。」

「ああ。」

「ブリザードゥ国といくさもしてほしくない。
失敗できないと思うと緊張するけど、でも、やれることをやるわ。」

「その神獣の瞳の力もあるしな。」

ファイ様の言葉に、私は首を横に振った。

「うーん、よくわからないの。
周りが言うほど、自分はそこまで特別と思ってないから。みんなと同じように悩むし、出来ないこともあるし。」

「だな。ふふ、アイスリーはやっぱり面白い。」

面白い?そうかな。

考え事をして沈黙していると、ファイ様が目を細めて、素早く私の唇にキスをして離れる。
焼印は微かに反応した程度で、痛みは感じなかった。

「あ、もう!考え事してるのに。」

「ふふ、訓練だよ、明日は油断しないように、て。ほら、少し体の力を抜いて。」

彼は、こうして優しい気遣きづかいもしてくれる。
こんなに人に愛されたことないから、クラクラしてきた。
嬉しくて幸せだから、私からも、たくさんキスが出来ればいいのに・・・。

「ゴホン!」

ミユキが、顔を赤くしながら咳払いをした。

「見ているこちらが恥ずかしくなるくらい、お熱いのはわかりました。ですが、時間は有限です。さぁ、アイスリー様、練習ですよ。」

そ、そうでした。
明日は何としても生き残らないと。

私はそれから、火加減を冷気で調節しながら動かす練習を繰り返すことにした。

数時間後、なんとか種火さえあれば火を操れるようになってきた頃には、すっかり夜になっていた。

「よし、ダンジョンに持っていく回復薬と、武器と防具はそろえてある。
あとは、私の最大火力を込めたこの魔法の指輪をはめるんだ。」

「私の氷の魔力で炎を抑えながら使うのね。」

「そう。ダンジョン内の小物の魔物は火属性だから、アイスリーの氷の魔法でほとんど一掃できる。問題は最下層の火の魔神だ。火の魔力がどうしても必要になる。
そしてクエスト・・・それから。」

ファイ様が言葉に詰まる。
・・・魔神の心臓ね。

「取らないで済めばいいのにね。」

「レドリシアが先行するというのも引っかかる。さっきも言ったけど、魔神は挑戦者がダンジョンを出るまで姿が消えない。」

「つまり、私が彼女に追いついたら、魔神は二体になるということね?」

「ああ、恐らくもう一体はレドリシア用だから、アイスリーに何もしてはこないと思うけど、わからない。」

ファイ様の言う通り。
私もそこは心配。
それと・・・。

「レドリシアが、王太后様の宮で言っていたことも気になるの。
私はダンジョンから出られない、て・・・。」

ファイ様もミユキも、難しい顔をする。

「わざわざ手の内を明かすと言うことは、相当の自信がないとできません。
準備は整っているとみるべきです。」

ミユキは、強い口調で言い切った。
やっぱりね、どうしたらいいのかしら・・・。

「ダンジョン内でほうむり去るつもりか?
魔力の強さでは、アイスリーには勝てないはずだ。」

ファイ様がつぶやいたその時、部屋の外から侍従の声がした。

「殿下、プロメテクス様から、書簡が来ました。」

ミユキが部屋の扉を開いて、巻物を受け取りファイ様に渡す。

ファイ様はすぐに開くと、白紙の巻物に火の魔法をかけて文字をあぶり出した。

「いつ見ても不思議なやりとりね。
必ず文字はあぶり出しだもの。」

私が言うとファイ様は苦笑いして、

「これが、一番他人に読まれない方法なんだよ。
読む相手の火の魔法でしか、文字は出てこないからな。」

と、言いながら読み進めて、読み終わった巻物を閉じると、跡形もなく火の魔力で燃やした。

「どうしたの?」

私は恐々尋ねた。

「・・・アイスリー。
明日の試練、私もついて行けるかもしれない。」

「え!?
試練に同伴者はダメなんじゃないの?」

「いや、ヴィノガン様がサラマンダムを呼び寄せたと密偵がつかんだそうだ。
こいつは、ファイアストム国でも最強と言われた魔法剣士。
レドリシアの護衛ごえいとして雇ったらしい。」

護衛ごえい・・・。」

「レドリシアは非力で、直接攻撃が心許こころもとないからだそうだ。
だが、私の母上も姉様も試練には一人で挑んで生還している。」

そうよね。
私も氷の試練は一人でやったもの。
腕力というより、魔力と体力の温存とペース配分と、回復のタイミングを考えながら、進む感じなのよね。

「向こうが護衛をつけるなら、アイスリーもいいはずだ。
アイシュペレサはダイヤモンドダストだけを連れて行ったようだけど、私も行けるなら行きたい。」

ファイ様は力強く言い切る。

「ダメ、て言われたらどうしよう・・・。」

「アイスリー様、気弱になってる場合じゃありません!彼女の護衛ごえいは、アイスリー様をねらう暗殺者にもなるんですよ。」

私の弱気な発言に、ミユキが叱咤しったしてくる。
暗殺者!
それは考えなかった。

「暗殺・・・ダンジョンの中で力尽きたと見せかける気だな。
私からアイスリーを奪い去る気か・・・。」

暗く低い声に、私が恐る恐る彼の方を見ると、今まで見たこともないくらい怖い顔をしていた。

ピシッ!パキッ!

次の瞬間、部屋中の家具や調度品に高熱で切り裂いたような切り込みが入る。

私は咄嗟とっさに魔法を使い、私とファイ様の周りを氷の壁でおおった。
分厚ぶあつい魔法の氷の中で、高熱のやいばが暴れ始める。

「アイスリー様!?」

ミユキが壁の外から心配して、声をかけてくる。

「大丈夫、ミユキは怪我けがはない!?」

私は、次々とヒビが入れられる氷の壁を魔法で修復しながら、ミユキに聞いた。

「ええ!アイスリー様のこの壁のおかげで、私はなんとも・・・。
何事です?」

「ファイが・・・。」

さっきから彼の肩をゆすっても、反応がない。
彼の膝に乗せられたままの私に、高熱のやいばはこないけど、すごい力で固定されて下りることもできない。

怖くて膝が震え、亀裂きれつが入る氷の壁の修復が追いつかなくなってくる。

どうやったら止まるの?
大好きなファイ様が、今は怖くてたまらない。

逃げ出したくなるような恐怖の中で、ふと、バーニスお義姉様の顔が浮かんでくる。

『あの子をお願いね。』

『神獣の瞳を持つものの孤独を、わかってあげて。』

私は、ハッとなって彼を見た。
彼にとって、私は神獣の瞳を持つ同胞でもある。

怖いことなんかない。
魔力の制御がうまくいってないだけ。

今逃げたら、二度と彼の心に近寄れなくなる気がした。

バキバキバキ!!

ついにファイ様の体から緋色のオーラが立ち昇り始めて、氷の壁の全てに亀裂きれつが一気にはいる。

魔力を高め過ぎてる!
止められるのは、私しかいない!!

私は無我夢中で彼に抱きついて、氷の魔力に集中した。

「ファイ・・・戻って!!」

私の全身からアイスブルーのオーラが立ち昇り、彼のたぎる熱を冷やすように、包み込んでいく。

「・・・大丈夫だから。」

そうつぶやいた時、ファイ様がまばたきをして私を見た。

「アイスリー?」

彼のオーラが消えていき、私も深呼吸して力を戻していく。

目の前で氷の壁が、ガラガラと崩れて消えていった。

「ア、アイスリー、私は何かしたのか?」

ファイ様は辺りを見回して、戸惑いながら聞いてくる。
私が説明すると、彼は頭を抱えてあやまってきた。

「すまない。つい頭に血が上ってしまった。」

私は首を横に振って、笑顔で応える。
本当にほっとした。

「ううん。戻ってくれて嬉しい。
とても怖かったから。」

「ごめん、アイスリー。
あなたのことになると、どうしても抑えがきかなくて。
ありがとう。また、助けられたな、アイスリーに。」

「え、また?」

私が彼を見つめると、彼は慌てて顔を赤くして私を膝から下ろした。

「も、もう遅いから休もうか。
今日はここで、一緒に寝よう。
添い寝なら、焼印は痛まなかっただろう?」

「!!」

「昨日みたいにさ、な、アイスリー。」

私たちは仲良く立ち上がる。
ミユキだけは、まだ青い顔をしていたけど。

「驚きました。
あんな覇気はきしずめるなんて・・。
アイスリー様、見直しました。」

ミユキの言葉に、ファイ様は頭をいた。

「よほど怖かったんだな。
ミユキもすまなかった。
アイスリー・・・嫌わないでくれ。」

「大丈夫、あなたが熱くなったら私はいくらでも冷やせる。
氷には、不自由しませんわよ?」

私の言葉に、彼はおだやかな顔で笑う。
・・・あ、この顔も初めて見る。

彼の心に、また一歩近づけた気がした。

その日の夜は、皇太子の宮の寝室で眠った。
ファイ様は、遅くまで調べ物していたけど、ようやく寝台に入ってくる。

私たちは固く抱きしめ合って、明日の命を祈ることにした。
もう、あとはやるしかないもの。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。




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