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後編
魔神の心臓
しおりを挟む「レドリシアと比較しても、絶対違うと思うけど。」
「確かに。ただし、この時代は戦をしている。
戦場に出れば、皆狂ったように魔法を撃ち合うだろうから。状況によっては、そう見えてもおかしくないかもな。」
見分けられるのは魔神だけ。
一度出れば、次に試練を受けるものが現れるまで入ることは出来ないから、アイシュペレサも迷っただろうな。
もし、この時王太后様が一緒に来ていれば、問題なく見極めてもらえたのに・・・ん?
確かこの時王太后様も来るはずだったのに、ファイアストム国の皇太子が襲撃を受けて助けに向かったために来れなかったのよね。
休戦協定で、戦は止まっていたのに襲撃?
まさか、このために意図的に引き離された?
彼も、指を眉間にあてて考え込んでいる。
『ファンティーヌを連れてこられればよかったな・・・彼女のためなら、魔神を倒して心臓を取り出すのは構わない。
魔力の剥奪は王家の恥、暗殺されやすい。だが、魔神を倒せば死ぬのではなかったか?』
あ、彼もやっぱり悩んだんだ。
そうだよね、確信を持てないと行動は起こせない。
でも、魅入られし者が魔力剥奪の後は暗殺なんて酷すぎる。
まるで、王家にそんな人はいないといわんばかりだ。面子の問題かしら。
『私は迷い、魔神に聞いてみることにした。
火の魔神は、氷の民であれば倒しても私は死なないし、心臓には確かに”魅入られし者”を解放する力があると、言っていた。』
アイシュペレサが魔神に聞いた!?
あ、それは考えなかった。
試練は、終えたらさっさと出るものだとばかり。質問したら答えてくれるんだ。
『時間がないから、私はもう行くが・・・。
私は、今でもファンティーヌが魅入られし者だとは思えない。
一番いいのは魔神を連れ出すことだ。
魔神ならわかるのだから・・・。』
アイシュペレサの呟きに私は、ファイ様の腕を掴んだ。
「ま、魔神、て連れ出せるの!?」
「いや、聞いたことない。」
ファイ様も首を傾げる。
魔法の鏡の中のアイシュペレサは、肩に乗っている彼の時代のダイヤモンドダストの頭を優しく撫でている。
『どうも嫌な予感しかしない。
だから、これを見ている氷の民に、私は一つ託したいものがある。
このファンティーヌの魔力がこめられた火の指輪を魔神に捧げる代わりに、あるものを火の魔力の源泉に隠しておくから、受け取ってくれ。』
彼は目を閉じて、フーッと息を吐いた。
氷の欠片がキラキラと輝きながら、彼の吐息と共に中を舞う。
氷の息吹きだわ。氷の民が一番深い呼吸をした時に自然と出る吐息。
その儚い光が、彼の命のように見えて、胸が締め付けられる。
彼は私に背中を向けると、掠れるように震えた声を絞り出した。
『もし、私が死んだら、ファンティーヌに伝えてくれ。私は君との未来より、君が心から待ち望んでいた平和な世界の方を選んだと。』
「アイシュペレサ!!」
私が声のかぎりに叫んでも、アイシュペレサは、鏡の奥へと消えていく。
託したいもの・・・て何?
私はダイヤモンドダストを見た。
ダイヤモンドダストは、ミャオと鳴くと、肩から降りて魔神の元へと歩いていく。
私たちは慌てて後を追った。
ダイヤモンドダストは、私が服従させた魔神の前に座っている。
私は思い切って、聞いてみた。
「あなたは、アイシュペレサのことを知ってる?」
「・・・。」
だめかしら・・・。
「グルルル・・・知っている。
我の一人を倒して、心臓を持ち去った。」
答えた!?
やっぱり魔神は質問したら、答えてくれるんだ。
「グルルル・・・汝にはこれを受け取ってもらわねばならぬ。」
魔神はそう言うと、私の目の前に大きな塊を取り出して見せた。
尋常ではない魔力の波動を感じる。
ドクドクと脈を打つこの形は・・・!!
「まさか・・・これ、心臓!?」
私が言うと、ファイ様も覗き込んだ。
「これは・・・心臓といっても、半分?」
た、確かにそれっぽい。
これはどう言うこと・・・?
「グルルル・・・アイシュペレサは、心臓を悪用された時のために、心臓の半分を我らの命の源である『火の魔力の源泉』の中に隠していた。半分だったからこそ、アイシュペレサだけの力で、氷の火炎は止められたのだ。」
と、言って私にその心臓を渡してくる。
「わ、私にくれるの?」
「グルルル・・・汝に渡せと、アイシュペレサに頼まれている。必要となる時が必ずくる。」
私は震える手で、心臓を受け取る。
アイシュペレサ・・・まるでこうなることがわかっていたみたい。
ファイ様が、厳しい表情で心臓を見つめている。
「そこにあるだけで、ものすごい波動が伝わってくる。ヴィノガン様が前に一度受け取っているなら、偽物は通用しないだろうな。」
確かにこれをうまく使えれば、ヴィノガン様を出し抜けるかもしれない。
そうだ!これも聞かないと!
「魔神は外に出れるの?
あなたを連れ出して、魅入られし者かどうか、みんなの前で見極めて欲しい人がいるの。」
私が言うと、魔神は唸った。
「グルルル・・・本来は出れぬ。
挑戦者が外に出れば我らは消えるからな。
だが・・・。」
そう言ってもう一体の魔神を見る。
「グルルル・・・あいつならば、レドリシアがここにいるかぎり消えることはない。
汝の影に潜ませて連れ出すが良い。だが、一日が限界だ。一日過ぎればここに戻ることになる。」
「代償は?」
ファイ様が、魔神に尋ねた。
代償?ただでは、してくれないということ?
魔神はクククッと笑って、私の指輪を望んだ。
「この火の指輪を?なぜ?」
私は指輪を外しながら、質問した。
魔神は指輪を受け取ると、そのまま飲み込む。
「グルルル・・・汝だけを傷つけぬ炎を宿す、不思議な指輪だ。これほど深い愛情が込められた炎はない。とても美味かった。」
た、食べちゃった!
私が目を丸くしていると、レドリシアの方を見ていた魔神がやってきて、私の影の中に沈んでいった。
「うわぁ・・・こんなこと初めてよ。」
足元に伸びる影をしげしげと眺める私に、ファイ様が声をかけてきた。
「気分が悪くないか?大丈夫か?」
「ううん、平気。」
私の表情を見て、ファイ様は安心すると、腕を組んで魔神を見る。
「こいつが、アイスリーにあの試練を課した魔神か・・・。」
あ、ファイ様の目が吊り上がり始めてる。私は慌てて彼の顔をこちらに向けて、首を横に振った。
ファイ様は私を見ると、仕方ないというため息をついて、話しかけてくる。
「さあ、ここからどうするか。
作戦は浮かんだ?」
私はレドリシアたちを見て、ファイ様を見た。
「ねぇ、ファイ。レドリシアが私に似てるなら、私も彼女に見えるよね?」
「レドリシアとサラマンダムに変装して、地上に出るのか?レドリシアのあの甲冑を着て?」
私は凍結したレドリシアの方を見て、一瞬躊躇したけど、背に腹は変えられない。
「は、恥ずかしいけど、王太后様にも近づけるし、アイシスも探せるわ。」
「はぁ・・・なるほどな。それには、兄様や姉様の協力がいる。国王夫妻にも、参加してもらわないと。」
片眉を上げたファイ様が、背嚢から変装道具を取り出して、ニヤリと笑った。
どうかバレませんように。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございました。
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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
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