人を呪わば

たからかた

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綾奈

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う……目が回る。

彼氏に捨てられた友人のため、とことんお酒に付き合ったのはいいんだけれど。

あれから、どうなった?
家に帰ったっけ?

ゆっくり目を開けると、曇天の空が見えた。空……え、空!?

道端に寝っ転がっているの!?

慌てて起き上がろうとして、頭痛と吐き気に襲われる。

「うえっ……綾奈あやな、綾奈?」

胸を押さえながら、私は一緒に飲んでいた友人の名前を呼んだ。

返事はない。

綾奈……。
私は吐き気がおさまるまで、彼女と飲んでいた記憶を思い出していた。




「あいつ、新人の女の子とできてたんだよ!?」

友人の綾奈が、酔いの回った勢いで叫んだ。彼女が持つグラスが揺れ、盛大にお酒がこぼれる。

「しー、声が大きいよ」

「いいの! 今日はとことん付き合って!」

「はいはい。ここは、私の叔父さんが経営している小さな居酒屋だからね。えっと、叔父さん……」

私は、カウンターの向こうで手を振っている叔父さんの方をチラリと見た。

彼は気にするなと口パクして、閉店の札を表にかける。

これで、他のお客は入ってこない。

綾奈の話を聞くために、今日は叔父さんに頼み込んでここに来た。

素面だと話せないと、彼女が言うものだから。

綾奈は、顔を真っ赤にして体を震わせている。

「私、たくさん尽くしたんだよ? 彼を心から愛していた。なのに……あいつ、新人の女の子の方を、家族に紹介していた。未来の妻だって」

「ひど……なんてやつ!」

綾奈の恋人は、営業部のエリートだと聞いている。取引先の会社の人間で、彼に猛アタックされて付き合っていたはずだ。

そんな男が彼女を捨てた。一方的に。

「真澄ぃ、真澄ぃ!! 私、あの二人が憎い」

「うん、うん。恨んでいいよ、綾奈」

「恨むだけじゃ足りないよ! SNSで晒すのもぬるいの。もう、ぐちゃぐちゃにしてやりたい!! この世にいてほしくないの!!」

「綾奈……」

「呪ってやるんだから」

綾奈の目は血走り、狂気すら感じられる。彼女は、私の目の前に自分のスマホを見せてきた。

「なに、綾奈」

「知ってるぅ? この伝説」

「伝説?」

「今から百年以上前にね、私みたいに捨てられた女性が怪物を呼んだらしいの」

「えっ」

スマホの画面には、古い新聞の記事が映っている。

『また一人消えた』

そんな見出しが見える。
『また』ということは、何度も起きているということ?

彼女が画面をスクロールすると、古い写真が載っていた。何かを肩に担いで、大笑いしている女性の写真だ。

彼女は、着物を着ている。髪型からすると、大正時代……くらい?

白黒写真のせいか、顔はよくわからない。

でも、見た瞬間背中がゾクリとするほど、恐ろしかった。

彼女の担ぐものに、人の顔らしいものが見えた気がしたから。

「こ、こ、これ、何? 綾奈」

「この人ねぇ、自分を捨てた恋人と相手の骸を、引き取りにきたんだって」

「骸?」

「二人とも生皮だけ残して、あとは食べられていたってー!」

「え……じ、じゃ、この人が担いでいるのは……」

「うふ、うふふふ」

「綾奈、怖いよ」

「この怪物ね、この後も沢山の人を食べちゃったみたい。人間の都合よくは、使えないみたいね」

「も、もう、こんな話、忘れて飲もう! ね?」

「その後偉いお坊さんが、怪物を結界に閉じ込めたんだってさぁ」

「そうなの。ほら、次は何を飲む?」

「高位のお坊さんの血で書いた、立ち入り禁止の立て札があるらしいの。ねぇ、真澄。ここにあいつらを送りたいよ」

「怖いって綾奈。飲もうよ……あ!」

急に綾奈が私の手を握ってきた。かなり強い力で。その瞳は暗く澱んでいる。

「私の中は、もうぐちゃぐちゃなの」

「綾奈。それはわかる」

「苦しいの。あいつらは、笑っているのに、幸せなのに、私は……私は苦しいの!」

「綾奈」

私は彼女の隣に座って、抱き寄せた。綾奈が泣き声をあげ、その背中をさすることしかできない。

「苦しい……憎い、体の中が燃えてしまいそう。煮えたぎる石が、お腹の中で暴れ回っているの」

「うん、うん」

「真澄、真澄、助けて」

「綾奈」

「助けて、真澄……」


その言葉を最後に、記憶がない。

あれから、どうしたんだろう。
飲んで、それから?

パキッ。

足元に何かあたっている。

なんだろう。

片手で頭を押さえながら起き上がると、木の板のようなものが見えた。

ゆっくり覗き込むと、赤黒い文字が書いてある。まさか、これ……人の血?

『立ち入り禁止。この立て札を倒すべからず』

そう書かれた立て札は、私の足元に力なく倒れていた。
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