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二つの穴
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「ひっ……!」
立て札の文字を見て、私の酔いは一気に醒めた。こ、これはまさか、さっき綾奈に見せてもらったあの記事の?
違うよね。
だって私、綾奈と居酒屋で飲んでいたんだよ?
綾奈、そうよ。綾奈はどこよ?
いない……私一人?
スマホは? 私のスマホは、バッグの中。バッグはどこ?
───ない!
ポケットにも何も入っていない。
知り合いもいなければ、連絡手段もない。
人っ子一人いない。
目の前には、生垣に囲まれた大きな一本道があるだけ。
電信柱もなく、平らにならされただけの道。
音も聞こえない。
とても静か。
世界が、一本道と空だけになってしまったような異様な空間。
「嘘……嘘よ、何これ。私は酔っ払って、道で寝ていたわけじゃないの?」
怖いよ、ここはどこ?
知らない場所は、無闇に動き回ると戻れなくなる。
とはいえ、一本道。歩けばどこかに出るかしら。
何もしないでいると、余計不安になる。行動しなきゃ。
ふと、『あの記事』の見出しを思い出す。
“また一人消えた”
続けて、綾奈の声が頭に響く。
“生皮だけ残して、食べられていたんだって!”
「ないないない!!」
大きな声をあげて、記憶を振り払う。あり得ない。大体、私がこんな目に遭うわけがない。
気のせい、気のせい。
酔っ払って、知らない場所で寝ちゃったんだ。
それだけよ、それだけ。
とにかく歩こう。
こんなに見通しがいい道だもの。
何か近づけば、すぐにわかるし。
うん、大丈夫、大丈夫。
立ち入り禁止の立て札から離れ、とりあえず反対方向に歩いてみる。
一本道は、戻るか、進むかしかない。
なら、戻るの。
……あれ?
かなり歩いたはずなのに、また倒れた立て札が見えてくる。
嘘。
私、Uターンなんてしてないよ?
横道もない、ただまっすぐな一本道を歩いただけなのに。
それならと、意を決して反対側に向かって歩いてみた。行けるかな?
あれ? こちらは、道の真ん中に穴がある。
それも二つ。
近づいてみると、人一人がやっと通れる大きさの穴だった。
「あっ」
足元の小石を蹴ってしまった。
カラカラ、コロン、カーン、カーン、コーン……。
小石は穴の中に転がり落ち、音を立てながら落ちていった。
底に着いた音はしない。
落ちたら戻れないかも。
とにかく、穴は無視して先を急ごう。
迂回して先に進むと、また倒れた立て札が見えてきた。
「え、ええ?」
混乱してくる。わかったことは、道をどちらに進んでもループしているということ。
いえ、さっきの場所とは限らない。
私は髪を纏めていたヘアゴムを外して、立て札の近くに置いた。そのまま、さっきと同じように穴を迂回して、今度は走ってみる。
「───ああ!」
やっぱりだ。同じ場所に出る。
ヘアゴムも、立て札の近くにちゃんとあった。
「はあ、はあ、あ……く! なんなの!!」
肩で息をしながら、地団駄を踏んだ。
行っても戻っても、同じ場所に出る。
なら、横だ!
舗装されていなくても、関係ない!
生垣を抜ければいいもの。ガサガサと枝に引っかかりながら、私は前に進んだ。
結果は……。
「なんで?」
同じ場所に出る。出られない。ここから動けない。
もうあとは、あの怪しげな穴を抜けるだけ。
「嫌だよ、怖いよ」
いかにも、何かありそうな穴なんだもの。
このままこうしていれば、助けがくるかも。
ん?
体が傾く。
地面が、さっきより傾斜がある気がする。
周りも、だんだん薄暗くなってきた。
それと同調するように、さらに体が傾く。
気のせいじゃない。
地面が、勝手に動いている?
道が穴のある方に向かって、傾いているんだ。
よく見ると、穴の向こうの道も盛り上がっている。まるで穴を中心に、折り畳まれていくみたいに。
まさか、このままこうしていたら、滑り落ちる羽目になるの!?
でなければ、道と道に挟まれて死ぬとか。
迷っている間に、道はさらに傾く。
いや……いや!!
どっちの穴も嫌よ。
入ったら、それこそ生きて出られないかもしれないのに。
「きゃ!」
傾斜角度が上がったのか、私は立っていられなくなってきた。
誰か、誰か助けて!!
怖いよ、お父さん、お母さん、碧、ピザ丸!
両親と弟。それから、可愛がっている柴犬のピザ丸の顔が浮かぶ。
死にたくない。助かりたい!
カラカラ。
道の小石がゆっくり滑り落ちていく。
まるで、これからの私のよう。
嫌よ……!!
歯を食いしばる私の手元に、倒れていた立て札が、ヘアゴムと一緒に滑り落ちてきた。
ガサッ。
……ん?
立て札の裏側に何かある。
何かに導かれるようにひっくり返すと、白い物が貼り付けてあった。
なんだろう、これ。
古いマッチ箱だ。
箱には梵字が刻まれている。
導かれるように、マッチ箱を手に取った。
これをどうしろっていうの。
ずるずると、体がずり落ち始める。
負けるものか……!
私は改めてヘアゴムで髪を縛って、踏ん張りながらマッチ箱を開けた。
なんの変哲もない、普通のマッチ棒が入っている。
試しに擦ると、青い炎が立ち上った。
炎が青いなんて。
感心している間に、足元は穴の淵まで到達しようとしている。
マッチの火は、何かに使えるの?
試しに炎を穴にかざしてみても、変化はない。
「もう、なんなの!? あ!」
穴の片方に、火がついたままのマッチを落としてしまった。
もう、何やって……!
そう思った時だ。
立て札の文字を見て、私の酔いは一気に醒めた。こ、これはまさか、さっき綾奈に見せてもらったあの記事の?
違うよね。
だって私、綾奈と居酒屋で飲んでいたんだよ?
綾奈、そうよ。綾奈はどこよ?
いない……私一人?
スマホは? 私のスマホは、バッグの中。バッグはどこ?
───ない!
ポケットにも何も入っていない。
知り合いもいなければ、連絡手段もない。
人っ子一人いない。
目の前には、生垣に囲まれた大きな一本道があるだけ。
電信柱もなく、平らにならされただけの道。
音も聞こえない。
とても静か。
世界が、一本道と空だけになってしまったような異様な空間。
「嘘……嘘よ、何これ。私は酔っ払って、道で寝ていたわけじゃないの?」
怖いよ、ここはどこ?
知らない場所は、無闇に動き回ると戻れなくなる。
とはいえ、一本道。歩けばどこかに出るかしら。
何もしないでいると、余計不安になる。行動しなきゃ。
ふと、『あの記事』の見出しを思い出す。
“また一人消えた”
続けて、綾奈の声が頭に響く。
“生皮だけ残して、食べられていたんだって!”
「ないないない!!」
大きな声をあげて、記憶を振り払う。あり得ない。大体、私がこんな目に遭うわけがない。
気のせい、気のせい。
酔っ払って、知らない場所で寝ちゃったんだ。
それだけよ、それだけ。
とにかく歩こう。
こんなに見通しがいい道だもの。
何か近づけば、すぐにわかるし。
うん、大丈夫、大丈夫。
立ち入り禁止の立て札から離れ、とりあえず反対方向に歩いてみる。
一本道は、戻るか、進むかしかない。
なら、戻るの。
……あれ?
かなり歩いたはずなのに、また倒れた立て札が見えてくる。
嘘。
私、Uターンなんてしてないよ?
横道もない、ただまっすぐな一本道を歩いただけなのに。
それならと、意を決して反対側に向かって歩いてみた。行けるかな?
あれ? こちらは、道の真ん中に穴がある。
それも二つ。
近づいてみると、人一人がやっと通れる大きさの穴だった。
「あっ」
足元の小石を蹴ってしまった。
カラカラ、コロン、カーン、カーン、コーン……。
小石は穴の中に転がり落ち、音を立てながら落ちていった。
底に着いた音はしない。
落ちたら戻れないかも。
とにかく、穴は無視して先を急ごう。
迂回して先に進むと、また倒れた立て札が見えてきた。
「え、ええ?」
混乱してくる。わかったことは、道をどちらに進んでもループしているということ。
いえ、さっきの場所とは限らない。
私は髪を纏めていたヘアゴムを外して、立て札の近くに置いた。そのまま、さっきと同じように穴を迂回して、今度は走ってみる。
「───ああ!」
やっぱりだ。同じ場所に出る。
ヘアゴムも、立て札の近くにちゃんとあった。
「はあ、はあ、あ……く! なんなの!!」
肩で息をしながら、地団駄を踏んだ。
行っても戻っても、同じ場所に出る。
なら、横だ!
舗装されていなくても、関係ない!
生垣を抜ければいいもの。ガサガサと枝に引っかかりながら、私は前に進んだ。
結果は……。
「なんで?」
同じ場所に出る。出られない。ここから動けない。
もうあとは、あの怪しげな穴を抜けるだけ。
「嫌だよ、怖いよ」
いかにも、何かありそうな穴なんだもの。
このままこうしていれば、助けがくるかも。
ん?
体が傾く。
地面が、さっきより傾斜がある気がする。
周りも、だんだん薄暗くなってきた。
それと同調するように、さらに体が傾く。
気のせいじゃない。
地面が、勝手に動いている?
道が穴のある方に向かって、傾いているんだ。
よく見ると、穴の向こうの道も盛り上がっている。まるで穴を中心に、折り畳まれていくみたいに。
まさか、このままこうしていたら、滑り落ちる羽目になるの!?
でなければ、道と道に挟まれて死ぬとか。
迷っている間に、道はさらに傾く。
いや……いや!!
どっちの穴も嫌よ。
入ったら、それこそ生きて出られないかもしれないのに。
「きゃ!」
傾斜角度が上がったのか、私は立っていられなくなってきた。
誰か、誰か助けて!!
怖いよ、お父さん、お母さん、碧、ピザ丸!
両親と弟。それから、可愛がっている柴犬のピザ丸の顔が浮かぶ。
死にたくない。助かりたい!
カラカラ。
道の小石がゆっくり滑り落ちていく。
まるで、これからの私のよう。
嫌よ……!!
歯を食いしばる私の手元に、倒れていた立て札が、ヘアゴムと一緒に滑り落ちてきた。
ガサッ。
……ん?
立て札の裏側に何かある。
何かに導かれるようにひっくり返すと、白い物が貼り付けてあった。
なんだろう、これ。
古いマッチ箱だ。
箱には梵字が刻まれている。
導かれるように、マッチ箱を手に取った。
これをどうしろっていうの。
ずるずると、体がずり落ち始める。
負けるものか……!
私は改めてヘアゴムで髪を縛って、踏ん張りながらマッチ箱を開けた。
なんの変哲もない、普通のマッチ棒が入っている。
試しに擦ると、青い炎が立ち上った。
炎が青いなんて。
感心している間に、足元は穴の淵まで到達しようとしている。
マッチの火は、何かに使えるの?
試しに炎を穴にかざしてみても、変化はない。
「もう、なんなの!? あ!」
穴の片方に、火がついたままのマッチを落としてしまった。
もう、何やって……!
そう思った時だ。
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