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恵一篇 (3)
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「お前は、悪魔のホワイトデーモンだな!」
という舌ったらずで幼い声は、ミロのはるか下方から聞こえてきた。ミロは、試食カウンターで、大きなキャンディバーを口いっぱいに含んだまま、視線を下に向けた。そこには、小さな男の子がしかめっ面をしてミロを見つめていた。
「おいっ! ホワイトデーモン! お前は悪の仲間だなっ!」
「……」
「レインボー戦隊が、ホワイトデーモンを成敗してくれる!」
「…ホワイトデーモン?」
「われらは、ジャスティス戦隊!」
「…なんでわたしがホワイトデーモンなの?」
「ホワイトデーモンは、白い髪の毛の白いやつなんだ! お前みたいな!」
「……」
ミロと少年が、じっとりと見つめ合った瞬間、
「すみませんっ! ごめんなさい! 真司、こっちに来なさい!」
という女性の声が聞こえた。若い女性が、中身が半分ほど詰まったカートを押しながら、大慌てで少年の方に近づいてくる。
「ママっ! こいつは悪の連隊・白虎グループのビッグボス・ホワイトデーモンなんだよ!」
「真司! 謝りなさい!」
「ビッグボスのホワイトデーモンは、こいつみたいに白いんだ、こいつがビッグボスだよ!」
「本当にすみませんでした、この子、アニメのジャスティス戦隊が大好きで、まだ現実とアニメの区別がついてないんです、ごめんなさいごめんなさい」
「ボクの兄さんは、もうすぐ士官学校に行くんだ! それで悪のホワイトデーモンを成敗するんだ!」
「…へえ…?」
「それにボクの父さんは、日防軍の軍曹なんだぞ! しかも四谷大隊なんだ。もうすぐKIWAに乗るんだ」
男の子は得意満面の顔でミロに言う。ミロは、目を細めかすかな微笑みを浮かべる。
「…そう。兄さんと父さんの幸運を祈ってるよ」
ミロがそう言うと、後ろから瀬川の声が聞こえてきた。
「ミロ様! こんなところで試食をしているなんて……瀬川がどんなに探したことか…」
ミロは振り返って瀬川を見た途端、表情がぱっと変わる。
「瀬川さーん、このキャンディ、すっごく美味しいの! 買って! あと、あそこにあるふわふわのお菓子と、あっちに新しいブランドのサワークリームがあって、それも欲しいの」
「ミロ様……。瀬川は、ミロ様が甘いものとサワークリームをお召しになりすぎるのが心配でございます」
「忍は『ミロが、ガバガバ酒を飲むよりマシだ』って言うよ」
ミロは、少年と母親に片手を上げて挨拶をし、その場を離れた。
-------------------------------
「このーっ! また現れたなっ! 悪のホワイトデーモンっ!」
真司が、ミロを見つけて叫んだ。
「あら坊主。また会ったわね」
ミロは、腰に両手をあて、わざと芝居じみた不敵な笑みを浮かべて真司に言った。
横田は、うとうとしながら、妻と二男が買い物から帰ってくるのを車内で待っていた。長男は、後部座席で携帯電話ゲームに夢中になっている。
「あと2分で戻る、ヘルプ」
という妻からのテキストメッセージを受信し、車内で大きな伸びとあくびをした。フロントガラスからの眺めは、二男の真司が、しかめっ面で銀髪の背の高い女性を指さし、何か喚いている姿だった。妻の亜希子は、重そうなカートを押してはるか後ろから何か叫びながら、急ぎ足で歩いてくる。真司が喚いている相手が誰かわかった瞬間、横田は、ショックで血が逆流しそうになった。
「ふ、ふ、ふ、藤永少佐!」
横田は、驚愕の表情でミロを見とめると、すぐに運転席から転がり落ちるように飛び出て、直立不動で敬礼した。ミロもまた、彼が四谷の軍人であると察知して敬礼を返す。
「藤永少佐!! 光栄であります、自分は第13小隊の横田軍曹でありますっ!」
「…ああ、13小隊は、今度KIWA実装だな? パイロット志望?」
「そうであります!」
「ふむ。…良い休暇を。部隊で会おう」
ミロは、そう言って右手を上げながら踵を返す。特殊KIWA部隊の隊長である藤永と、横田のような下士官が直接言葉を交わすことは通常ない。直立不動のまま、藤永が視界から消えるまで、姿勢を崩さなかった。
恵一がミロを初めて見たのは、この時だ。父親の様子を見て、あっけにとられたが、同時にミロの醸し出す雰囲気に圧倒され、口を開くことも目を離すこともできなかった。
という舌ったらずで幼い声は、ミロのはるか下方から聞こえてきた。ミロは、試食カウンターで、大きなキャンディバーを口いっぱいに含んだまま、視線を下に向けた。そこには、小さな男の子がしかめっ面をしてミロを見つめていた。
「おいっ! ホワイトデーモン! お前は悪の仲間だなっ!」
「……」
「レインボー戦隊が、ホワイトデーモンを成敗してくれる!」
「…ホワイトデーモン?」
「われらは、ジャスティス戦隊!」
「…なんでわたしがホワイトデーモンなの?」
「ホワイトデーモンは、白い髪の毛の白いやつなんだ! お前みたいな!」
「……」
ミロと少年が、じっとりと見つめ合った瞬間、
「すみませんっ! ごめんなさい! 真司、こっちに来なさい!」
という女性の声が聞こえた。若い女性が、中身が半分ほど詰まったカートを押しながら、大慌てで少年の方に近づいてくる。
「ママっ! こいつは悪の連隊・白虎グループのビッグボス・ホワイトデーモンなんだよ!」
「真司! 謝りなさい!」
「ビッグボスのホワイトデーモンは、こいつみたいに白いんだ、こいつがビッグボスだよ!」
「本当にすみませんでした、この子、アニメのジャスティス戦隊が大好きで、まだ現実とアニメの区別がついてないんです、ごめんなさいごめんなさい」
「ボクの兄さんは、もうすぐ士官学校に行くんだ! それで悪のホワイトデーモンを成敗するんだ!」
「…へえ…?」
「それにボクの父さんは、日防軍の軍曹なんだぞ! しかも四谷大隊なんだ。もうすぐKIWAに乗るんだ」
男の子は得意満面の顔でミロに言う。ミロは、目を細めかすかな微笑みを浮かべる。
「…そう。兄さんと父さんの幸運を祈ってるよ」
ミロがそう言うと、後ろから瀬川の声が聞こえてきた。
「ミロ様! こんなところで試食をしているなんて……瀬川がどんなに探したことか…」
ミロは振り返って瀬川を見た途端、表情がぱっと変わる。
「瀬川さーん、このキャンディ、すっごく美味しいの! 買って! あと、あそこにあるふわふわのお菓子と、あっちに新しいブランドのサワークリームがあって、それも欲しいの」
「ミロ様……。瀬川は、ミロ様が甘いものとサワークリームをお召しになりすぎるのが心配でございます」
「忍は『ミロが、ガバガバ酒を飲むよりマシだ』って言うよ」
ミロは、少年と母親に片手を上げて挨拶をし、その場を離れた。
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「このーっ! また現れたなっ! 悪のホワイトデーモンっ!」
真司が、ミロを見つけて叫んだ。
「あら坊主。また会ったわね」
ミロは、腰に両手をあて、わざと芝居じみた不敵な笑みを浮かべて真司に言った。
横田は、うとうとしながら、妻と二男が買い物から帰ってくるのを車内で待っていた。長男は、後部座席で携帯電話ゲームに夢中になっている。
「あと2分で戻る、ヘルプ」
という妻からのテキストメッセージを受信し、車内で大きな伸びとあくびをした。フロントガラスからの眺めは、二男の真司が、しかめっ面で銀髪の背の高い女性を指さし、何か喚いている姿だった。妻の亜希子は、重そうなカートを押してはるか後ろから何か叫びながら、急ぎ足で歩いてくる。真司が喚いている相手が誰かわかった瞬間、横田は、ショックで血が逆流しそうになった。
「ふ、ふ、ふ、藤永少佐!」
横田は、驚愕の表情でミロを見とめると、すぐに運転席から転がり落ちるように飛び出て、直立不動で敬礼した。ミロもまた、彼が四谷の軍人であると察知して敬礼を返す。
「藤永少佐!! 光栄であります、自分は第13小隊の横田軍曹でありますっ!」
「…ああ、13小隊は、今度KIWA実装だな? パイロット志望?」
「そうであります!」
「ふむ。…良い休暇を。部隊で会おう」
ミロは、そう言って右手を上げながら踵を返す。特殊KIWA部隊の隊長である藤永と、横田のような下士官が直接言葉を交わすことは通常ない。直立不動のまま、藤永が視界から消えるまで、姿勢を崩さなかった。
恵一がミロを初めて見たのは、この時だ。父親の様子を見て、あっけにとられたが、同時にミロの醸し出す雰囲気に圧倒され、口を開くことも目を離すこともできなかった。
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