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柏原邸の下見へ③
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副社長と二人きりだと思われたくなくて強調した『みんな』に気づいてくれたようだ。
「新しいプロジェクトのメンバーの人たちと。太一くんが帰ってから話そうと思っていたんだけどね、副社長が今度手掛けることになった案件が有形文化財のリノベーションで、第3設計部の部長とCADオペレーターの方達も一緒に現場の下見に行ってきたの」
「リノベーション……田村部長か」
さすがに高野は第三設計部の存在や田村部長のことを知っているようだ。
「そうか、どこの物件だ?」
「柏原邸ってわかる? 重要文化財の。そこの離れなの」
「柏原邸⁉」
もちろん知ってるよね。重要文化財に指定されているんだもの。
「そ、そうか……。柏原邸か……」
「……? どうしたの?」
「いや……何でもない。あのさ……今週はどうしても外せない仕事が入ったけど、来週のどこかで一度そっちに帰るよ」
「え? 本当⁉」
「ああ。平日になるかもしれないがあまりに連勤が続くとまずいし。それに言っただろう? 花緒不足だって」
「……うん。私も、会いたいよ……」
「帰ったら寝かさないから。覚悟してろよ」
「な……もうっ」
そんなこと、口に出して言わなくても! でも聞いてしまうと期待で体が疼いてしまう。
「ハハハ、期待して待ってろ」
「……うん。待ってる。早く帰ってきて」
◇ ◇ ◇
花緒との電話を切り、まずいことになったと考える。
俺にはまだ花緒に打ち明けていないことがあった。
別に秘密にしようと思っていたわけではない。最初はセフレのような関係で始まったから、わざわざ言うことではないと思ったのだ。
その後は正直忘れていた。実家のことを忘れていたわけではないが、まだまだ夏成でやりたいことがいっぱいで、目の前のことしか考えていなかったのだ。
だが、柏原邸のリノベーションとなると……。
「なるべく早く話さないとな……」
そう考えていると、スマホが明るくなり、メッセージを受信したことに気づいた。
『こっちに帰ってこられないか? 新しいプロジェクトの件で話がある』
この話が何なのか、聞かなくてもわかった。今まさに話題になったところだったからだ。
『それからお前、彼女に何も言ってないのか?』
うっ……言ってない。マジでまずいな、これは……。
毎日馬車馬のように働いて、休日返上で業務にあたっているというのに、これからはさらに忙しくなりそうだ。
そう思っていたら、新たに違うメッセージが。
『話があるから一度帰ってきなさい』
母親だ。親からの呼び出しでいい事なんてあるだろうか。……絶対にない。
おそらく再三にわたって催促されているあの話だろう。
『はいはい』とあいまいな返事のスタンプを返しておく。
「ハァ……全く、花緒に会えないくらい忙しいってのに、勘弁してくれよ……」
にわかに周りが騒がしくなり、俺は憂鬱な気分でウイークリーマンションの狭いベッドの上に転がった。
自宅のベッドが恋しい。花緒の艶やかな髪に触れながら、彼女を抱き枕にして眠れたらいいのに。
何としても早く仕事を片付けてしまおう。
そう心に誓いながら眠りについた。
この時の俺は、これから怒涛の展開に巻き込まれることになるとまだ気づいていなかった――。
「新しいプロジェクトのメンバーの人たちと。太一くんが帰ってから話そうと思っていたんだけどね、副社長が今度手掛けることになった案件が有形文化財のリノベーションで、第3設計部の部長とCADオペレーターの方達も一緒に現場の下見に行ってきたの」
「リノベーション……田村部長か」
さすがに高野は第三設計部の存在や田村部長のことを知っているようだ。
「そうか、どこの物件だ?」
「柏原邸ってわかる? 重要文化財の。そこの離れなの」
「柏原邸⁉」
もちろん知ってるよね。重要文化財に指定されているんだもの。
「そ、そうか……。柏原邸か……」
「……? どうしたの?」
「いや……何でもない。あのさ……今週はどうしても外せない仕事が入ったけど、来週のどこかで一度そっちに帰るよ」
「え? 本当⁉」
「ああ。平日になるかもしれないがあまりに連勤が続くとまずいし。それに言っただろう? 花緒不足だって」
「……うん。私も、会いたいよ……」
「帰ったら寝かさないから。覚悟してろよ」
「な……もうっ」
そんなこと、口に出して言わなくても! でも聞いてしまうと期待で体が疼いてしまう。
「ハハハ、期待して待ってろ」
「……うん。待ってる。早く帰ってきて」
◇ ◇ ◇
花緒との電話を切り、まずいことになったと考える。
俺にはまだ花緒に打ち明けていないことがあった。
別に秘密にしようと思っていたわけではない。最初はセフレのような関係で始まったから、わざわざ言うことではないと思ったのだ。
その後は正直忘れていた。実家のことを忘れていたわけではないが、まだまだ夏成でやりたいことがいっぱいで、目の前のことしか考えていなかったのだ。
だが、柏原邸のリノベーションとなると……。
「なるべく早く話さないとな……」
そう考えていると、スマホが明るくなり、メッセージを受信したことに気づいた。
『こっちに帰ってこられないか? 新しいプロジェクトの件で話がある』
この話が何なのか、聞かなくてもわかった。今まさに話題になったところだったからだ。
『それからお前、彼女に何も言ってないのか?』
うっ……言ってない。マジでまずいな、これは……。
毎日馬車馬のように働いて、休日返上で業務にあたっているというのに、これからはさらに忙しくなりそうだ。
そう思っていたら、新たに違うメッセージが。
『話があるから一度帰ってきなさい』
母親だ。親からの呼び出しでいい事なんてあるだろうか。……絶対にない。
おそらく再三にわたって催促されているあの話だろう。
『はいはい』とあいまいな返事のスタンプを返しておく。
「ハァ……全く、花緒に会えないくらい忙しいってのに、勘弁してくれよ……」
にわかに周りが騒がしくなり、俺は憂鬱な気分でウイークリーマンションの狭いベッドの上に転がった。
自宅のベッドが恋しい。花緒の艶やかな髪に触れながら、彼女を抱き枕にして眠れたらいいのに。
何としても早く仕事を片付けてしまおう。
そう心に誓いながら眠りについた。
この時の俺は、これから怒涛の展開に巻き込まれることになるとまだ気づいていなかった――。
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