塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける

吉岡ミホ

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泣く女を追いかけて

泣く女を追いかけて⑤

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「芸能人かな。こんな若くて可愛らしい方、現実に知り合いはいませんからね」

「芸能人……」

 なるほど。全く違う境遇の二人が同時に既視感を覚えたんだ。芸能人という線はありえるかもしれない。

「実は俺も、どこかで見たことがあるような気がしたんです」

「あ、うちの娘たちが見ていた番組かも……。
もう遠い昔のことですから定かじゃありませんが。教育テレビだったと思います」

「あっ……」

 そうだ。マスターのヒントで思い出した。
 『クッキングアイドルかれん』のかれんにそっくりなのだ。
 まさか本人ではないと思うが、あのかれんを大人の女にしたら、きっとこんな感じになるだろう。

「俺も思い出しました。マスターの娘さんっておいくつくらいですか?」

「18歳と21歳ですよ。うちの娘たちが見ていたのはうんと小さい時です。子供向けの料理番組で、女の子が持っている子供用のピンクの柄がついた包丁を欲しがっていたんですよ。懐かしいなぁ……」

 間違いない。俺がその番組を偶然見かけたのは中学の時だから、時期的にはあっている。

 二人で彼女をじっと見つめていると、いよいよ体を起こしていられなくなったのか、がくっとカウンターテーブルに突っ伏してしまった。
 とっさにワイングラスを取り上げたマスター。

「おっと……グラスが倒れるところでしたね。
しかしどうしましょう。もう閉店時間なんですが、タクシーを呼びましょうか」
 
 奥にいたカップルは、すでに30分以上前に店を出ていた。
今からだと終電も間に合わないだろう。
仕方がない。
 
「乗り掛かった舟です。俺が家まで送りますよ。
一台呼んでもらえますか?」
 

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