塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける

吉岡ミホ

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話が違います!

話が違います!④

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 試着の際、すべての値札は取り外されていた。
 これ、一体いくらするんだろう……。
 思わずゴクッと唾を飲みこんだ。

「あのぉ…………着ました」 

「まあ、良くお似合いで!」

「素敵ですわ! ミントグリーンがお顔を優しく見せますね。こちら、同色のカチューシャのご用意もございます」

 そう言って、すっと私の頭にカチューシャを挿してくれた。
 鏡に映る自分を覗き込むと……たしかにとてもお嬢様らしい。我ながら化けたと思う。
 でも同色のカチューシャはやりすぎなんじゃないのかな。せめて黒……。
 
「お客様、いかがでしょうか?」

「悪くない。次行ってくれ。…………ピンクもあっただろう?」

 あ、やっぱりピンクも着るんだ。
 ピンクか……。

 実は先にミントグリーンを着たのには訳があった。
 私は昔からピンクを避けていた。

 それは『クッキングアイドルかれん』の衣装がピンクだったからだ。
 その印象が世間に広まっていたので、身バレしないためにもピンクを避けていたのだ。

 でもあれから10年以上も経っている。今さら私がピンクを着ても誰も気づかないよね。

「あら、まぁ……」

「素敵……」

「えぇえぇ、なんてピンクがお似合いなのでしょう。
こちらでしたら、このサンドベージュのミュールと、同色のバニティをお持ちになれば……完璧ですわ!」

「決まりだな」

「う……はい……」

 ピンクを着るのは久しぶりだ。
 でも似合っていると言われたら素直に嬉しい。
 それに、やっぱりピンクは私の戦闘服なんだと思う。

「すぐにご用意いたします!」

 店員さんが着てきた服を丁寧に包んでくれる。
 そんなたいそうな服ではないのに申し訳ない。
 
「あの…………分割でも大丈夫でしょうか」

「は? 何言ってるんだ? 俺が払わせると思ったのか?」

 馬鹿にしてるのか? という表情をされる。でも多分医局秘書の給与の2ヵ月分くらいの額になるはず。

「これは必要経費だ。恋人役のな」

 いやいや、こうなったのは、私のせいってことだったんじゃなかったのかな。

 そう言いたかったけれど、汐宮先生にギロッと上から睨まれては、これ以上言い出せない。

 結局お支払いをしてもらって、大急ぎで隣接するホテルへ移動した。
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